本シナリオは「南路陽動」「暴将討伐」「県庁強襲」の三選択肢に分かれています。
いずれかの選択肢一箇所のみにPCの皆さんは参加可能です。
プレイングに、
南路陽動戦に参加する場合は【南路陽動】
暴将討伐戦に参加する場合は【暴将討伐】
県庁強襲戦へと参加する場合は【県庁強襲】
のタグを記載してください。
県庁に陣取る悪魔、ヴァニタス、ディアボロの討伐を狙います。
県庁周辺に配備されているディアボロを学園の勢力が引き付けている間に行動、各隊の目標を達成してください。
1:【南路陽動】
県庁近くが手薄になった段階で、南側から進軍、残っているディアボロとヴァニタスをおびき寄せ、殲滅してください。
事前の状況から、敵は編成を組んで攻めてくることが予想されます。
敗北、または討ち漏らした場合、後述の2班への負担が大きくなってしまいます。
2:【暴将討伐】
県庁に配備されているアバドンを北側に位置するドーム状の建物へ誘導します。
班員はこれを迎撃、討伐を目指してください。
建造物への被害は成否に関わらないものとします。
3:【県庁強襲】
県庁内部に突撃し、トゥラハウスを討伐してください。
内部についての情報は現在無く、またトゥラハウスについても、長い腕による物理攻撃を行うこと以外、詳細は判明していません。
あらゆる状況に対応できる備えをしておいてください。
予想される敵勢力
●アバドン
雄牛の成りをした巨躯の悪魔。非常に強力且つ好戦的。
両腕と尾に拠る物理攻撃が確認されている。
目についた敵を片端から蹂躙していくその様子は最早災害の域。
●トゥラハウス(PL情報)
群馬県を実質的に管理していた悪魔。
右腕を鞭や盾に変える。破壊は非常に困難。
左腕からは広域に認識障害をもたらす煙幕を発生させる。
●スコルピオ
下半身の形状が蠍に似た悪魔。先の戦闘で片腕を失い、槍が使用できなくなった。
炎の魔法の他、尾に拠る射撃可能な毒針を用いる。
トゥラハウスの希望に応え、功績を重ねる為躍起になっている。
●使い魔(PL情報)
トゥラハウス直属の下級悪魔。戦闘には消極的。
対象に付与されたバッドステータスを解除する能力を持つ。
●東海林
顔の半分に火傷の傷痕を残す、女性の姿をしたヴァニタス。
直接的な戦闘能力は乏しいが、配下のディアボロの能力を増幅させる。
また、ディアボロが受けた状態異常を回復させる能力を有する。
人間に対する敵対心が極めて高く、自身の勝利を微塵も疑わない傲慢な思考の持ち主。
●ウニベルマーグ
複数の頭部を有する戦車のような姿をしたディアボロ。正面から向かって右側2つの頭部は破壊されている。
中央のドラゴン型は魔法攻撃、左側手前の蛇型物理攻撃、左側奥の猿型は状態異常攻撃を主に行い、別々に行動する。
●蛇型ディアボロ(PL情報)
体長2メートルほどのディアボロ。牙による物理攻撃は『毒』と『腐敗』の効果を有する。
範囲内の任意の対象を幻影で包み込む。同時に5体にまで使用可能。蛇型が記憶している音と声を発させることができる。
他、範囲内の対象を回復する魔法を使用する。
●カエル型ディアボロ
小型の個体が群れを成している。味方の魔法攻撃を増幅させる他、口から放つ音波で攻撃を遮断する。
●スカルファイター
物理攻撃に特化したディアボロ。手にした武器で戦う。
●スカルマジシャン
魔法攻撃に特化したディアボロ。杖から魔法弾を飛ばして攻撃してくる。
●久遠ヶ原学園ロビー
女性職員はある書類を食い入るように見ていた。まるで入稿寸前の原稿から誤字脱字を追い出そうとする敏腕編集者のように、そしてそれ以上に血眼となり、展開も表現も全て記憶してしまったそれを何度も読み返していた。
「一息入れないか」
気安い声は向こうから届いた。腕を降ろすと、輪郭に髭をたくわえた中年男性――ある調査隊の長が缶コーヒーを強面の横で揺らしていた。
「せっかくの美人が台無しだ」
