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 夕暮れ時の喧騒は、どうしてこうも心浮き立つのだろう。

 橙色の灯りがひとつ、またひとつ。
 薄暗くなり始めたテーマパーク内は、昼間の無邪気さとは打って変わり。
 忍び寄る宵の気配が、新たな色を演出し始める。
 夏の匂いと、秘めた熱。

 さあ、夜を始めよう。


●目覚めるマモノは熱夜を舞う

「レッツホラーパレード!」

 打ち上がる花火と共に、パイプオルガンの荘厳な音が鳴り響く。
 ZE☆TSU☆BO☆U オブ・ザ・デッド。
 それはまるで、オペラ座を徘徊する闇のように。
 幻想的で、怪奇的。
 絢爛と退廃が支配する、マモノの宴。

「さあ! 楽しいパレードの時間よ!」
「夜もお祭りも、まだまだこれから」
 最前列で軽やかに舞うのは、雪室 チルル(ja0220)と折田 京(jb5538)。
 頭にはランタン色のかぼちゃ、漆黒のマントを身に纏い。
 お揃いのジャック・オー・ランタンの衣装を着た二人は、怖いと言うより可愛らしく。
「かぼちゃ頭、いいな…」
 密かに一目惚れしたこの衣装。京の心は、いつになく浮き立っていて。
「京、準備いい? あたい達でみんなを驚かすわよ!」
 くるくると踊るランタンは突然姿を消した後――音楽に合わせて一気に飛び出す!
「きゃあ、かわいい!」
 弾ける笑顔、上がる歓声。
「むー…なかなか驚いてくれないわね」
 ちょっぴり不満そうなチルルに、京は微笑んで。
「でもみんな楽しそうでした」
 かぼちゃのお化けは、柔らかな光を残しつつ先へと進む。
 抑えきれない、胸の高鳴りを振りまいて。


「私は黒を纏いし魔女の末裔……あなた方を甘美な夢へお誘いしましょう」
 翻る妖艶なウィッチドレス。付き従うのは、ルビーのごとき真紅の瞳を持つ使い魔。
 エリス・K・マクミラン(ja0016)とクジョウ=Z=アルファルド(ja4432)だ。
「魔女の衣装はありきたり…とも思っていたのですが…」
 胸元や太ももを飾る、透かしの入れられた豪奢なレース。
 最初はあまりの露出性の高さに戸惑ったものの。

 きわどい危うさは、媚薬にも似て。
 夜は誰しもをほんの少し大胆にさせる、魔性の刻だから。

「わかりました。ここは本家の当主様のようにやればいいわけですね」
 堂々とした舞いを見せるエリスを見て、クジョウは呟く。
「…あの様子だと大丈夫そうだな」
 傷心気味な彼女を見かねて、ここへ連れてきた。予想以上に生き生きとした姿に、胸をなで下ろし。
「…にしても俺はなんでこの衣装なんだ」
 着用しているのは大きな黒猫の着ぐるみ。お任せにしたらこうなった。
「使い魔…ということなのか。…ったく、まあいい。エリスが楽しそうならそれで充分だ」
 黒猫クジョウ、エリスの手をそっと引く。微かに笑んでみせ。
「精々怖がってもらうとしようじゃないか」
 観客の前へ歩み出ると、高らかに宣言する。
「さあ、我が魔女は絶望の具現だ。人間共よ、その姿に魅入られ糧となれ!」
 クジョウに導かれ、エリスは踊る。
 艶やかに、ミステリアスに。見る者全てに魔法をかけるように。
 呆けた様子の観客へ近付くと、彼女は耳元でそっとささやく。
「貴方のように魅入られてる存在が多いほど、私達魔女はより強大な力を得られるのですよ」
 緩やかに細められる瞳。
 魅せられた苦悩と、悦びの狭間と。

