.








 曇天の下、見え始めた研究所は戦の気配未だ強く、されど地に満ちる気勢は予想を上回るもの。
「天の襲撃を幾度も受け、なおも、か。……いや、益々盛ん、といったところか」
 顎鬚を撫で、ゴライアスはむしろ嬉しげに相好を崩した。バルシークは苦笑する。
「お前にはいらぬ世話かも知れんが……連中は手強い、気を抜くな。それと――ある程度は回避しないと、半年前より刃が重くなった」
「うははは!釘を刺されたのは久方ぶりよ!ふむ、ならばバルシークよ、お前もこれをもってゆけ」
 胸元から取り出した『お守り』を無造作に戦友の手に渡し、ゴライアスはニッと笑う。
「お前、これは」
「なぁに構わん。生きて返せばいいだけのことよ。……さて、征くぞ!」
 ごつごつと互いのデカイ拳で合わせ、二人して研究所へと向き直る。
 具現化する巨大な力。見やる向こうの煌きは撃退士達の光纏。天の襲撃に抗う地の総意。
 若者らの意気やよし、と地を踏み鳴らし駆ける二人の体。

「我ら誉れ高き『焔劫の騎士団』」

 曇天に轟くは大天使二人の咆哮。

「勝利のために命を捧げん!」





 霙交じりの雨が降る。
 身体の芯まで凍てつきそうなほどに、冷え切った大気が建物の合間を吹きすさぶ。
 研究所前に並び立つ若き志士。
 その強いまなざしと立ちのぼる気鋭に、蒼閃霆公バルシークはわずかに嘆息した。

 ――折れない。

 あれほどまでに打ちのめした。意地も誇りも粉々にし、犠牲と言う不可逆の痛みを負わせた。
「一騎当千上等か。悪くない」
 大天使を前に郷田 英雄(ja0378)が愉快そうに嗤う。その目に恐れや恐怖の色は無い。
 あるのはただ、再び打ち据える機会を得た歓びだけ。
「バルシーク…借りを返しに来た。これ以上失わせる訳にはいかん」
 立ちはだかる黒羽 拓海(jb7256)の隣で月野 現(jb7023)が引き結ばれた口元を動かす。
「ああ。味方を護りきれなかった借りは返させて頂く」
 静謐の中に潜む、強く激しい闘志。言葉に出さずとも感じ取れてしまうのは、一度刃を交えた相手だから。
 先の襲撃時にこの刃を持って沈めた相手。命さえ奪うつもりで削り取った手応えは、確かだった。それだけに。

「……不思議なものだ」

 敗北してもなお、宿す光を絶やすこと無く。
 その様を脅威に感じると同時に安堵を覚えてしまうのは、どこかで期待する想いがあったのかもしれない。

「なぁ。負けるって重いねェ」
 加倉 一臣(ja5823)の手にした銃が硬質な音を立てる。冷え切った大地に立ちのぼるキャンドルライトのオーラは、まるでその熱を可視化させたかのようで。
「敗北は重い…が、それを背負い乗り越えるのまた、人だ」
 淡々と言い切る夜来野 遥久(ja6843)の表情に大きな変化は無い。けれどブルーグレーの瞳が更に深く、深く。帯びた光は清廉と狡猾を内包させなお澄み切る、月光の気高さ。
「ああ。全部背負って乗り越えてやるよ」
 紅蓮の焔を纏った月居 愁也(ja6837)が誓う。
 負けた。失った。果たせなかった。
 悔しさでどうにかなってしまいそうだった。どうすればと幾度となくもがき、再び前を向く以外の選択肢など無いことに気づいた。
 頬に落ちてきた氷のような雫を、フレイヤ(ja0715)がそっとぬぐう。
 冷たい雨。泣いているような空。
「…もうこれ以上負けるわけには、失うわけには、いかないのよ」
 流す涙は温かいものであるべきで。蒼く澄み切った瞳を、二人の騎士へと向ける。
 小野友真(ja6901)も目前の脅威を見据える。話に聞いていたとは言え、相手から感じる重圧と隙の無さは恐怖に値する。
 けれど怖いと思う気持ち以上に駆り立てるのは、雪辱を果たしたいと言う想い。
「あんな思いは二度とさせへん」
 帰ってきた仲間達を見ていられなかった。悔しさに、打ち震えた。だから。

 もう一度、彼らは誓う。

「こんな事言うと、あんたは笑うかもしれないが」
 赤坂白秋(ja7030)が切り出す。
「俺はあんたらと同じ旗の下で戦ってみたかったよ」
 強い意志、揺るぎない精神力。呆れるほどに誇り高く迷いが無い。
 敗北してなおそう思えるのは、互いに背負うものがあるからなのだろう。
「けれどあんたらは敵で。お互い譲れないものを背に武器を握ってる」

 聞いたバルシークは、微かに笑んだだろうか。
 その濃紺の瞳が語りかける。

 これ以上の言葉はいらないだろう?

