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マスター:相沢
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/03/21


みんなの思い出



オープニング

●死急ぎのお嬢さん
 生きることは楽しいかい?
 生きることは、つまらない? ――そりゃあ難題だ!

●生きてるってなあに
 飽きちゃった。全部全部、飽きちゃった。
 流行りの音楽も、流行りの服も、流行りのカレシも、流行りのトモダチも、全部全部、飽きちゃった。
 ――生きてるって何だろう? 生きてるって何だっけ。
 そんな哲学めいたことを考えている私を、まるで異物を見るような目で見るトモダチたち。何がそんなにおかしいの? 何がそんなに変だと思うの? そっか、私が変なんだ。でも別に良いや。
 ――生きることはつまらない。生きることは退屈だ。
 そう称した過去の偉人は素晴らしいと思う。生きることは苦痛。どうして毎日ルーチンワークをこなして、変わらない毎日を繰り返さなくちゃならないの。どうして楽しくもない日々を送らなくちゃいけないの。
 別にいじめが有った訳じゃない。両親との仲が悪かったわけじゃない。もしかしたら、私の頭がどうかしてたのかも。それでも良いんだけど、何だかつまらない。
 どうしたら楽しくなるのか考えてもみたけれど、何だかどうでも良くなっちゃった。
 耳にする流行歌も、耳にする噂話も、全部飽き飽き。
 私が生きていくには、少しばかり遅過ぎたのか、早過ぎたのか。
 別に誰が悪いわけでもないの。ただ、ちょっとだけつまらなかっただけ。
 そこで私は、生きることがつまらないなら、死ぬことはどうだろうって考えてみた。
 死ぬことはつまらないんだろうか。それとも、死ぬことはわくわくするんだろうか。
 飛び降りる瞬間人は本能的な恐怖で意識を失うというけれど、私は意識を保っていられるんだろうか。
 そう考えると少しわくわくした。
 死後のことはどうでもいい。ただ、死ぬ瞬間はどんなスリルが私を待っているんだろうって――。

 真夜中、学校、屋上。
 気温は10度を切っている。寒くて仕方ないからコートを着て来たけれど、何だか様式に沿わない気がして、脱ぎ捨てた。
 寒い、頬が痛い。けれど、私はちょっとだけわくわくしてた。
 今から死ぬんだってこと。今から私は初めての経験をするんだってこと。
 痛みは判るんだろうか。地面とキスする瞬間、私は意識を失わずにいられるのだろうか。色んなことが頭の中で膨らんで、巡って、私は生まれて初めての感覚に戸惑いさえ覚えていた。
 鉄の柵を昇って、向こう側に降り立つ。
 下を見ると、高い。途轍もなく高い。今からここから飛び降りて脳髄も何もかもをぶち撒けて死ぬのだと思うと、堪らなくぞくぞくした。
「きみ、死ぬの?」
 ――不意にかけられた声。目を見開いて声のした方を向くと、金髪の男の人がいつの間にか隣に立っていた。
 本能的に判る。このひとは、ひとじゃないって。
 ひとであるのなら私に気付かれずに隣に立つことなんて不可能だし、大体にして、非現実的だ。きっと、天使か悪魔の類に違いない。
「うん、私、死ぬよ」
「そう」
 どこかつまらなさそうに言う男の人に、少しだけ興味が沸いた。
 普通なら、止めろとか、そういう言葉が返って来るのに。
 でもそれも当然かとも思う。だって人間じゃないなら。
「あなた人間じゃないでしょう。背中押してよ」
 私は意地の悪い話を持ち掛けた。きっとこのひとは、悪いひとじゃあない。直感的に理解していた。だからこそ、持ち掛ける。面白い反応は返って来るだろうか。
「嫌だね」
 予想外の言葉に、私は思わず笑う。心から笑い声を上げるなんていつ振りだろう。天使か悪魔なら、私を殺す方が良いに決まってるのに、やっぱりこのひとは善人だ。
「けち。…………まあ、どうでもいいや」
 名も知らぬお人好しは何か声を掛けようとしていたようだったけれど、それを遮って私は金網から手を離す。
 そして私は空を飛ぶ。コンクリートの地を蹴り、夜の空へと舞い上がる。その様はまるで蝶になった気分。堕ちることしか知らない、――失墜の舞。
 心からどうでも良かった。
 天使か悪魔がどう思おうと、どういう言葉をかけようとしていたんだろうと、どうだって良い。つまらない世界では味わえない、最初で最後の死の喜びを噛み締めたい。それが、私の本当の願い。
 そうして、私の意識はここで途絶えた。

