●英斗、夢見たんだってさ
若杉 英斗(
ja4230)は今朝夢を見た。
『7個のドリームエッグを集めると、理想の彼女ができる』
という――。
そして、斡旋所に張り出されたこの招待状。
「まさに! 正夢に違いない!」
くわっ。この気迫である。イエスエッグハント、イエス彼女ハント。
非モテ騎士(注:現別職)の本気である。
バックに熱いエア彼女への想いを滾らせながら、うさ耳を頭に彼は指定された屋上へと向かった。
因みに全体的にツッコミを入れては駄目だ。
ほぼ同時刻、招待状に目を遣る男一人。
「ほう、イースターか。うさぎは本来隠す側の筈だが、楽しければそれも些細なことだ。どれ、善き哉と眺めておこう──といつもなら言うのだがな」
その男の名は、インレ(
jb3056)。
そこまで言い切ると両目を眇め、目の色を変える。
「うさぎとなれば話は別だ」
その本気の眼差しは、まるで戦を前にした武者のよう。
詰まる所彼は黒兎だった。
ありていに説明するとそうだった。
即ち――その戦に全力を賭ける。それだけの矜持が、そこには在った。
因みに全体的にツッコミを入れては駄目だ。二回目。
ふと目にしたうさぎ祭りの文字に、頬を綻ばせるのは神月 熾弦(
ja0358)。
「大変な依頼や事件が多いと、斡旋所の方も気が滅入ってくるのでしょうね。勿論、現地に赴く皆さんも。その気分を少しでも晴らそうという意図でしょうし、是非全力で手伝わせて頂きます」
最大限好意的解釈。もうそこまで綺麗に華麗に信じて貰えると、逆に心配になってくる。変なツボを買わされそうになったり、変な話に騙されないか心配である。
「こういった行事は、とても有り難いですね」
天然ぽわぽわで解釈する熾弦。
ただの思い付きでただの悪乗りだなんて絶対に言えない。言えない。
因みに全体的にツッコミを入れては駄m以下略。
●うさぎ多くね? 多くね?
屋上で待ち構えていたのは非常に不服そうな顔をしながらバニーガールの服を着用し、尚且つうさ耳をつけたウヅキと、普段の服装にうさ耳をつけただけのキョウコの姿。
「一緒に着ようって言ったじゃないですか……」
ウヅキの呟きは低音で低温。未だ寒い中。黒いストッキングを履いている辺りフェティシズムの極意を判っている。恥じらいもばっちりだ!
所謂「一緒に最後まで走ろうね! 頑張ろうね!」からの裏切りパターン。友情なんてこんなもん、と言いたげな顔でダレているウヅキと反してキョウコは特上スマイルで手をぶんぶか振って、屋上に入って来た皆を迎え入れる。
二人の手にはバスケット。リボンやラッピングに包まれた可愛らしいチョコエッグがみっちりと詰まっている。
「やっほー皆! ばにいがあると甘美な秘宝の旅にようこ、……そ」
キョウコの声が固まる。何故なら眼前に――
\バーン/
「魅せてやろう!あるべきうさぎの姿を( ゜д゜ )!!」
「えっ、あっ、ハイ!」
思わずキョウコも正座してしまいそうな勢いで堂々とした台詞と共に現れたのは、ラグナ・グラウシード(
ja3538)。
その恰好はこれまたうさぎちゃんである。バニーガールである。繰り返す、バニーガールである。辛うじて足のムダ毛を処理しているのは良心。
どこからか「おめーじゃねえよおおお!」なんて叫びが聞こえた。いや気の所為だ。陰に隠れた優秀なスタッフ(男)の悲痛な叫びなど在って無い様なもの。
「ま、マジカッコイイです」
「うさみみをつけろ、と言ったのは貴殿ではないか。なら、それにふさわしい格好をして何が悪いのだ(´・ω・)?」
悪くありません。悪くありませんが何で勇ましくバニーった! なんてツッコミはきっと無粋だ。
「……何が悪いうさか?」
ラグナは暫し思案した後言い直した。この男、実に漢である。うさぎの中の漢。うさ男。
「……さすがラグナさん。俺にはとてもその境地まで辿りつけそうもありません」
「ふっ、そうだろう……うさ」
見事なバニー姿のラグナを見、がっくりと膝を折り項垂れる英斗。辿り着かなくて良い境地も在るのよ、大丈夫なのよ。そんな声が聴こえた気がする。
「……写真撮ってもいいですか?」
「ひさびさに一緒だな……よし、どちらがたくさん卵をとれるか、競争d……うさ( ´∀`)b」
取り出したるはデジカメ。うずうずとしながらカメラを手にする英斗に、ラグナは堂々と胸を張りうさ耳をぴょこんと揺らす。撮れ、ということだろう。
キョウコはそそくさとカメラを受け取り、バニーガール(仮)と白スーツうさぎ二人のツーショットを写真に収める。
ぱちー、ぱちー、画面に映るのはどや顔。二人して極めてどや顔。ぶっちゃけた話二人とも不審極まり無いのだが、細けえことはどうでも良い。だってうさぎ祭りだもの。うさぎちゃんは多いに越したことが無いね!