 白秋は銃を手に笑いながら、告げる。

「じゃ、始めるか」

 ああ、そうだ。何度だって誓ってやろう。

 ――必ず勝つ。

 言葉はいらない。






 雷鳴が轟き蒼の閃光がはしる。
 背中合わせに立つ熟練の騎士達は、囲まれてなおその余裕を失うことは無く。
 蒼と白との共鳴に、武人としての高揚を乗せて襲いかかってくる。
 突如、歩み出る影。
 白狐の面を身につけた月神 雪狐(jb8146)が二人の大天使へと歩み寄り、一礼をする。
 そしてバルシークの方へと向き直り。
「お願いがございます。貴方の雷鏡を私に使っていただけないでしょうか。初陣となる私の華への手向けに」
「……何?」
 僅かに眉をひそめる天使に向け、雪狐は面の奥から淡々と。
「確かにつたない攻撃にございます。私めに使うには惜しいスキルにございましょう。それでも私はその身に受けたいのでございます」
 それは自分が受けることで他の方の被害を防ぐ。ただ愚直なまでに。
「かよわきものの願いはききわけられませんか?」
 訴えを受けた二人は、顔を見合わせる。先に聞こえるは白獅子の声。
「そりゃあ無理な相談だ。なあバルよ」
 こちらに向けられたままの面にバルシークは応える。
「撃退士よ。その覚悟には敬意を表しよう。だが応じることはできない」
 なぜ、と問いかけるような沈黙。
「私の技を見せろと言うのであれば、その力を持って奪い取るのだな」
 彼女の黒髪が風を受けわずかになびく。わかりました、と聞こえただろうか。
 その隙にバルシークの死角へ素早く移動しながら、陽波 透次(ja0280)が呟く。
「……また仲間想いの天使か」
 彼らとて、仲間に対する思いの丈は自分たちと変わりはしないのだろう。それだけに、やっかいだとも思う。
 大切な姉のためになら。
 常に命を賭ける自分にとって、同じだけのものを相手も持っているのだとすれば、それは脅威と呼ぶべきもので。
 ――でもだからこそ。
 音も無く生み出される鉤爪。
「勝負です」
 鎖を伴ったそれは流れるように大天使へと向かう。攻撃は確実に当たったものの、行動を縛る束縛の鎖は弾かれてしまう。
 以前有効だった策が、効かない。ハウンド(jb4974)は僅かに息を呑んだ。
「まさか……!」