「激務に耐えられない程度のものなら、こちらから願い下げです」
「意気軒昂、だな。慣れない気遣いが水の泡だ」
「いただきますよ? 一息入れようとは思っていませんでしたが、喉は渇きました」
減らず口を。呟き、隊長は赤い缶を放る。職員は緩い弧の先でそれを受け取ると、ソファに掛けたまま深々と頭を下げた。
隊長は向かいのソファに腰を降ろす。風を起こさぬよう慎重に。目の前のテーブル、そして職員の周囲には、文字や画像が満載の書類が所狭しと広げられていた。
その内の一枚に視線を落とし、眉を寄せる。
「群馬県のものか」
「先日行われた県庁周辺への波状攻撃、およびアバドンとの交戦の模様です」
「アバドンか。いっそ尻尾を巻いて逃げてくれれば、どれだけ楽だろうな」
「叶う片思いなど稀です」
女性職員は手の中で缶コーヒーを回す。
「どうやって倒すか。どうやれば倒せるか。それだけを考え抜いてきました。あの悪魔を排除しない限りは、群馬県の奪還など有り得ません」
「同感だ。が、真正面からぶつかったところでどうにかなる相手ではないだろう。余程の策が無ければ」
「策ならありますよ」
「ほう」
「とても策とは言えない、危険で強引でシンプルな策ですが」
「是非とも聞かせていただきたい」
「では概要だけ」
軽い音を立てて缶が開く。
「群馬を占拠する魔勢、その中枢にいるのは『暴将』アバドン、そしてトゥラハウスという、アバドンに指示を出している悪魔です」
「災害のような力を持つ悪魔と、それを制御する知恵を持つ悪魔」
「組み合わせとしては最悪ですね。互いの足りない部分を補い合っている状態ですから」
「他にもディアボロの群れや、少数ではあるがヴァニタスの存在も確認されている」
「盤石と言えます。敵ながら天晴、というやつですね」
「気の所為か。お手上げのように聞こえるな」
「入手した情報を並べただけです」
小さくコーヒーを含む。その温かさに、職員は息をついた。
「敵方は間違いなく盤石です。なので、『そこにつけこみます』。連中は手の内を見せ過ぎました」
「……恐ろしい女だ、お前は」
「虎穴に入らずんば、というやつですよ」
「だが、入るのは生徒だ」
「なら、道を示すのが私の役目です」
言い切り、コーヒーを飲み干すと、職員は腰を上げた。
向かったのは通路のすぐ先。大業な木製の扉を両手で押し開ける。
階段状の巨大な会議室には、招集に応じた学園の生徒らで溢れんばかりだった。
●群魔県庁屋上
つい零れそうになった溜息を、使い魔は両手で必死に抑えた。
眼下、県庁前には彼らの切り札、アバドンの姿。すっかり目を覚ました特大の暴力は、暇と力を持て余し、人間が造った植木や彫像、建物を殴り、払い、潰していた。万が一あれの興味がこちらに来ればひとたまりもない。彼はもちろん、知能など絶無に等しいディアボロさえ、今は県庁に近づこうとはしない。
だが彼には役目があった。主より仰せつかった役目が。如何な結果であろうと報告しなければならない。時には命に代えてでも。
「何をしている」
主――トゥラハウスはつまらなそうな表情で尋ねた。使い魔は答えず、ただ恐縮して彼の下に跪く。
「成果は上がったのか」
「……申し訳ございません」
簡潔で雄弁な報告に、トゥラハウスは舌を打つ。
「もうよい。これだけ探させて目撃情報が無いのであれば、本当に帰ってしまったのかも知れん」
「ですが……」
「これ以上は徒労だ。あるもので何とかするしかあるまい」
アバドンを眺める横顔に、使い魔は感情を窺い知ることができない。
「スコルピオは?」
「ディアボロを率いて哨戒しております。東海林というヴァニタスも別働しています」
「常に位置を把握し続けろ。いつでも貴様の声が届くように、だ」
「畏まりました」
首を垂れ、使い魔は出立する。
小さな背を軽く見送り、トゥラハウスは大業に息をついた。
「言葉を紡げる者が、私を含めて4体とは、な」
それから舌打ち。
「……どこへ行った、ドクサ」
