●戦いは始まる前から
そろそろバレーが終わる。しかも同時の可能性が高い。
その状況を見て、バスケ組は動いた。
その場でのウォーミングアップ。柔軟を始める者、テーピングを確かめる者、ショットを打つ動きを試す者等、思い思いに戦いへと心身を切り替えていく。
「大人気ない喧嘩も遂にこれで終止符か」
紅組陣営。凛とした顔で呟く天風 静流(ja0373)の横で、楊 玲花(ja0249)は頷きつつ言葉を返す。
「ともかく精一杯やるしかないですね。勝利の為に微力を尽くします」
競技中の体調にも配慮し、会場に水分補給の準備を整えて来た森林(ja2378)は、待っている間に読み返した大会ルールに呆れ顔で呟いた。
「勝っても負けても爆発は起こるんだね…」
「いやはや、相変わらずの学園クオリティな大会だよねぇ。ま、適度に楽しくなのさね」
柔軟をしつつそう零す九十九(ja1149)だったが、個人的にも今回は勝ちたいと心密かに思っている。
「まったく、2人とも大人げない……」
生徒に心底そう思われる教師ってどうなんだ。嘆息をつくソリテア(ja4139)は超体育会系の姉にコツを教わりつつ元凶達にもの言いたげな一瞥を送る。
「アリス先生、絶対に勝たせる!」
同じく元凶に視線を送るイアン・J・アルビス(ja0084)は只今絶好調怪盗モード。え? 顔はなにで隠してるんだって?
とりあえず赤鉢巻で血の色ミイラみたくなってます。
「ゴールに沢山入れられるように頑張るのですぅ」
「これが最終戦だから全力で頑張るよ!」
そんな怪人もとい怪盗の後ろ、元気いっぱい叫ぶにReira(ja8757)と滅炎 雷(ja4615)に、気怠げに立っていた仁科 皓一郎(ja8777)は仄かに笑った。
「賑やかだねぇ…悪くねェな、こういうンもよ」
若いのに渋い学生もいれば、渋いのに若い学生もいる。
「球技大会の開催理由が私怨交じりというのもアレじゃが、やると決まった以上、勝つ為に全力を尽くすのみよ」
漢! 森部星治(jb0050)は御年六十二才。総白髪の立派なお爺ちゃんだが背筋ぴんぴん足腰どっしり。長時間の連続ショットでも力が入るよう、指や足首にテーピングをしたりと念入りに準備を整えてる。
……若人よりも用意周到じゃなかろうか?
そんな紅組のお隣、白組も戦いへ向けて準備を進めている。
「スポーツマンシップに則って、正々堂々闘うよ……相手がリア充でなければ」
のほほんとした顔でさらりと言ってのけた土方 勇(ja3751)は、疲労回復のための回復スキルのチェックにも余念がない。その傍ら、こっそり仮眠をとっていた高虎 寧(ja0416)は、猫のように背伸びをしつつ体をほぐす。
(色々忙しい最中、うちも漸く紛れ込めて、途中経過も押し詰まった処で、ある意味メインイベントに参加なのよね)
精一杯汗をかいて自軍に貢献。へろへろばたんきゅー☆すやすやな流れにしたいかなと欠伸混じりに目を細める。
無論、終わったら寝るつもりである。
「ここで会ったが百年目…勝負な恭弥!!」
何故か自軍内で戦い勃発。ビシィッ! と指をつきつけた七種 戒(ja1267)の前には影野 恭弥(ja0018)の姿がある。静かな眼差しで戒を見た後、少年はふいっと知らん顔でゴールに向かってしまった。
「ぬぁあ!?」
放置プレイとは卑怯ナリ!
ぐぬぬ、と悔しげに唸る戒の脳裏にはこれまでに受けた数々のURAMI(オムライスにバカって書かれたり等々)が浮かんでは消え浮かんでは消え。
(絶対、勝つ!)
乙女の怨念、ここに極まれり。違う意味でも戦意闘気充分な状態に突入した。
(考えろ。一番効率の良い方法は……?)
