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マスター:朱月コウ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/18


みんなの思い出



オープニング

●あの眼差しが僕達を
 何だか寝苦しい……そんな思考で男は目覚めた。
 手探りでエアコンの温度を確認してみる。21度。
 それにしてはいやに熱気が篭ってないか……?
 一度覚めてしまった目を閉じる事も出来ず、あくびをしながら洗面台へ顔を洗いに行く。
 温い。
 水道から出る夏場の水は大抵最初の方は温い事は良く有るが、これでは水もお湯も変わらない。
 今日はそんなに気温が高いのか……。

「うおッ!?」
 家から一歩外に出た瞬間、いや、玄関の扉を開けた瞬間に男は戦慄した。
 眩い程の日の光。
 足を踏み出せば、足底からそのまま頭のてっぺんまで伝わるような地面の熱気。
 だと言うのに、身体の奥底では冷たい恐怖が襲い掛かって来た。
 男はこれが天魔の仕業だろうと瞬時に判断し、一旦扉を閉じる。
 何を隠そうか、これでも幾多の修羅場を潜り抜けた経験のある撃退士。
 異常事態が起こればすぐに天魔と結びつけてしまうのは最早職業病だが、大体予想は外した事が無い。
 もしこれがただの異常気象ならば、冷房掛けっぱなしで部屋に閉じ籠っていた己を恨むほかあるまい。

「(落ち着け……これ程の熱気を出す天魔なら、きっと近くに居る筈)」
 滴る汗を手の甲で拭い、男は再び扉を開ける。
 左。人影一つ無い。
 右。隣の芝生で項垂れる猫。いや、あれは違う。可哀想だが。
「クッソー……この日差しさえなけりゃ……」
 男はふと上を見上げた。
「……マジでか」
 そして見つけた。見つけてしまった。
 本物の太陽の下に炎を纏い、降下してくるその球体を。


「あれは無理」
 久遠ヶ原学園を訪れた男がやけに汗だくというか、海にでも入って来たのかというくらいに塩気のある水分にまみれていたのが気になったが、事情を聞いて納得した。
 天魔と交戦をしてきた事を考えると、きっと命が枯れ果てそうな思いだったはずだ。
「このクッソ暑い中で高熱を放つディアボロと戦闘だぞ? 五分も有れば無気力だろ」
 詳しく言えば、同じく異常を感じ取って駆け付けた撃退士達と共に交戦していたらしいが、あまりの熱気と予想外の事が起こった為、散開して住民の避難を優先し、態勢の立て直しに退避してきたそうだ。
「まずこの球体状のディアボロだが、基本的にはるか上空で浮遊状態にある。で、人間なんかを発見したら降下してくるんだ。余計に暑く感じんのはディアボロが降下してきた証拠だな……ま、何とかここに逃げ込めた訳だが、その時に幾つか判った事がある。
 降下してくるのは一定範囲内に人間大の動く生物が入った時だけだ、範囲の外側に出ると上空に逃げられる。その時は熱気は引いてるんだ。逃げる際に協力して貰って、範囲の目印としてカラーコーンを置いて囲ってきた……そうだな、これだと……」
 男は携帯電話の地図機能のようなものを指でいじり出した。
「大体半径五キロメートルってところか。その円の中に入れば奴が襲って来る。屋外で動いていなければ安全だろうから、協力してくれた人達が外出を控えるように呼び掛けて回ってくれてるよ。
 それと気を付けてくれ、ディアボロは一体だけじゃなかった。奴が降下してくるのとほぼ同時に、陽炎みたいなモヤが襲ってくるぜ。俺達は五体と遭遇した」
 それは人型で陽炎の様にゆらめいていて、動きも二足歩行の人間に近いものらしい。
 何処からともなく群がって来ればあれよあれよという間に包囲されている。
「おかげで脱出するのに時間喰っちまった。だが、倒せない相手じゃないし物理的な攻撃も効いた。仲間の一人が陽炎の一体を倒してそこから突破したんだ」
 万全の準備だったらな、と悔しがるその男だったが、ふと何かを思いついて苦笑いする。
「いやでもあの熱さはな……目玉焼きでもステーキでも一瞬で作れちまうよ。きっとあれでじわじわと精神と体力を擦り減らしてから、一度に襲うつもりだったんじゃねぇかな。
 あんな中でまともに戦えんのは、よっぽど精神鍛えてる奴か鈍感な奴くらいだろうぜ。少なくとも俺達には無理だったよ。もしアンタ達の中か、知り合いにでもそんな奴が居るんならいっちょ頼まれてくれねぇか?」


