●ハロウィンパーティー
トリックオアトリート。悪戯かお菓子か、そんなお茶目な問い掛けをしてお菓子をせびって行くお化け達。今回、そのお化け達はこの特設会場に座っている審査員の方々なのだろう。特にドラキュラっぽい黒マントを羽織ってる米屋の娘さんとか、あの辺が性質の悪いお化けに違いあるまい。何せお菓子一択で、他の選択肢が提示されないのだから。
「ハロウィンを何か根本的に勘違いされているような……いえ、楽しむのには特に関係ありませんか」
そんなドラキュラ米子さんをジト目で見つつも、久遠 冴弥(
jb0754)は南瓜を用意して早速準備に取り掛かる。あそこのドラキュラは美味しいお菓子が御所望なようだし。
「ハロウィンらしさというとやっぱり真っ先に思い付くのはジャックオーランタンですね。ではまずは南瓜の中身をくりぬいて……」
手際良く調理は進んでいく。無論、手際良く進行中なのは冴弥だけではない。小夜戸 銀鼠(
jb0730)も南瓜の中身をくりぬいて、そのくりぬいた中身を生地に錬り込んでいる。
その手際の良さはとても小等部の男子のものとは思えない。
(……結局今年も作る羽目になったか……身近に煩いのがいないだけ気が楽だけど、毎年毎年俺は一体何をしているのやら……)
ただ、若干遠い目だったりする。呆と何処か遠くを見詰めながら――けれど両手は滞りなく料理を完成に向けて作業中。おそらく今はクッキーの生地作りなのだろうが全く持って見事すぎる。
だが中には――というよりも歳から考えればこちらが普通なのかも知れないが――慣れない手つきでレシピ本を片手に一所懸命に頑張っている男の子も。
相馬 カズヤ(
jb0924)である。幼い顔で眉根を寄せて、うんうん唸りながらもクッキー作成中。
「えっと生地を捏ねて、それでその後は……ああもう、食べるのは好きだけど、作るのは上手くいかないなぁ。うまくできればいいんだけど」
なんとも微笑ましい限りである。置いてある材料もチョコチップとか定番のものばかりだし……若干カラフル過ぎる色合いのものも視界に映ったがきっと気のせい。大丈夫。多分。
「リュウ、ハロウィンってよく知らないんだよね。それにお菓子とか作った事ナイし……あ、夢。コンロってどうやって点けるの? できない! やってよ」
「ん? コンロ使えないの? 簡単だよ、ここを捻るの。ほら、こういう風に」
共同作業、と言うほどでも無いが、隣り合って仲良くそれぞれのお菓子を作っている龍騎(
jb0719)と地領院 夢(
jb0762)。夢の方は形からクッキー、そして龍騎はカボチャのホットケーキを作ろうとしているのだろう。慣れない手つきで苦心する龍騎を、手馴れた手付きで夢がサポート。こちらの料理も問題なく美味しくいただけそうである。
だが中には危なっかしい……というか何か勘違いしている者が。
「お餅をコネコネするんだよー。お菓子と言ったらやっぱり餡子とお餅だよねー。待っててね米子さん! 今すぐ美味しい柏餅をプレゼントするから!」
ルーナ(
ja7989)が何か餅作ってた。
遅いから! 時期がかなり遅いから! とか誰か突っ込めば良いのに誰も突っ込まない。しかも米子さんまで突っ込まない。審査員席で明らかに見えている筈なのにスルーである。
まさかあの米屋の娘、食えればそれでいいとか、そんな腹積もりではあるまいな。
「はろはろはろうぃん♪ にゃんにゃにゃーん♪ ぱんぱかぱんぱん☆ぱんぷきーん♪」
「ネジちゃーん!」
そして頭にコウモリ型のネジ巻いて、何だか良くわかんない歌歌いながら作る螺子巻ネジ(
ja9286)の姿がある。妙に野太い合いの手も、観客席側から聴こえて来るし、こちらもこちらで程好いカオス加減。まあ、作っている料理がまともな為、やはり米子さんはスルーしているのだが。
