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2011文化祭 3-A マスター:由貴珪花

●始まりの運試し
 東の果てから西の果てまで、どの地域にも必ずと言っていいほど存在する文化がある。
 それは占い。
 占いは人々の心を左右し、人々の未来へ過去へと小石を投じる。
 撃退士といえど、中身はただの人間で。
 そして学生という年頃は、得てしてそんな文化が好きなものである。

「と、言うわけで今日のラッキーアイテムは何か、くじで占う場所かしら」
 【占い部】の『ラッキーアイテムクジ』。
 クジは占いなのかと聞かれると考えてしまうが、そこは文化祭。
 細かい事は気にしないが吉だ。
 かしら、が特徴的な口調の卜部 紫亞(ja0256)は、雀原 麦子(ja1553)と七海 マナ(ja3521)に説明を始めた。
「運試し、運試し♪」
「助かるよ。今日は運がなくてね‥‥っと」
 二人はごそごそと箱の底を引っ掻き回し―――これだ!
 高鳴る胸を押さえつつ‥‥というほど大層なものではないが、こういう物は何故か緊張を感じたりするものだ。
「ふむ、雀原さんは万年筆。そちらの七海さんはイヤリングかしら」
「万年筆?‥‥缶ビールの底に穴でも開けて飲むの?」
 ああ、まさか女物を引いてしまうなんて。やっぱり今日は運がないんだ――。
 頓珍漢な事を呟く麦子をよそに、麗人の海賊は肩を落として出店を後にした。

●運試し、からの負傷
 ダァン!!
 新田原 護(ja0410)は目の前を通り過ぎる弾丸を見て、ふぅと息を吐いた。
 ハラハラドキドキ『ロシアンルーレット会場』。実弾らしき何かを使用するあたりが、実践的な【戦技研究会】といえるだろう。
 いくら自分達撃退士が頑丈に出来てるとはいえ、それと恐怖は別問題。しかも当たると罰ゲームで精神的にも痛い。
「さて、次の罰ゲームは対人強化型催涙ペイント弾での挑戦だ。なに、当たらねば問題あるまい」
 ハバネロエキスに諸々を混ぜた催涙弾。‥‥催涙弾というレベルで済むかどうかは些か問題だが。
 目を防御するためのゴーグルを置いておくのは彼なりの優しさか‥‥。

 さて、そんなことも知らずふらりとやってきたのは春永夢路(ja0792)。
 かれこれ3回目の挑戦だが‥‥今までなかったはずのゴーグルがある。つまり『何かがある』のだ。
 しかし自分はまだ一度も被弾していない。いけるのではないか。しかし危険なのではないか。
 リボルバーに入った弾は3つ。確立2分の1の運試し。
 ごくり。一つ唾を飲み下し、トリガーを引いた――。
「いたあぁっ!?っていうか目が、目ーーーがーーー!!」

●負傷、からのB級グルメ
 そして兵どもが夢の跡――。
 死屍累々。
 文化祭というイメージとはかけ離れた単語であるが、この凄惨な現場にこれ以上ぴったりな単語はないだろう。
「AOJIRUが!!AOJIRUっ!!」
 びくんびくんと体を痙攣させながら、兜みさお(ja2835)は悪夢にうなされている。
 夢の中でも悶絶するほどの、壮絶な戦いがあったに違いない。
 【休憩所「野戦」】。『第八保健部』が提供する、戦いに疲れた戦士達の休憩の場だ。

 そんな荒れ果てた休憩所とは裏腹に平和な、室内の【休憩所「安息」】。
 ここは平和である、はずだった。黒葛 琉(ja3453)は飲み込んだ栄養ドリンクに、軽く眉を顰める。
(しかし俺は吐くわけにはいかない。何故なら俺は美形。美形は穢れなき存在。故に吐くわけにはいかない――!)
 マズい事を知っていながら渡した地領院 徒歩(ja0689)は、琉の様子を見ながらニヤッと笑った。
 仕方あるまい、本人の希望で出したメニューなのだから。
 何とか飲み下したのち、平然とした風を装って、ぽつり、つぶやく。
「おまえ、凄いウデだな‥‥」
「‥‥いや、別にお前が考えてるようなマッドサイエンティストじゃあないからな?」

●B級グルメ、からの限界突破
 名前からして既にB級どころじゃない威厳をかもし出す【蒼汁同盟】。
 何故こんな同盟が結成されるに至ったのか、まずはそこから問いただしたい。
 しかしそれより、目の前の4倍カルボナーラが問題だ―――。

 楯清十郎(ja2990)は、減らないパスタと格闘していた。
 教室の黒板には『デカ盛りチャレンジ☆』と、これまたでかでかと書かれている。
 そしてその様子をイイ笑顔で見守る鳴神 裁(ja0578)。手には不気味な色をした『蒼汁』が待機済み。
 既に挑戦者は多数。犠牲者も多数。
 ‥‥そしてまた新たに一人、限界の先の天国へ足を踏み入れる。
 食べ残しが確定した清十郎の前に、原材料不明の『蒼汁』がゴト、と置かれた。
「はーいお疲れさまー☆ 4倍濃度の蒼汁でーす」
「出された物を残すとは不覚……いかせて頂きます!!」
 そして残されたのは、4分の1程度残ったカルボナーラと、イイ笑顔で気絶する清十郎だった。