リプレイ本文

●炎天下を蹴散らす
「おいおい……」
 直径十キロ限定、強制的猛暑日。
 円を見定める為に置かれたカラーコーンの手前で、ラファル A ユーティライネン(jb4620)がぼやいた。
「由緒正しい人工太陽と言えば黒玉に無数の触手だろうに。これだから様式美を介さない悪魔ってやつぁー」
 ラファルが見上げた先には例の球体型。
 残念ながらと言うべきか、幸いにしてと言うべきか黒玉はともかく触手は生えていないが、そこからでも充分うかがえる程にその存在感を見せつけていた。
「こんな場所じゃ、どんな酒も熱燗に早変わりだ」
 黒のYシャツから色っぽく肌を見せる不知火藤忠(jc2194)は小さく息を吐く。
 いつもの紫の狩衣も今日は着用していない。流石に暑すぎる。
「……このクソ暑い中、もう一個太陽が有ってたまるかってんだ」
「全くだぜ。あんな真上にあったんじゃ、どっちが本物か分かりゃしねぇ」
 ラファルとは違う意味でぼやいた向坂 玲治(ja6214)に続き、赤い髪紐で結んだ後ろ髪ごと項垂れていた獅堂 武(jb0906)も汗をよそに後ろ髪の位置を直しながら言った。
 そんな彼らに、先頭に立っていたジョン・ドゥ(jb9083)が振り向き、言い放つ。
「沈まない太陽は無い。そして太陽は二つも要らない。自ずと答えは出てくるものだ」
 再び前を向いたジョンは侵入経路を含めた住宅街を見遣る。ここを過ぎれば、奴の降下が開始する。
 間近に居たエカテリーナ・コドロワ(jc0366)は、ジョンから熱気の所為では無く、何か、感情の類で熱さを感じ取れたかもしれない。
 そこから少し離れた位置に、こちらも伏し目がちなベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)の姿があった。
「ビーチェ? どうしましたの」
 少し影が差したかと思うと、日傘を掲げた紅 鬼姫(ja0444)がそう訊ねて来る。
「偽太陽……ギンギラギン……暑い……」
 ベアトリーチェの顔が、また一段下がった。
「仕方ありませんの。鬼姫もアレは不愉快極まりなく……目障りな擬似太陽には早々にご退場願いますの」
 上目遣いで鬼姫へ日焼け止めの有無を訊いたベアトリーチェだったが、「生憎ですの」と立ち去って行った。
「ガンバルゾー……」
 誰にも聞こえない鼓舞の前方で、武が口を開く。
「先の撃退士に詳しい地理を聞いて来た……でっけぇプールも在るみたいだ」
 その方角と距離、場所を皆へ伝えると、ジョンが頷く。
「……よし。皆、把握は大丈夫か? 最短距離で行くぜ」
 言うが早いか、その背に翼を顕現させると一気に飛翔した。


