●
暗い暗い夜の闇。そんな暗闇の世界に佇む一つの館。
この館の扉の奥には無数の天魔が居る――その事は、急遽集められた五十人の撃退士皆が知っている。数多すぎですので救援求むー、とどこぞの米屋の娘さんが出したSOS。それに応えてこうして幾多の戦士達が結集した。
だが――このロケーションというか何と言うかに若干腰が引けている者も数名。
桜井・L・瑞穂(
ja0027)等は、いつものお嬢様然とした態度をすっかり崩し涙目で猫野・宮子(
ja0024)の服の裾を掴んでいる。どっちが年上か解ったものじゃない。
「み、みみみ、宮子ぉ……! よくもわたくしをこんな依頼に誘いましたわね……!?」
「……?」
「な、なんですの、その心底不思議そうな顔は!? その「なんでこんな楽しそうな事を怖がってるんだろう」的な好奇心旺盛な子猫みたいな瞳は何なんですの!?」
「大丈夫大丈夫。悪い幽霊さんは魔法少女マジカル♪ みゃーこが退治するにゃ♪ 瑞穂さんも幽霊なんて怖くないよにゃ?」
「な、ナニを言ってますの!? こ、怖がっていませんわ。わたくしが、如何して怖がらなくてはいけませんの! そう、この程度、なんてことはありませんわ。おーっほっほっほ♪ ……え、あ、ちょ、お待ちになってぇ!?」
そうしてニコニコ笑顔で館の扉に近付く宮子に、ずるずる引き摺られていく瑞穂。
そんな御二人さんを見ながら、びくびく怯えている常塚 咲月(
ja0156)。彼女もまた鴻池 柊(
ja1082)の服をがっしと掴んで目前の館を見上げている。
「本物……出ないよね……一人にしないでね……ひーちゃん」
「はいはい。解ったからそんなにしがみ付くな……けどなぁ、何だろうな……色んな意味で不安なのは確かだ……ひょっとするとひょっとするかもなぁ」
「〜〜〜〜!?」
苦笑しながらぽつりと呟いた柊の言葉に、より一層しがみついてしまう咲月。
そんな咲月を後ろからいきなりハグする四条 那耶(
ja5314)。思わず「ひゃあ」と咲月が叫んでしまったのは止むを得まいて。
「大丈夫! 咲月姉は、私が守るからね! ……ってごめんごめん。まさかそんなに驚くなんて思わなかったから……そんなに睨まないでよ咲月姉」
「あっはっは。那耶ちゃん、今日はいつも以上にテンション高いねぇ。まだお化け退治は始まってないのにどうしたのさ」
そこへ、片手を挙げながら紫音=コトニー(
ja5322)が近付いてくる。そういう彼もまた、笑みを浮かべて――まるでこれから始まるディアボロ退治を楽しみにしているかのよう。
「そりゃあ、ね。こっちとしては一匹くらい捕まえたい気分で居るから……胸が躍って仕方がないって感じかな? ま、紫音みたいにふざけたりはしないから安心して」
「いやいや、那耶ちゃん。捕まえて屋敷(いえ)に持って帰ったら大騒ぎだよー? それに、俺は戦闘になったら真面目だよ?」
そう言って短槍を軽く振るう紫音。笑顔で挨拶を交わしつつも――戦闘に対する準備は十二分に出来ているようであった。
他にも周囲にはがくがくぶるぶる震えていたり、ぎゃあぎゃあ騒いでいたりと千差万別の様相。
端的に表せば――混沌。始まる前からこれなのだ。実際に入ったらどうなるかなど、考えるだけで気が滅入る。
「さて……これだけ集まってこの内容……ただでは済まんのは解っていたし、最初からハチャメチャなのは覚悟していたが……」
秋月 玄太郎(
ja3789)は少し離れた場所から一同の様子を観察する。仲間同士、協力はするべきだと思う。だが、進んであの輪の中に入る気は無い。一人で居るのが良いとか、そーいう問題とは別のところで――この仕事、単独行動の方が危険は少ない気がしていた。
「……自由なのはいいが……予測がつかないからな……この学園の面子は」
暗雲渦巻く未来を思って、溜息を吐く玄太郎。
だが、今更そんなこと思っても最早手遅れである。暗闇の館の扉は、今まさに開かれようとしているのだから。
●
軋みあげるような音を立てて扉は開かれ、広い玄関ホールが撃退士達の視界に映った。灯りは無く、暗闇が館内部を塗り潰しているが、ライトの類を持参してきた者は多く、特に問題無く前方を照らしていた。
照らされた先にあるのは――無数の西洋人形。ライトに照らされたそれらの人形は一斉に撃退士の方に顔を向ける。高速で、ぎょるんと首を旋回させて、無機質な人形の顔が映し出される。
整った人形の顔が、可愛らしい筈の人形の顔が、今はただただ不気味に映る。
そして、撃退士達が構える前に――。
「ウケッ、ウケッ、ウケケケケケケケケケ!!」
「ひゃああああああ! うわぁぁああああん! ひ、ひまちゃーん!!」
