●屋台の料理は美味しくて
「それにしても人間って面白いこと考えるんだよ……。新しいものを創る事が出来る、そういう所もボク好きだよ……そんな訳なので、何か手伝う事があれば手伝おうと思うんだけど」
「それは重畳! ジャパニーズおしるこの売り手は多い方がいいですからね! アンジェ、助っ人が来ましたわ! おしるこ作りの方は頼みましたよ!」
ヨハン(
jb2678)が降り積もった雪の中で、せっせと作業する人達に声を掛ければ、すぐさまミニスカサンタ姿のクリスティーナ アップルトン(
ja9941)が、そんなヨハンをゲットする。
エスコート、というか拉致同然の勢いで引っ張られてきた先にあったのはおなじくミニスカサンタ姿でジャパニーズおしるこを作っている最中のアンジェラ・アップルトン(
ja9940)の姿。
「流石ですクリス姉様! この忙しい中客引きだけでなくヘルプ要員まで連れてくる手際の良さは流石です! ……っとと、お待たせしました、あったかいおしるこですよー」
天使のような微笑でお客におしるこ差し出すアンジェラ。その姿に感心しつつヨハンが屋台の横を見れば「久遠ヶ原の毒りんご姉妹参上!」の文字がでかでかと。どうやらキャッチコピーのようらしい。
(人間って……本当に面白い事を考えるね……)
そうして悪魔っ娘は孫を見る老人のような優しい眼差しで見守りながら、しるこ屋の手伝いを始める。若干、人間に対する考えにりんご姉妹の毒が回った気もしないではないが。
「向こうのおしるこ屋は中々盛況みたいですね……ですが私も負けませんよ。せっかくの機会ですし、存分に料理の腕を振るうことにしましょう」
遠めに見えるミニスカサンタのしるこ屋を視界に納めながら、楊 玲花(
ja0249)も大忙し。
作る品は中華粥。「玲花茶楼」の看板を掲げた屋台の下で鶏肉と干し貝柱で作ったスープを煮込む。トッピングとしてネギ、ショウガ、青菜炒め、油条などを用意、お客の好みでそれを盛り合わせる。やはり寒い中で、この暖かな中華粥はよく売れた。
その客の中には勿論――サクラとは名ばかりの、祭りを楽しむ撃退士の姿が。
「この寒さの中で食べる暖かいお粥は本当に美味しいですね。日本は雪国とは聞いていましたが、これほどの豪雪とは」
未だに道に積もる雪を眺めつつ、中華粥に舌鼓を打つフェリーナ・シーグラム(
ja6845)。雪自体はよく見てもこのような豪雪と、そんな豪雪の中で楽しむ環境には興味津々のようだ。
「寒いのによおやるわ。ま、あったかくて美味いもん食べれるからこっちとしては良いけどな。ついでに宣伝もしとくわ。この粥は体の芯からあったまるからなぁ」
高谷氷月(
ja7917)も同じように、粥を口に運ぶ。今回の依頼は食べ歩きに専念すると決めている彼女の事だ。巡り会った美味い食べ物を周囲に宣伝するのは苦では無いだろう。元々、サクラの仕事はそんなところであるのだし。
「気に入って貰えたようで幸いです……父様の店の賄いで食べていた味を再現出来ていると良いのだけれど」
「この味わいなら問題ありませんよ。それではご馳走様でした。次は雪像作りの方に行きましょうかね」
「うちはパスや。そっちはフェリーナに任せるわ……さてと、次はどこへ行こうかなぁ」
そうして中華粥を食べ終えたフェリーナと氷月は別の場所へ向けて歩き出す。雪像作りに屋台に、この祭りは見所が沢山ある。
屋台にしても、まだまだ気になる店が多く――。
「お、いらっしゃーい。夢ちゃんに恋先輩。あったかいおでんに、あったかい甘酒。どっちもまだまだ沢山あるよ。どうだい?」
点喰 縁(
ja7176)は訪れた後輩二人に向けて、笑顔と共に熱々のおでんを指し示す。関東風に味付けされたおでんの売れ行きは良く、中々大忙しだった。
その繁盛故に、この気温でもあまり寒さを感じなかった縁であったが……ぶるりと背筋が凍る感覚を。何かよく見れば、地領院 恋(
ja8071)の瞳が微妙に怖ひ。
「中々盛況のようだな。それにしても夢ちゃん、か」
にっこり微笑む恋だが、その瞳は笑っていない。妙な威圧感がひしひしと。姉の視線と言うより、娘を護る親のような――邪まなこと考えてるとただじゃすまさねぇ的な意思が見え隠れしていた。
で、そんな姉の隣で手袋やマフラー完備で防寒しっかりな地領院 夢(
jb0762)は、極々自然に無邪気な笑顔を向けている。
「わぁ……! こういう時に温かい物って嬉しい! 有難う縁さん!」
「あはは、そりゃ何より……何だけど、心なしか先輩からの視線がいてぇ……」
「?」
どんどん鋭さを帯びていく視線にびくびくする縁を尻目に、夢はきょとんとした顔で温かなおでんと甘酒を戴いている。
そしてそんな中――更に姉の視線を鋭くさせるような人物が。
「お……地領院も来てたのか。以前の依頼では世話になった。ありがとな……で、何食べてるんだ?」
「ほう……妹の知り合いの男がまだ居たか。地領院 恋だ。いつも妹が世話になっているね」
幼体のヒリュウを抱えながら、久瀬 悠人(
jb0684)が軽く手を挙げて夢に近付いてきていた。彼としては依頼仲間の撃退士に挨拶しただけのようだが……その姉としては見過ごせない。すぅと鋭くなっていく眼差し。いまにも光纏しそうである。
(……お姉さん? えっと何か睨まれてる気がするんだが……どういう事だ地領院?)