 球体の降下が始まった。
 それはつまり、領域内に侵入者が現れたという以外の何物でも無い。
「次を左だ」
 後続の藤忠が前を行くラファルとベアトリーチェに、目的地への指示を出す。
「あいよ。飛ばすぜー」
 軽く飛んだラファルが、曲がり角の壁を蹴って身体を反転させる。
 その彼女達へ上空から声が降りかかった。
「一般人は居ないか?」
 ジョンは蝙蝠のような大きな翼を羽ばたかせ、彼女らへと訊く。
 一応被害が最小限に済むルートを辿っている筈だが……。
「問題有りませんの」
 周囲の確認をしていた鬼姫が、日傘の下で答える。
「人影は見えますの。でも敵の降下より、こちらの方が速いですの」
 目的地となる場所。その大型プールまでのルートを決めていたのが功を奏したようだ。
 予定地へ急ぎながら、藤忠は上空を確認。
 玲治の攻撃がパシオンの注意を引く傍ら、その上を飛ぶ鳳凰へ狙いを定めている。
 ……予想通りだ。『人間大の獲物』に反応するなら、召喚した鳳凰も対象になる筈。
 ディアボロ、パシオンが降下する先に、藤忠の鳳凰が誘引される様を見て、予想は確信になった。
 報告を受けてジョンは再び高く舞い上がり、敵へと最接近する。
 目的地まではもう少し。横目に振り返った玲治は熱気の中にゆらり蠢く何かが目に入る。
「来たな……」
 速度は落とさずに突き進む。見えている数は二体。振り切るのは容易い。
 視点を前に戻した玲治の横で、エカテリーナが平静を崩さず言い放つ。
「油断はするな。前からも来ているぞ」
 前方、ラファルとベアトリーチェの両側面。
 そこに熱気が収束され、人の形を成していく。
「構わねぇ、止まんなよ!」
「おう、止まらねーよ」
 走りながら武が陽炎の周辺に散弾をばら撒く。
 防御か、躱すか、陽炎達の動きが一瞬止まった隙に、皆がその間を駆け抜けた。
 目的地は目と鼻の先。
 撃退士達にとっては低いフェンスを飛び越え、藤忠も誘導役をジョンへと任せ、鳳凰を呼び戻す。
「ありがとう。助かった」
 主の役目を全うし、撫でられた鳳凰は気高く鳴いた。
 藤忠がスキルを入れ替える中、鬼姫はそのまま施設の中へと駆け込む。
「邪魔ですの。敵をここへ誘引しますの。死にたくなければ避難するとよろしいですの」
 言い方は彼女らしいが、確かに恐怖と危険を伝えるには手っ取り早い。
「(上手くいったな……あとはコイツを引き寄せれば……)」
 ジョンは真下の様子を確認し、敵の間近を滑空。
 その背に、高熱の塊が近づくのを感じ身を反転させた。
 その直後、屋外上空から爆音に近い音と光が鳴り、鬼姫はそちらを振り向く。
 上空やや低めの位置でジョンが煙に包まれている。
 だが犠牲は元より。そしてこれで。
「誘引……完了……」
 ベアトリーチェの言葉と共に、パシオンの真下の影から無数とも思える手が伸び、奴を捉えた。
 彼女の隣で玲治が地面を突き、そこから影を伸ばしているのだ。
「日差しが強けりゃ強いほど、影も色濃くなるんでな」
 市街地の水辺に、球体が降り立った。


 空中に佇むパシオンへエカテリーナのミサイルが爆裂する。
 それによって高度を落とすパシオン、そこへラファルの背に展開された四連装の高射砲がほぼ間無く撃ち放たれた。
 悉く命中した弾丸によって飛行部位を損傷したか、パシオンが更に高度を落とす。
 まだ微妙に水辺から外れていたパシオンへ、玲治が鎧の重さを乗せて突進を仕掛ける。
 プールへと転がり込むパシオン。水が一気に熱湯へと変化する。
 それを見て、鬼姫とベアトリーチェがほぼ同時に鳳凰、フェンリルを召喚してみせた。
 二対へ別れた四体の陽炎は、それぞれ鬼姫、ベアトリーチェへと目標を定める。
 振り掛かる火の粉はまず鬼姫に。
 胴体への拳は後ろへ小さく飛び退いて避け、続くもう一体が頭上へ飛んでくると体勢を低め空を切らせる。
 当たりそうで当たらない。これではどちらが陽炎なのか。
 だが、ベアトリーチェに対してはその攻撃が空振りする事無く、フェンリルと共に拳から炎の追加まで受けてしまう。
 辛うじて温度障害に陥る事は無い。陽炎達が攻撃を終え、間合いを整えに飛び退いたその直線状の先に、小太刀へ持ち替えた武が刀印を切り払う。
 陽炎達の重なり合った直線へ放たれた黒の衝撃波が、二体の陽炎を吹き飛ばした。
 が、その側ではパシオンの放った業火が玲治を包み込む。
 空気をも焦がす炎の中、それを纏うパシオンの空間がぐにゃりと歪んだ。
「流転隔絶……!」
 ジョンが掌を堅く閉ざすと、不可視の檻がパシオンの動きを阻害していく。
 その後方で前傾姿勢を取った藤忠が両手をかざすと、続けてパシオンの周りの砂塵が一斉に舞い上がった。
 淀んだ氣と砂塵が、パシオンの表面を石で覆っていく。