 それは甘やかな、メランコリィ。


「化け猫だにゃん☆」
「うーさーぎーさーん!」
 続いて姿を見せたのは、九十九 遊紗(ja1048)と逸宮 焔寿(ja2900)のペア。
 猫とうさぎの着ぐるみを着用した二人は、まるで絵本から抜け出してきたかのよう。
 ふかふか、もこもこ。
「頑張って、みんなを脅かせるにゃ!」
 遊紗は観客を驚かせようと後ろからそっと近付く。
「いざ!」
 振り向いたその人はのっぺらぼう。
「にゃーー!?」
 驚いてその場で転んでしまう。
「い、痛いのにゃ…」
 今にも泣き出しそう。けれど隣に倒れている人に、気付く。
「…?この人は誰なのにゃ?」
「あれれ? 猫さんたち、生きてますかぁ??」
 駆け寄ってきた焔寿が遊紗を起こし、隣で倒れている人をつんつんする。
「猫目先輩ー起きて下さーい!」
 反応が無い。彼女は小首を傾げて今度はほっぺばしばし。
「いってえ!」
 ようやく目を覚ました猫目夏久はうさぎと猫を見て一言。
「あれ、俺まだ夢見てんのかな……」
「猫目お兄さん、一緒にパレード行こうにゃ☆」
「衣装は私が選んであげますね☆」
「え?」
 巻き込まれ体質猫目、あっさり二人に連れ去られる。

「我らは冥界の番犬、ケルベロス!」
 次に現れたのは、巨大なモンスター。
 三つ首の黒犬着ぐるみに入っているのは、若杉 英斗(ja4230)、カタリナ(ja5119)、春名璃世(ja8279)のディバインナイト研究会三人組。
 三人がそれぞれの頭を担当するという目論みだったのだが。
「も…もう少し詰めて下さい」
 息苦しそうなカタリナの隣で、英斗も。
「…狭い…」
 デスヨネー
 頭は三つだか胴体は一つ。そこに三人で入るのはだいぶ無理があった。
 しかしそこで英斗はふと気付く。
(なんだか腕に当たる柔らかい感触…)
 これは…ラキスケ…桃源郷か!?
 高鳴る鼓動、まずい鼻血出たらどうしよう。
 耳に届くのは、璃世の気まずそうな声。
「若杉君…その…腕が…」
 もしかしてとある場所に触れちゃったのか。彼女の遠慮がちな言葉がそれを物語っているのか!
 英斗の妄想がマッハになったところで、璃世が一言。
「ほっぺに当たってて…ちょっと苦しいかも」
「なんだほっぺか…って、ゴメン痛くなかった?」
 身長差でそうなってただけでした。

「ところで…大変言いにくいのですが…」
 あまりのシュールさにぽかーんとしている観客を見て、カタリナが呟く。
「この仮装は…失敗だと思います」
 もしかしなくてもスベってる感。察知した三人は、即刻仮装しなおしへ。

 さあ、パレードもそろそろ後半。
 皆思い思いに踊り歌い、宴の熱は徐々に最高潮へと達していく。

 ここで姿を見せたのは、市川 聡美(ja0304)と滅炎 雷(ja4615)。
 この二人は何というかカオス的な意味で一致している。
 黄色いチャイナ服に頭には紙袋。首に巻かれたタオルが、ひらひらとたなびく。
 荒ぶる鷹のポーズで観客を威嚇しているのは、聡美。
「たまにはこういうのもいいだろう?」
 色んな意味でシュール過ぎて、熱い視線を逃さない。
 そんな彼女の隣で踊っているのが、雷。
 魔女の三角帽子に真っ黒な猫耳。その下にはかぼちゃ頭。手には死に神の大鎌を持っている。
 どの層を狙ったのか謎な衣装であるが、本人はやる気満々。
「さあみんなを驚かせるよ〜!」
 巨大なデスシックルをくるくると振り回し。その度観客から悲鳴のような歓声があがる。
「驚いた〜? この格好だと脅かしがいがあるよ!」
 軽やかに踊るお化けは、不思議とこの雰囲気にマッチしていて。
「あ、猫目君たちも一緒に踊ろうよ!」
 そこには遊紗と焔寿の手によって猫…かと思ったか、残念だったな!
 キュートなハムスター姿に変身した夏久の姿があった。
「俺…なんでハムスタ−…?」
「かわいいからいいのですよ♪」
「さあ、みんなで踊ろうにゃ☆」
 猫と兎とハムスター。そして大鎌を手にしたジャック・オー・ランタンと荒ぶる紙袋。

