2011文化祭 3-D マスター:クロカミマヤ
紳士淑女の諸君、いかがお過ごしかな?
今日は過日行われた第一回久遠ヶ原学園文化祭について、私の聞き及んだ範囲で報告しよう。
客観的視点からの考察ゆえその場に居合わせた者の話には及ばんだろうが、間接的にでも文化祭の賑わいを感じていただきたい。
【武術探求部】では『ゲートブレイカーズ』という遊戯台が稼動した。マシン上に現れるターゲットを素早くパンチして破壊するゲームだ。目標を倒す為には物理的な力だけでなく、瞬発力も要求される。
武術探求を謳う部の催しだけに、久遠ヶ原中の腕ききが集い、日々の鍛錬の成果を披露した。
だが途中、並みいる猛者をものともせず小さな挑戦者・綾瀬 歩(ja2274)がトップを独走する事態に。部員である燎原 灰葉(ja3044)少年の羨望と畏敬の入り混じったまなざしが少女へ向けられた。
これにはさすがの部長・鈴原弥彦(ja1786)も驚くしかなかったが――自らの記録を少女にやすやすと抜かれて黙っていられるはずもなかった。
試し打ちこそそれなりの結果に終わったが、茶トラ猫の着ぐるみを着て再登場して臨んだ二発目は、さすが部長と感嘆せざるをえない見事な成績を残し、まさに面目躍如といった結果を残したのだった。
学園某所に存在する黒い鉄製の扉。その先には【魔術の城】と呼ばれる魔術系クラブがあるという。
そこで行われた『モンスターバトル!』では、ジョシュア・クロウリー(ja1978)が怪しげな術で呼び寄せたモンスター『ゴーレム』とのガチンコ勝負が行われた。
コンピュータゲームに登場するゴーレムといえば、動く無機物だ。守備力が高く物理攻撃を無効化するのが定石だが、ここのゴーレムは一味違った。
魔術系クラブだけあって、ゴーレムに攻撃を繰り出す生徒も魔術の心得がある者が多い。しかし彼らの魔術は次々と無効化されていく。
なぜならこのゴーレム、恐ろしいほどの速度で移動するのだ。その動きを的確に捉えられる者はなかなか現れない。
「この回避率は何だ、と言いたくなるな……」
攻撃を外した御剣ツバサ(ja0130)はため息まじりに呟く。
「うぅ、外れました」
クリーメル(ja2297)の投げた石は、縦横無尽に移動するゴーレムにひらりとかわされた。佐竹 顕理(ja0843)が一風変わったフォームで投じた石もまた、敵は軽々と避けてみせる。
「こ……こんなゴーレム見た事ない……」
がっくりと項垂れる生徒達。勿論たまにヒットする攻撃もあるにはあるが、このゴーレムの前代未聞の回避率には皆が驚いた。
「もうやだ、このゴーレム!」
回転しながら体当たりを試みた羽鳴 鈴音(ja1950)も、軽々と回避されて涙目である。
文化祭終了間際まで、この超速ゴーレムと戦い続ける少年少女の姿は目撃されていたが――最終的に与えたダメージの積算は、ゴーレムを倒すには至らなかった。
ちなみにゴーレムが文化祭後に学内で暴れているという話は聞かない。
おそらくは、部長がゴーレムを動かす際に組み込んだ魔術の中に、『文化祭期間限定』という制約が何らかの理由で組み込まれていたのだろう。
【第357射撃訓練所】では『実弾射撃場』が一般向けに解放された。
なお一般向けとは言っても、当然久遠ヶ原学園の教師・生徒を対象に解放されているものだ。本当の一般人が実弾で遊戯に興じることができるわけではないのでご安心いただきたい。
部長の夕凪 美冬(ja0357)が用意したベレッタ数丁が並び、撃ち抜いた的の点数によって景品をもらえる仕組みだ。
開催前はインフィルトレイターホイホイと囁かれたこの企画であったが、最終的には様々なジョブの生徒が訪れ、普段射撃場では見られない顔ぶれがそろい踏みとなった。
かのジョブでない者のほうがむしろ好成績を残す場面あり、命中率が失踪する場面ありと、多様な賑わいを見せたようだ。
ちなみに『景品交換所』では『100%ジュース【タン塩味】 』という謎の飲料が配布され、開封して悶絶する生徒の姿も目撃されたらしい……。
【派遣会社(仮)【Aufrichtig】】では借り者競争が行われていた。
借り物ではない、借り者である。
つまり指定された条件に合致する人物を借りてくる、という競技だ。
これぞ、将来的に撃退士派遣会社の設立を目指す部活ならではの試みだといえよう。
事務所の中に設置された『借り者競争本部』では、部長の綾瀬 歩(ja2274)が受付を行い、参加者たちがターゲットを連れてくるまでのタイムを計測していた。
文化祭も序盤にこの出店へやってきた神宮司 千隼(ja0219)は、小・中等部女子の鬼道忍軍というお題を引き当て、逢坂 小鞠(ja0730)を伴い帰還。
受付にて記録されたタイムは、なんと28分23秒。
