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2011文化祭 3-F マスター:茉莉 花雨

 秋の穏やかな風が吹く季節、久遠ヶ原学園では文化祭が開催されていた。
 200余りもある出店があるとどこから回ろうか迷ってしまうだろう。
 店々を眺めて歩けば、いつしか足の惹かれる店と出会えるはずだ。

 手作りの狐耳と尻尾が可愛らしい矢神小雪(ja0094)の運営する【和風メイド喫茶【子狐屋】】は、学園の広場で営業している。
「どうも」
 開店して一人目のお客は御神籤伊織(ja2065)のようだ。
「いらっしゃいですよ〜♪」
「五目稲荷と緑茶、その後で、和風パフェをお願いできますか?」
 出迎えた矢神に丁寧な口調で注文をするが、視線は矢神の頭上に固定されている。
 視線に気付いているのかいないのか、注文された品物を運んでくる矢神の狐耳がぴこぴこ動いた。
「う、動いた……?」
 どういう仕掛けなのかは不明だが、良く出来きている。
 緑茶を飲んで一息吐いた御神籤は、現場を目撃して衝撃を受ける。
 そんな『飲食ブース』のすぐ側は『休憩スペース』を設けており、木製のテーブルとイスが設置してある。
「ちょっと、休ませてもらっていいかな」
 徹夜で出店準備に追われて激しく疲弊した君田 夢野(ja0561)がふらふらと倒れこむ。
 矢神は君田の邪魔をしないよう静かに毛布を掛け、『休憩中』の札を近くに置く。
「小雪さん♪」
 矢神も所属する別の部より、白猫ロリータメイド姿の市来 緋毬(ja0164)が休憩ついでに遊びに来た。
「前々から気にはなっていたのだが、今回がいい機会だ」
 大きな木刀を背負った袴姿の紅十字 緋色(ja0967)が木製のイスに姿勢良く腰掛けた。
 和装に興味も有り、矢神のような和装メイド服には抵抗があるものの、袴姿は気に入ったようだ。
 けれど矢神の方が一枚上手。同じ和装でもメイド服をぐいぐい押し付ける。サイズはばっちり! 見ただけで分かるのだから問題ない。
「……ふぬぁっ!?」
 矢神と紅十字の攻防をほのぼの見守る市来、という長閑な雰囲気の中、君田は妙な夢を見て飛び起きた。
 そろそろ文化祭も賑わいをみせている頃だろう、休憩スペースと毛布の礼を言い、ちゃっかり自分の部活も宣伝して君田は帰って行く。
 そんな君田を見送り、矢神は紅十字を更衣室へ押し込むことに成功した。
 紅十字は年下相手だと手玉に取られる傾向があるらしい自らを分析しつつ、バイトに雇って貰うことになったらしい。


 広場を離れて歩いていると、どこからか何やら美味しそうな匂いが漂ってくる場所がある。
 【料理研究会】で部員の有志による『美味しい料理屋台村』が出店中のようだ。
 部長の大曽根香流(ja0082)はおでん、水無月 葵(ja0968)は材料にもこだわりを持ったお握り、高宮 和人(ja0020)はカレーパン。
 そして食事をしてくれた人には漏れなくくじを引いて貰い、景品が当たるしくみだ。 
「おでんはもう準備完了ですよ〜」
 大曽根の声が聞こえたのか、早速一人の客がやってきた。
 一人目のお客は伊藤 毅(ja0144)。
 伊藤は塩結び二つと味の染みた大根を購入し、景品でレアチーズケーキ1ホールが当たった。
「真心……込めて握らせていただきます」
 注文を聞いてから握る水無月のお握りはふっくらとした、羽釜炊きのおこげが香ばしい。
 学食制覇に燃える更科 雪(ja0636)や竹林 二太郎(ja2389)がちくわぶを求めてやって来る頃には、部室は人で溢れ返ってくる。
「鰯のつみれ汁美味しいよ〜」
 茂富龍太郎(ja0734)は追加でイカ焼きそばも用意した。
「人が多い……」
 盛況の部室へ大量の焼きそばパンを持ってきた月水鏡 那雨夜(ja0356)は、余りの人の多さに固まる。
 遅れてきたグラルス・ガリアクルーズ(ja0505)が月水鏡の焼きそばパンを幾つか取って客寄せを始めた。
 今から屋台を準備するより、手伝いに回ることにしたようだ。
 ジャムを用意してきた岩崎澪(ja1450)も商品を追加するようで、三種類の中身が違うシュークリームだ。
「ふむ……」
 商品を追加している部員達の会話を聞き、大曽根も即興で料理を開発する。
 料理研究会ならではの新しいメニューが次々考案されていくのは、楽しい。
「…………」
 景品の謎のジュースを見事引き当てたのは、田穂 和季(ja1134)。
 とりあず飲んでみたが表現しにくい味を打ち消すように、うどんを追加オーダーする。
 大曽根は話を逸らす田穂に、焼きちくわをおまけしてあげた。
 お腹を満たし、少し運動がてら学園の近くを散歩するのもよいかもしれない。