「うーむ。ここに来れば美味い菓子が食えると聞いてきたのじゃが……まさかわしも作らねばならんとはのう。まあカボチャを使って『アレ』を作れば問題は無かろうて……」
自称二千歳以上、見た目幼女な白蛇(
jb0889)は、南瓜を細かく切って鍋でドロドロ煮ている。
現状、ナニを作っているのか全く解らない。その為か、ドラキュラ審査員の娘さんの目付きも険しいものになっている。やはりこの娘っ子、基準が食えるか否かだ。ハロウィン関係ねぇ。
「……やはりレシピ本は偉大だな。先人達の教え程、頼れるものは無い……お菓子を作った事はほとんどないんだが、とりあえずあそこのドラキュラから悪戯されることはないだろう……」
そして、食い物に対する視線が凄いドラキュラを横目に見つつ、梶夜 零紀(
ja0728)がレシピ本片手に調理真っ最中である。レンジで加熱して柔らかくしたカボチャを丁寧に潰して……まだまだ完成は遠いが美味しいものが出来上がりそうだ。
うん。美味しい物を作らないと危ないのだ。あそこのドラキュラが容赦なく牙突き立ててきそうだし。
●共同作業
「……なぁラズ。蒸すってどうやるん? やっぱりプリンて蒸さんとできんの?」
「……そこからか? そこからなのか? 大丈夫、なのだろうな九条先輩。僕はプチシューの方で手一杯だから今日はそんなに手伝えないぞ?」
「大丈夫や! ラズもさっき言うてたやん。料理はまごころやって!」
「それはそうだが……待て。待ってくれ。その脇に置いてある墨汁は一体何だ?」
九条 穂積(
ja0026)とラズベリー・シャーウッド(
ja2022)。二人の女性は完成予想図をデンと机に置いて、それを目指しながら仲良く共同作業中である。
話の内容を聞く限り、穂積がプリンを、そしてラズベリーがプチシューを作っているようなのだが……ラズベリーに比べて穂積の手付きが、その、ホラー。だって食材以外のものが見え隠れしているんだもの。そしてそんな時に限って、米子さんは運悪く別の人の調理に夢中。役にたたねぇ。
で、米子さんが夢中になるほどのお菓子はというと――。
「……お、久遠寺さん。審査員のドラキュラさんが、あたし達の『コレ』に興味津々ですよぃ。どうやら掴みは万事OKなようで……」
「あ……本当ですね。和菓子で武家屋敷……面白そうで取り掛かりましたがまずは成功でしょうか?」
「ええ、あとはあたしらがこの武家屋敷をどれだけ見事なものに仕上げられるかですねぃ」
「はい……頑張りましょう!」
氏家 鞘継(
ja9094)と久遠寺 渚(
jb0685)が共同作業で作っているのは、ハロウィンらしくお菓子の家だ。お菓子で作られた家のミニチュア……だがこの二人が違うところは、そのお菓子の家が『和』であるところである。
まだ完成していないが、目指しているものが武家屋敷であることは明白。しかも使われてるお菓子も、カボチャの羊羹やねりきりなど、和菓子ばかりなのも注目に値する。
これは米子さんもガン見してしまうというものだろう。目をかっ開いて注視される中、鞘継と渚は真剣な顔付きで黙々と武家屋敷建設を進める。
まあ、そんな気合入りまくりのお菓子の家が建設中な訳だから……他の大工さんにも衝撃は奔っている。恋人同士で仲良く建設中だったミシェル・ギルバート(
ja0205)と癸乃 紫翠(
ja3832)にも若干焦りの色が。
「紫翠紫翠! これは大変だよ! まさか和風で攻めてくるなんてね……」
「確かにな。だが、こっちも本家本元の、お菓子の魔女の家を目指して作っている。武家屋敷には無い可愛らしさがある。味だって考慮に入れると言っていたし、まだ解らないぞ」
「そうだよね。よーし……ほらー見てみて! 南瓜の顔、可愛く描けたし♪」
「お、可愛い可愛い。そういうのはミシェルの方がセンスあるよな」
けれどもやはりそこは恋人同士か。仲良く和気藹々と、可愛らしい魔女の家が完成されつつある。