一部別方向に熱い白組の中、全体を見通そうとする青柳 翼(ja4246)は自軍と敵軍の様子をチェックする。ショットは個人競技に近かろうが、それを集団で行う以上、チームの足並みや団体意識が重要になってくる。効率重視。ボール拾い等の無駄な動作を無くすためにはどう在るべきか。
(……俺は、皆の補助を)
自身の活躍を捨てでも、チームへの貢献を。
「白組を勝利へ導く為頑張らせていただきます!」
「頑張ろうね!」
テーピングの終わったカーディス=キャットフィールド(ja7927)と東城 夜刀彦(ja6047)が楽しげに戦意を上げていく。「運動あんまり得意な方じゃ無いんだが……役に立たねえかも」と一緒に柔軟している神楽坂 紫苑(ja0526)の声に、二人してぺちーんと背中にスキンシップした。
「またまた〜なのですよ〜!」
「いっぱい楽しみましょうね!」
元気な後輩達に、紫苑は笑って二人の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。
「怪我しない程度にチバリヨー」
ストリート出身の与那覇 アリサ(ja0057)はあらゆる意味で経験者。その助言に御子柴 天花(ja7025)は天真爛漫な笑顔で頷いた。
「がんばりますよっ。今日はスリーポイントシュートを狙ってみたいなー。黙々とポイント稼ぎに勤しみたい所存です!」
笑みを浮かべたアリサに、天花は溌剌と言った。
「意気込みだって充分です。なにせ新しいバッシュですよ!」
・・・。
『ちょっと待てーっ!』
聞こえた白組面々、慌てて半数以上が駆け寄った。
「新しいバッシュってマジかー!?」
「ですよー」
「つま先踏め! いや、まず踵!」
「ええー!? 新しいバッシュなのにー!」
『靴擦れするわァーッ』
大合唱である。
しかも白組、そろそろバトンタッチ☆な流れになりそうな予感。
「時間がない! せめてテーピング! 全員でなくていい、開始になったらそっち優先で!」
これはヤバイ。翼は慌てて声をあげる。前の競技が終わって参加者が走りこんできたら自分達の番だ。それまでに終わらせなくては!
「まぁ、怪我が酷くなったら、回復してやるさ」
靴を揉んだり天花にテーピングを施したりしているのを眺めて、紫苑は苦笑混じりにそう言った。
準備運動こそさほどとれなかったが、結束力の高まった白組だった。
●バトンタッチ完了、先手 紅
「紅組のターン! 『会心の一撃』発動します!」
宣言と同時、スリーポイントラインに並んだ紅組が跳躍した。
次々と放たれるバスケットボール。綺麗な弧を描くものからわりと危険な軌道のものまで、それが一斉にゴールに向かった瞬間、奇跡が発動した!
「え!?」
応援席で眺めていた人々が思わず腰を浮かす。そもそもゴールは一つしかないのに十個のボールである。普通入るはずがない。なのに、神の手が微調整をかけたかのように並ぶ並ぶ並ぶ!
しぱぱぱぱぱぱっ
リングに触れることすら無くボールは一列になって綺麗にゴールに吸い込まれた。あり得ない。もう一度やれと言われても誰も成し得ない光景である。
『うぉおおおおおおおおッ!』
観客が総立ちになった。まるで何かのコマーシャルのよう。もはやいきなりクライマックス状態だ!
これで一気に三十点を稼いだ紅組。それぞれがショットを放つ位置に陣取って次々にボールを放ちはじめる!
「俺自身は遠くから入るかわからんしね」
イアンもといダークフーキーンは堅実な場所に移動。しかしその手にはこっそり手鏡。をい待ていきなり妨害工作かね君!?
そんな怪盗さんの動きを知って知らずか、森林は時々相手チームを見てこちらへの妨害がないかを確認していた。とはいえ、実際の所相手チームを信頼しているため、どちらかといえば点数をチェックしているようなものだった。
……妨害者、君の前(紅組)にいますけど。
三点ショットの位置につく者は多い。森林、静流、九十九、Reiraはラインを踏まないよう気を付けながらライン沿いに並んでショットを打ち続けている。
「姉様の言う通りにっ……!」
基本に忠実を基に動くソリテア。できれば常にボールをストックしたいところだが、与えられるボールは一人に対し一個だけ。ゴール下の皓一郎が逐次放った後のボールをそれぞれに返してくれているが、九人に対し一人という状態のためなかなか大変そうだった。
距離のあるスリーポイントを諦め、堅実なショットで点数を狙う者もいる。イアnもといダークフーキーン同様、玲花と星治は彼らよりもゴール側に。
「この位置から入るよね!…多分」
自分で「多分。」つけちゃったー!?
