.








2011文化祭 3-C マスター:クロカミマヤ

 以下にしたためるのは、新聞同好会会長である中山寧々美(jz0020)が、自らの足と情報網を駆使して収集した、第一回久遠ヶ原学園文化祭の模様を伝える新聞記事である。
 紙面は無限ではない。そのためこれらの記事がすべて学園新聞に掲載される訳ではないが――新聞同好会の部室には、これらの記事は久遠ヶ原学園リニューアル当初の資料として、長きに渡り保管されることになるであろう。

 【廃墟の教会】では喫茶所を提供していた。店の名はドイツ語で癒しを意味するそれだ。
 喧騒から離れたオルゴールの音色響く古びた教会の片隅で、ハーブティを提供しながらクルクス・コルネリウス(ja1997)は静かに時を過ごしていた。
 カランと来客を告げる鐘が鳴る。クルクスはおもむろに視線をあげ、にこりと微笑んだ。
 「このお店を彩るのは直感、閃き、そして隣人愛。ようこそ、『Heilen――ボーイズバー』へ」

 【放課後珈琲倶楽部】はクラブ名に違わず『ワンショット珈琲』店を出店。ショットバーのような雰囲気で立ち飲みができる、珈琲党にとっての安らぎスポットである。
 部長の国友 司(ja2957)が用意した数種の中から好きな珈琲を選べるが……肝心のポットには何も書かれていない。どんな豆、どんな淹れ方のものが入っているかは飲んでみるまで分からないのだ。
「あぁ、旨いコーヒーが飲みたいな。……もちろん苦めで」
 サングラスの忍者・響 彼方(ja0584)は、呟きながらセルフで注いだ一杯をぐいっと傾ける――が。
「あ、甘……っ!」
 砂糖とミルクたっぷりの珈琲に、思わず叫ぶほど衝撃を受けたのであった。

 【昼寝愛好部】にとっては文化祭の喧騒など別世界の出来事だった。
 部長の篠田 沙希(ja0502)は、部のいつもの光景を忠実に再現した『休憩処・昼寝空間付』で、足を休めに来た客人をもてなした。
 訪れた客人がこたつへ視線を向けると、部員の天沢 紗莉奈(ja0912)が中からひょっこりと顔を出す。
「よければ、くつろいでいくといい……」
 他の出店を偵察に行っていた田穂 和季(ja1134)も部室へ戻ってくると、遠慮がちにこたつへと足を差し入れた。
 同じく歩き疲れて戻ってきた水無月 湧輝(ja0489)は、篠田から煎茶を受け取りつつも、客人を歓迎する気づかいを忘れない。
 遅れてやってきた神凪 宗(ja0435)は、頭に三毛猫を乗せたまま、皆が囲む卓の上にミカンを置いた。
 そう、騒がしさとは縁遠いこのような場所も、久遠ヶ原には当然のように存在しているのだ――。

 【伝統芸能同好会】の畳敷きの部室では、鈴木悠司(ja0226)が『体験!伝統芸能』コーナーを開いていた。
 和菓子につられる者、純粋に興味を持った者、様々な生徒たちが入れ替わり立ち替わりやってきては、あふれる才の片鱗を見せていた。
 中でも鴻池 柊(ja1082)は、実家が置屋という環境もあってか素晴らしい舞を披露。ブランクを感じさせないしなやかな舞いには、観衆も称賛の拍手を贈った。
 同様に日舞に挑戦した海外出身のエシュリー アロール(ja0387)も、不慣れながらどこか将来性に期待を持たせる踊りを見せた。学園内ではこのような異文化交流も行われていたようだ。

 【抜刀同好会】の『侘処』ではロシアンおにぎりとみそ汁の提供を行った。
 おにぎりは高級食材から残念食材まで豊富に取りそろえ、食べ残し厳禁というある種のデスマッチだ。
 部員の草薙 宗司(ja2119)と神崎 直人(ja1583)も暇を見つけて部に戻ってきては、おいしい(※ダブルミーニング)おにぎりに下鼓を打った。
 彼らを筆頭にハズレのハバネロみそやわさび、ジャムなどを引く者が続出する中、碧空 燦羽(ja0192)は黙々とエビフライを揚げていた。
「早いとこ……済ませてしまおう、エビフライ……」

 【中等部3年1組】の教卓の上には、巨大な青い箱が設置されている。
 箱の中から紙を一枚引き、書いてある質問の答えを備え付けの白紙に書いて掲示する『みんなへの質問箱』という企画だった。
 クラス委員の荘崎六助(ja0195)が設置した箱の中には、インタビューされたい願望のある学生たちが次々とやって来ては、真剣なまなざしで答えを書きこんでいった。
 最終的には多くの答えによって黒板が埋まることとなったが、その中でもとかく異彩を放っていたのは、天(ja1839)が残していったと思われる『天ちゃん けつえきがたS! せいざオトメ!』と書かれたメモだった。
 だが同時に、無人島に持っていきたいもの3つ、の問いに対し『テント一式・非常用セット・保存食一通り』と明らかなチート回答を残していった獅堂 遥(ja0190)の存在も忘れてはいけない。

