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2011文化祭 3-E マスター:ちまだり

 秋の入学式に引き続き、新入生歓迎も兼ねた文化祭が開催された久遠ヶ原学園。
 体育会系・文化会系・雑談系を問わず、各クラブが腕によりをかけ、趣向を凝らした出店を開くことにより、まだ入学したてで右も左も分からぬ新入生にクラブ活動を実体験させ、学園生活への理解と(あわよくば)新入部員獲得という一石二鳥を狙うイベントだ。
 爽やかに晴れ渡った秋空の下、お祭り気分に湧く広大な学園都市内の一角に、どこかの校舎から響くブラスバンドの音楽が流れていた。

●学園に流れるメロディ
「とりあえず、トランペットの音がちゃんと響くか確認を‥‥」
【夢見幻想音楽部】部長の君田 夢野(ja0561)がマウスピースに口を当てる。いつもの練習室を会場とした『ゆめげん楽器体験会』だ。
 来客のエルレーン・バルハザード(ja0889)は初めてのヴァイオリンに挑戦。
「えへへ、きれいに鳴らせた‥‥かな?」
「こういう体験出店もおもしろいですね〜っ?」
 シエラ・フルフレンド(ja0894)がフルートを手に微笑む。
「邪魔するぞ。さて、此処のピアノの弾き心地は‥‥」
 短めの曲を弾き終えた志藤 天郎(ja0007)は、
「‥‥良く調整・調律されている、良い鍵盤だ」
 そう呟いて満足げに頷いた。
「前から弾いて見たかったんだ、エレキベース。なんというか勢いを生み出してるって感じが良いよな」
 久遠 栄(ja2400)はベースを手に取り、ボンボンボボンボン‥‥とリズムを刻む。
「ははっ、なかなか面白いじゃないか」

 同クラブでは別に小ホールを貸し切り、『飛び込み室内演奏会』も開催していた。
 始めに部長の夢野が手本としてピアノを演奏すると、客席で聞いていた生徒たちも次々に名乗りを上げて演奏に参加した。
「ではっ! 部長さんに続いてあたしもやってみるです!」
 高坂 爾祇(ja2739)がギターをつま弾けば、
「んじゃあ、俺もトロンボーンで一曲!」
 斉藤 凛(ja2782)も後に続く。
 小等部で習ったピアニカを演奏した江宮 あぐり(ja1011)は客席からの大きな拍手に驚き、無邪気に喜んだ。
「わーい、もりあがったー! みんなありがとなのー!」

●熱闘! 文化祭
 男女混合野球部【野球部WT】は、練習用のバッティングマシーンを一般生徒に開放して即席の『バッティングセンター』を出店としていた。
 挑戦者は自分の体力に合わせ、球速80〜140キロの4段階から選択できる。
「よーし、出店回ることだし、ちょっくらバッティングして体温めるかー。いくぞー」
 といいつつ、市川 聡美(ja0304)はなぜかバントの構えを取った。
「6本かー。80キロならまあこんなもんかなー」
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)はブンブンとバットを振り回し、最高速140キロに挑戦。
「ではいきますよ〜!」
 結果は10本中6本のヒット。
「全力で身体動かすの‥‥久しぶりでしたから」
 やや息切れしながら、景品のジュースを美味そうに飲み干す。
「とりあえず男なら140いっとけ! おっしゃーこいやー!」
 町娘姿で女装した梅ヶ枝 寿(ja2303)が景気よくバットを振るう。
 空振りや凡打が続いたものの、最後に大ヒットを飛ばした。
「いってー! バットに当たったら当たったで手ェしびれるし! 野球部こんなの打ってんのか、すげーな」
 感心したように呟くと、参加賞の飴玉を舐めつつ立ち去るのだった。