若干異様な空気が漂い始めたその場に、わらわらと他の面子も紛れ始める。
「……うさぎ祭りというから来て見れば、自分がうさぎになる祭りでしたの」
そう言って屋上に脚を踏み入れた橋場 アトリアーナ(
ja1403)だが、身に付けているのはバニーガール衣装。大体想像ついてました! ついてました!
「えぇ、どうせやるなら本格的にです」
「過去にシヅルとは部活でバニーを一緒にしているのでボクだけしない訳にもいきませんの」
「ええ、当然着ますよね?」
二人とも未だ春とは言え寒いのでジャケットを羽織ってはいるが、ほんまもんのバニーガールである。曝された胸元から鎖骨、すらりと伸びた脚線美。ラグナのインパクトの前に薄れたかと思われたアレコレだったが、男性陣の目線を見事釘付けにする。因みに二名が噴水のように血を噴いた。鼻から。
片やテンションアゲアゲ、片や紳士の嗜みで必死に視線を逸らし、ぼたぼたと流れる鼻血を振り払う。
(うぅむ、やはり女の子のうさ耳は、イイっ!)
英斗THE・煩悩。しかし実際の所女子のうさ耳は素晴らしい。愛らしいバニーガール女子二人の頭につけられたうさ耳が羨ましいくらいである。いやでもうさ耳女子を見詰めていたいからやっぱりこのままで良いや。
アトリアーナは気付かないふりをした。それがきっと一番良い。うさ耳くしくし、あーあー見えない聴こえない。そうだ、バニーガールで出血なんて嘘に違いない()。
けれどそこでぴょこぴょこ揺れるうさ耳を携えた熾弦が英斗とラグナの傍にハンカチを持って寄って来る。
「あら……若杉さん、グラウシード先輩、鼻血が……」
ブホォ。間近でまともに目が合った故に、更に出血するラグナ。やめて! ラグナのライフはもうゼロよ!