関節が外れたかのように身体をガクガク揺らしながら、狂ったようにケタケタ笑い始める人形達。そんな人形を目の当たりにした栗原 ひなこ(
ja3001)ぴゃーと泣きながら市来 緋毬(
ja0164)にしがみ付く。しがみ付かれた緋毬も真っ青な顔で体が微振動。まるでバイブレーションだ。
「お、おおおおおお落ち着いてくださいです! み、皆さんいらっしゃいますから、だだだいじょうぶなのです……って、いやぁああああ!? こっちに飛んできたぁっ!?」
「え!? ま、待って!? 待ってよ置いてかないでよ……ひまちゃぁぁぁぁん!!」
ウケーと、イナゴかカエルのような跳躍でこちらに跳んでくる無数の人形達。そんな不気味な挙動に驚き戦々恐々で阿鼻叫喚な戦闘が開始される。ぴゃーぴゃー泣きながら玄関ホールを離れる者や、逃げ出すように二階に駆け上がっていく者達。撃退士達の悲鳴と、人形達の笑い声だけが響く。
「まったく……まるでB級ホラーだな」
「お化けというよりは、ポルターガイストでしょうかー?」
「この際どっちでもいいっす。お人形退治頑張るっすー!」
だがしかし、果敢に迎え撃つ者も勿論居る。いかにホラーな光景が展開されようと、それに怯えるだけで終る撃退士ではない。
鳳 静矢(
ja3856)の持つ柳の文字が刻まれた大太刀が、鳳凰の舞う翼の如き鮮やかな軌跡で、迫る人形を斬る。櫟 諏訪(
ja1215)の持つ銀色の拳銃から放たれた高威力の弾丸が、人形の頭部を穿ちその動きを永久に止める。ニオ・ハスラー(
ja9093)の振るったヌンチャクが、飛びついてきた人形の脳天を木っ端微塵に打ち砕く。
あっという間に倒された三体の人形――しかし、これくらいでは焼き石に水もいいところ。
玄関ホール内だけでも、まだ軽く三十は居る。全てを倒すとなると、果たしてどれだけ時間が掛かるのか。
「いやー、普通に怖いわー……ただでさえ人形って嫌いなんよ。それなのにここに居る人形と来たらほんと引くっちゅうか……」
「ウケー! ウケー! ウケケー!!」
「だから、怖いっちゅうてんね!」
すぱこーん、と良い音立ててハリセンで応戦する亀山 淳紅(
ja2261)。話には聞いていたが、想像以上の魑魅魍魎ぶりに若干及び腰。幽霊じゃなくてディアボロなので超安心――と思ってはいたが、これはこれで駄目である。というか、こんな不気味な連中相手に安心できるようになったら、本当に駄目である。
「ですがこれだけ天魔らしい天魔もありません……腕が鳴ります。ようし、腕試しで、いけるところまでいってきます!!」
しかし中には、鈴・S・ナハト(
ja6041)のように逆に燃え上がる女傑も。
両刃の剣を振るって、人形が蠢く館の内部へと単身突っ込んでいく。「いきますよー……」と、だんだん遠ざかっていく声と、同時にバッサバッサと切り捨てられていく人形が見える。何処まで保つか解らないが……まあ危なくなった帰って来るだろう。一応退路も考えて入り口にスタンバイしている撃退士が居るのだから。奥の方で「たすけてぇ〜……」と女性の声が聴こえた気もするが。
「皆さん、お気をつけてくださいね。僕はここで撤退口の確保をしておきますから」
館の入り口に陣取りながら、久世 篁(
ja4188)は笑顔で内部に散っていった仲間を見送る。とは言っても、まだホールで戦っている仲間も居るし――篁目掛けて跳んで来る不気味人形も居るのだが。
「……心臓に悪いので、あんまり飛び掛ってきて欲しくはないんですが……」
若干顔を引き攣らせつつ、篁はアサルトライフルを構えるのであった。
「しっかし、なんつーか、ホントに怪談みてぇなことになってるなぁ」
階段を駆け抜けた先、広間できゃわきゃわ大騒ぎ中の人形を見て、点喰 縁(
ja7176)は呆れたように呟く。まずはこの広間の敵を少しでも減らさなくては、二階の他の場所へも進めない。無論突っ切れば他所へも行けるだろうが……その場合帰ってこれなくなるやも知れぬ。
地領院 夢(
jb0762)は縁の隣に立ちながら、ロングボウを構えて戦闘態勢に入る。
「よし、それじゃあ頑張ろう……じゃあお願いします点喰さん」
「はいよ。じれったがると隙突かれっからなー? 気をつけろよー」
矢を撃ち、薙刀で薙ぎ払い……生まれた隙間を、仲間達が駆け抜けていく。後はこの場所で群がる人形を片付けるのみ。
――とは言ってもそれは楽な作業ではなく、ワキャワキャ喚く人形達は体を不気味に震わせながら雨霰の如く飛び掛ってくるのだが。
「あー、もうケタケタ煩いー!」
夢は叫びながら矢で迎撃するが――敵の勢いは簡単には止まらない。
「時々、天使や悪魔の行動が理解できなくなる時があります。ケタケタ笑う人形に、何の意味があるんでしょう……?」