同じく堅実なショット位置に移動しつつ、フラグたてながらチラッと紅組を見るのが雷だ。
(1人でも動けなくなれば僕達が有利になるよね!)
可愛い顔して企み系! 妨害者二号、するりと異界の呼び手を発動させて妨害を狙う!
(あっ!)
しかし残念! 避けられた!
「妨害ですね〜」
そして聞こえてくる白組からの声。にこりと笑うのはカーディスだ。
紅組の良識人、玲花はそろそろあがりはじめてきた息の下、淡々と口にした。
「……妨害なんてつまらない真似をしている暇があったら、一本でも多く入れた方が賢いと思うのですけれどね」
「全くなのですよ〜。そちらの紅組さんから、さっきからちょくちょくと妨害が」
「……」
玲花、思わず顔を覆った。
ちなみに自主的に妨害工作をする者、白組ゼロに対し、紅組、三人☆
言わずと知れたメンバーはイaもといダークフーキーン&雷&ソリテアである。
……君達の涙ぐましい努力は忘れない。たとえ全て回避されていようとも!!
(仮に妨害にあっても、落ち着いて1本。何より大切なのはペースを乱されないこと)
白組の勇は凛とした表情でショットを放つ。綺麗な放物線を描いたボールは、シュパッと小気味の良い音をたててゴールに入った。他のスリーポイントメンバーとハイタッチまでする余裕っぷりである。
妨害するぐらいなら、一本でも多くの点を。玲花の言葉は、まさに白組の総意だったのである。
「……ま、まぁ、いい。こちらはミラクルショットを成し遂げたチーム。点差も開いて……」
手鏡でのフラッシュアタックが回避されまくったiもといダークフーキーン、自軍と相手の点数表を見て──
凍りついた。
紅:六八十。
白:八八六。
その差、軽く二百である。
「な……!?」
●後手 白
そんな馬鹿な! 一体何が起きている!?
愕然とするダークフーキーンへの答えは二つ。
ひとつは、バスケはサッカーやテニスと違い、カウントが妨害でリセットされる事は無いルール。
ゴールはひとつとはいえ、着実に全員で挑んだ事が明確な差となって出たのだ。
そして、もうひとつは、白組バスケメンバーの適正。
元より集中し、一点に当てる事が得意なメンバーが多かったのだ。
それゆえ、本来であれば使う作戦であったはずの【命中+回避三倍】の魔法札を使う事すら忘れていたけど、…うん、まぁ、結果オーライ!!
特に見事な集中を見せたのが天花、恭弥、夜刀彦。スキル等を使い、更に高まった集中力で次々とスリーポイントを決めていく。
「ボールはトモダチ…!」
恭弥に勝負を(同チームだけど)挑み中の戒も同じくスリーポイント狙い。乙女の意地で打つショットはどういう奇跡かヘロッてもガツンッてもちゃんとゴールに入る不思議である。
これぞ乙女力!(多分違う)
同じくスリーポイントラインに並ぶ勇、カーディスも高い集中力を見せた。そもそも、撃退士として戦う久遠ヶ原の生徒は、常人では考えられない程の集中力を皆が持っているのだ。
謙虚な寧や紫苑は最初こそ堅実なラインに並んだが、夜刀彦達に誘われて途中からスリーポイントへ移行した。
入るなら得点高い方がイイヨネ☆作戦。しかも、もし外れた時もアリサが待ち構えアクロバットな動きでゴールに押し込んでいくため、皆安心してガンガン放てれるのである。
己の活躍よりもチームを優先した軍師・翼の采配、ここに極まれり、だった。
ゴールをくぐったボールはその翼が素早く持ち主へとパスしている。驚くほど流麗な流れは視覚に留めおくのが難しいほど。見えているのに見えないボールの動きのせいで、端から見ると白組はいつのまにかボールを持って打って持って打ってをしているように見える。
圧倒的速度で千点稼ぎきった白組に、応援陣から熱烈な歓声が沸き上がった。
●
「邪魔です、そこで止まっててください!」
「眠いから、くらってあげない」
「妨害駄目です…よ!」
射程内のうちに、と放たれたソリテアのスタンエッジをひらりと回避して寧が走る。そしてプレイ中、ずっと我慢していたカーディスの影縛りがソリテアを見事に捉えた!