土台のパウンドケーキからして美味しそうだし、雪をイメージして屋根の上にかけられたホワイトチョコがとても甘そうだ。こんなお菓子の家があったら、問答無用で食べられてしまうに違いない。
「向こうは凄いねキラ姉。恋人同士で楽しそうな人も居るし……恋人……んー! 今日は兄にキラ姉渡さないからね! 今日は私が独占だよ!」
「うんうん! それじゃコンテスト用とは別に、幸穂ちゃん用のクッキーも作ろうかな? かわいくて美味しいやつね♪」
「わぁ、キラ姉ありがとー!」
そんな感じでイチャイチャしながらプリンとクッキー作りに精を出しているのは、木ノ宮 幸穂(
ja4004)と雨宮 祈羅(
ja7600)の両名。祈羅はかわいい妹にデレデレで、幸穂は大好きな姉にデレデレ。二人ともきゃあきゃあ言いながら、それはもう大層幸せなお菓子作りに夢中だ。
兄とか恋人とかは、今日は残念ながら場外だ。きっとお菓子がお裾分けされるのでそれまで我慢するがよろし。
「じー……かぼかぼお菓子〜♪ ……味見、駄目、ですか?」
「……もう少し待って、な。パイが焼きあがれば完成……だから」
「……辛い、です。シヴァお兄ちゃん、上手だから、見ているだけなのは辛い……」
「じゃあ……これ、どうだ? 甘い苺のミルクセーキ」
「……! いただき、ます!」
カボチャを器にしたプリンを作りながら、それはもう餌をねだる子猫や子犬のようなで見詰めてきた猫谷 海生(
ja9149)。そんな彼女の視線に、平静を装ってパイ作ってたシルヴァ・V・ゼフィーリア(
ja7754)なのだが……何時までも耐えられる訳が無く、別作業で作っていたミルクセーキを進呈。
大変ご満足な顔で頂いている海生。そんな海生の様子に笑みを零しながら、パイの焼き上げに。これも焼けたら目を輝かせて味見を願い出るのだろうなぁ、と思いながら。
●どれもこれも美味しそうで
「手付きが危なっかしそうな奴がいれば手伝う気でいたが……どうやら不要なようだな。まあ中には多少首を傾げる者はいたが……まあ、病院送りにまではならんだろう」
カボチャクリームの挟まった小さい抹茶マカロンとバスケットの飴細工を丁寧に作成しながら、朱史 春夏(
ja9611)はほっと肩を撫で下ろす。審査員のドラキュラ娘からして不安が過ぎるお料理コンテストではあったが、傍目から見る限り、料理の域を逸脱している者はいないように見受けられる。まあ、もしかしたら危険物があったりするのかもしれないが……いかに撃退士の瞳とは言え、全員を注視はできない。それに、凝り性な彼は、なんだかんだで自分のお菓子に手一杯だったりする。真剣な目つきで飴細工を作るその姿は、中々どうして格好良い。
んで、やっぱり春夏の視線から逃れ若干危ういものを作っていた人は居るわけで。
字見 与一(
ja6541)が型に流し込んだチョコに、注射器で何か注入していた。
「うまく出来れば良いのですけれど……」
ナニをうまく作ったのか。興味より恐怖が尽きぬ。で、やはりというかなんというか、こんな時に限って審査員の米子嬢は他の人のお菓子に夢中だったりするのだ。あの馬鹿審査員、何で狙ったように肝心要なところで目を離すのか。
そして一仕事終えた与一はチョコを冷蔵庫に入れて文庫本読み始める。
もう駄目だ。賽は投げられてしまった。あのチョコにナニが入れられたのか食べるまで解らない。
「さぁて、あとは旗を二つ立てて……トリックくんとトリートちゃんの完成です♪」
まあ中にはちゃんとハロウィンっぽくて、しかも美味しそうなお菓子を作ってくれる心優しき女性は居るのだが。沙 月子(
ja1773)は掌に乗るくらいのカボチャを甘く煮付けて器にし、ちょっとした『悪戯』を仕掛ける。
「やっぱりハロウィンですから……悪戯はしませんとね」
可愛い茶目っ気まで盛り込んで、真に素晴らしい女性である。食い気馬鹿一代でハロウィンを誤解している米屋の娘は見習うべきである。