フェリーナ・シーグラム(
ja6845)はダブルアクションの自動式拳銃で撃ち落しながら、そんな事をふと思う。本当に、一体どういう目的でこの館にこんなディアボロを配置したというのか。別に街中で暴れて欲しい訳ではないが、もう少しこう、天魔らしくというか何と言うか。
「まあ今はそれよりも……ええい、ちょこまかと……! あの人形、強くはありませんが、面倒すぎですよ!」
ケタケタ笑いながら、あっちゃこっちゃに飛び跳ねる人形。狙いを定めるのも一苦労だ。時には外しながらフェリーナは懸命に人形を撃ち落していった。
だが、数は減る気配を見せない……しかしそれも当然の事。
戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
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唐沢 完子(
ja8347)は館の外で、万が一に供えて待機していた。皆が突撃していった館の中からは、ケタケタと不気味な笑い声や、ぴゃーぴゃー泣き叫ぶ女子の悲鳴、驚きに満ちた男の絶叫など、そりゃあもう大忙しの状態だった。
館の中から人形が飛び出してくる事を考えてこうして待機している訳だが……待てど暮らせど敵の姿は見当たらない。最初は厳しい目付きで監視していた完子も、徐々に呆れ顔になり、しまいにはぽつんと三角座りをする始末。だって笑い声と悲鳴と泣き声しか聴こえないんですもの。
「相手ディアボロなのに……としおの方はどうなのかしらね」
と、もう一人の外待機班である佐藤 としお(
ja2489)の事を考える。
が、彼の方も、まあ大して変わりない。外周部を巡回しながら警戒しているが、人形達が飛び出してくる様子は皆無。ただただ大騒ぎな声だけが聴こえてくる。
「まあ、怖いの苦手だから出てこないに越した事は無いけどさぁ……」
そう呟きながら館の窓に近付く。中は暗くてよく見えない。それでも眼を凝らすと、何やら暗闇でもぞもぞ小さい影が動いており――。
「ウケーッ!!」
「うわぁぁあ!? 出たぁぁあ!?」
と、突然飛び出してきた人形に銃乱射するとしお。穴だらけにされて力尽き地面に落ちる人形だが……としおの心音は凄い事になってる。心臓に悪すぎる。もう少し離れた所から巡回しようと心に決めて、再び外周部の警戒に勤しむのであった。
で、内部ではなんか服着たパンダがのっしのっしと闊歩していたりもする。下妻笹緒(
ja0544)である。彼は何故かダウジングロッドを持ちながら、人形が飛び交う館を探索していた。たまにきゃわきゃわ騒ぐ人形を踏み潰しながら。
「……間違いない、この先に何かある。この感じはおそらく……」
「パンダさんパンダさん、何かあるっすかー? 気になるっすー」
そんなパンダにしがみ付いて、もふもふしているニオ。もふりながらも迫る人形をきちんと撃退しちゃったりなんかするもんだから、余計にパンダの良く解らない探索が続いてしまうのである。
「で、下妻パンダはさっきから何探してるんだ? そのダウジングあてになるのか?」
影野 恭弥(
ja0018)は、たまに飛び掛ってくる人形を、シルバーマグでばきゅんばきゅんと撃ち落しながら、パンダの跡を着いている。何となくパンダの後ろを歩いている訳だが、パンダが何しているのかさっぱり解らない。まあ道中それなりに敵を倒しているので無駄な探索では無いのだろうが。
「きっと有る筈なのだ……そう、この館に隠し部屋が! 私はそれを見つけ出すのだ!」
「うわー! すごいっすねー! 隠し部屋っすかー!」
「本当かよ……けどまあ、俺も一応調べるか。隠し戸とか本当にあるかもしれないからな」
そうして三人は廊下を歩きながら、あるのかどうか良く分からない隠し部屋の捜索に。
まあ、隠し部屋が本当にあったとしても、だからどうなのだと言ってしまえばそれでお終いで、そもそも見取り図を貰った時点でも、この館の持ち主に聞いた話でも、隠し部屋の話なんぞ欠片も出てきちゃいねーのであるが……言わぬが花である。
あと、館に入った後、迷子になった子達も居る。
「エリスさーん? どこですかー? エリスさーん?」
ランスを構えながら、或瀬院 由真(
ja1687)がおっとりとした口調でエリス・シュバルツ(
jb0682)の姿を探し徘徊していた。館に入るまでは一緒だったのだが、ふと気がつけばはぐれてしまった様子。この際どちらが迷子になったのかは置いておこう。そんな事を考える余裕は、今は無い――。
「ウケケケーッ!」
「えい」
飛び出してきた人形の腹を、ランスで情け容赦なくぶすりと串刺しにする由真。しばらく人形は「ウケッ……ウケッ」ともがき苦しんでいたが、じきに動かなくなり静かになる。