そんな阿鼻叫喚の地獄絵図と化しつつある屋上に恐る恐る入って来るのは、若菜 白兎(
ja2109)。小動物めいた様子できょろきょろと辺りを見回しつつ、チョコエッグを持ったキョウコたちを見てぱっと顔を上げる。お菓子のにおいに敏感に反応したのだ。
「はーい良く来たねー、うさ耳配給するよー」
鼻血人対処を行っているウヅキの代わりに、キョウコがいそいそとうさ耳をボックスから引っ張り出す。
「どんなのが良いかなー、これとかどう? 似合いそうだよ」
「……ん、それなの」
白兎が頷き、いそいそと受け取り付ける。
ぺっこり垂れ下がった白いお耳もまた至上。もふもふが頭部から垂れ下がる様は正にロップイヤーそのもの。
似合っている、と言われてややはにかみつつ頷く白兎は、隅っこの方で大人の騒がしい血祭りを眺める。服装とは打って変わって物騒な光景である。
「キョウコ、ウヅキ、今日はありがとー!」
「いーえ、こちらこそ! 来てくれてありがとね!」
続けて入って来たフェイン・ティアラ(
jb3994)の元気良い言葉に対してにこやかに言いつつ渡すうさ耳カチューシャは、薄桃色のふわもこリボンつき。えっ、と驚くフェインの言葉も聞かず、ぴたっと嵌めさせるヘアバンド。
「うーん……ちょっと可愛過ぎないー?」
「大丈夫、可愛くて似合ってますの」
バニーガール仲間のウヅキの背後にひっそり隠れたアトリアーナが頷き言うと、フェインは若干照れつつ頬を掻く。
「うぅ、可愛いは違うもんー。でも……うん、ありがとうー」
可愛いは正義、大正義である。
うさ耳現在八人集結、とそこに、キョウカ(
jb8351)がぱたぱたと屋上へと飛び込んでくる。
「みんなうしゃぎたん、なのー!!」
見るなりお目目キラッキラ。うさぎ大好き、可愛くても可愛く無くてもそれこそ鳥獣戯画タッチのうさぎさんでも可愛いと言って退ける彼女にとって、そこは正しく天国。
彼女の着用しているメイド服にぴったり! とキョウコが選んだのは、白いリボン付きふわもこうさ耳。キョウカの頭にすっぽり嵌めて、うさ耳が取れない様に思い切り撫でくりぎゅー!
「たまごいっぱいみっけて、みんなでわいわいする、なの!」
「いざ尋常に勝負、ですね」
キョウカのきゃっきゃとした物言いにのんびり頷く熾弦に、不意に上空から響く声一つ。
「話は聞かせて貰った。その勝負、参加させて貰おうか」
声の位置は――貯水タンクの上だ!
赤いマフラーと長い両耳を靡かせ、突如タンクの上に立つ男、インレ。
完璧な登場だ。ヒーローもので言うと超カッコイイ部類に属するアレである。アレ。
「何奴!?」
「うしゃぎたんのおみみ、かあいい、なのー♪」
「刺客……ですの!?」
「僕か? 僕はヒーロー……いや、違うな。通りすがりの──黒ウサギだ」
何だかんだで皆ノリが良い。
イケてる黒うさ耳のインレを見上げつつ、物思いに耽るは英斗。
(この男……できる)
(みな、僕の格好良さに目を輝かせて……ほぅ、良い目をした若人も居るな。まるで己の方が格好良いとでも言うかのような挑むような目――)
かち合う視線、轟く稲妻。インレと英斗、二人の間に戦慄が奔る。
それも一瞬、ズギャーン! と効果音が立ちそうな勢いで背を大きく逸らす英斗。
「喰らえ、悩める白兎貴公子のポーズ!」
言わば白鳥の湖。湖畔を躍る妖精。キビキビとした姿勢は完璧だ。黒兎を挑発するかのように、挑戦するかのように向けられる、勝気なポーズ。
「……やるな若人よ」
こいつら何やってんだ。戦だ。ここでは既に、勝負の開始より先に戦いがスタートしていた。
「……みんな、やる気なの。私もお菓子、頑張って探すの」
「ボクも負けないよーっ。本気だもんねー!」
一方こちらの白兎もやる気は十分。フェインも腕輪を構え、颯爽とやる気である。スキルを駆使する辺り本気と書いてマジな気配が窺える。
「それじゃあ皆集まったことだし始めるよ! 先ずはサンプルとして一つずつ皆にプレゼント。これも集計に入るから、食べちゃだめだよ」
説明するキョウコから渡されるのは、ひとつの卵型の代物。可愛らしい封が施されたそれからは、甘いチョコレートの香りがする。
じっとそれを見詰め、白兎は何とか我慢。
(後で……じっくり食べるの……)
かくして、闘いの火蓋は切られたのであった。――と思いきや。
「捜索場所に、なぜ定番の女子更衣室がないんですかっ」
「在って堪るかーい!」
英斗の運営への抗議の台詞。
勿論冗談です。言うより先に、キョウコにうさ耳で頬っぺたぶん殴られました。ふわふわもこもこのうさ耳は優しいなあ。
そんなこんなで、闘いはもう既に始まっています。
召喚した蒼柳に乗り上げスタートダッシュで中庭へ移動するフェイン。
「競争ははじまりが大事だよー!」
屋上を飛び出していく者。屋上に残る者。
闘いの火蓋は切られたのであった! 二回目!