 暫くして、屋上から地を見下ろしたアベルは嘆息を逃す。
「…………」
 アスファルトにぶつかり散らばった臓物。散らばった肉片。血、血、血、血。
 零れ落ちていった、命。つい先程まで会話をしていたのに、もう彼女には二度と届くことがない。
「……俺に××は出来ない」
 アベルは物悲しそうな、それでいて皮肉めいた笑みを浮かべ、小さく呟いた。
 風が吹く。髪をなびかせながら、アベルは昏い空を見上げる。
「だからせめて――……」
 轟、と吹く強風。言葉は最後まで紡がれず、風に掻き消されて潰えた。

●ピリオド。
 赤い髪、疲れた顔をしたウヅキは斡旋所に入るなり、細い嘆息を洩らした。
「依頼です」
 依頼書の束。キョウコが纏めたものだとウヅキは言う。
 そこに記載されているエネミー・ネームは――『ピリオド』。
「変わった名前ですね」
「救済を謳うヴァニタス、アベルから届いた書簡に記載されていたものです。そのコピーがこちらになります」
 描写されている筈の絵柄は無かった。ただの真白な紙にマルが描かれており、その下には『ピリオド』の文字。
「先日、K市の高校で自殺が有った、らしいです。らしいというのは、血痕や臓腑は有れど遺体自体が見付からない、ということで。落ちていた物品や、鑑定によって死亡者の目処は立っています。――そして、『ピリオド』は恐らくその死者でしょう」
 依頼書に記載されている内容に依れば、ピリオドは夜な夜な街を徘徊し、人を喰らっているらしい。ツマラナイ、ツマラナイ、と呟きながら、延々と人の肉を喰らうディアボロ。放って置くことは出来ない。
 キョウコが纏めた情報から、ある程度の外殻は攫めた。
「詳細についてはお渡しします。敵は一体とは言え油断は出来ません。――どうぞ、皆さん気を付けて宜しくお願いします」
 ウヅキは深々と頭を下げると撃退士を見送り、再度書類の見直しに入った。


リプレイ本文

●生とは
「――生とは何ぞ哉。それは変化だ、と。私はそう答えよう」
 雨の悪魔、ハルルカ=レイニィズ(jb2546)は芝居がかった口調で笑って言う。
 ――高い青空、蒼穹を眺めながら。

「退屈の打破ってのは、案外有り触れてるのにな」
「贅沢な悩み、って奴かな」
 夕暮れ。アラン・カートライト(ja8773)とフレデリック・アルバート(jb7056)はそう言い合いながら、仲間たちと落ち合う場所へと往く。
 ――望月玲の両親は、酷く取り乱した様子でいた。大事に大事に育てていた一人娘を失ってしまった喪失感、哀しみ、口惜しさ、全てで一杯だった。自殺だと言われても、納得がいかないと言う。あの子はそんなことをする子じゃあない、きっと何かの間違いだ、と。撃退士であるなら何者かに奪われた遺体を捜して欲しいとすら、嘆願された。
 天魔について、全てが詳しく流布されているわけではない。ディアボロが闊歩しているからといって、それがまさか自分の娘であるとは思っても見ない。そんな家庭も、在る。そう思いたいのかも知れない、そう願いたいのかも知れない。
 そしてアランは思う。
 自殺後の遺体をディアボロ化。其処にどんな救済が在ったのか。救済を謳うヴァニタス・アベルは、何を思い考えたのか。――若しかしたら、過去にも似通った件が在ったのでは、と。