 時は少し遡る。
「来る場所間違えたな……天使とは名ばかりのおっさんやん…」
 巨大な力の塊を前に藤井 雪彦(jb4731)はガックリと肩を落としていた。すでに心の中は滂沱の涙だ。
「まっ味方の女性陣のヒーロー目指せばいいだけだねっ♪」
 れっつ☆ぽじてぃぶしんきんぐー!
「反応速度が鍵になりそうだし――って事で、ちょっと皆の足に魔法をかけるよっ」
 一瞬にして周囲に付与されるのは瞬足の韋駄天。
「悪いな」
 礼を告げ、強羅 龍仁(ja8161)は真っ直ぐに白灰色の大天使を見やった。
「今回も防がせて貰うぞ」
 僅かたりとも視線を外さず、見やる眼差しにゴライアスが笑う。気づいたのだ。こちらに。
 その傍ら、石田 神楽(ja4485)は目を細め、タイミングを狙う。
「ゴライアスさん、あの時の方ですか…では、もう一度狙い撃ちましょうか」
 片方はバルシーク。一気に押し寄せるのは撃退士達の力。
「知ってる情報は伝えたが……」
「うん…」
 龍仁の声に宇田川 千鶴(ja1613)はギリと刀の柄を握りしめた。
 何があるか分からない。相手は他世界で悪魔相手に戦い続けている歴戦の騎士。高位同士の戦いすら幾度も経験しているだろう戦闘の玄人だ。
「…行く」
「援護します」
 一瞬で風のように駈ける千鶴に神楽が応える。相手の強さは身に染みて知っている。むしろ、だからこそこの地に踏み入れた。
(こちらを狙ってくるのであれば、むしろ好機)
 逆に後衛を狙うことで動きを牽制する意志が向こうにあったのならば、攻め続けることも必要。
「偽神、アトリ…攻めのタイミングは任せる」
 動き出した戦場にアスハ・ロットハール(ja8432)は短く告げる。橋場 アトリアーナ(ja1403)は頷いた。
「…ん、任される。そこ、撃ち抜く…っ」
 走り出す風は二つ。その背後にてさらに向けられる力。
「んじゃ…行きますか。ぶっこんでけよルビィ」
 声とともに御暁 零斗(ja0548)は、紫雲珠による一撃を放った。支援を受け、小田切ルビィ(ja0841)は走る。向かう先は唯一つ。
「よう、雫回収の時に逢って以来だな?――約束、守りに来たぜ!」
 踊り出、声を放ったルビィにゴライアスは歯を剥くようにして笑った。凄絶なる覇気。皮膚が粟立つのは触発されし闘志故か。
「削り合いが好きならやってみせるか」
 アサルトライフルを構え、カイン 大澤(ja8514)は照準を絞る。狙いは味方が攻撃する一瞬前。こちらの攻撃に意識をとられ、次に襲いかかる仲間の一撃が決まれば重畳。
 その先で走り込むのは志堂 龍実(ja9408)と天羽 伊都(jb2199)。
「此処が天王山だ…絶対に決めてみせるぞ」
「獅子公を名乗る大天使、同じ獅子を名乗るボクにとって不愉快な存在っすね、叩きのめしてやるっす!」
 左右に分かれ、挟撃する動き。そのゴライアスへと向かい、インレ(jb3056)もまた跳ぶように駆けた。
 覚えている。
 人の営みが灰燼と化したその光景を。
(……お前達にも尊きモノがあるのだろう)
 守るべきもの。大切な何か。
(だが)
 奪い失わせるのならば、
(全力で立ちはだかるぞ)
 生み出す力は【禍断】。獅子を抑え、意識をこちらへと向けさせる為の。
 大天使二柱に連携させない為の――
「老い衰えた兎なれど。容易く狩れると思うなよ皓獅子」
 他方からの一斉攻撃。カインが狙い澄まし、引き金を引いた。
「な!?」
 だが声をあげたのは撃退士側だ。無造作にアウルの弾を避けると同時、龍実と伊都、二人の連撃を風に乗るようにして流し、インレの一撃をかわしきる。
「回避も…だと!?」
 龍仁は目を瞠った。かつての戦いではこれほどの回避を見せることはなかった。
 そこに千鶴の雷遁が炸裂した。バルシーク側へ回り込んでの一撃。
「!? 違う、何か纏うとる!」
 千鶴の指摘に一同は目を見張った。何故。
「やれ、普段やらん動きは疲れるわい――だが、サボるなと釘を刺されてしまったからのう」
 ゴライアスは無言で斧をひと振りする。凄まじい金属音がして、神楽の弾丸が防がれた。
「バルシークが褒めておったわ。刃が重くなったから注意しろ、とな」
「敵情報の共有……、厄介ですね」
 短く鑑夜 翠月(jb0681)は告げた。公園での稽古以来の邂逅。本気で来るだろうゴライアスの一挙一動を見つめる瞳に映る魔力の風。
 互いを補い合い、対策を得る。改めて思う。相手もまた、個では無いのだと。
「僕達が行う程度のことは、相手もすでに行っているとみるべきですね。一筋縄ではいきません」
 静かに告げるその体が淡く溶けるようにして消える。ハイドアンドシークによる潜行。例え相手がどのような状態であろうとも、最善を尽くし続ける為に。
「最初に全力がくる、と読むか」
 全力。
 そう、むしろ大天使の側も。一切の手抜かり無く、今できる万全の状態で。
「準備万端だったのは、あちらも同じか……」
 柊 朔哉(ja2302)が小さく呻いた。胸のロザリオが微かな光を放つ。
 約束した。とある優しい「雪女」と。共に生きて、手を取り合える道を探そうと。
「俺は理想の為、約束の為、やらなきゃいけないんだな」
 その横を一陣の風が走り抜ける。あえて一撃目を様子見て動いた一団。
 見やり、ゴライアスは口元に笑みをはいた。
「また挑める事を光栄に思います、皓獅子公」
「おう」
 最初に響いたのは、感心の響き。
 マキナ・ベルヴェルク(ja0067)の声にゴライアスは短く返答する。
「先日は『稽古』でしたが此度は『戦場』――いざ尋常に、です」
 眼差しに宿る静かな闘気。受け、ゴライアスは吼えた。
「来い!」
 一言。
 されど、万の言葉より強きもの。
「…『偽神』マキナ、推して参ります…!」