●先ずは手近な所から
用具入れの中を漁るのはアトリアーナ。
実際の所屋上は隠す場所がそう多くない。見落としもし難い戦場であるが故に、彼女はこの場所を選んだ。
一個目の卵は用具入れの中からポロリ。衛生面の為にきちんと個包装までされている徹底ぶりである。
「見付けましたの」
他の者に気取られないようぽつりと呟きながら、ジャケットでその身を隠しつつアトリアーナはこそこそと屋上を駆ける。ぶっちゃけた話、バニー衣装は恥ずかしい。参加者以外の誰かに見付からないよう、ひっそりこっそり卵を探すのだ。何を今更、という声はシー。
貯水タンクの辺りも怪しいか――と思った所で、丁度卵を取ったインレと目が合う。そこにしゅたたたたと現れる優秀なスタッフ(黒子)。直ぐにインレが取った卵の分が補充される。ゆっくりハントしていってね!
「……本当に補充されるんですのね」
「あの者……中々やるな」
変な対抗意識を燃やすインレと別れると、アトリアーナは引き続き屋上の捜索を続けた。
そしてこちらは白兎、日頃の甘い物ハントで鍛え上げられた嗅覚センサーを駆使してお宝ゲットを目指す。
「チョコの香り…………こっちなの」
甘い物ハンターの名は伊達じゃない。フェンスの縁を回り、見上げると目に留まる可愛い卵。すっぽりとフェンスの網に嵌っているさまはちょっぴりシュール。
がしゃがしゃと網をよじ登り、卵をゲット。テケテン!(某ゲームの採取音)
きょろきょろと辺りを探している間に、出入口の直ぐそこ、高い所――壁に貼り付けられている卵を目に留める白兎。どうしたものかとぴょんぴょん跳ねている彼女の隣に、ふと気付けばインレの姿。
「実に愛くるしい仔ウサギだ。眼福だな」
言いながら、片腕でひょいと持ち上げ卵に手が届くようにしてやる。
「……! ……黒兎さんありがとう、なの」
「これもまた、ヒーローの務め。ああ、そうそう、確か水が沢山貯めてある場所にも似たようなものが落ちていた気がするぞ」
あからさまな、いっそあからさま過ぎて清々しいヒント。
お爺ちゃんは子供に激甘である。
インレは翼を用い空へ飛ぶと、中庭を捜索する者の様子をつぶさに観察し始めた。
「たまご、みっけたー! なのっ!」
キョウコとウヅキの後ろ、うさ耳ボックスの中。
ちょこんと乗せられていたチョコエッグを見付けてキョウカはうさ耳ぴょこぴょこご満悦だ。
「キョウカちゃん偉いねえ、良く判ったねー!」
「きょーこねーたー!」
褒められえへん、撫でられにこにこ。可愛いはやっぱり大正義。
キョウカも翼を駆使し着々と屋上の卵を見付け、そしてうずうず。
チョコレートの甘い匂いに逆らえる女子はいるか? いやいるまい。
封を切り、捲り、中から出て来たつやつやのチョコレート。
こっそり隠れて一個目をぱくり! ――バックに雷ピシャーンッ!