そしてランスに人形突き刺したままホラーな姿のまま、由真の捜索は続くのだった。
「エリスさーん? どーこーでーすーかー?」
「……誰か……呼んだ?」
で、その頃一人徘徊していたエリスは何処かから聴こえたような気がする自身を呼ぶ声に、一時足を止める。しかしすぐに気のせいだと考える。何せこの館、さっきから人形の笑い声とか悲鳴とか絶叫とか泣き声しか聴こえないのだから……呼び声なんて気のせいとしか思わないだろう。
「由真さん居ない……パンダさんも見失った……んー……何処に行っちゃったのかな……?」
首を傾げた後、のんびりとてってけてってけ歩き始めるエリス。そんなエリスを襲うべく、人形がケタケタ笑いながら飛び掛るのだが――。
「ヒリュウ……ごー……」
幼体のヒリュウを召喚させて、お人形さんをマルカジリ。しばらくじたばたと人形はもがいていたが、じきにぐったりと動かなくなる。中々にえぐい。
唯一つ解る事は……この迷子二人に心配は無用だと言う事である。
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ぎぃぃ……と、音を立てて音楽室の扉を開け、中を覗きこむ久遠 仁刀(
ja2464)。そのすぐ後ろを桐原 雅(
ja1822)と珠真 緑(
ja2428)が着いて、三人はがらんとした音楽室内を見渡す。
「ここは不在か? ……こういう時、お約束だと音楽室の人物画が動いたりするんだろうな」
「へ、変な事言わないでよ……ってそもそも、そんな人物画無いじゃない。脅かさないでよね」
見渡しながら言う仁刀の言葉に、ぷりぷりと緑が怒っている。ついでに「こんな館、いっそ燃やした方が早いんじゃ……」などと怖いことも呟いている。たしかにそれが手っ取り早いと言えば手っ取り早いが……後々問題になる。罪科とかそういう方面で。
「……ピアノがあるね」
そんな中、雅は音楽室の真ん中にあるピアノに慎重に近付き始める。このように長い間放置された館のピアノが調律されてるとは思えない。ただそれでも昔はこの音楽室から、綺麗なピアノ演奏の音が聴こえていたのだろうなぁと、何気なくそんな事を思って――。
――突如天井から降って来た人形が鍵盤を叩き、大きな怪音を立てた。
「ウケッー! ケッー!」
「ひ……ひゃぁぁぁぁぁあ!?」
そのホラー映画さながらの登場に、軽くパニックになった緑がフレイムシュートぶっ放す。手には召炎霊符も持っており……完全に燃やし尽くす気満々である。
「落ち着け緑! そんな慌てたって……!?」
「仁刀先輩。話は後で……一杯出てきたよ」
大暴れな緑を諌めようとした仁刀であったが、すぐにツヴァイハンダーを構えて鋭い視線を巡らす。
雅もまた、そんな仁刀の背後に立ち、死角を無くした状態で周囲を見渡していた。
何も無かったはずの音楽室。しかし既にそこは無数の人形が出現し、ケタケタと嗤い声を上げている。
二人は軽く視線だけを交わして、すぐさま戦闘に移る。
仁刀の剣の一太刀が一閃し、目にも止まらぬ雅の蹴撃が、人形達を薙ぎ払う――。
「――首にピタリ、と」
「?! ひっ?! うひゃぁぁああ!!」
「コンニャク程度で驚くんじゃない。男でしょうが」
「……うん、あの、色々言いたい事ある……そもそも驚かせたのそっちだよね? 抱きついたのは悪いかも知れないけど金的はやりすぎだよね? 聞いてる? 聞いてないね?」
彩・ギネヴィア・パラダイン(
ja0173)は、ちょっとした悪戯で驚き叫び抱きついてきたラグナ・グラウシード(
ja3538)の股間を素知らぬ顔で蹴り上げて、そして素知らぬ顔で厨房内に足を踏み入れた。
なんか足元で男が一人股間を抑えながらうんうん唸ってるが、無視だ。仮にラグナの伝家宝刀が志半ばで再起不能になったとしても彩の知った事じゃねぇのである。
大体――厨房で包丁研いでる不気味な人形が居るのだ。眼を逸らす訳にはいかない。
「ウケー……ウケー……ウケケー……」
「ふ、ふふふふふふふん、ち、ちちちちちちっとも怖くないな!」
そんな不気味人形を見ながら、蒼ざめた顔でラグナは右手で剣を構える。ちなみに左手は腰をトントンしている。相当ナニに効いたらしい。まだ現役であることを切に祈る。
ともあれこちらも戦闘開始。包丁研ぎながらケタケタ嗤う西洋人形は、強さとは別の方向で激しく戦いたくない相手であるが。
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火炎放射器の焔が二階広間で火を吹く。御堂・玲獅(