 その頃、季節に関係なくあらゆる食材が採れるという【裏山の食材自生地】では人と神(ただし天魔に非ず)との激闘が展開していた。
 その名も『神のお供え物強奪作戦』。
「ふ‥‥見せてやろう、神殺しが如何なるものか!」
 高らかに神への宣戦布告を叫びつつ、坂月 ゆら(ja0081)が食材へと突進した。
 しかし――。
「ふははははっ!甘い、甘いわぁっ!」
「馬鹿な!? 流し斬りが完全にはいったのに‥‥」
 がっくり跪くゆらを前に、誇らしげに食材を頬張る神。
「良い感じの柿が手に入ったよ。大きくて甘そうだ」
 上機嫌で山を下りようとした楯清十郎(ja2990)は「ゴスッ」と鈍い音と後頭部への衝撃を覚え、数分間意識を失った。
「‥‥い、痛っ。背後から殴られたのか? な、何が何やら分からないし、柿は無くなってるし、一体何が起こったんだ‥‥?」
「‥‥負けないんだからねッ!」
 闘志満々で乗り込むルーネ(ja3012)だが、あいにく肝心の食材が見つからなかった。
「‥‥。うぅ、なんか哀しい」
「うむうむ‥‥今日は調子が悪かったんだよな、うん、いつもは出来る子だもんな、うんうん」
 同情した神に肩ぽむで慰められた。
「むむ、食べ物の気配です!」
 腹を空かせて裏山に分け入った綾瀬 歩(ja2274)は、採取したフグを狙う何者かの気配に感づいた。
「だ、誰ですか貴方!? あれ、なんか見覚えがある!? ちょ、離してください! 離しなさいって! 離せ!」
 歩の蹴りが神の顔面を直撃!
「ふ、誰であろうとこのフグはあげられません。刺身と鍋で満喫するんです!」
「うう‥‥フグ‥‥フグがっ」
 必死で手を伸ばすも、ついに力尽き倒れ伏す神。
「だがしかし、かわいこちゃん(死語)かついもうと候補だから許す‥‥っ!」
 なお神の声が部長の七種 戒(ja1267)によく似ていたという証言もあるが、真偽の程は不明である。

 旅団【カラード】のミニゲーム会場には、やたらと喧しく叫びながら弾幕を放つ人形が設置されていた。
 挑戦者は30m離れた位置から接近し、弾幕をかいくぐり人形に付いたスイッチを押すという趣向である。
「うお!? いきなりとは、あんまりじゃないか」
 フィールドに踏み込むなり雨あられと飛んできた弾を腕で払いのけ、アレックス(ja3296)が毒づく。
 てこずりながらも徐々に距離を詰め、人形の中から飛び出したパイルバンカーを両手で挟み抑え込む。
「あぶないじゃねえか‥‥」
 ポチっと押して無事ゲームクリア。
「ん‥‥これは‥‥? ちょ、弾がどんどん飛んでくる!?」
 うっかり内容を知らずにフィールドに入った平野 稀樹(ja2996)は仰天しつつも弾を避けた。
「に‥‥人形? こんなのが弾幕出してるのか‥‥」
 じりじり前進、何とかボタンを押す。
「‥‥あれ、これもしかして出店の物だった?」
 終わってから気づき、呆気にとられるのだった。
「一つ挑戦してみるかな。ではレッツゴー!」
 千葉 真一(ja0070)が弾幕を避けつつひたすら前進。
「うわっ、いきなり弾幕厚くなった!」
 あと一歩、というところで運悪くパイルバンカーの直撃を受け、惜しくもリタイアとなった。
 ちなみにゲーム参加者のため休憩所として『カラードお茶会』も用意されていた。
「お邪魔しますー。ケーキが食べられると聞いてっ!」
 最初のゲーム達成者である氷月 はくあ(ja0811)が入室、部長のリョウ(ja0563)に挨拶する。
「いらっしゃーい! あ、えーと‥‥ようこそ、ここではのんびりしていってね」
 部員の鳴海 鳴海(ja2970)も笑顔で応対した。
「あの、お邪魔します」
 やはりゲームをクリアした三崎 悠(ja1878)も来店。
 殺伐としたゲーム会場とは対照的に、ほのぼのとお茶会が始まるのだった