「おいしい、のっ……」
驚愕。余りの美味しさに打ち震えながらチョコを見下ろしたキョウカは、部活の皆や兄貴分にも分け与える為張り切って別の場所を探し始めるのだった。
屋上に残された――否、残ったラグナはというと、『チョコエッグとはいえ卵、誰かに踏まれやすいところにはない』、『できれば他の人が行かない場所を探すべき』と考えた。
踏まれ易い場所の多い屋上だ。踏まれ辛い場所を探すには打ってつけだろう。
ひとけのなくなった屋上で一人、バニースーツ姿のまま黙々とうさうさしながら卵を探すラグナ。通報されないか心配だが、きっと大丈夫、恐らく。だって久遠ヶ原だもの。
「……ふむ。矢張り此処うさか」
先程白兎が確保したフェンスの網部分から卵を取り出すと、満足げに頷くラグナ。満足げだがバニースーツ。大事なことだから三度言うが、バニースーツ。美形ゆえにガタイが良くても妙に似合っているのがポイントだろう。何でや、何で男がバニーや! という優秀なスタッフの叫びはさておいて、ラグナは黙々と捜索を続ける。
アンテナ部、その根元付近に配置されている卵も難なくゲット。
「ふっふっふ……この勝負、貰ったうさ!」
正直な所うさで台無しである。
●探せ探せばにーばにー
中庭に真っ先に着くなり蒼柳を解除し、朱桜を召喚し直したフェイン。
「こんくらいの、まるいの探してねー。あまーい匂いがすると思うからー」
こっくり頷く朱桜。召喚獣を駆使してまで戦う猛者が出るとは主催も思わなかった。
「あ、食べちゃ駄目だからねー!」
勿論釘を刺しておく。圧倒的フラグ臭しかしない。
「鳥の巣みたいなところにあったりしないかなー」
中庭の樹の上、無し。高い所に登れない参加者がいる可能性を考えてだろうか。
「茂みとか、隠すポイントだよねー」
中庭の茂みの中、発見。衛生面から個包装されたチョコエッグが見付かる。
そしてベンチの下――で朱桜がチョコエッグを見付けたことに視覚共有でフェインも気付くが、それが開封され始めていることをはたと知る。
「あっ、ちょっと待ってー! 食べちゃ駄目だってばー!」
振り向いたフェインが止めるが時既に遅し。
朱桜が美味しくチョコレートをもぐもぐ頂いた後でした☆
「あーっ!」
その様子を眺めていた熾弦はというと、のんびりとした様子でフェイン同じ箇所を黙々と探し始める。一個、二個、着実に成果を上げていく熾弦。
バニー姿で中庭をうろつく姿は廊下や教室から注目の的だが、本人は一切合財気にも留めていない。彼女はその視線をイベントに対する好奇の視線と信じて疑っていないからだ。
「そうですねえ、こちらでしょうか。先程の様子を見るに」
今まで見た傾向から考えるに、余りにも高い位置には無いだろう。ならば、と側溝の近くを探すと、在った。個包装されたチョコエッグ。大きな樹の裏のうろに嵌められているチョコエッグもまた熾弦は発見する。
「ふふ、見付けました」
熾弦は堅実に、確実に卵を集めていく。正しく、敏腕卵ハンター。
そして、その後を追うように現れたのは白兎。
彼女は辿り着くなり植え込みの陰からベンチの下、裏、その小さな背丈を利用して潜りこめる隙間が在れば服が汚れるのも構わず果敢にチャレンジする。一個、二個、と連続ゲット。
「たとえ像の一部みたいに偽装してあっても、わたしの目には綺羅星のごとく輝いて見える……はずなの」
しかし外れか。デカデカと設置されている像には綺羅星が見えない。むしろフェイクと言えよう。
ならば、と続いて探すのは幹に空いたうろ。そこでチョコエッグ発見!