ja0388)が背にするのは一階と二階を繋ぐ階段。退路確保、救護場、様々な役割を持つこの場所を彼女は死守していた。
仲間達には負傷したのなら連絡を送るよう指示もしてある……幸いにも未だ要救助の連絡は玲獅の元に来ていない。それ故に、救助者の下へ駆けつける役目を担っていた鷹司 律(
jb0791)は、玲獅の背を護るような配置でこの救護場の確保に力を尽くしている。
「ディアボロが弱いのが幸いですね。群がってくる数は多いですけど、この程度なら最後までこの場を護りきるのも難しくはありません」
「ええ。御堂さんの背を護るだけなら簡単な仕事です。正面からの敵は全て焼き尽くしてくれていますし」
「まあ」
律の言葉にくすりと笑い、玲獅は再度火炎放射器で迫る人形を燃やす。こうして階段付近まで飛び出してくる人形は数少ない。部屋の内部に居た者が数匹飛び出してくる程度。その程度なら火炎放射器の炎と、忍苦無の刃だけで充分対応できる。
そうしてまた、顔を出した人形の頭に――律の投げた苦無が突き刺さる。
「――怖いわけがないだろう。奴らはただの化物だ。なぜなら、霊感がなくて見たくても見れないからだ!! つまり私に見えているお前たちは偽物ということだ!」
「それはそうだろうな。本物も何も、あいつらはディアボロだ」
泉源寺 雷(
ja7251)は、大太刀を振るいながら飛び回る人形を斬り捨てる烈堂 一葉(
ja0088)の言葉に、冷静に突込みを入れている。前方が一葉、その背後が雷という死角を消した体勢。互いが互いの背を護りながら、寄って来る人形達を刀で斬り捨てていく。敵の弱さから言って、負ける気は毛頭無いがいささか数が多い。二人には周囲に居る仲間達にも声を掛け――呼応した者が、その拳で加勢する。
「……雑兵では、束になったとて意味を成さん。だが俺達は一人一人が精兵。隙さえ無くしてしまえばこのような有象無象の輩は敵ではない」
その双腕で掌拳で、敵の攻撃を護り流し、そして肩、肘、膝で攻めながら中津 謳華(
ja4212)が鋭い呼気を吐く。鍛えた武威が、嗤う人形を討って行く。
「一対多……中津荒神流の業は、其の有利を滅ぼすものだ。しかと其の身に刻むがいい……!」
「私達も負けてはいられんな。雷、背後は任せる。まだまだ化物の数は多い。こちらから逝くぞ!」
「まるで鉄砲玉だな。だが、いい。烈堂、共に切り崩すぞ」
一葉と雷も、負けずと刀を振るい敵陣へと突き進んでいく。周辺の警戒は忘れずに――されど戦意は敵に向けて。不気味に嗤う人形達を、一体残らず切り伏せようと。
「何処からでも参られよ!レオナルド山田押し通る!」
寝室のドアを開けて、中に居た十匹の程の人形目掛けて、レオナルド・山田(
ja0038)の大音声が届く。隣に佇む結城 馨(
ja0037)と共に、距離を取りつつ攻撃を。
館全体の数を考えれば、この室内の十匹程度大した数ではないが……油断は禁物。雷の如く攻め、風の如く離脱する。疾風迅雷の攻めで、レオナルドと馨は人形を駆逐する。
「うおぉぉぉぉ!!!」
「それじゃ頑張りましょう」
不気味に笑うとは言え、飛び掛ってくるだけの人形相手なら恐れるに足らない。
二人は終始優勢のまま、寝室内のディアボロを殲滅していくのであった――。
天井に張り付いて、こちらに向かって落下してくる人形を、鈴代 征治(
ja1305)の剣が両断する。食堂で食器を持って大暴れしている人形たちに眼を向けた後、疲れたように溜息を吐く征治。
「うーん。古びた洋館でお人形とは、おあつらえ向きなんですけど……でもこう言うのはこっそり忍び寄ったりするから怖いんであって、こうもワラワラしてるとなんだか本来の怖さとは別の部類ですよねえ」
そんな事を呟きながらも、剣だけでは対処しきれない時はシールドでしっかりガード。決して無茶な攻めはせず、仲間との連携で一体一体確実にしとめていく。
九条 穂積(
ja0026)のランスも迫る人形を迎え撃っていく。背後に佇むラズベリー・シャーウッド(
ja2022)を護るように――否、確実に護り切る為に、容赦なくランスで穿ち貫く。
「ディアボロの毛一本触れさせませんのでご安心を、ラズベリーお嬢様」
「ふふ、何とも頼もしい執事だ。では僕も、そんな従者に足るだけの主人としての器を見せなくてはな」
愛らしい顔立ちに微笑を浮かべ、ラズベリーはエナジーアローで穂積を援護する。執事の槍で捌ききれなかった人形の体を、主人の矢が迎撃。
「……お嬢様のお手を煩わせてしまい申し訳ございません」
「なに、久々にお嬢様等と言われてしまって、張り切ってしまっただけだ」
頭を下げる執事を見ながらくすくすと鈴を転がすような声で笑い――それでも二人の戦闘は揺るがなく進む。ディアボロを殲滅する主従が、食堂で優雅に躍る。