「きゃあ!」
これで、あとは実行委員を解放して、1000mを走り抜けるだけ。
逸早く全力でトラックまでダッシュした翼は伊駿木音琴を解放する。手渡される札は【超瞬発】。
「気休め程度だけど回復するよ。千メートル走がんばろう」
「バテた奴、怪我した奴は集まれよ」
勇と紫苑がスキルで疲労の濃い者や負傷者(主に靴擦れの人。誰とは言わない。靴擦れの人)を癒し、勝負中(?)だった二人は互いの顔を見る。
「ふははオムライスに謝るが良いわー!!」
オムライスさんだけに謝るのでいいのか? 何人かが心の中でそっと呟いた。
対する恭弥はナチュラルに超クール。
「……同点だろ。いいから走れよ」
「ちくしょー覚えてろおおお!!」
勝ち以外は負けと同じですか!? 涙目でトラックへダッシュする戒に恭弥は薄く笑って目を細め、後を追う。どんなときでも冷静さを失わない。勝負は同点でも、格の違いを見せつけることに成功したようだ。
次の妨害が来る前にと全員が揃って全力疾走。
白組の競技は野球チームへと受け継がれた。
無論、相手が終わったからといって終了ではない。
遅れること幾ばくか。紅組も千点稼ぎきった。
『お疲れさねぇ。だけど休んでる時間勿体無いから疲労回復さね。花信風』
疲労回復に応急手当で対応する九十九。同じく疲労者を癒す森林が皓一郎達を癒していく。他より余力を残せていたReira も、一息ついてからトラックを見据えた。
「あと、千メートル!」
走り出す面々。静流は慌てた。
「待て、解放は……!?」
俺(私)達見捨てられました!?
紅組の動きに磔の面々が涙目だ!
ほら、魔法札あるよ! 持ってるよ? 無いと、後々困るよ!?
「……ッ!」
致し方ない! 静流は全力で走り、綿谷つばさを解放しようかと思案する。
しかし、確か作戦方針があったはずだ。次で必要なのは……【回復の光】を持つ、炎條忍。
「ありがと! 静流。でもチームの方を優先して」
つばさにそう言われては仕方ない。彼女の救出は後続に任せて忍を解放すると、紅組は1000mへ今度こそ走り出した。
そう、自分達は負けたとしてもこれはリレー。
少しでも早く繋げれば。後続その意思を継いでくれる競技なのだから。
「若い者には負けんぞ!」
その瞬間、呼吸を整えていたおじーちゃまこと星治の全力移動が大☆発☆動!
怒濤の勢いで走るおじいちゃんの魔装は浴衣+褌!
荒ぶる爆走に風圧が大変な効果を生み出した! 進むごとに浴衣から覗く見事な大腿筋と褌がチラッチラッ!
らめぇ! このままだと風圧で浴衣が脱げちゃうぅぅ! とは言え、仮にも魔装。脱げそうで脱げないをきっちりキープ。
気になりすぎて誰も視線を外せない。グラウンドのに設置された応援モニターの大画面に褌がアップで翻る!
あ、ちょっとカッコいいかも。
「お願いーっ!」
Reiraが最速でトラックを回りきり、遅れがちな仲間に声援をおくる。
次々にゴールする紅組。全力を出しすぎてそのまま倒れこむ者も続出する中、先に到着していた白組の寧が大変幸せそうな顔で爆睡していた。
そうして、戦いは次の野球へと引き継がれる。
人々の熱い歓声と共に。
●責任なーんだ
全てを次に託した勝者の白組が選んだのは【お】の箱。
箱の中身はなんじゃろな〜☆
そぉ〜い!
飛び出す中身。弾ける茶褐色や緑のぬめぬめ。
見た観客の一部が悲鳴をあげる。
なんと、やたらとリアルな蛇と蛙のおもちゃ…?
「な、なんぢゃっ、おもちゃか!」
「……ふん。くだらん!」
をゃ。御二人とも平気なご様子。
なにかアリスの頭やら腕やらに乗った蛙と蛇がそれぞれ動いた。
と思ったら、頭から落ちたソレがスポッとアリスの服の中に潜り込む。
「×↑○@▼→△×〜□←〜〜!?」」
背後で響くアレな悲鳴。
本物でも平気かもしれないけど、服の中に入るのは嫌なものだよね。
バスケ 担当マスター:九三壱八