●到着
「さてと、なるべく犠牲者は、抑えたいから、やれる所まで、やるか」
撃退士・神楽坂 紫苑(
ja0526)の発した第一声が、村に到着した撃退士達の行動を開始させる掛け声にもなった。ディアボロに襲われ、全体が恐怖と不安に包まれている村の中。声も聴こえず、暗い雰囲気が村を一目しただけで感じ取れる。
「めんどくせぇな……村の連中、ちゃんと言う事聞いてくれんのか? っても、やるしかねぇか」
撃退士・御暁 零斗(
ja0548)は頭を掻きながら面倒そうに呟く。
外を歩く者も見えず、そして歓迎してくれるような様子も無い。これからまず、村人の指示を出さねばならないのだが……一筋縄には行きそうに無い。ディアボロ達との戦闘もあるというのに面倒な事この上なかった。
「だが、やらねばならないだろう。これ以上の犠牲者は出さない……絶対にだ」
ダイエットアドバイザー・鳳 静矢(
ja3856)は静かに、けれども確かな決意を籠めて言う。
そう。どんなに困難な事でも、ここで退く選択は無い。村には怯えている女子供が居る。中には家族を殺された者だっているのだ。これ以上の悲劇を生み出す訳にはいかない。
「よし! それじゃあいくのだ! ボクが……いや、ボク達がみんなを守るのだ!」
撃退士フラッペ・ブルーハワイ(
ja0022)が掌を拳で叩き、元気良く決意を口にする。
前途は多難でも、まずは行動しなければ結果は生まれない。そして一同は作戦通りに行動を開始する。夜までの時間は長いように見えて短い。この限られた時間内にどう動くのか。
その答えは――今は、まだ見えず。
●説得
「ほんとに? ほんとにだいじょぶなの? ぼく達、たすかるの?」
「はい。悪い狼さんは、わたし達がやっつけちゃうのです。村の人たちと一緒にいれば、大丈夫だからね。だから夜は出来るだけ纏まって居てくれるかな?」
全ての村人に指示を出す事は難しい。それ故に、闇夜舞う葬送の白揚羽・大上 ことり(
ja0871)は子供のいる家を優先して回っていた。不安げな子供達を安心させるように語られる説得の言葉は効果があったようで、子供達はそれぞれ知り合いと集まり一箇所に揃っていく。
他の仲間達も、各自手分けして村人に協力を持ちかけている。なるべく少人数では居ないように、そして外には出歩かないようにと。全ての村人に指示を出す事が出来なくても、ある程度固まっていて貰えれば護りやすくなる。同時に、ディアボロが出現しやすい場所も、ある程度までは絞り込む事が出来る。
そうなれば――後は囮の役目。
「この辺りがいいな。この近辺の住民には避難してもらったから、ここは空白地帯。ここに少人数で待機していれば……」
魔を絶つ紅蓮の剣・久遠 仁刀(
ja2464)は空になった家の前で場所の選定を行っていた。
敵は少数で居る所を狙ってくる。ならば囮は少数で、尚且つ狙われやすい位置に居る事が最善だ。協力を仰げて一箇所に集まった後ならば、必然的に空になる住居が生まれる。その空の住居を借り受けて――そこを誘い込む場とする。
だがしかし……今回の敵は、女子供に狙いを定めているようなので、少し問題があり。
その為、仁刀には少し我慢して貰わねばならない事があるのだが。
「男の人に見られたら襲ってこないかもだし、ちゃんとしないとね? 久遠さん、あっちでお化粧しよ?」
「……よーし解った。かつらでも化粧でも何でも来い」
化粧道具やら女物の服やらを携えた撃退士・猫野・宮子(
ja0024)のにこやかな笑顔の前に、少々顔を引き攣らせながらも了承する赤毛の大学生。まあこれも世のため人のためである。
●作戦開始
