●宝は永久の向こうに
たくさん歩いたり泳いだり。一日中宝探しを楽しんだ学生達は、温泉で疲れを癒していた。
「皆、今日は本当にお疲れ様! お姐さん、すごく喜んでたよ♪」
深紅は満面の笑みを浮かべて学園生達を労った。
中禅寺湖の宝の缶詰は、当初の情報通り、ヌシの体内から見つかった。
一体何が入っていたのか?
学生達の視線を一身に受けた深紅は、タブレットを起動し、送られてきた写真を見せた。
そこには『学生諸君、思いっきり遊んだあとは勉学に励むんだよ』と
神経を逆撫でるメッセージと共に、ノートや鉛筆といった文房具が映っていた。
「そんな事だと思った」
どうせ碌な物ではないと思っていたが、期待を裏切らない辺り、さすが月摘先生である。
滝の裏側で見つけた謎の箱は、いわゆるタイムカプセルだった。
小学校を卒業した時、若女将を含む地元の悪ガキ達が隠したのだという。
「ふゥ〜。他の場所でモ色々見つかったんだよネ?」
予習した通り、リシオ・J・イヴォール(jb7327)が湯船に浸かって息を吐いた。
「うん。九十九里浜の沈没船で見つかったジュラルミンケースの中身は、旅行用品。一緒に香水瓶も入ってたから、持ち主は女性だったんじゃないかな?
遊水地の木箱からは、百年以上前の古い貨幣が。資料としても貴重だから、現地の博物館に寄贈するんだって」
「お赤飯の入った櫃、も見つかっている、わね」
光奈が口にしたのは、芦ノ湖で見つかった宝の情報だ。
竜神を鎮めるという古の伝説に倣い、毎年捧げられているのだという。
「生贄ネ。ニホン文化ってホント奥が深イ」
先に体を洗うとか、タオルはお湯につけないとか。今日一日で、いろいろな事を覚えた。中には微妙にズレた知識もあったが、リシオはその一つひとつを反復する。
その頃。
男湯で長々と湯を楽しんでいたメンナクは、竹柵の下部に開いた怪しげな穴を見つけ、探索を開始した……のだが。
――露天風呂の薄い仕切りを抜けると、何とそこは女湯だった!!
「を……?」
熱い湯を凍りつかせるほどの視線が、一斉にメンナクへと集中する。
「覗きは撲滅!」
殺気を込めた瞳で、ナナシが問答無用のアハトを撃ち放った。
「ちょっと待て。話せば判っ」
「袋田の滝に吊るされるのと、ここにいる皆にフクロダタキされるの、どっちが良い?」」
深紅もトンファーを構え、しばき倒したメンナクの背中をぐりぐりと刺激する。
選択の余地なんか無かった。
数分後、人気の消えた女湯で、メンナクはタオルで作ったクラゲのように湯船に揺蕩っていた。
「そう言えバ、レミエルさんがどうとか言ウ話ハ?」
腰に手を当てて牛乳を一気に飲みほしたリシオの問いに、深紅は思い出したように手を打った。
「缶の底に手紙があったみたい」
再びタブレットを操作し、レミエル直筆のメッセージを表示させる。
『新しい召喚獣を呼び出せるようにするから、これを持って学園に帰っておいで。』
学生達は驚いたように顔を見合わせた。
もしそれが本当なら、天魔と戦う撃退士にとって、頼もしい仲間が増えることになる。
「余りのんびりもして居られないわね」
――天魔に襲われている。誰か助けを呼んでくれ。
海に漂っていたボトルに託された手紙の内容を思い浮かべたナナシ。
静岡、東北、四国――日本の何処かで、今も戦いは続いている。今は沈静化しているが、蓬莱山もまだまだ警戒すべきなのだから。
失う事の辛さを知っているから、守りたいと思う。
ありふれた日々の大切さを知っているから、この身が傷ついても戦える。
いつの日か、平和という宝を手にする時が来ることを信じて……。
学生達はまた命を賭けた日常へと身を投じるのだ。
<終>
エピローグノベル 担当マスター:真人