 一方、蒼の天使にも認められた変化に、後方観察していたハウンドは推論を立てていた。
 もしも自分達と同じく、装備やアイテムで多少の耐性を得られるとしたら。
「バルシークは特殊抵抗を補強しているかもしれない―! 気を付けて!」
 以前スタンをかけた経験のある彼だからわかったことでもある。周りへと呼びかけながら、わずかに唇を噛み。
「やっとバルシークに再会できたのに……」
 万全の状態で戦えないことに歯がゆさを感じる。けれど今自分が前線に出ていっても足手まといになるだけ。
 ならば一度でも刃を交えた身として、情報収集と補助に徹しよう。そう決めて、僅かな変化を見逃さないよう観察に徹していたのだ。
 ハウンドの報告を聞いた白虎 奏(jb1315)が感心したように。
「これもゴライアス効果かい?全く、呆れるくらいに仲いいね―あのおっさん達!」
 互いに協力し、高めあう。その結びつきの強さは舌を巻くほどで。
「でも、それは俺たちだって」
 負けているつもりはない。
「よーっし、タマ!気合い入れてくぞ!」
 奏の声に呼応したストレイシオンが咆哮を上げる。同時に周囲に居るメンバーへ防御効果が付与されていく。
「束縛や注目が効かぬなら、攻撃するまで」
 中津 謳華(ja4212)の打ち込む強烈な一撃がバルシークへと向かう。
「中津荒神流中津謳華、推して参る!」
 激しい衝突音。
 抱くのは、武人としての純粋なる殺意。目前に立つまごう事なき強者に臨む。気概と矜持。
 強く。激しく。
「バルシーク…一人の武人として挑ませて貰うぞ!」
 その猛々しい挑発に誘われるように、大天使の視線が謳華を捉える。
「いいだろう。ではこの剣、受けてみるがいい」
 振り抜かれ走る稲妻。強圧の一閃に謳華が顔を歪めたと同時。

「今だよ!」

 どん、と言う凄まじい轟音と爆風が大天使の身を吹き飛ばす。
「……うまくいったね」
 後方から氷の刃を撃ち込んだ雨宮 祈羅(ja7600)が、満足げに笑む。
「――やるな」
 煙幕の中佇む騎士は、口元の血をぬぐいながら笑む。脅威の反射速度で致命傷を避けたものの。受けた傷は決して浅くは無い。
 謳華がバルシークを引きつけた瞬間。隙を狙った【銀紅隊】メンバーが一斉攻撃を仕掛けたのだ。
「謳華ちゃんありがとね。あまりにも隙が無くて撃ち込むタイミングを探してたんだ」
 狙っていた初手の一斉攻撃。しかしあの天使はダメージを反射させる能力があるという。それだけに、むやみに撃ち込むのはできるだけ避けたかった。
 銃を手にした常木 黎(ja0718)がふん、と鼻を鳴らし。
「ああいうスカした顔、大嫌いなのよねェ」
 当ててやって満足だ、と言わんばかりに。
 自分がこの戦いに参加したのも、友人である愁也達に協力するため。相手の天使に思う所など無い。
 ただ、友人が傷を負った。身体にも、心にも。
 だから、思い知らせてやろう。それくらいの情を持ち込むのも悪くない。
「さっさと膝をつかせてやりたいもんだわ」
 しかし相手も百戦錬磨。
 撃退士達が勢い、力を込めて走り込む瞬間、バルシークの背後に巨大な壁が立ちふさがった。
「な…ッ!?」
 何故。
 何処から。
 土煙をマントのように靡かせ、不敵に笑むのはゴライアスだ。
「おう。来たぞ」
「ああ」
 朋友二人の言葉は短い。
 嵌められたか。分断したと思ったのはこちらへの罠か。
「全力移動か!」
「反動があるはず!」
 わざと己の動きを最後にし、駆けつけたゴライアス。無理な力に能力は低下している。
「今たたき込めば……!」
 声に全員が意識を切り替えた。だが、同時に背筋に悪寒が走る。
 なぜならば、
「いかん! 離れろ!」
 零斗が警告を発した。バルシークが動く。
 バチッと言うスパーク音に反応した遥久が即座に警告笛を吹き一臣と黎が回避射撃を放つ。
 凄まじい閃光と雷撃が一瞬で逃げ遅れた周囲の撃退士を覆い尽くした。ゴライアスを襲撃するどころではない。
「くっ……引き離しが足りなかったか!」
 龍仁がゴライアスを追いかける。だが大天使の癒しの方が早かった。みるみる傷が癒えるバルシークを見て、地領院 恋(ja8071)が呟く。
「あの二人…単体でもやっかいなのに、一緒だとその比じゃ無いな」
 自身は謳華に向けて治癒力を高める回復弾を撃ち込みながら。自分達がやることは敵もやる。
 その実感を噛みしめる。
「やっかいなのはお互い様…か」
 戦場を懸ける熟練の騎士達。
 突き詰められた連携は、幾度となく繰り返された歴戦の証。
 睨み据える先で、ゴライアスが太い笑みを浮かべる。
「さァて、続きといこうか、撃退士よ」
 バルシークは何も言わず、剣の切っ先を掲げた。そのどこか楽しそうにさえ見える様子を見て、ハウンドが呟く。
「懸念はしてたんだけどね〜…」
 初手でどちらかを集中攻撃し、徹底的に吹き飛ばしておけば分断も可能だっただろう。
 しかしそこに至るにはどうやら一歩、手数が足りなかったようだ。ゴライアスへの攻撃をかわされた雪彦も言う。
「相手は大天使……知能のない敵とは違う、ってことか」
 初手、そして続く第二撃をもかわされた。そのショックは計り知れない。だが、思う。自分達は敵の動きを予め試算しきっていただろうか、と。
「まだ甘かった、か…?」
 一撃を穿ちながら零斗は僅かに眉を顰めた。ルビィが口角を上げる。
「ハッ…まだ始まったばかりだぜ?」
「強化はそれほど長時間ではないはずだ!」
 悔やむは後。鋭く告げた龍仁の声に、一同は意識を切り替える。その目には未だ衰えぬ焔の意思。
「不測の事態、なんざ、いくらでもある…」
 一度や二度躱されたぐらい何だというのか。小動一つしない表情の下、カインはただ狙い撃つ。
「…倒れるまで、何度でも、ですの」
 バンカーを構え、アトリアーナは駆ける。一瞬視線が捕らえる影。マキナとアスハ。
「少なくとも、手数を集中すれば、押せる」
 身を縛る雷撃の戒めを解き、千鶴は連携の助けとなるべく駆けた。その身に刻まれているのは龍仁があらかじめ施していた聖なる刻印。
「ほぅ」
 見やるゴライアスの瞳に灯るのは賞賛の色。初手が外れた時、戸惑う者は戦場で生き残れない。一瞬の隙が生死を分ける。絶え間なく次へと繋ぎ続け、前へ進み続ける者だけが生き残るのだ。
 その時、後方から声が上がった。
「他の天使共は押し返したらしい。じきに増援が来るだろう。ここで消耗させれば俺達の勝ちだ!」
 開戦直後一旦現場を離れていた英雄だった。
 実のところ他の戦況がわかっているわけではない。彼は外壁からの攻撃を目論んでいたが、思ったより距離があり途中で断念していた。
 ならばせめて諜報を装い相手の志気を下げ、仲間の鼓舞に繋がればと言う彼なりのはったり。
 しかし情報が入らない戦場において、これは意外にも効果がある。
「よっしゃ、なら俺たちも負けてられねえ!絶対勝つぞ!」
「そうや、どんどん行くで!」
 余裕で信じた愁也や友真の宣言に落ちかけた全体の志気が再び上がる。
 虎視眈々と状況観察していた白秋が銃を構え、嗤う。
「あいつらを組ませておくとろくな事にならねえ…とすれば」
 互いに補完できないように持っていくしかない。それはすなわち。