「狡猾だとも、所詮は獣。人間様に叶わぬ点を教えて差し上げますの、ええ、はい」
日が落ち暗くなっていく村を見て、九十七ちゃんマジ正義・十八 九十七(
ja4233)の物静かな瞳に、少しずつ狂気の色が帯びる。近づく戦いを前に、戦意が向上しているのだろう。サバイバルナイフと拳銃を弄びながら、夜の闇に溶けて時を待つ。
既に一同の作戦は始まっていた。囮の二人は既に配置に着いており、村人の多くは一箇所に集まっている状態だ。全ての住民が集まっている訳ではないが……逆を言えば、見回りは集まっていない村人の周辺に専念すれば良い。
「そこの人! 今は夜危ないの知ってるよね? ほら、家に戻って戻って!」
外をたまたま歩くような者も、範囲は指示が行き届かなかった範囲だ。その周辺を見回る撃退士・影森 千景(
ja5404)が、すぐさま注意を呼びかけて村人を家の中に戻す。
見回りの人数も基本のツーマンセルを護り、隙が無い。連絡を密に取り合い、現状では撃退士の作戦は上手く動いていた。武装を展開し見回っている事も有利に働いているのだろう。弱者を狙うディアボロ達が出現様子も無い。
つまりディアボロ達が狙う相手は、武装した集団が歩き回らず、そして大人数ではなく、更には周囲に人が居ない場――。
「上手く囮に食いついてくれるのが一番ですけれど……いつ来てもいいように準備はしておかないとですね」
撃退士・エステル・ブランタード(
ja4894)が囮の居る家が見える位置にて待機準備する。
何時敵が出現しても対応できるよう、彼女の態勢は既に戦士のそれだ。ロッドとスクロールを携えていつでも駆けつけられる準備が出来ている。
暗い暗い夜の闇。人は怯えて獣が動く。
そして牙が――忍び寄る。
●喰らいついた獲物
読んでいた本を閉じて、宮子は隠し持っていたナイフを取り出した。
音がしたのだ。誰もいない家から、自分以外居ない筈の家から音が。
「……ん、頑張るっ。獲物はそっちでボクじゃない。これ以上の犠牲者は……出させないからっ」
そして出現し、牙を剥く二匹のディアボロ。それは聞いていた情報どおり狼のような外見の姿であった。牙を剥き出しにして宮子目掛けて飛び掛ってくる。
「……っ、魔法少女・マジカル♪ミャーコ参上……って行きたいけど、一人じゃ流石に厳しいね」
サバイバルナイフで防御に専念しながら、必死に回避し続ける。いかに弱い相手とは言え、二対一では分が悪い。どうにか凌いでいるが、裏を返せばそれが精一杯だ。仲間の手を借りて攻勢に出ない事には勝利の目は無い。
とは言え、だ。そう焦る話でもない。この家の近くでサポートに回っていた者も居る。
その者達がディアボロの接近に気付かないとは思えない。どこに現れるのか判明していない状態ならまだしも、ここまで位置を特定させていたのだから。
故に救援は――。
「死ぃにィ曝ァシャあぁァァ!!」
叫び声と共に家に乗り込み、奇襲を仕掛けた九十七の拳銃が火を吹いた。
撃たれ穿たれ、傷を負うディアボロ。二体のディアボロは怒りの篭った瞳で睨みつけるが――今度はエステルのロッドが激しくディアボロを打つ。
「力ない人ばかりを狙うその行為、絶対に許しません……連絡はしておきました。すぐに残りの皆もやってきますよ〜」
敵には鋭い口調で、そして仲間にはおっとりとした間延びした口調で現状を語る彼女。
家の外からは駆けつけてくる足音が。ディアボロは自身の不利を悟ったようだがもう遅い。
「さぁて、こっちは女装までして待ってたんだ。叩きのめしてやるぜ」
化粧を乱暴に拭い落とした姿で、仁刀も現れる。
形勢逆転……喰らいついた獲物は、ディアボロ達である。
●戦闘の果てに