(さあ……? それより夢でいいですよ。地領院じゃお姉ちゃんと同じ呼び方になっちゃいますし)
そして小声で二人は話し合って――その態度がますます恋の視線を鋭くさせる。
「あ、お客さん。甘酒のタネは酒かすと麹の二種類あるんですけど、どっちがいいですかね?」
で、そんなやり取りからそこはかとなく目を逸らして縁は屋台の接客に励むのであった。触らぬ神に祟り無しなのである。
「ふむ……おでんも甘酒も悪くないが、あそこの姉妹、というか姉中心に冷気が漂ってきているな。余所へ移動するのが賢明か」
んで、屋台関連のサクラとして、しっかり飲食中の篠田 沙希(
ja0502)はおでんの容器と甘酒を持ちながらスタスタと移動開始。折角温かい食べ物と酒で体が暖まっているというのに、冷えてしまっては叶わない。
「おっとすまない。今日は一人で歩きたい気分でな。誘いはありがたいが遠慮しておこう」
途中、ナンパの類もさらりと避けて、次なる標的は何の屋台か。甘酒もいいが、どこかに熱燗扱っている店は無いものかと視線を巡らした。
最中、視界に入ったのは、なにやら多く屋台の品を運ぶ相羽 守矢(
ja9372)とジェレミー・エルツベルガー(
jb1710)の姿。
向かう先は、雪像造りで大賑わいである広場の方角だった。
ラーメンや豚汁で盛況のジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)もそちらを見やる。
「はいお待ちどう。さ、ちゃんとあったまってね……向こうは今頃どんな雪像が出来ているのかな? 見に行きたいけど忙しいからなぁ……」
「向こうは向こうで大忙しだよ? 可愛いのや大きいの、変わった雪像造った人も居て……私も作ったんだよジェラルドちゃん。はいプレゼント。目が可愛いでしょう?」
そこへ、小粒で小さな雪だるまを持ってきたユリア・スズノミヤ(
ja9826)が現れる。彼女の手には目の部分に赤いビー玉を入れた可愛らしい雪だるまが一つ。
「お、ホントだ。それじゃありがたく貰うよ……おやおや、手が随分冷えてるじゃないか。さ、ストーブの前へどうぞ。ラーメンの他にも、桜の香りがする可愛い甘酒もありますよ♪」
「それじゃあ……少し貰おうかな?」
にこやかに微笑み温かな食事を受け取る。雪の祭りはまだまだ始まったばかりだった。
●雪像造り
「いやぁ、屋台の方は大漁大漁大盛況! 積もった雪も全部溶かしそうな勢いだったぜ! ほら、お汁粉におでんに中華粥に……色々差し入れ持って来たぜー!」
ジェレミーは大漁に買い込んだ出来立て熱々の品を、雪像造りに励んでいる鈴野アイラ(
ja0360)とキャロル=C=ライラニア(
jb2601)に手渡した。
アイラとキャロル、二人が作成しているのは雪兎達だ。一つ一つは小さいが、それを大漁に造って兎街道を完成させようと奮闘している。雪像広場まで続く道なりに雪兎がお出迎えと考えると、可愛らしくてとても宜しい。
「ご苦労様ですわジェレミーさん。万全のあったか装備とはいえ冷えますからね……キャロルもいかが? 少し休憩しません?」
「うん。あいらちゃんといっしょにたべる〜……う〜、手がまっかかでつめたいですの〜」
二人は雪兎作成をしばし中断し、温かな食事に手をつける。既に結構な数の白兎さんが道なりに配置されている。このまま休憩しながら造っても充分雪兎街道は完成できるだろう。
「じゃ、俺はまた屋台巡りにでも行って来るぜ。ついでに除雪作業で集めた雪も持って来ようか?」
「もう結構ですわ。近場にある雪だけでも全然無くなりませんし……あたくし達だけでは消費仕切れませんもの」
「うん……雪あそびたのしいけど、ぜんぜんへらないの。うさぎさんいっぱいできたけどなくならないの……」
若干うんざりした口調で視線を移せば、確かに無くなる様子の無い積雪がまだまだ沢山。
雪像造りでかなり消費されているのは解るが――どうやら全てを無くすのは遥か先の話らしい。
「うわぁ手が込んでる……差し入れで料理持ってきたけど、それより手伝った方がいいか?」
あったかい料理はひとまず置いて、守矢はやけに気合入れて造られている雪像を見て汗を垂らした。
雪像――と言っていいのかそれは。もはや像を通り越して城になりつつある雪の彫刻。
楠 侑紗(
ja3231)が気合入れまくって建造中の雪城である。