●優しい時間
【木漏れ日の中庭】はその名通りの中庭に白いテーブルを目印とした『待ち合わせ場所』を用意した。
「待ち合わせだけでなく、文化祭巡りで疲れた体を休める際にもどうぞ」
 部長のケイ・リヒャルト(ja0004)はそう言って微笑み、来客に食事とドリンクを出す。
 いずれも愛称「ベガ」ことALNasrALWaaquiu(ja0617)他の部員達が腕によりをかけた手料理だ。
「失礼致します」
 ペコリと頭を下げながら藤堂 瑠奈(ja2173)が来園。
「‥‥とても、素敵な場所ですね♪」
「ケイの見立てだからね。素敵な所さ」
 瑠奈を席へと案内するベガの背に、獅子堂虎鉄(ja1375)が声をかけた。
「遅くなった! ようやく巡ってこれたぞ! ありゃ? るなも来てたのか。奇遇だな」
「‥‥少し、此処で待たせて頂いても良いでしょうか‥‥?」
 おずおず来園したセレス・ダリエ(ja0189)が人待ち顔で紅茶を飲んでいると、同じく誰かを捜すように周囲を見回す男子生徒がやって来た。
 やがてその少年、陽波 透次(ja0280)はセレスに歩み寄り、おずおず挨拶する。
「こ、こんにちは‥‥ここにいたんだね」
「‥‥はい‥‥誰かを待つのに丁度良いですし、私の好きな場所なので‥‥」
 2人は事前にメールでやりとりし、一緒に出店を巡る約束をしていたのだ。
「あらあら千客万来ね」
 そんな光景を眺め、クスっと笑うケイ。
「皆、待ち人が居るのかしら? それとも現れるのを待っているのかしら? 時間の許す限り、待ち合わせの時間の限り、ゆっくりしていってね」

【悠々と過ごす場所】もまた、文化祭ではしゃぎ疲れた生徒達のため部室内に『休憩所兼RDC』を開設していた。
 RDC、すなわちランダムドリンクコーナー。ボタンを押すまでどんな飲物が出るか判らない特製ドリンクサーバーがここの売り物だ。
「なんだ、この匂い‥‥! えーと『さっぱりドリアン果汁のジュース』!?」
 独特の香りを放つコップのジュースを見つめ、渡辺 十和(jz0053)は目を白黒させた。
「ちょっ、匂いきつっ! 本当に匂う!」
 とはいえ飲物を粗末にするわけにも行かず、覚悟を決めて一気に飲み干す。
「匂いについては、うんまあ、ドリアンはそういう意図で入れた物なので」
 部長のソフィア・ヴァレッティ(ja1133)がすまなそうに苦笑し、ブレスケア用のガムを渡した。
 続いてボタンを押した百嶋 雪火(ja3563)のコップに注がれたのはスポーツ飲料。
「‥‥なんていうか、爽やかよね」
 ランダムといっても殆どはごく普通のお茶やジュースなので、ドリアンジュースを引いた十和はかなりツキがなかったことになる。

【要塞学生寮「黒島」】は、日頃部員により行われている茶会を『要塞の茶会』として外部向けに開放した。
「接客とか面倒な事はさておき、あたしもお茶にしよ〜っと」
 部員の1人、椎名結依(ja0481)はティーカップに注いだダージリンを一口飲んでにっこり笑う。
「みんな接客お疲れさま。私も一杯貰うわね」
 裏庭の手入れを済ませて戻ってきた田村 ケイ(ja0582)がリンゴジュースのコップを手に取った。
「ふむ、とても濃厚なリンゴジュースね。リンゴを食べてる気分にさせてくれる」
「さてと、客は来るのかね? なんか、寮の連中だけって事態になりそうな気がしないでもないが」
 部長の綾瀬 レン(ja0243)が中庭の入り口を見やると、ちょうど月輪 みゆき(ja1279)がやって来るところだった。
「こんにちは、一休みできますか‥‥?」
「おう、いらっしゃい。ようこそ黒島へ。あまり何も無いところだが、ゆっくりしていくと良い」
「あっ‥‥紅茶ありがとうございます♪」
 冷えたアールグレイを飲み、お菓子を摘みつつ、みゆきは楽しげに微笑んだ。