年齢・性別詐称――もとい不詳の人物がやたらと多いこの学園だ。初対面の相手に「あなたは女性ですか?」などと不躾な問いを投げることに躊躇する者が続出する中で、このタイムはまさに驚異的なものだった。
ゆえに多くの人間が「もう神宮司さんの記録は破れないかもしれない……」と、諦めの境地に至っていた――しかし。
どこからともなく現れた久遠 栄(ja2400)が引いたのは、高等部男子・ディバインナイトという条件。
「……ディバインナイトと言えば、研究部があったな。よし、声を掛けてみるか」
呟くやいなや、久遠は颯爽と去っていく。記憶だけを頼りに走り去る彼の後姿に、誰がこの後の展開を想像できたろう。
「おーい、探してきたぞ。結構早いんじゃないか?」
訪れた時と同じように飄々とした態度で、久遠は戻ってきた。
彼の隣には正真正銘・条件を満たす、ディバ研部長・周防 水樹(ja0073)の姿があった。
「高等部男子・ディバインナイトの周防水樹。久遠栄先輩に借りられてきた……と、こういう感じで良かっただろうか?」
戸惑い気味に名乗る周防の姿に、その場に居合わせた参加者・部員たちは一様に感嘆の声をあげた。
手元の時計に表示されているタイムは、神宮司の記録を上回る23分56秒。
当然、久遠の記録を上回る者はこの後現れず、借り者競争の栄えある一位は大学部1年7組・久遠栄のものとなったのである。
時を同じくして屋外、【蒼き翼】では『障害物競争』が行われていた。
開催者代表・仮染勇輝(ja0096)のルール説明を受けて、多くの学生・教師がこの競争に参加。
先陣を切った第一走者の大城・博志(ja0179)はスタート直前、高らかに叫んだ。
「俺が! 新雪を踏み荒らすが如く、クロニクルを刻んでやる!」
言い切るや、すぐさま全力疾走する大城選手。
第一の関門・段差飛びでは軽やかな伸身宙返りを見せ、中州の平均台へ華麗に着地する。
「ハハハ! 唸れ! 俺のカドゥケウス!」
その勢いのままバク宙で向こう岸を目指すが――着地の瞬間、ツルリとかかとを滑らせ、あえなくプールへ転落した。
「一番大城さん、見事な着水でしたね。やはり一番手は参考にするものがない分、ハンデが大きいかっ」
慌てて水没した少年を救助する黒子達とは裏腹に、冷静に解説をする仮染の姿がそこにはあった。
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、部長の作った大掛かりな舞台に驚きつつも、にやりと笑みを浮かべてスタートラインを切る。
「お、ここで蒼き翼のメンバー登場。是非クリアしてもらいたいところだが……!?」
「エイルズ、いっきまーす!」
同じ釜の飯を食った仲間の活躍に、部長の実況にも熱が入るところだが――果たしてエイルズ少年の実力やいかに。
全観客が固唾をのんで見守る中、少年は危なげながらも第一関門を突破。観衆の応援を受け、第二関門へ向け疾走する。
だが次の瞬間、彼は驚きの行動に出た!
「ふっ、水に落ちたくなければ、最初から水の上を走れば良い! 必殺、水蜘蛛の術!」
おおっと歓声があがる。奇術師を自称するエイルズ少年の十八番だ。汚いなさすが鬼道忍軍きたない!
観客は彼の華麗なる妙技に盛大な拍手を送ったが、やはり部長はシビアだった。
「これは減点せざるをえないッ!」
ちなみにこの競技において優勝の栄誉を手にしたのは宇佐美明吉(jz0014)だ。
「久遠ヶ原の赤き閃光、宇佐美明吉とは俺のことだ……」
観客に向けた彼のこの発言。『赤』がぶっちゃけイチゴを指していることを、観客の大多数は知らなかったろう。
次ぐ2位につけたのは蒼汁(アジュール)を愛するネタの伝道師こと鳴神 裁(ja0578)だった。
「ごにゃーぽ! 笑いの神よ降臨せよっ」
そう叫び駆け出した彼女は、しかし観客が拍手さえ忘れるほど美しく、全ての関門を突破してみせた。
笑いの神さえもが、彼女のバイタリティあふれる行動に怖れをなして裸足で逃げ出したらしい。
憂うことなど何もない完璧な演技を見せたはずの彼女が、表彰台の上で納得のいかない表情をしていたのは言うまでもない。
【特殊公安部】の部室内に特設された『腕相撲試合会場』には、久遠ヶ原の方々から腕っ節に自信のある精鋭が集まっていた。
白熱する試合を観戦しに来る生徒の姿も見られるなど、部内は大きな賑わいを見せたようだ。
ここで最も脚光を浴びたのは、やはり部長の姫川 翔(ja0277)であろう。幼い少年と見紛う小さな体躯からは想像もつかない、圧倒的な強さで次々と挑戦者たちをねじ伏せていくさまは、まさに圧巻。年上の生徒から体格のいい男子生徒まで、多くの者が彼の餌食となった。