そんな主従から少し離れた場所では――青藍色の雷を纏った美しい死神が、人形たち相手にその刃を振るっていた。
「あははっ! 弱い! 弱いわねっ! 弱すぎて獲物にすらならないわよっ! 一斉に掛かってきなさい!」
背が凍て付くような壮絶な笑みを浮かべながら、権現堂 桜弥(
ja4461)の猛攻が人形を刈り取っていく。相手が人形であるのが幸いだろう。もしも生物だったのなら、彼女の姿は血塗れの死神そのものであったであろうから。
そしてそんな死神の刃が突然背後に奔り――仲間の喉元で静止する。
「……あら? 敵かと思ったわ……どうしたの久我さん? 今、人形たちより怖い気配を感じたのだけれども?」
「チガウ、チガウ、ワシ、チョウ シンシー ダヨー!! キノセイ、ダヨ? ヨルデ、クラヤミデ、ヤリタイホウダイ、トカ、オモッテ、ナイヨー?」
と、思いっきり目が泳いでる久我 常久(
ja7273)が汗だくな状態で弁解と言う名の言い訳をし始めた。一体暗闇の中、婦女子の背後から忍び寄り、ナニをしようとしていたのか。
ワタシ、チガウー、チガウノコトヨー! と片言な言葉で慌てふためいて……けれど時折、跳んで来る人形を拳で殴り飛ばす。
「フッ、危なかったなお嬢ちゃん、ここはワシに任せな! 桜弥ちゃんは他の場所の……」
「……つまり、私が居なくなったら、ここでナニかやらかすと?」
「チガウヨー、チガウヨー」
「……あそこの死神然とした人は、何故さっきから味方に大鎌突きつけてる? しかもその状態でもきちんと敵を撃退しているのがより一層恐ろしい……で、櫟。お前は何をさっきから私の背に隠れている?」
「え? 何って静矢シールド展開だけど? ほら、あそこの人に大鎌で斬られかねないじゃないですか。今の自分のメイク」
「ならさっさと、そののっぺらぼう扮装をやめんか! 私は購買で売っている携帯品か何かか!?」
諏訪と静矢も、先程から人形を相手にしながらぎゃあぎゃあと騒ぎまくっている。まあ、そんな彼等もケタケタ迫る人形をちゃんと撃ち殺したり、斬り殺したりしている訳だが。
「……うーん……やはりこの人形達本人より、仲良く談笑しながら人形をずんばらりと惨殺している僕達の方が、余程ホラーですよね……」
周囲の状況を見ながら、冷静に分析する征治。
まあそんな彼とて、喋りながら人形を脳天から唐竹割りにしていたりするのであった。
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「お人形さん達はディアボロであってオバケじゃないです……ですから怖くない……怖くないです……っ」
「ん、我慢できるか? 偉いぞリゼット! ……正直暴走した仲間の姿を見た後だからな、本気で偉いと思うぞ。嘘じゃなくて……」
震えつつも必死に前を向いて歩くリゼット・エトワール(
ja6638)の頭を、軽く撫でながら遊佐 篤(
ja0628)は館突入後の阿鼻叫喚を思い出して、遠い眼になる。
ぴゃーぴゃー泣きながらどっかにすっ飛んで行った仲間の姿とか、未だに脳裏に浮ぶ。拳を合わせて先輩と力強く挨拶を交わした直後にあれだ。何かもう、怖いものが苦手な女の子が、切羽詰るとどうなるのか……その惨状を見て、唖然呆然である。
「でも……これからもっと怖い敵と戦う日が来るかもしれませんし、怖いと思う心に負けないように頑張ります!」
リゼットは両拳を握り締め、むんっ、と可愛らしくも力強く意志を高める。
そう。こんなホラー染みた人形如きに負けていられない。このグレートボウの矢で、あんな怪奇人形は脳天ごとぶち抜いて――。
「ウケッケー! ケーーーーッ!」
「ぴゃああああ!? また出ましたー!?」
「てめえっ俺のダチに手ぇ出してんじゃねーぞ!」
ごしゃぁ、と飛び蹴りかましてリゼットに飛び掛る人形を迎撃する篤。
しかし、あわわはわわと怯えるリゼットの前には、まだまだ沢山の人形達が――。
「お、お化け屋敷なんて聞いてなかった……報酬弾むんだろうな……ううう怖くなんてない、怖くなんてない……」
道中の人形相手で、すっかり辟易とした様子で嵯峨野 楓(
ja8257)はそうっと遊戯室のドアを開ける。何やら入る前から、ビリヤードの珠を点く音が聴こえているし、中で人形が何かしてるのは明白だ。報酬吹っかけてやる、あの米屋の娘め! 等と怨み辛みを零しながら、中を覗き見る。
そこに居たのは、予想通り、無邪気にビリヤードで遊んでいる人形共の姿だ。無論、無邪気とはいうものの、ケタケタ笑い続けてるし、ホラーな光景であることは間違いない。