「目指すは、一国一城の主。100万石の旗本になって、領民から年貢をいっぱい徴収するのですー……ん? その料理は貢物ですか? 見所のある領民なのですー」
石垣建設中の侑紗は目ざとく温か料理を年貢として徴収する。なんだかんだ言って、一人での雪城建設は疲れる上に寒かったのだろう。ぱくぱく食べ始める城主。
まあ流石に城作るような気概のある人物はそんなに居ない。他の者は当初の予定通り雪像造りに夢中になっていた。雪をごろごろ転がして雪だるまを作るものもちらほらと。
高峰 彩香(
ja5000)はひたすら雪球転がして巨大化に専念。どうやらビックサイズで挑むらしい。
「あたしは大きさで勝負するとしようかな……色んな雪像見えてるからね。ここは見た目で掴まないと」
巨大雪球を作った後、その上に登り雪だるまの形に整えていく作業に移る彩香。あまりに大きいので、雪球の上に雪球を乗せる従来の雪だるま作成では造れないのだ。今はどちらかと言うと掘削作業中。
「綾香君。そのままじゃあ崩れるよ、頭が大きすぎる」
「井筒さん……チェック厳しいよ」
まあ巨大すぎるが故、通り掛かった井筒 智秋(
ja6267)に厳しい指摘を受けていたりするのだが。
で、その巨大雪だるまに触発された悪魔が一人。スタンダードな雪だるまを造っていたハッド(
jb3000)であったが、彩香の作成中のビッグサイズを見て――意気軒昂。
「ジンルイに負けてはいられないホ〜。雪玉と合身し、この坂から転げ落ちる事でキングサイズの雪だるまが……ホ、ホ〜〜〜〜!?」
んで、ごろんごろんと大回転していく悪魔が一人。彼の宣言通りかなりのサイズの雪玉にはなったが……果たして脱出できるのか否か。まあ大丈夫だろう。悪魔だし。
「なんか凄いの造ってますね。雪玉と一緒に転がっていったのは……ハッドさん?」
「……同種族ではないか。同じ悪魔かと思うと、頭が痛くなってくるな……」
その光景を雪像作りしながら見ていた蔵里 真由(
jb1965)とヴィルヘルミナ(
jb2952)。
二人の作っているものは二メートル程の大きな雪兎。大きな雪の塊を少しずつ削り、兎の形にしていく。寒さの他に慣れない作業という事もあったのだろう。真由の額に僅かながら汗が浮んでいる。
「ふぅ、慣れない事すると疲れちゃいますね」
「疲れたなら少し休んではどうだ? その間くらいは肩代わりしてやるぞ子猫(キティ)?」
「……子猫とか呼ばないで下さい」
くすくすと意地の悪い笑みを零すヴィルヘルミナに、ぷいっとそっぽを向く真由。雑談を交わしながらこれはこれで楽しんでいるようだ。ヴィルヘルミナの真由弄りの方が、雪像作りより順調な気もするが。
造られる雪兎は、何も大きなものばかりではない。中には大・中・小の家族構成の兎をせっせと作る者も。ラサ・ストラ(
jb0951)とシャリア(
jb1744)の二人である。こちらは鈴やリボン等の装飾も交えて可愛らしい形に仕上がりつつある。
「わぁ! 流石シャリアちゃん! 可愛い可愛い!」
「いえ、ラサさんの方が凄いです……私のした事なんて、ほんの少し整えただけですし」
「そんな事無いよ。私だけじゃこんな可愛く作れなかったし……そうだ、後で写真撮ろう? アルバとフォルテも召喚して、一緒に記念撮影とかどうかな?」
「あ、いいですね……ん、その前に、屋台の方も見に行きませんか? 手、随分つめたくなっちゃいましたし……」
わいわいと話し合いながら、二人の少女はひとまず屋台の方角へ。雪像作りも結構体力消費するのだ。冷えた手を暖める為、失った体力を補充する為にいざ屋台街道へ。
記念撮影は身も心も暖まった後――その方が、笑顔も映えるだろうから。
笑顔の映える光景。それは神城 朔耶(
ja5843)の作る雪像にも同じ事が言えた。
自身の仲間、友人を象った日常の風景を雪像にしていく朔耶。その、象られた人物の名を知らなくとも思わず微笑んでしまいそうな、暖かな一風景。仲良く掃除している友の姿。
「あのお二人は本当に仲が良かったのですよ。この雪景色は凄くて壮観ですが、少しばかり寒いです。ですから少しでも皆さんが暖かく微笑まれるように――」
作業疲れでうっすら浮んだ汗を拭う朔耶。彼女の顔にも、確かな微笑が浮んでいた。
大きさや、可愛らしさ、様々な雪兎の横で……一風変わった雪像を造る者だって。