●限界突破、からの開放
「その女らしさを俺に寄越せえええええええええッ!」
「もっと、ぼきゃぶらりぃとやらがほしいでござるうううーー‥‥ぅぅ」
 【青春謳歌研究会】による『大声大会』は、とにかく何かを叫んで自分を解放し、その声の大きさを競う大会である。
 叫ぶ事が青春に繋がるかどうかはさておき、こういう場では得てして普段抑えられている気持ちが爆発するものだ。
 掃守 由秋(ja2561)は典型的な例と言える。男として過ごしてきたがゆえの、女らしさへの渇望。
 逆に600満点中1点を叩き出した矢崎 十夜(ja0054)は、
 気持ちが発散できない上に風邪っ引きの喉を更に痛めるという散々な結果。
 次々と叫んでは、点数に一喜一憂していく若者達。

「青春のシャウトはいいものだねぇ、うんうん」
 彼らを見て満足そうに笑いながら、笹鳴 十一(ja0101)と青空・アルベール(ja0732)は、併設された『喫茶所』で
 自我の発散を終えた挑戦者達に料理を振舞っていた。
 十一が腕によりをかけた食事の数々に、挑戦者達は舌鼓。
「みんなナイス青春ー☆ 文化祭賑やかになってきたねー、嬉しいなー」
 2人は若者達の叫びを聞いて満足気に微笑む。よく遊び、よく叫び、よく食べる。なんという青春。
 『青春』という言葉の魔力か挑戦者は絶えることなく、十一とアルベールも若者達を歓迎する。
 忙しいながらも充実した時間。これもまた一つの青春のカタチなのだろう。

●開放、からの謎解き
 皆さんは『水平思考』というものをご存知だろうか。
 一見不可思議な説明文から状況を推測していく、言葉遊びと推理ゲームを足したような遊びだ。
 質問を繰り返し一歩一歩真実に迫る。その感覚に魅せられた者たちが集まるのが【水平思考愛好会】。

 集まった名探偵たちを前に、領原 陣也(ja1866)は少し大げさな口調で問いかけた。
「では問題です。『ミキはよかれとおもって慶介の勉強を妨害した』‥‥状況を補完してください」
 しばしの沈黙。
 考え込んだ顔のまま、最初に口を開いたのは君田 夢野(ja0561)。
「勉強というのは受験勉強かな?それとも何かの試験?」
 そして、出題組の志筑はやて(ja2462)が「NO」と答えた。
 出題側は基本的にYESかNOのどちらかで返事をする。聞かれた内容に対する最低限の回答を繰り返していくのだ。
「ふむ‥‥では、慶介は健康体でしたか?」
 次いで、斐川幽夜(ja1965)が質問する。これは「YES」と回答された。
 ではこれはどうですか、こんな事はありましたか。
 問答は繰り返され、条件が出揃う。

 いくつもの疑問、そして回答。まだ解けぬ謎。
 繰り返される問答の果てに、答えは導き出されるのか‥‥。
 謎を解き明かすのは、貴方かもしれない。

●謎解き、からの脱出
 ずべしゃあああっっ!!
 豪快な泥飛沫を上げて、泥プールの中に飛び込む少女。
 端整な顔立ちが茶色く塗れ、彼女――葉山 彗(ja1336)は顔をぶるぶると振って視界を取り戻した。
「うわぁ‥‥泥まみれじゃないですかー!風邪ひいちゃいます‥‥」
 【第一世界歴史文化研究会(仮)】主催による脱出ゲーム、もとい、壁抜けゲーム。
 彗に駆け寄った球麻 碧流(ja0166)の肩には、『いあ!いあ!脱出ゲーム』と書かれたタスキが掛かっている。
「あらー‥‥大惨事。あっちでシャワー優待券貰ってねー。はい、着替え用のジャージ」
 泥も滴るいい女‥‥というのは流石に流行らないだろう。
 碧流は苦笑いと共にタオルとジャージを差し出し、風邪を引かないうちにシャワーへと案内した。

 一方舞台裏。
 巨大タコの着ぐるみで挑戦者を驚かせる役の宮内 勇亀(ja0150)。
 改めて巨大タコをまじまじと見つめてみる。自分で作ったとはいえ、中々リアリティ溢れる会心の出来だ。
 ぬめる体躯。艶めく吸盤。蠢く触手は――9、10、11、12‥‥‥‥おや?
「――――〜〜ッッ!!!」
 ‥‥その後しばらく、勇亀の姿は確認されなかったという。

●脱出の後の光
「では、目くるめく星の世界をお楽しみください‥‥」
 そこは一歩踏み入れば煌く星の海。全方位を囲む立体星座盤。
 『月夜の道』と銘打ったその簡易プラネタリウムは、【星空観測部】のお手製。
 ‥‥大層な設備ではないが、お手製ならではの温かみがそこにあった。

 兼ねてよりここは気になっていた、どうせ今日で終わるのならば。と
 四方月氷雨(ja0551)は文化祭最終日になってようやく訪れたのだ。
 まるで満天の星空の下を散歩するような。迷路だという事を忘れてしまうような。
 ひとつ、ふたつと星座を指でなぞりながら、歩いていく。

 ハロウィンらしく黒いマントを羽織った少女、月隠 紫苑(ja0991)は、隣に座る柴犬の『千代』と2人で客を見送った。
 紫苑は星の世界へ送り出す係、そして千代は秋の陽が差す現実へと迎える係だ。
 自分達は案内人。星の海の道標。
 紫苑は千代をそっと撫で、にこ、と静かに微笑んだ。


 文化祭も終わり。
 星のような煌き、星のような灯。
 天魔跋扈す暗澹たるこの世界。
 一瞬の光なればこそ、人は眩く輝くのだ。

 目いっぱい笑って、目いっぱい遊んで。歌って。泣いて。踊って。笑って、笑って。
 たくさんの想いと共に、戦いの日々が始まる――。







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