「やった……なの!」
更に白兎の進撃は続く。
小さい身体ながらよじよじと樹に登り、見落としがないよう枝の上や付け根をくまなく探す。
――が。
「………………降りられないの」
登ったはいいものの。はたと気付き、ぷるぷる。
結局、その様子を観察していたインレが救助に到達するまで、ロップイヤーよろしくふるふると震えていた可愛い白兎であった。
●まだまだ探せばにーばにー
「ふふっ……我に秘策あり!」
うさ耳英斗は誰もいない教室Cで胸を張っていた。
今日彼は、食事を抜いていた。つまり餓えている。
食事を求め彷徨うケモノのようなものだ。
※頭にはうさ耳カチューシャです。
「飢狼な俺! 研ぎ澄まされた嗅覚で、隠されたチョコの香りを捕えるのだっ!」
どーん。
くんくん。
くんくん。
ポケットから良い匂いがする。屋上でサンプルとして貰ったものだ。
……。
暫しの間。
「……ごめん、やっぱり全然わからない。犬じゃないんだから、無理だった」
項垂れる英斗とそのうさ耳。燃え尽きたぜ! 真っ白にな! アカン奴やこれ!
頑張れ非モテ! 頑張れ理想の彼女ゲット!
でも、今は到底頑張れそうにないんです。
ぐうー。
英斗のお腹の鳴き声が教室中にこだまする。
一方、教室Aにて。
「この格好で外を探すなんてボクにはできないのです」
着てしまった時点で羞恥心はかき捨てである。だが、そうとも言えないのがまた乙女心。
人目につかないよう周りを警戒しつつ屋上から教室Aまで移動し、教室内を捜索し始めるアトリアーナ。
掃除道具入れの中、ロッカーの中、教卓の中、机の中……エトセトラエトセトラ。その間獲得した卵の数や、なんと四つ。実に的確な捜索センスである。
「ぱっと目に入らない場所にあると思うのですの……」
机の隙間、這って探す姿はある意味セクシーだが女子として大丈夫かと問いたくなる恰好だ。
しっぽを振り振り、揺れるうさ耳はキュートだがそんな体勢で大丈夫か。
色々見られたら大ぴんち。
アトリアーナうさぎの捜索は続く。
教室Bに入り込んだのは、二人のうさぎさん。
インレとキョウカだ。うさ耳を揺らし来る可愛いキョウカ仔うさぎの姿にお爺ちゃん、思わず内心ホッコリ。
「うんしょ、うんしょっ」
危なっかしく椅子を運んでいる姿を目に留めたインレは思わず手を伸ばし、代わりに椅子を運んでやる。
「くろうさにーたっ、ありあとー、なのっ!」
にっこり。正に天使。
キョウカはカーテンレールの上を覘き込むものの、無い。
「う〜……みっかんない、なの……」
残念そうにションボリしているキョウカの後ろ、カタリと音がした。
すると黒板のチョーク入れが何時の間にか開いていた。しかも中には何かが入っている様子が見える。その傍ではインレがうさ耳を揺らしながら辺りを見回していた。
「くろうさにーた?」
不思議に思ったキョウカがてこてこと歩き、チョーク入れを覘き込むと、中には個包装されたチョコエッグ。
「あったなのー♪」
「おお、僕も見付けられなかったのに凄いな。仔ウサギでも侮れんな」
にっぱり笑顔でインレを見上げるキョウカの頭をインレはぽふぽふ。ぽふぽふされる度にうさ耳が揺れ、キョウカは嬉しそうだった。
そこでふと、視線を上げたインレとキョウカが同時に気付く。天井に――チョコエッグが貼り付けられている。
「くろうさにーた、あれとって、なの……」
流石に手が届かないと、しょげた顔で言うキョウカ。
小さい子からのお願いは断れ(り)ません。インレはだって激甘だから。
闇の翼を広げ取る――と同時に壁走りをして来た優秀なスタッフ(黒子)がシュバッと現れ二個目を無言でインレに手渡す。
「……あやつらは一体何人居るんだ」
「かっこいい! なの!」
各々の反応もまたそれぞれ、インレは床に降り立つとキョウカに卵を手渡す。
ばにーばにー、現在のポイントには大きくバラつきがあるぞ!