「よし完成! パンプキンケーキ……上手く焼けたけど、実際はどうか……おーい味見係、出番だぞ」
竜魂召喚し、出てきたチビ竜にパンプキンケーキ食べさせる久瀬 悠人(
jb0684)。チビ竜はぴっきゃぴっきゃ鳴きながらケーキをあむあむ食べ始めるのだが……誤算が一つ。
「馬鹿、食いすぎだ! 味見だっていっただろー!」
と、放置しておけば一瞬でケーキが無くなりそうな模様。コンテストの実食前に肝心のお菓子が無くなっていたなんて事になれば一大事である。審査員がどれだけお怒りになるか解ったモンじゃない。
「……完成ですわ。味見した段階では良い味でしたし、手順も見た目も問題なしでしたけどお味の方は果たして……」
ごくりと唾を飲むのは、お菓子作りは殆ど未体験のクリスティーナ アップルトン(
ja9941)。
完成されたお菓子はかぼちゃを器にした、カボチャプリンだ。ハロウィンらしい美味しそうな出来栄えなのだが、お菓子はほんの少しの分量の差で味を大きく変える。この後の試食会が気になるところ。
「米子さんは味も大事と言っていましたし……少し不安ですわね」
不安が胸に飛来する。だが、もう作り直している時間は無い。
さあ、審査員による試食のお時間である。
ドラキュラ娘、権田藁さん家の米子さんは、どんな評価を下すのか――。
●実食
「クッキーは皆さん、大変美味しかったです。中でも素晴らしかったのは、地領院さんのクッキーですね。カボチャのミニチュアみたいな形は可愛らしいですし、中身もチョコやジャムなど多種多様。味も良くて尚且つ楽しめる素敵なクッキーだったと思います」
口周りにクッキーの食べかす着けながら、それらしい事をのたまう米子さん。
やはりこの娘さんの基準は食い気か。
「カボチャプリンも沢山あって、感無量です。その中で一番はと言いますと……茶目っ気出しつつ、実は両方食べれたという沙のプリンです。トリックくんもトリートちゃんも、両者とも美味しく頂いてしまいました。悪戯好きも正直者も、このドラキュラの前には等しく同じです。全ては食べられる運命なのです。茶碗蒸しもよござんした。今度また作ってください」
どうやらカボチャプリンとカボチャ茶碗蒸し、両方食べつくしたようだった。
どれだけ食べれば気が済むのやら。
「あ、あと九条さんは後で校舎裏に来るように。私を含めた審査員一同から苦情があります。九条さんだけに。うまいですね私。あっはっはっはっ」
と変な事言いながら笑っているが、目は全然笑っていない。口元から墨汁垂れてるし、妙に怖い。
穂積は不思議そうな顔で首を傾げているが、ラズベリーは頭痛に悩まされている最中。どうやら止め切れなかったのだろう。合掌。
「そして苦情といえば字見さん。あなたも後で来るように。錬り山椒とはやってくれますね。そんなに山椒が好きなら私があとで沢山食べさせてあげますよ。うなぎでも用意しておくことです」
その言葉に与一はぎょっと目を見開く。悪戯も程ほどにせねばならない。でなければ、米屋在住のドラキュラに色んなもの吸い尽くされてしまうのだから。
「次は……この水飴。これは個人的にもっと欲しいです。思わずねりねりねりねり、時間の許す限り練ってしまいました。そんな訳で白蛇さん。あなたには特別賞です。『ねりねりねりねり』の称号を授与します。おめでとう」
「なんじゃその称号は!?」
なんだと言われても米子さんの独断なのでどうにもならない。余程カボチャの水飴が気に入ったのか、今もねりねりねりねり練っている最中だ。一度練り始めると止まらないのである。
「そして久遠さん。貴女のアイスクリームも見事。溶けてしまうアイスを「お化けのように消える」と表現したのですね。しかしながらもう少し量が欲しかったです。あれでは蓋を開けた瞬間に消えてしまいます。お化けとはいえ、もう少し姿形を見せませんと誰も怖がりませんから……そこは次の課題ですね」