 その光景を碧眼に写し取ったラファルは、それを自身の技として陽炎達へと放った。
 陽炎へと向かって跳びながら空中で射出装置を展開、放たれたアウルの波動が、鬼姫側の陽炎の足元から砂塵を巻き上げて行く。
 見事に石の塊となった陽炎を挟んでもう一体の攻撃を避けると、鬼姫は鳳凰と共に陽炎の大振りを避け続ける。
 陽炎の拳が右へ左へ鬼姫へと飛ぶ。それを身体を逸らして避け、日傘を前にして自身の身を隠せば、惑う陽炎が辺りを見回す。
「フフ……やはり鬼姫の方が速いですの」
 声は日傘では無く背後からした。
 振り向くといつの間にか目の前にあった筈の日傘ごと、鬼姫がそこにいる。
 彼女は石化した陽炎を足蹴にしてベアトリーチェの方へ跳んだ。

 二体の陽炎は執拗にベアトリーチェを狙う。
 が、その手ごたえが前より無くなっている事に気付き、辺りに巡らされたそれが原因だと、何となく理解した。
 朱雀、清龍、白虎、玄武。
 展開された四体の四神からなる結界がプールの一帯を陣取り、彼女達を加護しているのだ。
「気休め程度だが……!」
 術者の藤忠が手をかざして唸る。
「軽減……アンド……殲滅……ジャスティス……」
 その先ではフェンリルの巨大な体躯が周囲を薙ぎ払う。
 すんでのところで躱した陽炎、そこへ鬼姫が切り込んだ。
 と思えば撹乱して離脱、直後に武が再び砲撃を放つ。
 突然の乱入者により陽炎達の攻撃は鬼姫へと向けられたが、当然のように彼女はひらりと身を躱した。
 そこへ近づいたベアトリーチェのフェンリルが、固まった陽炎達を薙ぎ払う。
 衝撃に後退した陽炎達の前で、日傘が空高く舞った。
 同時に、鬼姫は小太刀へと持ち替える。
 一閃。
 陽炎の首が落ちるその前に、鬼姫の手元に傘が舞い戻った。
 鬼姫の方へ狙いをつけていた陽炎は、鳳凰の動きに惑わされ続けている。
 その背後からラファルはまたも石化の砂塵。
 二体の石化を確認したラファルは、ローラーで二体へと接近すると戦鎚を振り抜き、難なく対象一体ずつを打ち砕く。
 残る一体を武の衝撃波で消し去ると、息つく間もなくパシオンへと対象を変えた。


 球体の上部までもが石に包まれつつある。
 その球体へ、凝縮したアウルが撃ち込まれる。
 構えたままの、エカテリーナの鋭い眼光がパシオンを刺していた。
「この世に太陽は2つも必要ない。貴様が消え、本物が残ればいいのだ」
 直撃、炸裂。
 炸裂中のパシオンの外部へ玲治が飛び込み、重い槍の一撃を振り下ろす。
 その隙にジョンはスキル変換。
 直後、パシオンから何かが瓦解する音が聞こえる。
「何……!?」
 石化させた筈の身体、その石が崩れ落ちる音。
 防がれつつあった熱気が再び戻る。