 幾つもの運動部が立ち並ぶ中、明るい客寄せの声が弓道場から聞こえてくる。
「『的屋「そうりんかん」』へようこそ!」
 諏訪吹 せれな(ja0564)が部長を務める【和弓同好会≪奏凛館≫】では、子供でも簡単に引ける程度の弓を用いた的中てを開催していた。
 ALNasrALWaaquiu(ja0617)、春永夢路(ja0792)は二人揃って参加賞のスポーツドリンクを貰った。
 海原 満月(ja1372)、相楽和(ja0806)はそろってトンボ玉のシャーペン。
 なかなか狙い通りにはいかないようだ。
「今度こそ!」
 射的系を中心に回っていた走井波玖(ja0492)は、気合を入れて弓を引いたが外してしまう。
 しかも隣でエシュリー アロール(ja0387)が一等を当てた現実に、思わず転職を考える。
 そんな走井を元気付けるように、金平糖が半分おまけとしてついてきた。
 暫くして再び姿を現した走井はどこで聞いたのか、アフロで執事姿のコスプレをして再チャレンジ。
「これがコスプレの力という訳ですねぃ……!」
 見事三等賞を当て、コスプレの威力を実感した。
 けれどコスプレの力を借りても外れるときは外れる。
 二度目の挑戦で狐耳のメイドさんになってみたものの、春永は二本目のスポーツドリンク。諏訪吹から貰った半分の量の金平糖は、何故か塩味が効いていた。
「当たらないなら、当たるまで射ればいいじゃない」
 三本目のスポーツドリンクを一気に飲み干し、何だか悟っちゃった春永は自力で金平糖を手に入れ、その極上の味に感涙した。
「ふ・わ・も・こ・あたーっく!」
 九十九に誘われ江宮 あぐり(ja1011)とぴっこ(ja0236)がお揃いの掛け声で挑戦。
 一度目は外してしまったぴっこだが、二度目は大当たり!
 見事特賞のおはぎセットを当て、江宮と二人で仲良く美味しく頂いた。
 湯飲みがどうしても欲しい相楽は肩に力が入りすぎているのか、なかなか目当てのものには当たらない。
 最後の最後で外してしまいスポーツドリンクを手にした相楽に、諏訪吹は三毛猫柄湯飲みにスポーツドリンクを注ぎ入れる。
「使ったものでよろしければ、この湯飲みお持ち帰りいただいて結構ですよ♪」
 最後は来てくれた方に喜んでもらえるのが一番。


 学園内の多くの教室でも、勿論出店はされている。
 ひょいと覗いたある教室では、ずらりと武将の名が並ぶ表が目を惹いた。
 有名所から知る人ぞ知る武将までをモチーフとした占いを百パターン用意した『戦国占い会場』は、佐竹 顕理(ja0843)が部長を務める【歴史愛好会】で催されている。
 お客としては一番目に占った寺生 丁花(ja0974)は、興奮気味に感想を語る。
「破天荒な主にブン回される属性と言うのも萌え!」
 ここまではしゃいでくれれば、制作した甲斐があるといえよう。
「ひしひしと情熱が伝わってきて期待感が高まるな」
 久遠 栄(ja2400)を始め、顕理の下準備に賞賛の声が上がると、顕理は無言ながらも深々と御辞儀をして受け止める。
 自分の当たった人物を調べるお客も現れ、武将に興味を持って貰える事に顕理にとって仲間が増えるようで嬉しい。
「……なんだろこのデジャブ……」
「僕はですね? 占いは所詮占いだと思うんですよ!」
 九十九(ja1149)が遠くを眺めて呟く様に、顕理は掴みかからんばかりの勢いで、必死で言い募った。
 占いは当たるも八卦当たらぬも八卦というし、そもそも顕理自身が当たらないと公言しているのでそう深く考え込まなくてもよいものなのかもしれない。
「いらっしゃいませ」
 新入部員の伊勢小四郎(ja1670)も接客に加わり、益々活気づく。
「お邪魔するでござるよ」
 戦国占いに興味深々の副会長、皇 誠(ja0456)を伴って飛成 風鈷(ja0434)がやってきた。
 結果に満足な風鈷に、まあまあ当て嵌まることを実感する皇。
 そして
「ジョブがふーこと逆だな」
 お勧めジョブが二人とも相手のジョブだったのは、奇縁と云えよう。
 その後も次々途切れることのない客の相手に始終愛想よく顕理は対応していく。
「アキ。乙」
 最終日の最後に漸く顔を出した佐竹 調理(ja0655)が小型スピーカーに繋げた携帯音楽プレーヤーを再生すると、有名な行進曲が部室に響き渡る。
「訪れて下さった皆さん、関わった皆さん、学園関係者の皆さんも、有難うございました」
 手を差し伸べた調理の手を取り、顕理はにこやかに閉会の挨拶をする。
 これから先、戦国占いや歴史を通してこうしてまた大勢と言葉を交わす日が来る事を願い、文化祭の閉幕を祝った。
 最後の一音に不穏な音が重なったのは、きっと気のせいだろう。