なんと宝井学園長の胸像だ。なんてもん作ってるのか。
「おお、イリン君の言うとおりだったな。塩をまぶしたら随分固まりやすくなった。さあもう少しで、我等が学園長先生の胸像が出来上がるぞ」
「随分リアルティ溢れる雪像が出来ましたね……しかし、知らない人から見ると、この雪像はどう映るのでしょうか? ……作る事に夢中になってその点を考慮しませんでしたが」
「……まあ、出来はいいから、目は惹くだろう。うん」
ハルルカ=レイニィズ(
jb2546)とイリン・フーダット(
jb2959)は、無駄と言って良いレベルで出来上がったリアル志向の胸像を前に汗を垂らす。確かに出来は良いのだが……知らない人からすれば「誰これ?」と言った物でしかない。
「……とりあえず休憩しましょう。紅茶などいかがですか?」
「ああ助かるよ。それじゃあ向こうで一休みしよう」
そんな訳で、学園長そっくりな雪像を置いて二人は一休み。時には目を逸らす事も必要である。
「雪なのです! お祭りなのです! ここはやっぱりお子さんも楽しめるよう、アニメのキャラクターなんかがいいのですー! ……ティエルちゃん! そこの造型は違うのです! もっとこうカーブを描いてですねー!」
「……しかしだな。このままではバランスが悪いだろう。デフォルメしたらどうだ? 可愛く造った方が子供達の受けもいいだろう?」
「はわー! 確かにそのほうが良いですね! それじゃあもう少し頑張りましょうー!」
「……やれやれ、どこからあんな元気が出てくるのか不思議だな」
元気溌剌と可愛いアニメキャラの雪像作りに精を出す内藤 桜花(
jb2479)。そんな彼女を苦笑しながら見守る神宮 ティエル(
jb2726)。こちらの両名も随分と手の込んだ代物を作り上げていた。
完成したら、間違いなく子供達が殺到するだろう。
「うーん、でも中々寒くて作業がはかどらないのです……ティエルちゃん! ご飯食べに行きましょうご飯!」
「……元気だなぁ」
思い立ったが吉日か。ティエルの手を引いて屋台に向かっていく桜花であった。
「ふ。巨大雪だるまに雪兎に学園長の胸像にアニメキャラ……千差万別十人十色の出来栄えはおおいに結構。だが見せてやろう。最高の雪像を、至高のパンダを」
そんな中、ただ一人黙々とジャイアントパンダを作成中の撃退士の名はパンダ――じゃなくて下妻笹緒(
ja0544)。リアルティにリアルティを追求して、黒地が無い点を除けば間違いなく本物のパンダそのもの。雪原に突然現れた大自然のパンダ――この際遠目から見ると白熊にしか見えないのは脇に置いておこう。
「……我ながら会心の出来だ……この出来栄えなら皆が感嘆するに違いない……!」
と、一人悦に入る笹緒。確かに素晴らしい完成度であったのだがその後、祭りの警備員から雪像を白熊と間違えられて色々騒動があったのだが、それはやっぱり脇に置いておく。筆舌に尽くしがたい事件なので。
まあそんな事件の傍らで、屋台で提供していたお汁粉を差し入れとして持ってきた神林 智(
ja0459)がいた。熱々の焼き餅付きで、雪像造りですっかり体が冷えた者達は大喜びであった。
「お疲れ様ー。これどうぞー……ん? 何? ちょっと付き合えって? ……へぇ、いいねぇ。やっぱり雪を前にするとテンション上がるなぁ」
しかし、その智はとある知り合いの撃退士に手招きされて、雪を使った名物遊びに付き合う事になる。彼女を戦場に呼んだ者の名は長門 一護(
jb1011)。
雪の戦場で繰り広げられるものは勿論――。
●雪を使ったお遊びは
「おらおら! ぼーっとしてるんじゃねぇぞ撃退士さん方よぉ! コイツを食らってしゃきっとしなァ!」
高台に陣取り雪球をガンガン投げつける一護。降り積もった雪にテンション上がりまくった所為だろう。血気盛んに雪球砲撃を繰り返し――雪合戦は盛大に続く。
「うわー、凄いなやべぇな楽しいなー! けど、負ける気はねぇぜー! おらー!」
それに対抗するは、大狗 のとう(
ja3056)。女の身と侮るなかれ。隙あらば全力投球で、高所に居る一護に雪球ぶつける女傑。更に近間に居る知り合いにまでその魔手は伸びる。
「いっしし! 奏、ぼうっとしてると狙い撃ちだぜー!」
「美しく元気なお姉さん。一緒に冬の遊びに興じるなら望むところですが……ふふ、ぶつけられて尚黙ってはいられませんよ。よろしい、戦争です!」