●それさえもおそらくは文化祭
 遊場【天魔】が出した出店は『暇つぶし場』。部室を開放し、文字通り暇つぶし用の休憩所だ。
「始めまして♪ 久遠ヶ原報道同好会の者です♪」
 来室したドラグレイ・ミストダスト(ja0664)が、椅子にもたれて炭酸飲料を飲んでいた部長の御暁 零斗(ja0548)に愛想良く挨拶した。
「今回は文化祭のため各クラブの出店を取材させて貰ってます♪ という事で宜しければ質問に幾らか答えてくれると嬉しいです♪」
「報道同好‥‥新聞か? めんどくせぇなぁ」
 といいつつも、席に着いたドラグレイに食べ物と飲物を勧め、インタビューに答える零斗。
 そうこうしているうちに次の客が来た。
「どうもはじめましてー。【より良い学食ライフを考える会】の猪狩 みなと(ja0595)っていいまーす」
「今度は何だ?」
「うちのクラブでは今回ビンゴ大会を開催してるんだけど人の集まりが悪くて。宣伝がてらイベント告知のチラシを置かせてもらえたら嬉しいです」
「チラシか? めんどくせぇがまぁいいだろう。ついでにうちの宣伝もたのまぁ」

 数ある文化会系クラブ出店の中でもひときわ異彩を放ったのが、【両生類研究部】主催の『両生類触れ合い&休憩場』。
「さぁ、触れ合いたい両生類を選んでゆっくりしていくでやんす〜」
 トロリンガー(ja0090)の呼び込みで恐る恐る部室へ入った生徒達が目にしたのは、大福みたいなフクラガエルの「クララ」、お腹が赤と黒の斑点模様ですばしっこいアカハライモリの「モリリン」、そしてにょろにょろと小さなウナギの様なヌメアシナシイモリの「ヌメア」などそうそうたる両生類界のアイドル(?)達。
「りょ、両生類ですか。で、ではクララさん、お願い致します!」
 相楽和(ja0806)が意を決したように指名。
 ちょっとだけ触り、
「うーん、こうしてみると愛嬌があるかもしれないですね」
「新しい世界の扉を叩くぜ!」
 御伽 炯々(ja1693)はヌメアを指名。
 手の中からヌルっと逃げられ、
「うーこっちが恐々と触ると向こうもビックリしちゃうんだぜ」
「わぁ、両生類も可愛いね。怖くない、怖くないよ‥‥」
 犬乃 さんぽ(ja1272)は水槽に手を入れモリリンの頭を撫でてやるも、素早く逃げられてしまった。
「‥‥すっ、姿が追えない、なんてすばしっこいんだ」
 赤いだけに速さも通常の3倍なのだろうか。

 ある出店では熱いバトルが。
 ある出店ではゆったりと流れる穏やかな一時を。
 またある出店では、コアでマニアックな趣味の世界が披露され――。
 久遠ヶ原の文化祭は学園生徒に一部教師まで巻き込み、まるで終りのない宴のごとく笑いと涙と汗が入り交じったエネルギッシュな祝祭の日々を織りなしていく。

 だが、生徒達は心のどこかで気づいているのだ。
 全ての祭りにはいずれ終りの時が来る。
 そのとき、自分達は単なる学生ではない「撃退士」として人類未曾有の敵「天魔」と向き合わねばならないことを。
 1年後の今日、果たして同じ仲間達とこうして文化祭を楽しむことができるのか?

 それでも、未来のことは誰にも分からない。
 今はただ、大人達から馬鹿騒ぎと呆れられようと、若さ故のエネルギーを全開にしてこの祭りを目一杯楽しむだけのことだ。
 過去を決して変えられないように、彼らが現在(いま)その青春を謳歌している事実を誰も否定することなどできないのだから。

 委員達も文化祭見物に出払い、人気のなくなった生徒会本部。
 カタカタカタ……微かなFAXの作動音が響き、何処かの地から撃退士の派遣を求める依頼の申請書を吐き出し始めていた。







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