「普通の生活がつまらない、か。久遠ヶ原に来てからは口が裂けてもそんな事は言えなくなったな」
 戸蔵 悠市(jb5251)は続々と集まって来る面子を眺めながら、茫洋と呟く。
 生きたいと切望しながら死んでいくのが地獄なら、真逆の彼女の生もまた地獄に似ていたのかも知れない。そう思うと、二度目の生を歪に受けた彼女は何か変わったのだろうか。――けれどもそれもディアボロとなってしまえば、詮無い話。
「……何てことだ。授かった命を無為に投げ出すなんざ……黒き天使の恩寵はこの世のどこにいっちまったんだい?」
 心優しき天使、命図 泣留男(jb4611)――メンナクには、理解出来なかった。
 傷付き死ぬことを喜びとした娘に、果たして彼は、全霊をかけて人を護るべき癒し手には何が出来るのか。
「情報を聞くにこの世に絶望したわけでもなく、追い詰められたわけでもない。ただ、飽きた……というところだろうか。解脱を講じたにも関わらず、今度はディアボロとなって彷徨い歩く、か。これでは当人にも、残された家族にも救いがない。せめて、滅することでピリオドを打ってやろう」
 Vice=Ruiner(jb8212)はふむ、と小さく言うとマッピングした地図を広げる。ディアボロが身を潜められそうな場所――即ち暗闇に埋もれそうな場所、だ。
 撃退士の準備は万端だった。後は、期を、夜を待つのみ。
「つまらない、つまらない。ふふ、早く来ないかな。聞けば彼女は退屈してるというじゃないか。私もそう。お互いにとって素敵な夜になるといいね」
 ハルルカはそう言うと矢張り笑って、小さく手を打った。