 が、それも束の間。

 エカテリーナが銃を撃ち放った後、玲治は気付くだろう。
 ジョンの周囲から、圧倒されそうな程の紅き威圧感が溢れ出ている事に。
 まるでオーラが球体の全てを鷲掴みして丸め込んだように、パシオンはその場を動けず、そこへ玲治が二度目の衝撃を放つ。
 反動による影響は多少有ったが、それを気に留める事無くジョンは突き進む。
 その頭上を越えて、水上移動へとモードを切り替えたラファルと翼により飛翔した鬼姫が、ベアトリーチェが指示するフェンリルの、力強い咆哮と共に飛来した。
「鬼姫、嫌いなモノは視界にも入れたくありませんの……月光であれば、愛して差し上げましたの」
 日傘の代わりに持った小太刀が、玲治の穿った箇所を斬る。
 熱湯を滑るラファルが眼前に跳び上がると、上段から真っ二つにパシオンを斬り裂いた。
 攻撃と同時に送り込まれたナノマシンがパシオンの内部を破壊していく。
 パシオンの周囲が熱湯から砂塵に変わって包まれた時、武が一気に印を切り払った。
 巻き上がる砂塵。再びパシオンが砂の中へと埋もれていく。
 もう、炎の熱は充分だ。
「心頭滅却? 暑いものは暑い」
 熱気の苛々をアウルへ伝えたかのように、藤忠が放った蛇の幻影はパシオンに激しく噛みつく。
 そこに容赦無く玲治の一撃、入れ替わりにエカテリーナの銃弾が炸裂する。
「頭を冷やすか、それとも自分の熱で燃え尽きるか……いずれにしろ貴様は淘汰される」
 エカテリーナは遠目にパシオンを見遣り、そして一時は疑似太陽としてまで熱の恐怖を味わわせたそいつに向けて言い放った。
「地に落ちた貴様など、只の炎の塊だ」
 そのパシオンの下で、真紅の粒子が輝いた。
 いや、先の圧力の名残が残っていたのかもしれないが、ジョンのバングルからは、猛火の様に、紅蓮の如くアウルが彼に纏っていた。
 知らずの内の対抗意識か、はたまた紅い獣の誇りか。
「太陽すら、燃やしてみせる……!」
 その時彼は、何を憎しみ、何を呪ったのか。
 放たれた黒炎は、パシオンを焼き尽くすまで消える事は無かった。


「暑かった……酷暑……ガッデム……」
 髑髏を両手にぶら下げ、ベアトリーチェがまた項垂れる。
 黒の衣服で過ごすにはさぞ辛かったであろう。
 密かにメッシュの生地であれば、もしかしたら多少は涼しいのかもしれない。
「ジョンは暑くなかったのか?」
 藤忠の問いにジョンは振り返り、あぁ、この毛皮の事かと納得する。
「当然。太陽もどきの一つや二つ、大した事は無いな」
 気温も徐々に元通りに下がってきている。
 とは言え、それでも暑い事に変わりはないのだが。
 エカテリーナと武が街の様子を確認したところ、どうやら延焼被害にあった場所も無い様だ。
 直接的な被害は。
 余りの熱だった為に、プールを始め水を必要とする殆どの店がしばらく休店せざるを得なかったのだが、これは時間が経てば解決するだろう。
「……暑くはありませんが陽光は痛いので嫌いですの。帰りますの」
 そう言って颯爽と場を離れた鬼姫は、「ビーチェ」と愛称を呼んで共に去って行く。
「お風呂と着替え……ジャスティス……」
 ベアトリーチェが付いて行くと入れ違いに、玲治が報告に来る。
「何処も問題無さそうだ。ま、酒屋なんかは温くなって困り果ててるけどな」
 彼の言葉の中から気を引くワードを聞き取り、藤忠は思考する。
 暑い日は冷酒……いや待てよ。
「冷酒も良いがビールも良いな。よし、帰ったら飲むとするか」
 コイツ、早速飲む気か? と呆れて首を振る玲治は最早何も言わずその場を後にする。
 どうやら思考している間に残されたのは藤忠だけのようだ。
 そんな彼に、遠くからラファルの声が掛かる。
「何やってんだ。置いてくぜー『叔父姫』」
 おじき。
 抵抗したくも彼女は素早く駆け出す。
 いつかコイツにも吸魂符を使ってやろうか。
 そんな感情を抱き、叔父姫……いや藤忠は最後に皆の後を追ったのだった。


依頼結果