八神 奏(
ja8099)もまた笑みを浮かべて雪合戦の真っ只中に突撃。最早、誰が敵で誰が味方か解らない大混戦。その内、一人の少女がサッカーボール大の雪球抱えて牙を向く。
「貴様の陣地は私が頂いた! くらえーい!」
「お、おおおおおお!? それはでか過ぎじゃねぇのかぁ!?」
どがしゃーん、と盛大な音立てて地に倒れる一護。かなりの熱戦となりつつある雪合戦場。
となれば流れ弾が出てくるのは自明の理で――じゃがバタを頬張って幸せ気分だったニオ・ハスラー(
ja9093)に命中し……体育会系巫女がその力を振るう。
「あたしのじゃがバタさんを……あたしの大切なじゃがバタさんを……今投げた人出てくるっす! じゃがバタさんの恨みを思い知るっす! ちぇいさー!」
轟、と音を立てて剛速球が雪合戦場に飛来した。ニオの恨みが晴れるまで、勢いは止まらないだろう。
その戦場を遠くから眺めつつ、かまくら造りの面々は至って平和な様子。
「あちらの遊びも懐かしいですね……雪が降ると投げ合う子達が居ました。私の生家でも年に一度、これくらいの雪は降りましたし……さて、完成です」
村上 友里恵(
ja7260)が完成したかまくらを見てふぅ、と一息吐く。集めた降り積もった大量の雪の中をくり抜いて何人か入れそうな形になっていた。
「あとは火鉢を置いて中を暖めましょう。それから休憩所の看板を立てて……そうだ。お餅でも焼けば人寄せになるかもですね♪ そうと決まったら早速お餅を取りに行きましょう。ついでに屋台巡りも楽しみたいですし♪」
ウキウキわくわくという擬音が聴こえてきそうな様子で、屋台街道の方角へ歩んでいく友里恵。
かまくらを作っているのは彼女一人だけではない。他にも沢山の撃退士が、かまくら作りに汗を流していた。
特に猫型の、ちょっと変わったかまくらを作成中の夏木 夕乃(
ja9092)は大変そうだ。
スキー板でぺったんぺったん踏み固めたりしてた時は良かったが、猫の耳の取り付け時には疲労困憊。
「うひー……外はこんなに寒いのに、自分汗だくっすよ。ワクワクしすぎてハイペースすぎたっすかね……後で屋台も見に行きたいっすのにー」
ひぃひぃ言いながら頑張って猫さんを作成中の夕乃。彼女が屋台巡りに行くのは何時になる事か。
「うむ……確かにこの一面銀世界の雪景色は創造心を掻き立てるが……やはり作るものは無難な形に限るな」
そんな汗だくな夕乃の姿を見て、照葉(
jb3273)は自身の作ったかまくらがスタンダードで良いと再確認。形そのものは二〜三人が入れる形のシンプルなもの。だが、数を作って――温かな休憩場所とする。
「ふむ。折角だ、雪で段を作れば椅子の代わりにもなるな。少しだけ削って紋様をいれるのも然したる手間も掛からないだろうし……まだまだ手の入れられる部分はあるな」
うむ、とひとつ頷いて細かな装飾に取り掛かる照葉。小さくも温かな休憩所は、これより更なる発展を遂げるようであった。
ただ、普通のかまくらならば既に完成している者達も多々居て、そんな者達は一足先にかまくらの中に入り一時の休息を楽しんでいた。
「改めて見ても凄いと思う。こんなに雪が積もってるのを見るのは初めてかも……それに、本当に結構暖かいんですね。火鉢一つで、本当に居心地が良い……」
完成したかまくらの中で、ぬくぬく幸せ気分の森林(
ja2378)。買ってきた屋台の食べ物などを口にしながら、真っ白な外の景色を楽しんでいた。顔が随分緩んでいる。
「はぁ〜……もう少し休んだら外の皆さんの手伝いをしましょうか……ああでも、この中から出るのは少しばかり難しい……屋台の食べ物も美味しいですし、これは中毒性があるかも知れません……」
のんびりぬくぬくしながら時間だけが過ぎていく。手伝いは――まあ、頼まれたらって事で。
けれどそれは何も森林だけに限った事ではない。
むしろそれ以上の者が――炬燵まで持ち込んで極楽空間に変えた海城 阿野(
jb1043)が居る。
「ふぅ……全く持って良いですね。最高です」
やりきったドヤ顔で天国気分の阿野。しかも中で餅まで焼いてる始末だ。砂糖醤油まで用意して準備が万端過ぎる。そこへ――女性が一人覗き込む。
「……おや、お客さんですか? いいですよ、炬燵は空いてますからね」