「あ、ここにもかぼちゃ仲間発見よ!」
「私たちも一緒に!」

 チルルと京も参戦。
 雷が大鎌を回せば、それに合わせてチルルと京が舞い踊る。
 遊紗と焔寿と夏目がもふもふと歩けば、荒ぶる聡美が盛大にジャンプ!
 不思議なマモノ達が舞うさまは、まさにゴシックな百鬼夜行。

「うん、この様子は写真に収めておかないとね」
 聡美はデジカメで皆を激写することも、忘れない。

 そんな彼らを愉快そうに見守っているのは仁科 皓一郎(ja8777)。
「怪物にゃ詳しくねェが…ちっと、華添えっかよ」
 黒マントにファントムマスク。
 さながらオペラ座の怪人である彼は、音楽で華を添える。
 演奏するのはアルモニカ。
 ガラスから生み出される、澄み渡った音色。
 あまりに幻惑的な響きが、天使の声と呼ばれると同時に悪魔の楽器とも呼ばれたもの。
「こんな夜には…おあつらえかと思って、ねェ」
 彼の指が奏でる音色が、辺りをゆっくりと包み込む。

 響き渡る、天使の声。

 導かれるるように現れたのは、歌の妖精。鱗と羽根を纏った亀山 淳紅(ja2261)だ。
 手足を覆うコーラルブルー。ガラス細工のような鱗は、灯りの中幻想的な煌めきを見せ。
「惑わされたが最後、待つんは暗い水底やで」
 淳紅は歌う。高らかに、神秘的な旋律をその声に乗せて。
 第一楽章はフォルテシモ、幻想的な青白い光が彼の周囲を取り囲み。
 光がゆるゆると渦巻けばピアニッシモ。聴衆を淡い眠りへと誘い込む。

 それは、ローレライ。
 妖しき美声で人を惑わせる、幻惑の妖精。

 そんな彼の隣にいるのが、豪奢なゴシックドレスを身につけたRehni Nam(ja5283)。
「こういうの、ちょっと着てみたかったのですよねー」
 淳紅とは対照的な真紅のプリンセスライン。たっぷりとしたドレープに細やかな刺繍。オフショルダーから覗く首元は、いつもより華奢で白くさえあって。
(ジュンちゃん、似合うって言ってくれるかな…)
 高鳴る鼓動と、ほんの少しの緊張感。目の前に差し出された、手。
「ふふ、この化け物と一緒に踊ってくださいな? 美しい御嬢さん!」
「ジュンちゃん…!」
 彼女の手を取った淳紅は嬉しそうに。
「レフニーめっさ可愛いで! さあ、一緒に踊ろう!」

 そう言って歌い出す第二楽章は‥‥
「Canta! ‘Req」
「わあああ、ジュンちゃん! 流石にそれはダメなのですよ!」
 聞き覚えのある歌い出しに、焦って恋人の口を塞ぐレフニー。
 一般人の観客に危害を加えては大事だ。
「こういうのは、皆を楽しませるのがカッコイイのです」
 にっこりと笑い、レフニーは淳紅の手をとって。輝く笑顔を溢れさせ、二人は踊る。
 音楽に合わせ時にはゆったり、時には激しく。