 所変わってお隣、【中等部3年2組】では『仮装喫茶』が催されていた。クラス委員を代行する白虎 上総(ja0606)が用意した喫茶スペースでは、思い思いの仮装に身を包んだ生徒たちが机を囲んで談笑している。
 執事風の衣装に身を包んだクラスの生徒――御琴 涼(ja0301)がエスプレッソにスチームミルクを注ぎ、美しいラテ・アートを描き出すと客人はみな感嘆の声をあげて彼らに拍手を送る。
 いつもとは違う衣装で客人をもてなす御琴の姿に、訪れた寮の友人・井沢 美雁(ja1243)もどこか楽しげだ。
 同クラスのメンバーも暇を見て教室を訪れ、意欲的に活動している。
 ピンク色のふわふわした髪が印象的な椎名結依(ja0481)はかわいらしいメイド服に猫耳・猫尻尾姿で登場し、男性客の視線を一身に集めた。落ち着いた物腰の永倉 藍里(ja0451)は、仮装喫茶でありながら仮装になど興味がないといったクールさで、黙々と喫茶の手伝いを続けている。
 遅れてやってきた蘇芳出雲(ja0612)は着替えるタイミングを見失ってしまったが、私服が全面的に認められている久遠ヶ原学園においては、通常の学生服のままでも十分仮装のように見えたので問題ないだろう。
 店員の手際に見惚れた者のうち幾人かは自らもチャレンジするなど、教室内は明るい空気に包まれた。
 初心者には難しいとされるハートも難なく描ききる少年少女の中には、なんとクマさんを描いたつわものも居たのだという噂だ……。

 【猫の会】からは猫を呼び寄せて戯れるだけというシンプルかつ大胆で素敵に無敵な出し物が用意された。
 『猫のたまり場』と化したこの場所には、学園の方々から噂を聞きつけた猫フリークの皆さんがそろい踏みとなった。
 この場を用意した零那(ja0485)はたくさんの猫に囲まれて有意義な時間を過ごしたようだ。

 【買い物部】では当然、買い物にちなんだ出店が用意された。
 とはいえ単なる物販ではなく、動物たちとのふれあいが可能なペットショップ『動物ふれあい広場♪』である。
 久遠ヶ原にやってくる際に、実家にペットを置いてきた者も多くいるのだろう。
 ペットのもたらす癒しに触れて、思わずそのままお持ち帰りコースに突入する生徒の姿も見られた。
 麻生 遊夜(ja1838)は犬を、二階堂 かざね(ja0536)と巌瀬 紘司(ja0207)は猫を、それぞれこの地でのパートナーとして迎え入れたようだ。
 彼らに引き取られた動物の子供たちが健やかに育ち全力で愛されることを、店員や買い物部の部員達も願っていることだろう。

 【読書クラブ】では、快適な読書のお共に必要不可欠な『しおり作り体験コーナー』が開かれていた。
 部長の崔 北斗(ja0263)の指導を受けながら、集まった生徒たちは思い思いに好みのしおりを作り上げた。
 不破 イヅル(ja1167)は大胆に猫の写真をあしらった、マニア受けしそうな威圧感たっぷりのしおり。
 亀山 淳紅(ja2261)は青い台紙に白い花を落としたシックなデザインのものを作り、姉へのプレゼントにしたようだ。
 定規をしおり代わりにしていた君島 央(ja3295)も、満足いく自分だけのしおりを手に入れたようだ。
 しかし一番人目をひいていたのが、巨大な身体を小さく丸めてしおり作りに勤しむパンダ……もとい、ミスター久遠ヶ原こと下妻笹緒(ja0544)の姿だったことは間違いないだろう。

 【武装応援団】の部長・嵐山 巌(ja0154)は、校庭の一角に舞台を設けて、悩める学生を『みんなで応援!』する出店を展開。
 人助けを謳うこの試みに賛同した多くの教師・生徒が校庭に集う結果となった。
 部長はもちろんのこと、部員たちも積極的に応援活動に参加。
 ラティシア フォーク(ja0832)は持ち前の礼儀正しさを全面に押し出した可憐な仕草で。神宮司 千隼(ja0219)は快活な性格が顕著に表れる全力投球の応援。寺生 丁花(ja0974)は真面目さが伝わってくる真摯な態度で。Nicolas huit(ja2921)は類稀なプラス思考を皆に披露するように。
 皆思い思いの方法で、悩める生徒達にアドバイスを交えた応援の言葉をかけていた。
 舞台を中心に広がった生徒の輪は、終始明るい雰囲気に包まれ、会場を後にする者たちはみな一様に、心の中に広がっていた霧が晴れたように晴れやかな笑顔を浮かべていたという。