「ふふ、仰山の雪。こういうので一年の締めくくりもええねえ。入場料は屋台で買ってきたじゃがバターでええか?」
「充分過ぎてお釣りがでるところですよ」
湯気の出ているじゃがバターを差し出して、暖かな炬燵に入る大和田 みちる(
jb0664)。
足元からじんわりと体を温めるぬくもりに顔を綻ばせながら、みちるは過去を、今年一年を振り返る。買ってきたじゃがバターも想い出を呼び起こす。昔行った兄の学園祭――行方不明になった兄の。
「…………」
無言で思い出す。目まぐるしい一年。撃退士になって沢山の事件が起こって。
思い出す事柄は沢山あって、とても一度に全て思い出せない。後でゆっくり思い返す為に、ちいさなかまくらを作ろうとみちるは考える。一人で入り、一人で耽る、そんな場所を。
「にゃんこ滑り絶賛解放中なのです〜! 試運転、行きますです〜!」
と、外から活発な声が聴こえて来る。かまくらに入っていた者達も顔を出し声のする方を見れば、そこには猫の形を模した巨大滑り台があった。雪で形を作り、滑る部分は水を撒いて凍らせたようだ。作成者のセシル=ラシェイド(
jb1865)が爽快に滑っていた。
「よし! 完成なのです! 後は屋台巡りのついでに、この滑り台の宣伝を〜……でもとりあえずは、あったかい豚汁でも食べたいのです! もう手がかじかんで痛いのですよ〜!」
と、どこからともなく取り出したフリフリエプロンを装着し、セシルは屋台街道まで突っ走る。
これだけの力作だ。そりゃあ両手へのダメージは多きかろうて。寒さすぎると皮膚は痛みを感じてくるのだ。
「白魔も楽しいお祭に変える雪国の精神と知恵に、敬意を……払っていたけど、もう駄目。予想以上だった。これはひどい。冬眠したい」
にゃんこ滑り台の近くでは、蛇型の滑り台もあり、その横で和泉早記(
ja8918)が力尽きたようにぶっ倒れていた。これでもかってくらい厚着して完全防備していた早記だが……それが仇だ。
寒さはそれで防げるかも知れないが、雪で滑り台作りなど疲れるに決まっている。それをそんな着膨れ寸前の姿で行えばどうなるか。
「動くと暑い。止まると寒い。なにこれ。雪国怖い。凄い怖い」
まあ、早記の苦労はちゃんと意味を成していたようで、子供達がきゃわきゃわ騒ぎながら滑り台で楽しんでいる。にゃんこ型も蛇型も大人気だ。功労者の早記は倒れたまま動く様子が無いが。
「すごいねー……こっちは二人用のかまくら作るだけで一杯一杯だったのに……っとと、それはそうと早く入ろう? 折角買ってきたのに冷めちゃうよ?」
「おう。えっと、おでんにしるこにじゃがバタに甘酒に……豚骨ラーメン買った記憶無いんだが、何であるんだよ。ぶらっくはっと? 何処の屋台だ……」
時雨 八雲(
ja0493)と橘 一華(
ja6959)は外の状況に驚きの声を上げつつ、二人で作ったかまくらの中に潜り込む。二人用のかまくらの中で、熱々の料理の湯気が篭る。外気の冷気を遮るその中で、二人の談笑が始まる。
「そういえば八雲さん。今日は無理言ってごめんなさい。一人じゃ寂しくて呼んじゃったけど……予定とか無かったんですか? というか気になる人とかは? 八雲さん、爺むさいところさえなければ普通にカッコいいのに」
「居たら今頃そっち優先させてるっての、そういうお前はどうなんだよ? 大体、家に爺ちゃん婆ちゃんが居て、相手してれば遅かれ早かれ皆こうなる。俺が爺くさくなるのは自然の摂理だ」
「またそんなことを……まぁあたしみたいな可愛い子と一緒にいれるんだから、今日はいいですよね♪」
「自分で言うなっつーの」
苦笑いしつつ軽く一華のおでこを指で弾く八雲。
二人の談笑は始まったばかりで続いていく。暖かな料理に舌鼓を打ちつつ――祭りもまだまだ続く。
●冬物語
祭りの時は進み、すっかり日も暮れ夜になり、雪像も殆どが完成されていた。
小さな雪兎達に迎えられるその道はアイラとキャロルが創り出した兎街道。子供も大人も楽しみながらその道を歩く。
中には雪の城を作りきり城主となった少女も。まあ彼女は城の天辺で完全に力尽きてぶっ倒れているのだが。屋根の上に大量の雪だるまを作った辺りで体力が底を尽いたようだ。無茶しすぎである。
けれどそういう人物は稀の話で、多くの者は雪像を見ながら感慨に耽っている。
天菱 東希(
jb0863)とニーナニーノ・オーシャンリーフ(