 回って、飛んで、めいっぱいに。

「…どうしたん、レフニーちゃん?」
「うん、やっぱりジュンちゃんの手、凄く温かくて大きいのですよ」
 久しぶりに繋いだ手は、この胸を更に高鳴らせ。
 ああ、そうだ。今宵は幻夜。
 互いに魅入られる、幸福の奏で。


 そこで突然、パイプオルガンが鳴り響く。

 音楽が再び怪奇的な音色へと変わると共に、パレードはクライマックスを迎え。

 姿を見せたのは漆黒の吸血鬼。
「我は乙女の血と夜に魅入られしヴァンパイア!……これでいいか?」
 黒マントと燕尾服。髪はオールバックになでつけ、いつもの眼鏡は片眼鏡に変更。
 そんな同胞(jb1801)の隣を歩くのが、斉凛(ja6571)。
「うふふ…似合いますかしら?」
 純白の三角帽子に長マント。衣装だけなら白の魔法使い。
 だがホラーパレードはここからが違う。全身返り血を浴びた凜は、杖の代わりに釘バットを手にし。
 淡い灯りが彼女の白い顔を照らした瞬間、にたりと口端に笑みを浮かべてみせる。
「ああ、似合ってるぞ。…いや、ここは似合うと言っていいものか」
 皆が悲鳴をあげる姿に、反応の仕方がわからない。凜はくすりと微笑み。
「ありがとうございます。同胞さんもよくお似合いで」
 その時だった。灯籠型のランタンが、突然バランスを崩し二人に倒れかかってくる。
 翻る漆黒と純白のマント。
 沸き上がる、歓声。

「…大丈夫か?」
 凜を抱きかかえた同胞が、心配そうに顔をのぞき込む。
「ええ。同胞さんが助けて下さいましたから」
「すまない、俺の運が悪いせいで」
 不運体質の彼、いつもこのようなトラブルに巻き込まれる。凜は微笑むとかぶりをふり。
「ふふ、どうやら観客の皆さまは演出と思って下さってるようですよ」
「え?」
 気付けば、大きな拍手が聞こえてくる。
 何も言えずにいる同胞の手を凜は取り。
「さあ、今宵は心ゆくまで踊りましょう」
 白の魔法使いと黒のヴァンパイア。
 二人が見せる舞は、陰陽がもたらす明滅の煌めき。


 ホラーパレードも最終組。
 最後を飾るのは、新たな仮装に身を包んだあの三人組。

 だだっ広い面の中央に顔。
 英斗扮するぬりかべが、パレードのクライマックスを盛り上げる。
「どうです! この華麗なフットワーク!」
 披露される軽快なステップ。
 もうのろいだなんて言わせない。これまでのイメージを塗り替える、新世代のぬりかべを演出。
「ぜーっぜーっ…さすがに息が切れる…」
 しかし努力の甲斐あって、新世代のぬりかべ大人気。
 後日「【新世代】ぬりかべの踊り【ぱねぇ】」なんて動画が流れたほど。

 華麗なるぬりかべに観客が沸き立った頃、現れた二人の吸血鬼。

 お揃いのゴシックドレスに、紅い翼。
 上質の黒ビロードには、所々血糊が散っていて。
「あれ…?」
 ぽかんとする英斗に、璃世が驚かせる。
「ふふっ、どっちがどっちだ?」
 互いにウィッグとカラコンで変装。同じ化粧を施していると、ぱっと見はどちらがどちらか分からないほど。
 カタリナも楽しそうに微笑み。
「敵を驚かすにはまず味方から、ですねっ」
 よく考えたら味方にしか効果がない気もするが、そこはご愛敬。
 吸血鬼となった彼女は舞い上がると、女性客を背後からそっと抱き締め。
「ふふ、いただくわねェ…?」
 妖艶な笑みに、悲鳴にも似た歓声があがり。
(カタリナ先輩綺麗…)
 思わず見とれてしまいつつ、璃世は観客に向けて呼びかける。
「さあ、これできみたちもマモノの仲間入り。一緒に踊ろう!」
 二人のカーミラは観客を巻き込みながら、舞い踊る。