もちろん会場には、部員の香坂 杏(ja0210)や柊崎 螢(ja0305)、シエラ・フルフレンド(ja0894)、函南 唯仁(ja0629)、星月素光(ja0788)らも顔を見せ、挑戦者との手合わせを楽しんだようだ。
ちなみに函南の腕は地領院 徒歩(ja0689)との試合において、ゴキッという謎の音をたてたという。
その粉砕音を聞いた姫川が、
「あ、また折れた」
と発言したことから、以前ある理由で骨折した部分が未だ癒えていなかったのでは、と囁く者もいるが、本人は骨折自体を否定するなど、真相は定かではない。
どのみち学園内の依頼活動が本格化する前には彼の傷も完治するだろうが、再び部内で負傷する事態が発生しないことを願うばかりだ。
最後に紹介するのは【探偵倶楽部】で行われた企画の模様だ。
様々な事件を解決に導く彼らが用意した今回の舞台――その名は『盗め! VS探偵倶楽部』。
怪盗に扮した客が、探偵倶楽部の面々から逃げきれるかを競う参加型ゲームだ。逃げ切ればご褒美、捕縛されれば罰ゲームという単純明快なルールに、挑戦者たちは静かに闘志を燃やしていた。
文化祭の幕開けに先んじて、部長の九神こより(ja0478)がゲームの開始を宣言する。
「初回のお宝は――お気に入りの追跡者と出店を一緒に回る権利だよ!」
たまたま事前取材に訪れていた報道同好会のドラグレイ・ミストダスト(ja0664)は、この宣言を聞きつけニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふ、折角来たのに何もしないなんてね。その権利、怪盗ドラちゃんが頂きますよっ」
言うが早いが駆けだしたドラグレイ。
部員の鈴木 花蓮(ja0929)、雅喜(ja0963)、柊 夜鈴(ja1014)が追いかけるもあえなくかわされてしまう。
「快足3人衆から逃げ切るとは……見事だな、怪盗ドラグレイ」
「ふふ、逃走成功ですよー。肝心のお宝は……」
悔しげに呟く九神を尻目に、ドラグレイはしたり顔で持ち返った宝箱を開封する――が。
「す、スカ!? 騙された!」
地団太を踏むドラグレイ。一方の九神は、どこか安心したような表情を見せていた。
――そして迎えた本番。
「次の宝は、追跡者一人に希望の仮装をさせて、露店一カ所同伴できる権利だよ」
俄かに色めき立つ怪盗達。今度は仮装つきである。探偵倶楽部の気になるあの子に、学園長のお怒りに触れない範囲ならば、あんな衣装やこんな衣装を着てもらうことができるのだ!
集う猛者達。ヨコシマな想いを胸中に抱えた者、そんなものに興味などないが純粋にゲームを楽しみたい者、顔ぶれは様々だが、皆一様に同じ目標を持っている。
「逃げ切るぞ!」
数人の怪盗がスタートラインに立ち、一斉に街へと飛び出した。
探偵の威信をかけて追いかける部員たちを欺き翻弄するように、幾人もの怪盗たちが街を駆け巡る。
「なんだか怪盗が大量に現れているようだが、俺は一味違うぜ? 俺が盗むのは女の子のハートだっ!」
怪盗百々こと百々 清世(ja3082)は、チャラい外見に違わぬチャラい発言を残し、人込みの中へと消えた。
百々の言葉を偶然耳にした部員・二上 春彦(ja1805)は呟く。
「女の子のハートを盗むだなんて……ご冗談を」
語尾にカッコワライ、と付きそうな笑みを浮かべ、二上は百々の背を追った。このまま放っておけば部員の誰かが百々の魔の手に落ちかねない……それだけは避けなければ。
他部において百々と面識のある二上は、彼の逃げ込みそうな場所を把握しているつもりだったが……
「ふむ。近くにいる気配はするのですが……?」
足を止め、辺りを見回すが、百々の姿はどこにも見当たらなかった。
「どうせまた、女性に声をかけているのでしょう」
自他共に認めるチャラ男・百々のことだ、学内の少女達よりも遊び慣れた女性のほうに興味を持つはず。
そう判断して二上は早々に、残念な先輩の捜索を打ち切ることにした。
――ちなみに後日、他の出店において文化祭デートに興じる百々と二上の姿を目撃した生徒が存在するという……。逃げ切った百々への罰ゲーム……もといご褒美だったのだと専らの噂だ。
このように数々のハプニングを巻き起こしつつも、怪盗と探偵の戦いは重ねられ、最終的に22人の名怪盗が生まれた。
対して、散っていった怪盗は26人。この度の怪盗軍団と探偵倶楽部との戦いは、こうして探偵側の勝ち越しで幕を閉じたのである。
さて諸君、楽しんで頂けただろうか。
自分に関する言及がないからと悲観してはいけない。ここに記されたのは、観測された有象無象のうちほんの一握にすぎないのだから。
その証拠に……楽しかった日々は、君達の、そして仲間達の記憶にしっかりと焼きついていることだろう。
この報告書がその記憶を呼び覚ますための鍵となることを、私は祈っている。