●深淵
 ヴァイスが昼間に探索した場所から、予測通り”彼女”は現れた。
 長い黒髪、乾涸び長く伸びた両腕がずるずると地を摺る。
 不気味にツマラナイ、ツマラナイ、と呟く姿は――依頼書に記載されていたそのままの姿、ピリオド。
「つまらない……ですか」
 苦笑しながら射程範囲ギリギリのラインで和弓を活性化させるのは、安瀬地 治翠(jb5992)。
 その傍ら、黒竜の様な美しい様相を持つ天羽々斬を呼び出した久遠 冴弥(jb0754)は微かに眉を寄せて呟く。
「何でしょう、この言葉に出来ない不快感は……初めての感覚です」
 立ち位置は、後衛。ツマラナイ、そう耳にするたび胸を責めるどうしようもない不快感に眉を寄せながら、冴弥は胸元に手を当てる。
 撃退士を見るなり長い髪をぞろぞろと引き摺り一直線に走って来る、ピリオド。後衛陣へ向かうより先、アランが正面から戦斧でその腕を受け止める。
「ようレディ、ダンスの時間だ。退屈を謳う姫君に、最高の暇潰しを贈ろう」
 ただひたすら全力を出して躍ってやると、彼は言う。
 その背に向けて炎の烙印を施すフレデリックは「頑張れよ」と告げ、それに対しアランは「勿論」と答える。
 彼の後背に回った後衛陣もまた、態勢を整えながらそれぞれの得物を握る。
「つまらない。つまらない。ああ、ああ、よく判るとも。――明日をなぞるだけの今日は、今日を繰り返すだけの明日は。酷く平坦で、不変で、故に『生きていない』」
 謳うように言いながらまた、ハルルカもピリオドを囲うように位置を埋める。
 スレイプニルを召喚していた悠市もまた同じように前衛位置へと召喚獣を滑り込ませると、聖なるアウルでカオスレートを変動させた。冴弥も悠市と同じく、召喚獣を空き位置へと滑り込ませ、ホーリーヴェールを発動させる。――これで、場は整った。
 四方から囲まれるピリオドに斬り込んだハルルカは、口許に笑みを湛えたまま告げる。
「生きる事は退屈だって? ――いいや、生きていないから退屈なのさ」
 ディアボロには届かないその言葉。けれど、刃は確りとピリオドの身体に届く。確かな手応え。
 次いで放たれるのは、治翠とヴァイスが放つ矢と銃弾だ。
 矢は滑り外れるもののヴァイスのアウルで出来たマーキングの弾は見事命中し、その居場所を完全に特定させる。
「これで目くらましを受けても敵の位置は判断出来るだろう」
「今宵のダンスのお相手登場――か」
 何所か哀しげな面差しで呟くメンナクを気にも留める事無く、ツマラナイ、ツマラナイ。そう呻いていたピリオドは不意に、両腕を掲げ、ぶつぶつと呟く。
「何か来るよ、気を付けて」
「……雨ですっ」
 声を上げる後衛のフレデリックと、宙空から降り頻る存在に気付いた治翠。
 ピリオドを中心に、広範囲の闇色の雨が降り頻る。それは宛ら終焉の雨。
「……っ」
 ざあざあと身体を貫く魔法の雨は、ピリオド諸共呑み込む。
 そしてピリオドは避けることもせずに両腕を揺らし、痛みさえも受け止めまるで楽しみ笑っているかのようだった。
 命中率は、高い。襲い来る痛みが撃退士と召喚獣の意識ごと押し流し、それぞれがたたらを踏んだ。
 しかし、それを即座に解放しに跳び来るのがメンナクだ。
「この俺の眩い輝きに見惚れなっ!」
 ジャケットの前を無駄に肌蹴つつ、手近な味方に治癒を施すメンナク。
 クリアランスの加護を受け、我に返ったハルルカはアランの肩口に軽く目覚めのチョップ。
「キミも何を呆けているんだい? 彼女に飽きられてしまうじゃないか」
「――っと、そうだな。姫君とのダンス中には無粋だった」
 よろめきながらも乗せ合う軽口。