 最後はさながらマスカレード。
 踊る相手はその時次第。
 速くなる音楽にあわせ、全員での舞踏パレード。

「さあ、踊りましょう! 歌いましょう!」

 熱夜のマモノは、恍惚の煌めき。
 華やかに、秘めやかに。
 ただ誘われるがままに、踊り明かす。

 それは狂おしく美しい、幻の宴。



●不夜の酒場でひとときを

 パレードの熱が、落ち着き始めた頃。

 代わりに賑やかさを増し始めたのが、北の酒場。
 その名も「Shot Bar☆GEZA」。
 煌々と輝くネオンが、お腹をすかせた人々を誘い込む。

「目一杯踊ったら喉渇いちゃった!」
「デザートでも食べに行きましょうか?」
 チルルと京が移動する側で、同じくネオンに誘われるように歩いてるのは狐珀(jb3243)
「…ぬぅ。なにもあんなに驚かなくてもよいじゃろうが」
 先程のパレードを思い出し、ほんの少し拗ねた表情になる。
 狐の外見である彼女、せっかくなので犬歯むき出して一般人を驚かせてみたのだが。
「そんなに怖かったのかのう…」
 あまりの怖がられぶりに、乙女心がちょっぴり傷ついたのだ。
 そんな彼女に、かけられる声。
「よう、美人さん」
 振り返るとそこにいるのはファントム姿の皓一郎の姿が。狐珀は一応辺りを見渡し。
「…私のことかのう?」
「他に誰がいるんだ? これから酒場に行くんだろ。こんな怪物でよけりゃ、一緒に呑まねェか?」
 初めてされたナンパ。狐珀はそれでも大人の反応を見せ。
「喜んでお受けするのじゃ。酒は好きじゃからのう」
「ありがとよ。美女と飲めるたァ、ツイてるねえ」
「ふふ…うまいのう♪」
 エスコートする皓一郎に余裕を見せつつ。
 それでも尻尾が揺れているのは、きっと嬉しかったから。

 バーは既に、華やかな賑わいを見せている。

 その雰囲気を楽しみつつお酒を堪能しているのは、宇田川 千鶴(ja1613)と石田 神楽(ja4485)。
「昼は結構はしゃいだし、夜はのんびりしよか」
「はしゃぎましたね〜。でも楽しかったですね」
 いつも通りの気安い会話。プライベーティア・ポートでの思い出を、互いに語りながら。
「しかし、神楽さんはほんまに凄いな。目とか当てるの結構難しそうなのに」
「いえ、私の場合はそれが専門みたいなものですからね。そちらのアクションも凄かったですよ」
 既にほろよいの千鶴は、笑いながら返す。
「私はただ動き回ってただけやし」
「いや本当に。千鶴さんの素早さは凄いと思っています」
 本心からの言葉。
 それが分かるから、少し照れたように。
「…そっか。ありがとさん」
 そんな二人の目に、見知った顔が映る。
 美味しい料理にとろけている、その姿。

「鎹先生、一緒にええです?」

「おお、宇田川君、石田君。今日はお疲れ様だったな!」
 鎹雅が、ご機嫌で料理を頬張っている。
「先生もお疲れさんです。あの服、よぉお似合いでした」
「ありがとう。宇田川君の衣装もとても素敵だったぞ!」
 頬が上気してる雅を見て、千鶴は思わす微笑んで。
「先生も、今はのんびりしてください。いつも大変でしょうから」
 神楽の言葉に、雅は頷きながらも。
「気遣いありがとう。君たちこそ、戦いの日常を今だけは忘れて…楽しむんだぞ?」
 二人が頷いたところで、狐珀と皓一郎も合流する。
「鎹殿、一杯奢らせてもらってもよいかのう?」
「お。狐珀君か、そんな気は使わなくていいぞ。皆で飲もう!」
「じゃあ乾杯、と行くかねェ」
 本日何度目かの乾杯。皆で飲むお酒は、どうしてこうも美味しいのか。