そんな人形達はビリヤードのキューを持ったままぎょるりと首を回して、撃退士達の方を振り向く。首を90度回す、その動きに楓が「ひゃあ!」と小さな悲鳴を上げるが――リリアード(
jb0658)は逆だ。艶やかに、楽しげに、にっこりと微笑む。
「人形遊びは愉しくて好きよ。愛しんであげるわね」
微笑を絶やさぬまま、ヨーヨーをぎゅんぎゅんと回転させて飛び掛ってくる人形の顔面を、ぐしゃあめしゃあと粉砕。飛び跳ねる西洋人形に、ヨーヨーで遊ぶ黒髪の美女。言葉にすれば、何とも楽しげな風景だが……実際はそんな温かなものではない。ただの地獄絵図である。
死んだ眼で、その惨殺風景を眺める楓であったが……そんな楓の背後から飛び掛る人形が一体。
「――バサラダン・カンッ」
咄嗟に炎の狐で反撃する。焼かれた人形の顔は、目玉がぎょろりと露出した、それはそれはたいそう恐ろしいお顔であったそうな。月岡 華龍(
ja5306)も、思わず引くくらいに。
「うおっ、気持ちわるぅっ! 人形が飛んできただけで引くのに、この顔は無いわ〜……あー、楓ちゃん? 涙目で固まらんと戻ってきいやー」
目の前で掌を動かしても、楓の動きは鈍い。どうやら相当に怖かったようである。
しかし敵は待ってくれない。むしろ今が機会かと、それこそビリヤードの玉のように跳ね回りながら肉薄してくる。
「はいはい、後ろは任せろやーってな。飛んでくるなら撃ち落すでー」
エナジーアローで一体一体丁寧に落としていく華龍。しかしまあ、どんなに頑張っても潜り抜けてくる人形は居るわけで――そんな人形が顔面に張り付いたりする。
誰の顔面、とは言わない。ただ悲鳴が上がった事を明記しておこう。
「い、い、いぃぃやぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!? 宮子ぉ、宮子ぉぉぉぉ!?」
「ほらほら、瑞穂さん。叫んでないでいつもの笑いであの人形の笑いに対抗するのにゃ♪ 笑いには笑いで対抗にゃよ?」
「む、無理いわないでくださいまし! このような魑魅魍魎相手に、平静を保てる訳……きゃぁぁぁぁぁあああああ!? 背中に、背中に、背中にぃぃぃぃぃぃ!!」
ガン泣きで大暴れ無双中の瑞穂。双剣振り回して、書斎内の人形をばっさばっさと斬り捨てていく。
「怖がってる瑞穂さんを助けたいのはやまやまにゃけど……近付くとみゃーこを切捨て御免されにゃから、遠くから援護してるにゃ。頑張るにゃー♪」
「ひゃぁああああああああ!?」
泣き叫び喚く瑞穂を生暖かい眼で見守りながら、宮子は影手裏剣で援護を続ける。
この書斎は何も問題は無さそうだ。撃退士の女性が悪夢に魘されるくらいで、さしたる被害は無いだろう――。
「いやあぁぁ! 来ないでくださいぃ!! ひなお姉ちゃぁぁぁん! 置いていかないでぇぇぇ!」
「ひまちゃぁぁん! 離れないでぇぇぇっ! 一人にしないでぇぇ! ひまちゃぁぁん!!」
そして、わんわん泣きながら武器振り回しながら爆走しているのは、緋毬とひなこだ。二人とも顔を涙でぐしょぐしょにしながら、人形達がたむろする館内をあっちへ爆走こっちへ爆走の大騒ぎ。逃げるついでに多くの人形を薙ぎ倒して、結果的に結構な撃墜数になっているのだが……そんな事に気がつくような状態ではない。この館の状況は、泣く子も黙るではなく、泣く子はもっと泣く、な状況なのだ。
「びなお姉ぢゃぁぁん!!」
「びまぢゃぁぁぁん!!」
「……すんごい声聴こえてくるなぁ……洋モノより和モノのホラーの方が雰囲気は怖いと思うんだよなぁ、日本人の感覚だと。例外はあるけど……この悲鳴はその例外なのかなぁ」
絹を裂く様な女性の悲鳴を耳にしながら、小夜戸 銀鼠(
jb0730)は浴室に足を踏み入れる。聴こえてくる仲間の声から推測するに、結構なホラーハウスになっているこの館だが、銀鼠は特に怖がる様子もなく浴室の内部を丁寧に見回す。
隣に居る男もそう――いや、むしろ彪姫 千代(
jb0742)は満面の笑みで辺りをきょろきょろ見回している。何だか楽しそうだ。
「さぁて、ここには人形は居ないのかなー? ウシシ、かくれんぼみたいに何処かに隠れてたりしてなー!」
そうしてウキウキわくわくしながら浴室内を見て回る。中々に広い浴室だが、特に気になる点は無い。ただ一点を除けば、これと言って不審な点は無い。
誰も使ってなかった浴室で――何故か水が張ってある浴槽を除けば。
「……居るよな。絶対」
「おー! そりゃこの中で一杯蠢いてるに決まってるぜー!」
こういうお約束は、残念ながら外れる事が無い。二人は顔を見合わせた後、ゆっくり浴槽を覗き込むと――案の定、沢山の人形達が水飛沫を上げながら飛び出してきた。
「解ってても驚きだ! ああくそっ全員相手してやるっ!」