●久遠ヶ原某大会議室
「それでは、群馬県奪還作戦の概要を説明します」
まるで授業でも始めるような口調だった。
すぐさま室内の照明が落とされる。職員の背後に現れたのは、巨大なスクリーンに映し出された県庁周辺の俯瞰図。
職員が手にしたレーザーポインタは県庁を囲むように円を描いた。透き通った声が広い部屋に木霊する。
「明確な勝利条件を定めます。
県庁に陣取っている悪魔・アバドン並びにトゥラハウスの撃破。
これが今作戦の大目標です」
途端に湧き出したざわめきを、もちろん、と職員の声が切り裂いた。
「多くの方がご存知かと思いますが、正面突破など現実的ではありません。
そこで、策を弄します。
前置きとなりますが、非常に危険であり、また、あなたたちの力に頼る部分の多い策です。悪しからず、ご了承ください」
頭も下がらず、説明は続く。
「先だって行われた戦闘により、北路と南路はどちらも手薄となっています。しかし、戦闘で確認された強力なディアボロ、並びに悪魔が広範囲を巡回しているのが現状です。一度敵勢力を発見すれば、そこへ雪崩込んで来るでしょう。総指揮官がいるのであれば尚更です。
なので、それを逆手に取ります。
広く、多くのディアボロが封鎖している東方へ、招集を掛けたフリーランスの撃退士と撃退庁の戦力を当てます。敵の戦力が偏るまで当て続けます。久遠ヶ原も相応のバックアップを行います。大規模な戦場を造り上げます。
そして、ここからがあなたたちにお任せする部分です」
ポインタがスクリーンを下がってゆく。
「県庁南方、大橋を経路として小隊に突撃していただきます。
これは県庁を目指すと思わせるものです。県庁周辺に残った敵勢力を一手に引き受けていただきます。主たる目的は時間稼ぎですが、無論倒してしまっていただいて構いません。
最後まで残っているのですから、相応の数と質が予想されます。
退路は学園が意地でも維持します。出来る限り長時間引き付けてください。この戦場が崩れれば、戦局が瓦解してしまいます」
続いて示されたのは県庁。
「陽動が成功したことを確認した段階で、アバドンを県庁から引き離します。
方法はこの場では明かせませんが、過去の交戦報告から、必ず成功すると断言できます。強硬手段であることだけ含んでおいてください」
マーカーは更に北上する。
「アバドンは北へ誘導し、この隙に、少数で編成した部隊を県庁へ送り込み、トゥラハウスの討伐を託します。
ほぼ間違いなく迎撃の準備が整えられているでしょう。向かっていただける方は、あらゆる状況に対応できる備えと覚悟を持ってください。
もちろん、このままではアバドンが戻ってしまいます。これを防ぐ為に、県庁の北方に位置するドーム状の建造物を使い、アバドンを隔離します。対応班はこの施設内と周辺で待機し、全力でアバドンの討伐に当たってください」
要約すれば、綱渡りの連続だった。
ディアボロらを一手に引き付け続けよ。
暴将と名付けられた暴力の塊のような悪魔を包囲し、討伐せよ。
全貌を把握できていない悪魔が立てこもる県庁へ突撃し、討伐せよ。
不安が波紋のように全員へ――
「なんとかなります」
――広がりきる前に、職員は資料を整えながら言い切った。
「主に懸念されている『この状況に至るか』については、私が責任を以て完全に整えてみせます。
ですが、それを差し引いたとしても、私は大丈夫だと、なんとかなると思っています。
一県の存在をまるまる隠してしまう包囲網を打破したあなたたちなら。
二度もあの出鱈目な暴力と相対したにも関わらず、誰ひとり欠くことなく戻ってきたあなたたちなら。
――必ず勝てるんじゃないかって、半ば確信しているんですよ、私は」
職員は力強く微笑んだ。
「参加者募集は後ほど受け付けます。あなたたちの『力』を、群馬県の為に貸してください」
よろしくお願いします。
職員はあなたたちに向かって、床に付きそうなほど深々と頭を下げた。