「それにしても、パレード凄かったなぁ」
 千鶴はグラスを傾けながら、楽しそうに語る。
「ええ。見ているだけでもとても楽しかったですね」
「なぁ、神楽さん。またこういうのあったら一緒に行こな」
 ご機嫌で話す千鶴に、神楽は微笑む。
「ん、そうですね。また一緒に来ましょうか」
 普段は見られない表情に、密かに満足をして。


「久しぶりに、アクアおねえちゃんとご飯、です」
 どきどきしながら足を踏み入れるのは、ユイ・J・オルフェウス(ja5137)。従妹であるアクア・J・アルビス(jb1455)と、のんびりご飯を食べに来た。
「ふふふ、お久しぶりですー。相変わらず可愛いですねー」
 久々のせいだろうか。アクアはやたらとご機嫌で食もお酒も進んでいる。
「お酒とかーいっぱい飲んじゃうですよー」
 ぐびぐび。
「料理もいっぱい食べるですー濃い目の味付けが好みですー」
 ぱくぱくぱく。
「多少汚くなっても気にしなーいです」
「それは駄目、です」
 ユイのツッコミに、アクアはえへへと首をすくめる。
 見た目的には年上のアクアが保護者と言う形であるが、実際はその逆。
「アクアおねえちゃん、お酒はそのくらいにしとく、です」
 一人で放っておくと何をするかわからないのだ。

 …そう、何をするか。

「きゃっ」
 運ばれてきた料理を見て、ユイは思わず声をあげる。何と大きなカブトムシが乗っかっていたから。
「…? よく見るとこのカブトムシ、チョコなのです」
 ほっとするユイを見て、アクアが嬉しそうに。
「どうですか? どうですか? 私の悪戯は♪」
 どうやら彼女の仕業らしい。まるで悪びれる様子の無いアクアを、ユイはじいっと睨み。
「…私、怒ってる、です」
「ごめんなさいですー怒ったユイちゃんもかわいいのですよー♪」
「反省、してください」
 怒るユイを見て、アクアは運ばれてきた料理を受け取って。
「これでも食べて機嫌直してくださいですー」
 目の前に出されたアップルパイ。
「ユイちゃんリンゴ好きでしたよね−?」
「…もう。仕方ない、です」
 飴色のリンゴを見て、ユイはつい許してしまうのだった。

 近くには、食事をする凜と同胞の姿も見える。
 パレードの時と違い可愛いワンピースに着替えた凜は、にっこりと微笑み。
「この指輪ありがとうございました。わたくし、いつまでも待っていますから」
 左手薬指に輝く、リング。白と黒が絡み合った同胞とお揃いのもの。
「……気に入ったならよかった」
 とても愛おしそうに指輪を眺める彼女を見て。
 同胞はついその言葉を口にしてしまう。
「凜…好きだ」
 それは飾りけの無い、彼の素直な本心。聞いた凜もゆっくりと頷き。
「わたくしもです」
 共に過ごす、穏やかな幸せ。

 そんな中、一人でやけ酒を飲んでいる人物がいる。
「遊園地に来たはいいものの、ほっとんど遊べてませんでしたねぃ…」
 周囲の喧騒を眺めつつ、ウォッカをちびちびやっているのは十八 九十七(ja4233)
 何だかもの凄く哀愁漂う感じなのだが、実は彼女一緒に遊ぶ筈だった友人とはぐれてしまったのだ。
「ななちーにお誘い受けたのに、(主に人数制限的な意味で)はぐれてしまいましたし…こりゃあ、シラフじゃあいられませんってやつですの」
 どう見ても彼女の周囲だけ黄昏色に染まっている。※ちなみにこの頃、友人の戒は東エリアでうきうき星空ドライブ中である。
 九十七はライ麦減量、少数回蒸留、45度以上のウォッカをマスターに要求。
「お客様…かなり強いお酒ですが大丈夫ですか?」
「いいんですの。原料の甘みがあってこれが一番よいんですの」
 もちろん、ストレートで。
「それにしても、みんな楽しそうですねぃ…」
 その背に哀愁背負う、一人酒。
 こぼれる吐息には、憂鬱が宿る。