jb3378)の両名は特にだろう。三段重ねの雪だるまロボット仕立てを見上げながら、屋台の料理を味わっている。完成品を見ながらの食事は、また一段と味わい深いようだ。
「最初は、寒くて寒くて、何でボクはこんなところに居るんだろうって思ったけど……こうやって作った雪像見るとやり切ったって感じするよね。おでんも中々美味しいし……」
「そ、そうッスか? いやぁ良かったッス。辛くなくて温まるものって結構難しかったッスけど、喜んでもらえて嬉しいッス!」
「そんなに喜ばなくても…………でも、今日はありがと。楽しかったよ」
「? 何か言ったッスか? よく聴こえなかったッスけど?」
「あーあー、何でもないー何も言ってないー」
目を逸らしつつ感謝の言葉を告げるニーナニーノ。そんな彼女の言葉をよく聴き取れなかった東希は首を傾げつつ聴き返すが……同じ台詞を二度言う気は無いようだ。ニーナニーノはそっぽ向いたままおでんをぱくつくばかり。
雪の積もった祭りの日に、歳若い男女の物語はあちこちで生まれている。
雪像を見上げながら、かまくらの中で語り合いながら。
あるいは――遊佐 篤(
ja0628)とリゼット・エトワール(
ja6638)のように。
「今日は楽しかったですね篤さん。雪だるまもちゃんと作れましたし、寒さの方もこの間篤さんがプレゼントして下さった若草色のマフラーを巻いていたのでへっちゃらでした♪」
「そう、か。そりゃ良かった……」
「はい♪ ただもうすぐお祭りの時間が終わりなのは残念ですね。……できれば、もっと一緒に居たかったんですけどね」
「あのさ、リゼット。ちょっと話聞いてくれないか……?」
二人だけで雪の世界を見ている最中、篤は語りだす。
初めて会った時のこと。今日のこと。楽しい想い出のこと。
そして、その想い出をこれからも重ねて行きたいという――自身の想いを。
「………あ、篤さん急に何を……あの、それって……」
「えっと……つまり、だな……付き合ってくれないか! 俺はお前が好きなんだ!」
「……! ……う、あの、その……」
突然の言葉に、顔を赤く染めるリゼット。けれど否定も拒絶もせず、静かに時が流れる。
自問自答の時間。考えて考えて……出てきた答えは一つだけ。選択肢ではなくその想いは一択で。
やがて少女は真っ赤な顔のまま小さく頷き応え、少年との距離が近付く。少年が少女の肩に置いた手だけではなく、二人の顔と体の距離が近付いて――その距離は重なり合って零になった。
「……んむ? 何処かで暖かな物語が語られた気がするっす。間違いないっす。巫女は嘘吐かないっす。勘っすけど間違いないっす!」
熱々のじゃがバタをはむはむ頬張っていたニオはふと感じた気配に目を輝かせた。まあ野生の勘のみで学校で良成績を納める彼女だ。何らかの力が働いたのだろう。
縁の屋台で甘酒飲んでいたのとうは、ニオの発言を心中で反芻して――有り得る事だと思った。
「暖かい物語かぁ。まあ俺も色んな人と遊べてすげぇ楽しかったし、ニオの勘は当ってるんだろうなー! 俺は今すげぇ幸せだぜ! おい奏、一緒に飲もうか。おねーさんの奢り、だ!」
「うわ、のとう姉さんご馳走してくれるの? ありがとう、今度必ずお返しするね。恋姉に夢もどう? 二人には俺が奢るよ?」
奏は甘酒片手に上機嫌ののとうに肩を組まれつつ、久々に会った知り合いに話し掛ける。
「大晦日にまた集まるだろう。その時にでも頼む」
「これからお姉ちゃんとかまくらの中に篭るから、またねー」
と会話をそこそこに各自の楽しみ方で祭りの時間は過ぎていく。祭りの中で出会った者と語り合ったり、知り合いと屋台を楽しんだり。
あるいは昼間作った小さな雪像をプレゼントしたり。
「はい、夕乃ちゃんには魔女っ子の帽子をかぶせた雪だるまをプレゼント♪」
「わぁ! すごいっす、嬉しいっす、可愛いっすー!」
「ふふ、夕乃ちゃんの作った猫さんのかまくらも可愛いよ」
そんな感じにユリアと夕乃がきゃあきゃあ言いながら、お互いを褒め立てあう光景だってある。
そう。色んな光景がある。
祭りの中を歩き、様々な光景を見た智秋もまた――かまくらの中で祭りに華を添える。
「さて……今となっては夏のものだが、古くは、怪談といえば冬の風物詩でね」
「……そりゃ俺はヘルプのつもりでこの依頼に来たけど……どうして参加する事に?」