 その直後、手近にいたアランを攫むと、ピリオドは――アアソウ。と呟きながら、彼をあさっての壁へと向かって投げる。激しい音を起てて壁にぶつかる彼に、恋人たるフレデリックは声を掛けながら召炎霊符で火球を生み出し、ピリオドに向かって打ち付ける。
「アラン、大丈夫か?」
「何とか、な」
 ぺ、と吐き棄てる血。ひび割れ砕けた塀には、くっきり彼の姿がかたどられている。
「……つまらない、ですか」
 治翠と同じくして呟いた冴弥は召喚獣とリンクした朦朧状態から復帰し、曖昧な表情を浮かべる。
「戦いながらでも、ツマラナイと、そういうのでしょうか……ああ、不快感の理由が分かりました」
 自身と彼女は、似ていた。生きることをつまらなくしていたのは、きっと彼女自身。ツマラナイ、それを越えて限界まで挑み続けなかった、「自分に出来るだけのこと」の範囲から踏み出さなかった。
 だから、――必死の、必死にならざるを得ない戦いを、彼女は強いる。
「天羽々斬、付き合って」
 冴弥の呼び掛けに応えるよう、召喚獣はピリオドに向けて爪を振るう。
「さあ、起きるんだ。寝ている場合じゃあないよ」
 ハルルカのチョップは二発目、悠市の召喚獣へと。
 メンナクはピリオドの攻撃を警戒し翼ではためきながら、気絶間際まで傷を負った仲間の元に遣って来て治癒を施してゆく。
「俺に任せな……お前を覆うダークサイドは、この伊達ワルが受け取った!」
 この伊達ワル天使、ノリノリである。治癒を施された側――アランも僅か笑いつつ、ピリオドの抑えに回る。
 ピリオドの元まで走り込んで来たアランが手にしているのはアイトラ、鉄糸。飛び込むなり大きく頭に向かい横に薙ぎ払うと、ピリオドの頭ががくりと揺れ、項垂れる。意識を刈り取った証。
「つまらない、と言うのであれば、こちらは全力で相手をするまでです」
「死ぬスリルは、恐怖は早々楽しめるものではない。――そうだろう?」
 そこに追撃とばかりに治翠の矢がピリオドの首許を射る。それに合わせるように放たれるヴァイスの銃弾が補佐をした。二人は共に、ピリオドの正面を避けた位置からの攻撃を心得ている。
「行け、スレイプニル。彼女に再び終わりを見せてやろう」
 悠市の指示のまま曝された首筋を穿つよう喰らいつくのはピンポイントブレイク、急所狙いの一手。
 ピリオドは呻き声を上げると、意識を取り戻した。ツマラナイ、ツマラナイ、と呟くのは相変わらず。
 その様子に僅か目を細めたフレデリックは数歩と前に出る。終焉の雨を予期してのこと。
 けれど、雨は降らない。そして、手近にいた――そう、ピリオドにとって、誰が何をしようと関係無かった。誰が何をして、何を考えようと、どう動こうと、彼女にとっては無意味なこと。手近にいたから、食べる。齧り付く。その猛牙は、ハルルカへと。
「おっと、これは手痛いね」
 咄嗟に剣身を盾にするものの、その勢いは桁違い。ツマラナイ、と嘯く彼女の、ツマラナイ攻撃は剣が身を裂くことを気にも留めずにハルルカの腕まで喰らい付いた。
 そしてすかさず降り注ぐメンナクの治癒のアウル。
「――ガイアの囁きを聴け。そうすれば、”ツマラナイ”なんてことは無くなる筈だ」
 哀しみに暮れるメンナクの声は何所か切なげだ。ツマラナイと言って身を投げうった少女。そのお蔭で、どれ程の人が傷付くのだろう。それを想像しただけで、メンナクの胸は痛んだ。
「死んでみるのは楽しかったのかな。何でも過ぎれば呆気ないものだけどさ、きっと、つまらなかったんじゃないかな」
 つまらなかったのは誰の所為でも無く、ほんの少しのことに気付けなかっただけ。
 気付けば少しは違う世界が見えただろうか。ピリオドの――彼女の、つまらなくない世界は何所に在ったんだろうか。
 そう考えながら、フレデリックは哀愁を篭めて霊符を放つ。