「出番はまだ残ってるか? ……まあいい。援護してやるから、思いっきりやれよ」
「ああ頼むぜ。援護のひとつもなきゃ、めんどくさくてやってられねぇよ」
紫苑がショートボウを撃ち、零斗がその後方支援の後に続きトンファーで激しくディアボロを打った。前衛後衛に分かれての連続攻撃。十人の撃退士に囲まれたこの状況下で、尚且つ連携までされては堪らない。ディアボロ達は成す術も無く打ち据えられていく。
「マジカル☆V兵器出動〜。狼さん、撃退だよ! ……でも退かせてなんてあげないからね!」
「貴様が倒れ伏すか、私が力尽きるか……それ以外の結末は無いと知れ!」
ことりはリボルバーを撃ちながら、静矢は太刀を振るいながら敵の退路も断つ。狙いを足に定め、陣形も敵を囲い込むように。敵の位置に常に注意を払いながら、逃がす事すら許さない。
「らぁっ!!」
「はっ!」
遠心力を利用し回転させて振るわれた仁刀の大太刀が、鋭く切り込まれた千景の打刀がそれぞれディアボロに襲い掛かる。敵の牙や爪など何するものぞと、激しく振るわれる前衛の刃。ディアボロとて応戦し、必死に逃げようとはしていたが……最早、多勢に無勢だ。
戦いは続いたが、それは僅かな間の出来事で。あっという間に一匹だ倒され、残る一匹も虫の息。そしてその最後の一匹目掛けて、フラッペの蹴撃が飛ぶ。
「ガンマンの蹴りを甘く見ては困るのだ! ……と、もう聴こえていないようなのだー」
弾丸のように繰り出された蹴りの一閃。その一閃の直撃を受けた最後の一匹は、こうして倒され息絶えたのであった。
「さーて、仕事が終ったから九十七ちゃんはさっさとお家に帰るよー」
「……めんどくせぇその気持ちは解るが、片付けてからだ。このままは不味いだろうが」
帰ろうとした九十九の腕を掴み、零斗は面倒臭そうに周辺の……戦場となった家の内部を見やった。流石にあの激しい戦闘で被害ゼロは難しい。家の家具など、けっこう酷い事になっている。
「もう一仕事、だね。流石にこのまま帰るわけにはいかないし」
苦笑しながら言う宮子の言葉に、皆は揃って苦笑しながら家の片付けに。戦闘の終った身体で中々厳しい一仕事だが、これも世のため人のため。頑張らねばなるまい。
「夜明けと共に恐怖とガンマンは去っていく……よ、夜明けまでに終るのかー?」
「終らせるしかあるまい。何事にも尽力せねば、な」
ひいひい言いながら片付けるフラッペに、淡々と掃き掃除をする静矢。中々に大変そうに見えるが、このペースで行けば夜明けまでには片付けられるであろう。その代わり、撃退士一同の睡眠時間は危うくなるかも知れないが。
「私は村の人達にディアボロ退治成功の旨を伝えにいくね。子供達、心配してるだろうから」
「ええ、伝えてきてください。平穏な日々は取り戻せましたよって」
ことりに言伝を預け、エステルは家の掃除を再開する。無事にディアボロの退治を終えることができた。最後の後始末は疲れるお仕事だけれども、勝利の前には全てが霞む。
護り抜けたのだ。多少の一苦労も、また一興。
「初実戦は無事成功……これからも、この調子でいきたいな」
千景も成功で終えることが出来た今回の件に浸っている。これといった夢や目標がある訳ではないけれど、失敗したい訳ではない。これからの撃退士としての道も、今回のような成功で進めていけるように。
そして……掃除をしながら、家の窓から夜空を見上げる紫苑。
「あんたらの無念は、晴らしたぜ? これで、安らかに眠れるだろう」
この村で死んだ名も解らぬ犠牲者達。その者達の姿を想いながら、去る時には墓前に花の一つも添えようと考えながら……平和になった村は、夜明けに向かっていく。