「沢山出てきたなー! よーし突撃ー! ウシシシ!」
「……あちらこちらで、罵声に悲鳴に叫び声に……このシチュエーションだと肝試しより、ゲーセンのガンシューティングで遊んでる気分になりますね。人形の数も、まるで一匹居たら三十匹で有名な黒い悪魔に通じるところがありますし……」
楯清十郎(
ja2990)は寝室の入り口に陣取って、飛び掛ってくる人形をばきゅんばきゅんと撃ち抜いていた。しみじみと呟くその言葉には、世の無情を思う儚さも交じっており……身も心も疲れているのが見て取れた。
「雰囲気が出てるのは解りますが……いすぎです。嗤いすぎです。何時になったら全部倒せるのでしょうか……」
はぁ、と溜息を吐き再び銃声を。同時にしんと静かになる客室。どうやら客室内に居た十数匹の人形は全部撃ち殺されたようだ。体にでかい風穴開けられて転がってる人形をしみじみと眺めた後……清十郎は他の部屋の駆除に赴く。
●「よーし! 一匹捕まえたー!」
「那耶ちゃん!? 捨てて! そんな危険物体捨てて! お願いだから!」
じたばたもがく不気味人形を両手で掲げて、喜びの声を上げる那耶。そんな那耶を見て、逆に悲痛な声で涙目になっている咲月。そんなの捨てちゃいなさい! と子供を叱るお母さんのようだった。
「いやいや、那耶ちゃん? そんなの持ち帰ったり大騒ぎになっちゃうよ?」
「……そういう問題じゃないだろう紫音。月のいうように、そんなものは早く捨てろ那耶」
「あーっ!? 酷いっ! 酷いよっ! 折角捕まえたのに!」
ぐさー、っと人形の顔にダガー突き立てる柊。じたばたもがいていた人形は、すぐに動かなくなりその不気味な命を終えたのだった。
「ああ良かった。那耶ちゃんがあんなものを生け捕りにして帰ったら、私、本当にどうしようかと……」
「ま、大きくないとは言え、見た目が人形とは言えディアボロだからねぇ……それに、まだまだ気を抜いてる訳にはかないしね!」
紫音は振り向き様に短槍を突き出す。槍の穂先を見れば串刺しにされた人形が一体。
四人は再び武器を構え、迫る人形を迎え撃つ――。
「……二階は静かになりましたね……どうやら終ったようですね」
構えた火炎放射器を下ろし、玲獅は一息つく。長い間、救護場の確保で気を引き締めていた玲獅の『顔が少しだけ穏やかなものに。律も同じような様子で、構えた忍苦無を下ろし、ぞろぞろと近付いてくる二階班の面子に笑みを見せた。
「皆さんお疲れ様、と言ったところですね。残るは一階班ですが……この様子なら問題無いでしょう」
合流した仲間達と情報を交わしつつ、どうやら二階部分の敵は全て倒し終えた事は解った。
残るは律の言うように一階だけだが……下から聴こえて来る音も、徐々にその数を減らしている。
ならば後は総出で――考えた事は皆同じ。二階を殲滅した撃退士達は揃って一階に降り、残りの人形退治に尽力するのであった。
「あ、皆帰ってきた……はぁ〜、良かった。外周警戒が活躍しない結果で……良く考えたら夜の野外で一人きりで戦うとか……怖すぎるし」
静かになった館からぞろぞろと出てくる仲間の姿を確認したとしおは、ほっと安堵の溜息を吐き、彼等の元へ向かった。一人寂しく館の外を見回っていただけのとしおであったが……結果としては勝ち組だろう。何せ怖い思いを殆どしなかったのだから。出てきた面子の中には、未だにぐずぐず泣いている女の子の姿とも確認できるのだし。
「あたしは暇だったけど……そっちは大変だったみたいね。個人的にはたかがディアボロ、と思うだけど……そんなに怖かった?」
首を傾げながら問いかける完子に、ぶんぶん頷きながら涙目で訴えてくる数名。
まあ何はともあれ、戦いは終った。一同は一応点呼を取り帰り支度を――。
「……おい。何人か居ないぞ?」
それは誰の呟きだったか。何故か人数が足りなくて、思わず一同は静かになった館を見る――。
「エリスさーん。どこですかー? どこいっちゃったんですかー?」
それは串刺し人形を担ぎながら、あっちへこっちへ探し回る白髪の巫女天使と。
「由真さんどこ……? 迷子は駄目だよ……?」
同じくあっちへこっちへ、広い館の中を探し回る銀髪ののんびり少女と。
「おおう! このギター、結構な年代物ちゃうか? くぅー、でも持って帰ったら窃盗になるしなぁ……くぅー、残念やぁ!」
音楽室で、なにやらゴソゴソ漁っている、おちゃらけた三枚目の少年と。
「ここだ! ここに違いない! この暖炉の奥に隠された秘密の小部屋が……!」
「いや、何も無いから。潜ったところで顔が黒ずむだけだから」
未だ、隠し部屋を探し続けるパンダと、それを呆れた様子で見守るクールガイの姿があった。