 商店街近くに、何やら舞台が設置されている。
 【英雄前線基地「ブレイバーズ」】で行われる、観客参加型の『英雄ショー』が始まるようだ。
 人々の熱き『ガッツ』に惹かれ、姿を現すといわれる『フォルティスの秘宝』は、何でも一つ願いを叶えてくれる勇気の象徴だ。
「いくぞFireHEROES!」
 学園の平和を守る為に立ち上がった『FireHEROES』の相楽 空斗(ja0104)が熱い意気込みを語り観客に協力を求めると、秘宝のかけらを探す為に外へ駆け出す。
「行きなさい! 黒き血を持つ同志たちよ!」
 沙 月子(ja1773)は『ブラックブラッド団』して号令を掛け、総帥の為に秘宝を探す同志達が散らばった。
「君ならどんな願い事を叶えたい?」
 『エアブレイカーズ』の桜守 一樹(ja0392)は純粋な願いを追い求め、参戦することになる。
「もう見てられない!」
 一つ目のかけらを見つけたのは、FireHEROESを手助けするために名乗りを上げた小柏 奈々(ja3277)だった。
 相楽と合流した小柏と共と情報を持つ占い師の元へ急ぐ。
「さっきから扉の前でドタバタドタバタと何だネ」
 占い師が姿を現したものの、何故か扉の奥から飛び出してきた動物達を捕獲しなくては情報を渡す気はないらしい。
 キーワードを持つ動物達を捕まえる為、所属を超えた捕り物劇が繰り広げられる。
 雪ノ下・正太郎(ja0343)を始めとした有志達の活躍やキーワードの解読の成功で、占い師が無くした指輪を無事発見することができた。
 だが秘宝の暴走が影響し、学園内のセキュリティが発動、侵入者対策用のトラップが作動し、『ショー・学園脱出劇』へ突入した。
 バナナの皮やロボの襲撃など、派手なものから地味なものまで各種のトラップが参加者の行く手を遮る。
 そんなトラップの一つ、マイクが設置された踊り場で、神宮陽人(ja0157)は何度か見事なパフォーマンスをやってみせた。
 それからゴールできてもリタイアでも、ポイントに応じて景品が貰える。嬉しいものかどうかは別として。
 数々の試練を乗り越え漸く到着した屋上で、集まった全員の前で秘宝、否、弾けるくす玉!
「──……」
 金銀財宝が降り注ぐのかと期待したのに、落ちてくるのは大量のペットフード。
 死闘演じた彼らの長の、結局はペットフード争奪戦に駒として扱われていたという何ともアンニュイなエンディング。

 ヒーロー達が活躍する参加型劇の傍では、『英雄喫茶』も出店している。
 饅頭やクッキー、サンドなどの『英雄』を冠したメニューが表メニューとして看板が出ている。
 けれど。
「……グハァッ!!」
「ぬはあっ!!」
 ジャック・ロランド(ja1045)や平野 稀樹(ja2996)のように、裏メニューに挑戦する勇者が後を絶えない。
「いらっしゃいませー、英雄喫茶へようこそ!青汁と闇鍋以外のメニューも取り揃えておりますー!」
 これ以上被害者というか要看護者が増えると出店禁止に追い込まれる危険があるるわけで、和装メイド姿の看板娘、神林 智(ja0459)が店の外で懸命に呼びかけをするのも無理はない。
 というか普通メニューの方が余りがちな現実が恐ろしい。
 しかし度胸試しをする人間が後を絶たないのは、英雄喫茶の名が次々と挑戦者を呼び込んでいるとしか思えなかった。
「こほっこほっ!!」
 三分の一でもぶっ倒れる客が相次ぐ中、文化祭開始初の生還者は、初挑戦の徳川 夢々(ja3288)だった。
 そして余りに挑戦する猛者が多い為、ついに整理券が配布されたAOJIRU。
 平和な英雄喫茶で出される普通のメニューは普通に美味しく、これはこれで評判が良い。
 量の確保に成功し解禁されたAOJIRUに群がる挑戦者達は、一度飲んだら何度でも挑戦したくなる魔力の虜になってしまったのか。
 近くに倒れ臥す客が視界に入るはずなのに、AOJIRU目当ての客は最後まで途切れることはない。

 顧問になってくれたアリス・ペンデルトン(jz0035)先生の誕生会も開かれたが、その会場へ行くには屋上に設置された人間カタパルトで吹っ飛んで行かなくてはいかない。
 会場では相楽が見つけた『アリスすぺしゃる』の掛かったパンプキンパイが。一度食べれば己の驚くような一面が発見できるかも!?
 ほれ薬の効果というか、秘めていた想いが爆発して青空・アルベール(ja0732)と森浦 萌々佳(ja0835)のようにカップル成立なんて羨ましい結果があったり、猫耳が生えたり。
 アリス先生誕生会改めハロウィンパーティ改め大花火大会は、盛大に盛り上がった。
 後片付けや始末書も、その盛り上がりと比例して盛り盛りで。

 後夜祭も大盛り上がりしたようだが、それはまた別の話。


 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
 けれど学園生活は始まったばかり。
 これから大勢の友人や仲間に出会え、楽しい毎日が続いて行くのだ。







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