●まだまだ探すよばにーばにー
堂々と校内を闊歩し、食堂の調理室の棚について尋ねるラグナ(バニースーツ)。
食堂のおばちゃんも若干引き気味になりつつ、ラグナの指示のまま棚を漁る。
「ちょ、チョコエッグかい? そうだねぇ……ああ、これのことかい、もしかして」
ぺっかー、出て来たのは綺麗な色のチョコエッグ。どうやって隠したんだこんな所に。
「感謝するぞ、ご婦人……うさ」
「……その恰好じゃなきゃ、あたししゃあんたに惚れてたよ」
思わず真顔になりつつ言うおばちゃんに礼を言うと、速攻で立ち去ろうとするラグナ。
そこでふと、席に座っている学生が机の下からチョコエッグを取り出す様子が見えた。なんだこれ? と不思議がり、封を切ろうとしている。
「――させん!」
一閃の素早さを以て駆け寄るラグナ(バニースーツ)。
その様子に思わずびくっと身を固くする学生に対し、尊大にラグナは言い放つ。
「貴殿の手にしているそれをこちらへ寄越すが良いうさ。悪いようにはせんうさ」
うさ耳ぴこぴこ。うさ口調うさうさ。その余りの威圧感とバニー感に圧倒され、思わず頷くだけとなる学生はチョコエッグをラグナに手渡した。
一方、食堂に駆け込むなり颯爽と声を上げた人物一人。
「おばちゃん、たぬきそば大急ぎ!」
餓狼(※うさ耳です)英斗だ。
空腹で行き倒れる寸前、卵より何より目先の欲求を満たすが先だ。
たぬきそばって美味しいもんね。どれくらい美味しいかって、たぬきそばなのにたぬきが入ってないこと関係無くなるくらい美味しいもんね。
「たぬきそばサイコー!」
何だい今日はうさ耳のお祭りなのかい? なんておばちゃんに尋ねられながら、英斗は麺をすする。
そんな二人の様子を眺めていた熾弦は又もバニーガール姿で堂々と歩きながら、ついでに室内なのでジャケットも脱ぎ畳み食堂を往く。視線の集まりが更に凄いことになったことについては一切合財気にしない。
先ずは先程机の裏から取り出された場所から一つゲット。
「こちらとかは……ええ、当たりですね」
調理場の棚で一つゲット、引き出しの中で一つゲット、閉めることの出来る箇所ごとに重点的に探していく。
しかし流石に同じ箇所に何個も同じ手口では隠されていないか。
熾弦はふむ、と口許に手を当て頷くと、その場を後にした。
元の場所――探しそびれた場所が無いか、探索である。
白兎は混乱していた。主に食欲で。
食堂に漂う雑多な匂いが彼女の嗅覚を邪魔し――そして甘美に誘惑。どこからかはたぬきそばの風味豊かなにおいが香り立つ。
これまでに収穫した卵を食べたいという欲求の高まり。
(最大のぴんちっ、意志力せーびんぐ!)
最後の力を振り絞り、机や椅子の裏側を覘く。在った。おやつだ! ――否違う。エッグだ。
自販機の取り出し口の中、観葉植物の鉢の影――ふっと見付ける。二つ目のチョコエッグ。
「……おなか空いたの……はやく……」
きゅるるるる。
ここにもまた、餓えたうさぎが一羽。
うさ耳が若干へばっているのは気の所為だろうか。
食堂に耳をぴょこぴょこ揺らしながらまた脚を踏み入れたのはフェイン。
唐突に鍋の蓋を開き、
「茹でてありましたー! なんてー?」
ありませんでした。
調味料置場をひょっこり覘き込み。
「ごちゃっとしてるからありそうー」
一個ゲット!
食堂の食器棚の中、さかさまに並べられた食器の下。
ひとつ、明らかに浮いているものがある。
「さかさまの食器の下はどうだー!」
発見、そして確保!<サーチアンドキャッチング!>
上位と下位の差は開くばかり。
果たしてどうなる、うさぎ祭り。
たぬきそば食ってる場合じゃないぞ!