 猛攻。

 研磨された集中力で放つダークショットがバルシークの肩口を穿つ。そこを拓海が放つワイヤーが鋭く絡め取り。
「迷いは無い、ひたすらに撃ち込むまで」
 現が弾丸を放ち。
「俺たちは誓った」
 恋が巨大な戦槌を振り上げる。
「諦めなければ天に届く。アタシたちは地の果てまでも喰らいつく!」
 全員一丸となった波状攻撃。
 強襲の衝撃で動きが一瞬硬直した隙を、透次が間髪入れず襲う。
(攻撃と防御は同時には出来ない筈…)
 フェイントを織り交ぜ、絶え間なく波状攻撃を仕掛ける。攻撃の隙を与えないために。
 頭上に火球を生み出しながらフレイヤは思う。
 ――一度悲しい目を見ちゃったら助けざるを得ない。
 ゴライアスがその瞳に宿した哀愁の色。彼が何を悲しんでいるのかは分からない。
 仲間の死か、家族の死か。だから彼らに伝える。
「私は簡単には死なないわ。だから笑顔でかかってきなさい!」
 放つ灼熱の球は凍える大気をもろともせずに。
 白秋が咆哮を上げる。
 自分たちに立ち止まっている暇など無い。
「ただ、喰い千切るだけだ!」