「いや、だからあなたはハロウィンを根本的に、別の行事と勘違いしている……」
何を言っても無駄である。まあ、楽しめたようだからいいかと納得する冴弥は大人の女。
出来たお嬢さんである。
「それで次ですか……まさか柏餅が出てくるとは思いませんでしたよ。まったく今はハロウィンですよ。何を考えているのですか」
「ちくしょー! 騙されたんだよー! びえーん!」
「まあ、美味しかったので全部食べちゃいましたが。次は間違わないように頑張りましょう」
自分の事は棚に上げて、好き勝手言うドラキュラ。しかも食うもの食った後ときた。
こういうのを反面教師と言うのだろう。間違ってもこのドラキュラのような娘っ子になってはいけない。
「そして総合での栄えある第一位は……氏家、久遠寺ペアの「和風ハロウィン武家屋敷」です。いや、本当に素晴らしい力作です。南瓜の羊羹で秋の枯葉の庭を表現され、赤や黄色の落ち葉をねりきりで作れて、煎餅、ドラ焼きの生地、羊羹、飴細工で屋敷を建築されました。お庭には彼岸花や鬼灯を、これまた和菓子で作られておりまして……見事な和風ハロウィンです。寒天の池とかびっくり仰天ですよ。お疲れ様です」
「ありがとうございますぅ〜……へぅ」
「すいませんねぃ、久遠寺さんお疲れなもんで」
「いえいえ、これは当然でしょう。ごゆっくり休んでください……この武家屋敷は私が責任を持って食べ尽くしますので」
何か聞き捨てなら無い事を言い始めるドラキュラ。
いけない。このままでは全てこの食いしん坊なドラキュラにお菓子を食べつくされてしまう。
思い至った一同の行動は迅速だった――。
「……あ。ちょ、ちょっとお待ちを! 私はまだまだ食べたくて……ああっ! 私のプリンが、クッキーが、ホットケーキが、パイが、武家屋敷がぁぁ!?」
●みんなで食べようお菓子のお食事会
「シスイー! Trick or Treat! ……もう我慢できなーぃっ! えいっ!」
「悪戯か? お菓子か? どっちもか」
「ぇ、悪戯もいいの? じゃぁ……てぃっ♪」
「……お前、弱いの知ってるだろ。大体、今食べてるんだから、くすぐるのはだな……」
お菓子の試食会が始まって、各自様々なお菓子に舌鼓を打ちながら、ハロウィンパーティーを楽しんでいた。紫翠やミシェルなどは、他の皆が作ったクッキーを摘みながら、悪戯にお菓子にと仲良しこよし。タオルを頭から被った、やたら可愛らしい即席お化けのミシェルに紫翠はタジタジだ。
「キラ姉、キラ姉。このプリンも美味しいよ!」
「本当ね。うちのプリンも美味しく出来たけど、これもまた……あら? こっちは茶碗蒸し?」
「そっちはトリートちゃんです。お菓子じゃありませんけど、そちらも食べれますよ……お茶もありますけどいかがですか? マロウブルーというお茶です」
「あ、凄い色が変わるんだ……面白いねキラ姉」
「そうだね。うーん……かわいいお菓子が一杯あって、しあわせー」
祈羅と幸穂は、月子の作った二つのカボチャ料理と、レモンを入れると色が変わる不思議なお茶を前に目を輝かせていた。美味しくて面白くて可愛らしい。どのお菓子も最高に心を弾ませてくれる。
「あ……やっと、食べれる。やっぱり、シヴァお兄ちゃんの作ったお菓子、美味しくて、幸せ」
「気に入ってくれて嬉しいな……こちらのプリンも美味しいぞ」
シルヴァと海生も、それぞれ作ったお菓子を食べながら顔を綻ばせている。シルヴァの作ったパイもそうだが、海生のプリンも絶品。チョコで作った黒猫と魔女や、ホワイトチョコで作った白猫と天使の女の子も可愛らしい。
「結構オモシロかったな♪ 初めて作ったお菓子も上手くいったし……ただ、やっぱり思うけど、化かされるか饗すか選べって、スサマジイね」