●再・中庭でばにーばにー
「うーむ、カラフルらしいのだが、意外に見つからないうさよ(´・ω・)」
意外と数が稼げない。屋上と、食堂分を除くと伸び悩む数。
うさ耳をうさうささせながら、バニースーツ姿のラグナは中庭をゆく。
木の下、茂みをがさがさする男、バニースーツ姿。大事なことなので二回言いました。
そんなラグナを尻目に、きゃっきゃわいわいとはしゃぎながらキョウカと白兎は卵を探し合う。
「んとね、んとね、あっちにあった、だよ?」
「ほんとなの? ……探してみるの」
そんな様子を眺めている者が二人。教室Aから恨めしそうに(※恥ずかしくて外に出れない)見詰めているアトリアーナと、芝生できゃっきゃうふふしている女子をベンチに腰掛け眺める英斗。あ、裏にエッグ見ぃ付けた。
「……平和だねぇ」
「ええ、平和ですの」
因みに中庭から教室内は丸見えである。そのことに気付いたアトリアーナは最早恥も外聞も在ったもんじゃない。ジャケットを羽織ったまま彼女は窓を飛び越え中庭探索チームの仲間入りをする。
「私もそちらを探しますのっ」
そこで「あ、俺も」とは言えない英斗であった。だって何となく女子がいっぱいで入り辛いんだもん。
英斗はいそいそとラグナの元に向かい、非モテ騎士友の会同士仲良く探索を開始したのであった。
●結果発表
全員が戻って来ると、いつの間にかキョウコもバニー衣装を着用していた。アトリアーナが開始時にひっそり呟いた旅は道連れ世は情け、ウヅキに呪われた所為でもあるが。
再度鼻血×2。は、置いておいて。
「けっかはっぴょーう!」
どんどんぱふぱふ、鳴らされるコール音は勿論真顔のウヅキの持つラッパから。
「三位、シャイなバニーガールアトリアーナちゃん! もっと前に出ちゃっていこー! 可愛いよー!」
ちりりーん、鈴の音と共に渡されるのは、キョウコお手製銅メダルを持ったうさぎさんのぬいぐるみ。
「ボクが三位……ですか。……有難う御座いますの」
うさぎを受け取り、もふ。もふいものは、女の子にとって正義である。
「二位、流石名前通りの結果か!? 甘味ハンター最強説白兎ちゃん! ちっちゃくってぴょこぴょこしてて可愛かったよー!」
ちりりーん、鈴の音と共に渡されるのは、今度は銀メダルを持ったうさぎのぬいぐるみ。
「…………嬉しい、の」
こっくり、頷いた白兎は耳を垂らしたままやや表情を明るくさせる。ふわふわもこもこは彼女の大好きなものだ。
「そして一位! 流石のヒーロー黒兎、色んなところで人助けもしちゃってもーこりゃカッコ良いわタクティカルだわで審査中もべた褒め! イン……」
「インレ? そんなハードボイルドなナイスガイ、僕は知らないな」
「あハイ黒兎さん!」
じりりーん、ベルの音と共に渡されるのは、今度は金メダルを持ったうさぎのぬいぐるみ――と、きっちりメンズ丈のバニー衣装。つやっつや。しかもスリット深めのセクシー仕様。
「……。……一位とは」
幻想ではありません、現実です。バニー衣装広げてガン見しているインレはさておいて、キョウコは続いての発表に移る。
「そして最後にブービー賞! そば食ってる場合じゃないだろって総ツッコミをぶち当てたかった若杉くん! 面白過ぎだよきみ! ってことで――」
「えっ、大きっ」
英斗の目の前にどん、と置かれるのは両腕一抱えの超巨大チョコエッグ。
「因みに今日のはぜーんぶ私の手作りチョコエッグだよ! 夜なべして作りました、残さず食べるように! 以上、結果発表でーしたっ!」
その言葉に若干英斗は心を躍らせる。女子の手作り! 女子の手作り! 女子の手作りチョコエッグ! 若干所じゃなかった。でも凄く……大きいです……。
結果発表を終えた後、熾弦はキョウカや白兎、フェインにチョコエッグを分け与え。
皆でうさ耳を付けたまま(一部バニースーツやら白いキラキラタキシードやらを身に纏ったまま)仲良く夕焼けを見ながらおやつタイムと洒落込んだのでした。ちゃんちゃん。