 ピリオドは少しずつ、けれど確実に消耗していった。
 絶え間なく降り注ぐ攻撃はまるで雨のようで、同じくして黒雨を降らせるピリオドはツマラナイと言うことを止めた。
 喪われていく生命力、残されている僅かな時間、それに気付いたピリオドは、長い髪を振り乱してケタケタと笑い声を上げる。
 ――そこで、幻影の幕が開かれる。
 ピリオドを求めた少女の、たった一つの願い事。

●死ぬって!
 ――最高!

 ヤバい! 落ちるだけで終わり、全部全部ばらばらになってお終い、最高! 気持ち良くて、気分が良くて、最高で、最上で、ああ、ねえ、私何度だって死んじゃいたい! 何度だって、このスリルを、快感を味わいたい! ねえ、ねえ、それなら殺されるってどんな気持ちなの? 殺されるって、どれだけ気持ち良いの? ねえ、ねえ、――ああ、もう最高! 終わっちゃうなんて、勿体無い!

 ――ねえ、もう一回、もう一度だけ、死んでみたいの!

●ハッピーエンダー
 撃退士らの前に過ぎる幻影は、少女が屋上から落ちていく瞬間の、思考、理性を吹き飛ばした思想。
 その狂気染みた思考を、理解出来る者が居る訳もなく。
「死を……快感、だと……」
 判らない。生を貴び弱きを護るメンナクには、判らない。
 けれど理解出来ないのは誰しも同じ。
「成る程。――若しかしたら、これが例のヴァニタスにとっての”救済”なのかも知れないな」
 ヴァイスは呟き、僅か怪訝に眉を顰めたまま銃を撃つ。
「彼女は彼女自身で命の使い道を選択した。そこまで自由に行動できたのも親の愛情のお陰だろうに、与えられ過ぎて鈍感になってしまったのか? ――ままならないものだ」
 悠市の呟き。それは尤もな話。人生とは彼女だけのものではない、それを理解していたのならば、きっとこうはならなかったのかも知れない。
「彼がこの子に何を見たのか、少し判った気がします」
 痛ましげに目を細める治翠は、苦笑いで言う。アベルの言う救済、それとそぐうだろうと考えたからだ。
 アランは幻覚について思案しながらも、鉄線を手にピリオドの頭を薙ぎ払う。
「どうした? こっちだ」
 見事命中した薙ぎ払いに対し、再び意識を刈り取られるピリオド。もうツマラナイとは言えない、言わない。髪の隙間から見える唇は、笑みの形を確りと作っていた。
「楽しめたかな、束の間でも」
 その表情を見たフレデリックは言い、前線まで出てアランへ再度炎の烙印を刻む。
 治翠とヴァイスは斜線を縫い狙撃し、ピリオドを着々と削っていく。
「さて、今宵もそろそろお開きだ。楽しい夜をくれたお礼に、一度きり、一瞬だけだったキミの生を、けれども今一度キミに贈ろう」
 ハルルカは笑って言う。アランも、冴弥の天羽々斬も、悠市のスレイプニルも、後衛のフレデリックも、治翠も、ヴァイスも、準備は万端だ。
 メンナクはその内にも味方の傷を癒し、アウルを発露させる。
「準備はいいかい? ――刹那に過ぎるその時を、どうか余すこと無く受け止めておくれ」
 どん。
 ――言葉が終わると共に交差する、攻撃。
 美しくも褪せた灰雪が舞い、アランの乾坤一擲がピリオドの腹を穿つ。スレイプニルの急所狙いの一撃も、天羽々斬の硬質な爪も、番えられた矢も、引かれたトリガーからの銃弾も、霊符から放たれた火球も、書から放たれた光の羽も、すべての攻撃がピリオドへと集束した。

 それは、ピリオド。
 終息地点。
 お終い。

 ピリオドは嘆くでも苦しむでもなく、ただ、その歪んだ生に終止符を打った。

●嘘吐き者の優しさ
「……あんたらの娘を殺った悪夢は、確かに俺たちが終わらせたぜ」
 撃退士らの手によって、袋に詰められ渡される遺髪。
 遺されたもの。限られたもの。
「これで、少しでも……娘の無念がはれたらいいな」
 ――即ち娘は天魔に襲われたのだと。
 メンナクは言った。味方たちにも頼み、優しい嘘を吐いた。
 それを聞いた両親は咽び、けれど涙を拭い不器用に笑んで、撃退士たちにありがとう、と言った。

 撃退士たちはその姿を眼前に想いを馳せる。
 優しい嘘。責めるべきは娘でも、自身――その娘を育てた両親でもないという、嘘。
 その嘘が真に通ったかどうかは知れない。

 けれど、撃退士らは望む。――その大きく小さな嘘を架け橋に、願わくば、彼らが前へと進む新しい未来を夢見て。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 黒雨の姫君・ハルルカ=レイニィズ(jb2546)
 ソウルこそが道標・命図 泣留男(jb4611)
重体: −
面白かった!:6人

微笑むジョーカー・
アラン・カートライト(ja8773)

卒業 男 阿修羅
凍魔竜公の寵を受けし者・
久遠 冴弥(jb0754)

大学部3年15組 女 バハムートテイマー
黒雨の姫君・
ハルルカ=レイニィズ(jb2546)

大学部4年39組 女 ルインズブレイド
ソウルこそが道標・
命図 泣留男(jb4611)

大学部3年68組 男 アストラルヴァンガード
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー
花咲ませし翠・
安瀬地 治翠(jb5992)

大学部7年183組 男 アカシックレコーダー:タイプA
貴き決断、尊き意志・
フレデリック・アルバート(jb7056)

大学部6年12組 男 アカシックレコーダー:タイプB
龍の眼に死角無く・
Vice=Ruiner(jb8212)

大学部5年123組 男 バハムートテイマー