 そして【妙に動物の集まる場所】――生徒の間ではそう呼ばれている、実質的なところの飼育部。
 ここでは部長の与那覇 アリサ(ja0057)が中心となり、いつもの場所に『焼きそば屋台と休憩所』が登場した。
 焼きそばにゴーヤ味のソースがトッピングできたり、飲み物のメニューにはゴーヤ茶やシークヮーサージュースが名を連ねたりするなど、彼女の郷土である沖縄の味覚も数多く取りそろえられていた。
 特筆すべきはやはり、当然のように用意されていた罰ゲーム……もといハバネロ焼きそばの存在である。
 他、ゴーヤ(わた入り)の苦みに悶絶する生徒が続出するも、あえてウチナーの代表的な辛味調味料・コーレーグスを追加注文するつわものも出没。
「メンソーレー! ハイサーイ、少々お待ちをなんだぞっ」
 動物達に囲まれて食べる沖縄風の焼きそばに、部長の明るい笑顔。集った生徒達の顔からは次々に笑みが溢れたようだ。

 【魔法少女部】では猫野・宮子(ja0024)を初めとする魔法少女たちが出店を準備。
 『魔法少女と握手♪』できる会場のほか、彼女らと契約してマスコットになれる催しも行われた。
 訪れた生徒たちは、部所属の魔法少女たちの手によって次々と契約させられ……もといマスコットの着ぐるみを着せられた。
 特に竜のマスコットへの変身を求められる者が多く、不思議と定番であろう猫などは登場しなかったようだ。
 これは推測だが、久遠ヶ原に点在する猫系部活との住み分けを行う目的で、どこぞの神様が調整機能を発動させたのだろう。
 部に所属する魔法少女やライバル魔法少女はもちろん、単に魔法少女を愛する者や、マスコットを愛する者の姿も見られ、部内は大変なにぎわいを見せた。
 この日は突然絶望して魔女化する者が現れることも無暗にタイムリープを試みる者もなく、平穏無事にイベントは終了したという。
 今後も魔法少女部が平和であることを久遠ヶ原学園の生徒は皆、心から願っているだろう。

 【廃墟近くの学生寮「九頭蓮荘」】では、寮周辺の風情ある趣を有効活用した催しが行われた。
 お察しの通り、『廃墟でお化け屋敷』である。
 九頭蓮荘にほど近いいわくつきの廃墟ビルを、寮に住む生徒たちが危険のないように修繕し、恐怖スポットとして解放した。
 寮長の紅葉 虎葵(ja0059)が受付を行い、寮生のうち幾人かが脅かし役として参加した。
 玖神 周太郎(ja0374)は吸血鬼のような衣装を身にまとって客を待ち、八重垣 九重(ja2295)は白い着物に着替えて髪を垂らし、おどろおどろしい雰囲気を演出する。玖珂 一(ja0812)は、ハロウィン騒ぎに乗じてカボチャのお化けの仮装をしてビル内を練り歩いていた。
 ――だが、いわくつきの場所はやはりいわくつきだ。
 肝試しに心ひかれた久遠 栄(ja2400)は、想像以上の暗さと不気味さに怖気づきつつも、ビルの中をゆっくりと進んでいく。
 チェックポイントに置かれたノートを見つけると、中を廻った証明としてそこに名前を記そうとペンを取る。
 しかしその時。ポンと肩に手を置く存在に気付き、久遠は反射的に返事をした。
「ちょっと待ってなよ。今から書……」
 しかし同時に思考が停止する。自分は確か、ひとりでこの場所にやってきたはず――
「うぎゃぁぁあああ! でぇぇぇえたぁぁあ!」
 ビルの内部に彼の悲鳴がこだまする。その声は当然、脅かし役として内部を徘徊する者の耳にも飛び込んだ。
 血ノリまみれの模造斧を担ぎ、ホッケーマスク姿で内部を徘徊していた竹林 二太郎(ja2389)は、聞こえてきた何者かの悲鳴に怖気づき、自らも待機位置を変えるべく慌てて立ちあがる。
 ……と、そんな彼に声をかける者がいた。
「ご苦労さまです。脅かし役頑張ってくださいねぇ」
「え? あ、はい。がんばりま……」
 気配を感じ竹林は振り向く。しかしその場にあるのは、もの言わぬ無機物のみ。
「――!」
 マスクに斧を持ったいでたちのまま、竹林は急いでその場を後にしたという。

 最後に記すのは【放浪図書館】についてだ。
 しかしこの部の出店については、謎が多くここに正確に記すことが難しい。
 なぜならこの出店へは、久遠ヶ原学園のどの場所からも行くことができず――しかし同時に、どの場所からでも訪れることができるというのだ。
 幽霊という怪奇現象を扱う記事よりも不思議な現象というものが、この学園内に存在するというのだから、いささか疑問が残るものだが、その存在を観測した生徒がいることもまた事実。
 ここでは、実際にこの図書館で文化祭中に起こった事象を観測した、ある生徒の言葉を紹介するに留めよう。
 ――姉川 瞳子(ja1908)はこの不思議な図書館について、微笑を浮かべてこう語ったという。
「我らが図書館も、祭り事に便乗して悪ふざけしてしまったようですね」

 どうやら、中山寧々美の調査はここでいったん中断されたようだ。
 彼女は他にもさまざまな部に顔を出し、取材を行っていたようだが――おそらくその模様と成果に関しては、次の学園新聞で明らかとなることだろう。







推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