「それは人数が必要だからだよ相羽君。百物語には語り手と聞き手が多く必要だからね……」
かまくらの中で七輪を焚き、座布団の上で怪談を語り始める智秋。雪像作りのヘルプで来た筈の守矢は何故かとっ捕まって怪談の聞き手に。とは言え、犠牲者は彼一人ではなくまだ居るのだが。
「……俺も確かに言いましたよ。何か手伝えることはありますか? って……それがまさか」
一生の不覚と言った感じに項垂れる森林。昼間のんびり暖を取っていたツケが回ってきたのか。真実は解らない。解るのは怪談の参加者に何時の間にかされているという事実のみだ。
不幸な事に、大きなかまくらを作った者も居たのだ……それこそ軽く五、六人は入れる大きさのかまくらとか。
そんな中で、恐怖が始まる。
「それでは、まずはこんな話から。これは、ある雪の日の出来事でね――」
悲鳴が響く。しかし残念ながら助けは来ない。
かまくらは結構防音もしっかりしているのだ――。
「――悲鳴? 私達『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』に助けを求める悲鳴でしょうかクリス姉様?」
「気のせいではなくて? 私には聴こえませんでしたわ……それよりらぁめんを頂きましょう。流石にこの寒さの中でのミニスカサンタ姿は厳しかったのですから」
その頃、ジェラルドで屋台で、仕事を終えたアップルトン姉妹がラーメンを馳走になっていた。
何しろ二人ともミニスカサンタ姿で接客していたのだ。このくそ寒い中をだ。そりゃあ温かいラーメンでも食べて暖を取りたがるってもんである。
「まだまだあるから遠慮せずに食べていってね。さ、可愛らしい悪魔のキミも召し上がれ」
「ん、それじゃあ頂くよ……そちらもお疲れ様。この寒さの中凄いと思うよ」
「はは、ありがとう」
ジェラルドに賛辞を送りつつ、温かなラーメンをすするヨハン。彼女もまた、今日と言う一日の疲れを温かな食事で癒していた。
「はぁ……私は明日からのダイエットで気が重いです……」
その横で、美味しいラーメンを食べながらそのラーメンを睨みつける友里恵の姿もあったが。
「やれやれ、自分の体調位しっかり管理するんだな。ほら、帰るぞ子猫(キティ)」
「だからぁ……子猫って……言わないでください」
「その様子で言われてもな……ああ、解った解った、そう拗ねるな」
疲れ果てた者を介抱する者も居た。ヴィルヘルミナは雪像作りですっかりくたびれてしまった真由を抱えて苦笑している。しかもお姫様抱っこで。文句言いたげにしているものの……疲労の方が大きいらしくされるがままの真由であった。
「あらら、あっちの人は随分お疲れですね。後でおしるこでも持って行ってあげようかな……そっちは居る? まあ、まずはおしるこよりそこから抜け出す方が先決っぽいけど」
「へへ、そうだなぁ、盛り上がったのはいいが何時までもこの状況じゃなぁ……」
智の視線の先には、雪合戦の果てに雪玉に埋もれて雪だるまと化した一護の姿が。
盛り上がり過ぎたのだろう。誰か助けてやって欲しい。
「……ところで、あたしの作ったビッグ雪だるまより大きい雪玉があるんだけど……あれ作った人って誰? 誰か知ってる?」
近くでは彩香がキングサイズの雪玉を指差して、雪像作りの参加者に問い掛けていた。
誰が知ろうか。その雪玉の中にはハッドが未だに埋もれている事を――。
夜の景色。ライトアップされた雪像の前で――カメラのシャッターが切られる。
「ありがとう御座います……ふふ、撮ってもらったよシャリアちゃん。アルバとフォルテも一緒だし……どんな風に撮れてるか楽しみだね」
「ほんと、たのしみですね……あ、他の人の作った雪像も写真にとりませんか? いい想い出になるとおもうのです」
「そうだね。見に行こうか?」
ラサとシャリアは、カメラを片手に雪の祭りを見て回る。目白押しの作品が、沢山あるのだから――二人の散策はまだまだ終らない。
そう。終らないのだ――楽しい時は夜になっても終らなくて。
そんな時を皆が過ごしていて……一人、小さなかまくらの中で想いを馳せる。
(いつか兄を探しに行きたいなぁ……そして、一緒にこんな祭りを楽しみたいなぁ……)
みちるは静かに想っていた。たとえもう、兄が生きていなくても。
探しに行って、そして出来れば再会して……今日の祭りのような日々を過ごしたいと。
そう、静かに願っていた――。