 …ちなみに九十七ちゃんは乙女であり、決して日々に疲れたサラリーマンとかではない。

 そんな彼女に声をかけたのは、狐珀と皓一郎のペアだった。
「よぉ、しけた面してねェで一緒に呑まねぇか?」
「おお、良い酒を飲んでおるのじゃ。私も一杯よいかのう♪」
 その言葉に九十七はにやりと笑み。
「お二人とも酒の味がわかるとお見受けしましたの。共に飲み明かしますかねぃ」
 酒豪たちの夜は、始まったばかりだ。

 さて、そろそろ宴も佳境に入った頃。

「このシークワーサージュース美味しいにゃん☆」
「こちらのゴーヤジュースもなかなかですよ♪」
「苦くないんだ?凄いなあ」
 遊紗、焔寿、雷がドリンクに舌鼓を打っている隣で、謎のカップル()がいる。
 マクシミオ・アレクサンダー(ja2145)とロドルフォ・リウッツィ(jb5648)だ。
「いやーうまく化けたもんだねえ!」
 マッドハッター姿のロドルフォが、笑いながらマクシミオにワインをつぐ。
「単に男同士で呑むンのも華が無いんでな」
 だからと言ってそこまでしなくていいのよ! と言う声が聞こえてきそうな彼の装備は以下の通り。

・ゴシック風フリルドレス(ファー付)
・コルセット(体型補正用)
・ロング手袋
・10cmピンヒール
・女性下着(←ここ注目)

 髪も結い上げ、化粧を施した姿は完璧女性(ただし身長を除く)。元々美丈夫なこともあり、もの凄く似合ってしまっている。
「見た目だけでも美女と一緒にたあ、いいもんだ。うん」
 楽しそうな友人に、マクシミオは。
「それよりロドお前、普段よりペース早くねーか」
「そうかい?」
「既に五本目とか明らかに飛ばしすぎだっつの」
「細かいことは気にしない、気にしない」
 完全に酔っ払っているロドルフォ、突然マクシミオを抱え上げる。
「お、おい待て馬鹿!」
「せっかくだからその可愛さ、皆に披露してこようぜベッリーナ!」
 翼を使って飛翔。マクシミオをお姫様だっこしたまま、バー内外を飛びまくる。
「姫抱っことかマジでやめろ! 下ろせ−!」
 慌てて膝揃えてスカートを抑える姿はまさに乙女。

「はははいいぞーー!」
「もっとやれーー!」
「よし来た絶好のシャッターチャンス!」

 デジカメを手にした聡美が、すかさず激写。周囲の歓声にご機嫌なロドルフォを見て、マクシミオはため息をつき。
「…ったく、お前まで兄貴みてーな事すんなっつの」
「え、なんか言った?」
「いや、何でもねえよ」
 いつもより大胆な友人に面食らいながらも。
(…ま、嫌じゃ無いしな)
 だってこんな夜は、これくらいの方が面白い。

 酒場が最高潮に盛り上がった頃、いつの間にか花火もあがっていた。
 皆と一緒に花火を見上げながら、雷は呟く。
「わあ、綺麗だな〜。他のエリアのみんなも、これを見てるのかな」

 それはこの先のお楽しみ。
 沖縄の夜は、まだまだこれからなのだから。

【北】地区 担当マスター:久生夕貴








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