(良き戦場に降りれたようだな)
 ふと、そんな思いが胸を過ぎった。ゴライアスは人知れず笑みを深める。その眼前に走り込んで来たのはルビィ。そして上空より飛来する零斗。
「いくぜ…!」
 青と赤の双剣が閃いた。加えられた技はウェポンバッシュ。
(何度でも)
 そう、何度でも。
(諦めるわけには、いかないんでな…!)
 避けたそこへルビィがさらにウェポンバッシュを再度放つ。
 衝撃が走った。
「入った…!?」
 吹き飛んだゴライアスに朔哉は目を見開く。ズンッ、と音を立て着地するゴライアスの体勢は崩れない。その背後に千鶴。高き場所より無言で繰り出される鋭い一撃。
「ふんっ!」
 声と同時、ゴライアスは頑強な腕で脳天を目掛けた一撃を受け止めた。素早く距離をとる千鶴と入れ替わるようにマキナが走る。狙うは空いた脇腹!
(例え抵抗されど、一瞬でも動きを止められるなら)
 重ねるようにして放たれた神楽の【黒業】とカインの【ソウルイーター】を纏う銃弾が襲う。その着弾と同時に一瞬にして黒焔の鎖がゴライアスの体を縛った。マキナの【縛鎖】だ。
「今!」
 アスハとアトリアーナが同時にバンカーを構える。零距離。その凶悪なる連打の音。走る衝撃。だが、二人して飛び退った。
「……硬い、な」
 アスハは僅かな驚きをこめて呟いた。アトリアーナもその瞳に警戒の色を濃くする。
 一時的とはいえ意識を刈り取っているはず。なのに、この防御。
 その時、バルシークのいる方角側に黒鋼の刃が現れた。魔具を元に具現する力はインレの【千の敵を鏖殺する王】。
「目を離さぬことだ。喉笛食い破られたくなくば」
 放たれた一撃が重く響く。畳み掛けるようにその体を魔力の禍刃が襲った。
「あの時より……硬い、ですね」
 冥府の風を纏いて翠月は背後から移動する。相手の意識が無くとも、油断はしない。いつ反応されても不思議ではないのだ。それほどの相手。
 ならばこそ、
(好機は逃さない…!)
 龍実の双剣が風のようにその体に叩き込まれた。踏み込む足にアウルを込め、目にも止まらぬ速さで反対側から走り込む黒い獅子。
「黒獅子の力、とくと味わえ!」
 凄まじい衝撃音が響いた。空間が砕けたかと思うような音は力と力のぶつかりあい。相反する「防御」と「攻撃」の。
「……む。名乗りだけでなくここも同じですか」
 白と黒の獅子。呼称と性質が似るのは何の因果か。
「オッサン二人がつるんで突っ立ってるって事は…狙いは戦力分散――いや、時間稼ぎってトコか?」
 ルビィの声にゴライアスの顔に肉食獣の笑みが浮かんだ。
 気づき、インレは目を細める。――意識が、ある。
「……戦場にあって言葉は不要」
 みちり、と白鎧が軋む音がした。
 その身を縛るはずの戒めが全て吹き飛ぶ。受けた斬撃は両手の数以上。なのに気迫も力もいや増すばかり。
「汝等が意志、その力で示すがいい! 来い!!」
「言われずとも!」
 ゴライアスの巨大な斧と伊都の黒染の大剣が激突した。





 雨は止まない。まるであの時と同じように。
 凍てつく寒さで霙混じりの雪となるも、地上の熱に溶けるようにして雨に変わる。
「流石に、多数との戦いに、慣れてますね」
 移動し続け、弾む息を整えながら翠月は顎を伝う雫を払った。汗なのか雨なのか、もはや分からない。
 バルシークとゴライアス。最初こそ回避されたものの、二人を分断させることは成功したと言っていいだろう。距離としてはやや心許ないが、少なくとも二人の意識は撃退士側に大きく向いている。
「ちょっと! 人と斬り結びながら他にちょっかいかけるとかどうなんっすかね!?」
「数で囲む者に騎士道を期待するほど、儂は愚かではないわ」
 伊都の声に思わずといった風にゴライアスは言い返した。不敵な笑みは未だ変わらず、だがその体は血に斑になりつつある。
「薙ぎ払え――【烈破】」
「ぐ……っ」
 凄まじい勢いで大気が爆ぜた。体に叩きつけられた破壊の波に、負傷者を癒すために範囲内に入っていた龍仁が呻く。
(このタイミングで、動きを封じてくるか!)
 見れば同時にくらった何人かが倒れ伏している。偶然では無いだろう。少なくとも、彼等が術を放つ時は、常に何人かが範囲内にいる時だ。時に自ら動いてまでも。
「おお、今度は儂の射程内におったな!」
 その姿にゴライアスがニヤリと笑った。かつての戦いの折、妙に上手い具合に射程外に存在し続け、早期に潰せなかったのが龍仁なのだ。
「させん…!」
 回復手を狙ってくることは前回で知った。千鶴とインレが同時に走る。
「──おぉぉっ!」
 螺旋の動きをもって練り上げられし力。闇を纏うそれが千鶴の韋駄天斬りと共に巨漢に叩き込まれる。
 鮮血が散った。だが相手の笑みは消えない。
「デカイ図体でちょこまか動くな・・・!」
「留まれば死ぬだけよ!」
 薙ぎ払いを放つ龍実にゴライアスは笑った。
 生死をかけた戦場で、言葉を交わすことはあまりしない。なのに何故か。
 楽しいと思ったからか。
 持てる力を合わせ向かい来る撃退士の熱に引き込まれたかせいか。
 目の前にいる黒獅子を名乗る撃退士の力。わずか十数年で至るにはなかなかに空恐ろしい程。
(世界は広いわい)
 だが、
「まだ、少ォしだけ、幼いようだが」
「むっ?」
 互いに削り合い、血に濡れた姿。交わす刃の向こうで見上げてくる目に笑う。
(伸び代があるということでもあるが、さて)
 伊都の背後に重なる影。スタンを受けたアトリアーナ。その後方に、龍仁。
「受けられい!」
 踏み込んだ。
 走り抜ける強大な一撃が一直線に人々を吹き飛ばす。
「あれは…あの時の!」
 追撃されぬよう、鋭い魔力の一撃を叩き込みながら翠月は呻いた。防御特化の実技教師の盾すら粉砕した前方貫通攻撃。血の海に沈んだ伊都とアトリアーナの意識はすでに無い。
 否。
「く……ぅ」
 不撓不屈。最後の気力を振り絞り、アトリアーナは立ち上がる。
「…このまま、なにもできずに倒れるなんて…できませんの!」
「今、回復を……!」
 自身も大怪我を負いながらも、龍仁は即座に危険水域に達している二人へと治癒を放った。
「ほぉ…?」
 ゴライアスが面白そうに目を細める。確かに距離はあった。先の技――【獅子哮刃】は自身に近い敵ほど威力を直接受ける。だがそれだけが原因では無いだろう。攻撃の通りが僅かに減じられたのを察したのだ。
「焼け石に水かもだけど〜ないよりゃマシっしょ♪」
 【四神結界】を張り終えた雪彦がニヤッと笑い返す。バルシークとゴライアス、それぞれを中心に計二つ、攻撃を減退させる結界を張っておいたのだ。
「人間なめんな♪」