「あはは。そういうものだからねハロウィンって。でも美味しそうな顔見てると、それだけで嬉しいよ」
龍騎と夢も互いに作ったお菓子や、他の様々なお菓子に手をつけながら笑い合う。
悪戯かお菓子か。どちらを選んでも、結果的に笑顔が溢れればそれで良い。終りよければ全て良しとはよく言ったものである。
そんな中、皆のお菓子を食しながらも、その味の追求に頭を悩ませている春夏の姿が。
「このクッキーやパンプキンケーキは中々いいな……これを作ったのは?」
「そのクッキーは俺のだ。……ただ教える程でも無いぞ? ただうちの育て親が色々と残念な状態だから、必要に迫られて作ってきただけだしな……」
「パンプキンケーキは俺だ。俺の場合は、味見係の舌が肥えているのが問題か。おかげで料理もそれなりに得意になったんだよ」
銀鼠や悠人が肩を竦めながら応える。二人とも料理の出来る男。何だかんだ言いながら手際よく素晴らしい物を作り上げている。そんな二人のお菓子を、凝り性である春夏が見逃すわけが無く……今はレシピをせがまれている。新しいお菓子の輪が広がりそうだ。
「それにしても皆さん上手で羨ましいですわ。私も妹ばかりに作らせないで、自分で作れるようになるべきかしら……」
「でも、これもすんごく美味しいぜー! うん、ハロウィンだし、楽しく出来たからそれでいいと思うぞー!」
「あら、ありがとうございますね。ふふ、それでは相馬くんのチョコチップクッキーも是非一つ」
料理が不得意な者同士も、お菓子を交換し合って楽しい一時を。
カズヤのクッキーをクリスティーナが、クリスティーナのクッキーをカズヤが。さくりさくりと噛み締めれば甘いお菓子の香りが口に広がる。
「……うん? そういえば二人ほど居ないがどうした? ラズベリー、あんたの連れは?」
「九条先輩は……さっき権田藁先輩に連行されて校舎裏とかに」
「ああ、本当に連行したのか……居ない字見もそうか。確かにあの墨汁プリンと山椒チョコは衝撃モノだったからな……」
紅茶と共にお菓子を楽しみながら、零紀とラズベリーは今は居ない二人に黙祷を捧げる。
今頃ドラキュラ娘にナニをされているのか。まあ、酷い事にはならないだろう。あのドラキュラ娘まだまだ食べたりなかったみたいだから、すぐに戻ってくるだろうし。
「うう、間違えたんだよぉ、わざとじゃないんだよぉ……はむはむ」
「うむうむ。存分に泣くが良い。ほれ、水飴はまだあるぞ。たんと食べよ……む、このカボチャプリンは絶品じゃな。ほれおぬしも食べて――」
「うわーん! やっぱり柏餅は駄目なんだー!」
「ちょ、泣くでないわ! おぬしも柏餅もちゃんと食べておる! 美味じゃ美味!」
白蛇は何故だか解らないが、ルーナの付き添いのような何かをしていた。作った水飴差し上げて、ねりねり練っているルーナ。ちなみに柏餅はまだ余っており、どうしたものかと悩み所。
まあ、米子が帰ってくれば全部食っちゃいそうなのだが。
「お疲れ様です……武家屋敷でトリックオアトリートとは驚きました。……久遠寺さんは大丈夫ですか?」
「疲れて寝ちゃっただけなので大丈夫ですねぃ。久遠さんのアイスもカボチャの味がして、舌触りも良く美味しかったですよい」
「それは重畳です。楽しんでもらえてなにより……まだ冷凍庫に入れてあるので、久遠寺さんが起きたら渡してあげてくださいね」
氏家は疲れて寝てしまった渚の面倒を見つつ、冴弥と談笑しながらお菓子を楽しんでいた。
特に武家屋敷は見た目も見事だが味も素晴らしい。一つ一つが丁寧に作られたお菓子の家だ。
それを食べて会話するだけで、話が自然と盛り上がる。
「仕上げもネージちゃーん♪ みんなー今日はありがとねー♪」
「ネージちゃーん♪」
そして観客席の野太い声を野郎共にお礼の言葉を送るネジ。
お菓子のお食事会の騒ぎはまだまだ収まりを見せない。
ハロウィンパーティーは続く。悪戯もお菓子も、底を尽きるまで――。