(む……)
 視界に鎧を赤く染めた朋友を認め、バルシークは僅かに眉を跳ね上げた。
(あの防御を突破するか)
 マキナの一撃とゴライアスの一撃が激突する。自らの回復も防御も忘れるほどに削り合うゴライアスに、咄嗟にバルシークは足を向けた。
 だがそれよりも恋が躍り出る方が早い。
「そっちには行かせねえっつってんだろ!」
「くっ…!」
 振り抜いた槌は大天使の身を吹き飛ばすほどの勢い。
「ならば受けてみよ!」
 襲いかかる一閃を恋は硬化した半身で受ける。しびれるほどの衝撃を何とか耐えきり。
「この程度でアタシはやられはしない!」
 恋の迎撃により足止めされたバルシークは既に囲まれていることに気づく。
「ここを通すわけにはいかん」
「この身は全て剛の盾、やすやすと抜けられると思わん事だ…!」
 拓海と謳華の強襲。既に何度も攻撃を受け止め、その身が限界を超えているのを感じつつ。
 決して下がることは無く。
 次第に彼らの手数が大天使を押し返していく。濃紺の瞳が僅かに細められ。
「強いな…撃退士よ」
 口元に浮かぶは、笑み。互いに命をぶつけ合う魂の呼応。
「だが私も負けるわけにはいかない!」
 対するバルシークも残り少ない技を惜しみなく使い猛攻を開始する。
「そうこなっくちゃなあ!」
 英雄が走り刀を振り抜く。飛び散る血潮はもう、どちらのものかわからない。
 閃光が走り雷撃が飛ぶ。
「させないっての」
 黎と白秋が回避射撃を放ち、遥久や現が盾を手に走り、庇い、回復させていく。
「うちらは一人一人は弱いかもしれない…けどね」
 マジックシールドを展開させていた祈羅が叫ぶ。
「だからみんながいるんだ!」

 その時、バルシークは聞いた。

「その首もらい…ッ!!」

 すぐ側で聞こえた声に反射的に振り向く。常に意識していた狙撃手。なぜこんな近くにと思うより速く身体が動く。
 常に死角を意識し、全ての感覚を研ぎ澄ませているからこその反応。
 凄まじい反射速度で身を翻した瞬間、身体に衝撃が走った。
「何?」
 受けた銃弾は反対方向から。二丁拳銃を構えた友真が叫ぶ。
「かかってくれましたね、そのお顔拝見したかったんすわ!」
 すぐ側で笑みを浮かべているのは一臣。先のは囮だと気づいた天使はすかさず剣を構え突進する。
「友真逃げろ!」
「遅い!」
 稲妻が走ると同時、脳裏を嫌な感触がすり抜ける。

「バルシーク!!」

 ゴライアスの怒声が耳に届いた刹那。


 閃光が蒼を覆い尽くした。





「――上手く行ったな」
 盾から剣に持ち替えていた遥久が、荒い息を整えながら言う。
「ああ…全力でぶつかってやったよ」
 額の汗をぬぐいながら、確かな手応えに愁也がにやりと笑み。
「やった……」
 祈羅と黎が安堵の息を吐く。
 たった一度のチャンスだった。今でも緊張のあまり手が震えそうで。
 遥久は気絶した友真を抱えた一臣に歩み寄る。
「すまない」
「ばぁか。謝る必要なんてねえよ。俺も友真もやることをやった」
 元より命懸けなのはわかりきっていたこと。
 そして繋いだ。
「これでいい」

 猛攻の中わずかに生まれた隙。
 そこを更についた二重囮。
 初手のものとは比べものにもならない。

 渾身の、決定打となる、一斉攻撃。

 受けた大天使は、しばらくその場に佇んでいた。
 砕けた白銀の鎧が紅く、紅く染まっている。

「――見事だ、撃退士よ」

 それは、まるでスローモーションのように。

 蒼の騎士は、膝を付いた。




「はっ、やってくれるじゃねーか!」
 英雄が賞賛の声を上げる横で、雪狐は感じていた。
 ――これが立ち向かうと言う事…。
 何故か、心が震えた。強者から奪い取る。その重みを知ったからなのか。
 そこでハウンドがはっとした様子で叫ぶ。
「気を付けて!まだバルシークは落ちてないよ!」
 咆哮が上がった。
 突如立ち上がったバルシークは凄まじい勢いで突進を始める。
「さすがだな…まだこんな力が残ってやがるのか」
「散会するのだわ!」
 白秋とフレイヤが牽制し、前衛が抑えに走る。
 もう立ち上がる力は残っていないはず。騎士を突き動かすのは武人としての意地。
「させん!」
 立ちはだかる謳華に撃ち込まれる渾身の一打。身を賭して受けた反動は計り知れず。
 一撃でその身を沈め、走り、構え、雷鳴を轟かす。

 この身を、命を、魂を。
 捧げると誓った。

 ただ、ただ。誓いを果たすため剣を振るう。その身、その命尽き果てるまで。
 敵ながら目を奪われるほどの姿に、黎が呟く。
「あんまり熱くなる方じゃないんだけどね…」
 その集中力を最高潮まで研ぎ澄ませ、告げる。
「あんたの意地は受け取ったわ」
 だから、こちらも全力で討ち取る。
 黎と一臣が弾丸を飛ばし、フレイヤと祈羅が魔法攻撃を放つ。英雄と愁也が極限まで高めた一撃を撃ち込み、透次と拓海がその隙をつく。
 雪狐が刀をふるえば奏が召喚獣を飛ばし、ハウンドが符を繰れば、白秋が引き金を引く。
 そして天の刃を遥久と現が受け止める。
「何度でも私たちは立ち向かいます」
「俺にだって意地はある…絶対に止めてみせる!」
 誓いは果たさなければ、意味が無い。
 いつの間にか舞い始めた雪。
 灰の空を突き上げるように、恋が叫んだ。

「そして勝つ!」





 朋の窮地。
 ならばそこに隙も生まれるだろう。そう思った者は幾人いただろうか。
「下がれる者は一旦離れろ! すぐ回復させる!」
 炸裂する範囲攻撃に朔哉は声を放った。
 慌てず、揺らがず。むしろ増した冷徹さと強靭さでゴライアスの戦斧が唸る。
「おっさんの一撃って考えると余計にイッタイな〜…」
「軽口叩けるうちは軽症だな」
 大げさに嘆く雪彦のおどけた声に、朔哉はその背を叩きながら治癒を施す。僅かに軽減された痛みに礼を言い、アトリアーナはバンカーを構えた。
「…まだ、動ける限り、撃ち続ける!」
 血溜りに沈んだ友人の分も。決して諦めることなく。
「いっけぇぇ!ピーちゃん!!!」
 アスハの攻撃に合わせ、奏のティアマットがボルケーノを放った。
「一度も飛翔しないとか、騎士としてのフェア精神?」
 むむ、と呟く奏の体も、召喚獣が受けたダメージを反映して血に濡れている。
「向こうも相当負傷したでしょうに……本当に、タフですね」
 危険な一撃を回避射撃で補助し、神楽はゴライアスの一挙一動に意識を集中させた。バルシークの重症に慌てるかと思いきや、逆にこちらを追い詰めんとする激しさ。いや、むしろ朋友が膝をつかされたが故の力か。
(仲間の窮地に力が増すタイプですか。厄介ですね)
 その攻撃範囲はすでにバルシークに対応していた者をも巻き込んでいる。要所要所で足止めをするかのような周辺攻撃に、人数で勝る撃退士側にも膝つく者が増える。
 新たな位置につきながら神楽は僅かな焦燥を抱いた。どちらが押しているのか、今の段階では分からない。撃退士か。天使側か。
(これは早急に……)
 思ったのと声が響いたのが同時だった。
「神楽さん!」
 背筋を走った悪寒。気づいた。
「あっ」
 少し離れた場所で翠月の声。
 纏まったつもりはなかった。だが、あえて距離をとりあったわけでもない。
「しま…っ」
 龍仁は呻いた。こう距離があいていては、庇いに入ろうにも間に合わない。


 最後に見た大天使の顔からは笑みが消えていた。


【北】屋外実験場  担当マスター:久生夕貴 & 九三壱八








推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