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文化祭ノベル マスター:ArK

 入学から数ヶ月――肌寒くなり始めたこの季節において、寒さを寒さとしない元気な若者等の祭典が開かれていた。



「おう! らっしゃい‥‥じゃなかった。いらっしゃいませー、いらっしゃいませー、ただいま焼きたてのお菓子がございますよー」
 威勢がよい呼び込みをする長身のメイドはカルム・カーセス(ja0429)。メイド服姿だが男である。なぜこんなことになっているかというと――
 ここは【お菓子は正義! つまりお菓子部!】が主催の『ツインテ喫茶』。店員はメイド服を中心にした和洋給仕姿の部員達。髪型は年齢性別問わずツインテールで統一。
「はっはっはー、カーセスさん楽しそうだね! その調子で接客おねがいねー、私は接客にもどるっ」
 とても楽しそうな彼女こそお菓子部部長の二階堂 かざね(ja0536)だ。
「うふふ、美味しそうな香りにさそわれてきちゃった♪ せっかくだしこの『運任せメニュー』をお願いします」
「はい、それでは、‥‥これを‥‥」
 ソフィア 白百合(ja0379)にあおい(ja0605)がサイコロを手渡す。ソフィアは不思議がりながらもお盆の上にサイコロをころり。
「‥‥緑茶と、羊羹です、ね。少々お待ち、を」
 出目によりオーダー内容が決定されるシステムらしい。あおいは内容を確認するとテーブルを離れた。
 客も店員も和気藹々。このまま楽しいひと時を、と皆がくつろいでいたそのとき。突然大きな音を立てて崩れ落ちた人影がふたつ。
「ド、ドラヤキ‥‥が――」
「こ、このドラ、ヤキ‥‥は」
 四十宮 縁(ja3294)、無明 行人(ja2364)等がその場に崩れ落ちた。
「お客様大丈夫ですか!?」
 部員のひとり、水無月沙羅(ja0670)が慌てて駆け寄り、手早く容態を確認する。
「‥‥目を回しているだけのようですね。お休み頂いてる間に口直しメニューをご用意致しませんと‥‥」
 命に別状がないことを確認した沙羅は、二人を椅子に座り直させ、奥へ消えていった。
 飲食店にあるまじきハプニングにざわつく客たち。
「はいはい、みなさーん、落ち着いてくださーい。これが運試しの醍醐味! ちょっとしたハプニングですよー! そんな中、特製ドリンクを引き当てたお客様が!」
 怪しいドクロマークが描かれたグラスに注がれている緑色の液体。
「緑茶を頼んだはず、だが‥‥甘い香りがするような」
 佐倉 哲平(ja0650)がかざねに言葉をかける。
「はい〜よい嗅覚です! 濃い目の緑茶に隠し味としてちょっぴりミックスベリーヨーグルトを添加〜」
「隠し味、なのか? ‥‥まあ、いただこう‥‥」
 周りの客が見守る中、液体を口にする哲平。――すごくおいしい。
 声にならない感動が頭に響いた、気がした。
「他にもツインテ体験サービスとか、記念撮影もあるから気軽に声をかけてねー!」


 光るサブマシンガン。狙う的は遠く、放たれる弾丸。響く――悲鳴?
「はわわわわわ!? こ、これは‥‥!」
 或瀬院 由真(ja1687)の声が振動に合わせて震えた。発射された弾丸は可もなく不可もなく的に穴をあけている。
「こ、これはすごかったです。ありがとうございました」
 初めての経験にいまだどきどきしている様子の由真。
 ここは【シューティングスターズ】が出店『ランダムガンパレード』。選ばれる銃はその名の通りランダム。
「さあ、次は誰かな。特別賞はまだ出てないよ? 最初の記達成者はきみになるかもね」
 部長の火柴 希(ja1302)が参加者の結果を確認しながら静かに煽り立てる。
「よし、次は俺が‥‥って、ショットガンで早撃ち!? こりゃわからないな〜」
 引き当てた銃を目にし、難題だと頭を抱える不破 玲二(ja0344)。結果は芳しくなく、肩をすくめて残念がる。
「得意なリボルバーだ‥‥! チャンスだなッ」
「こちらも‥‥アウル全開!」
 続いてインフィルトレイターとして腕に覚えがある蔵九 月秋(ja1016)やALNasrALWaaquiu(ja0617)が挑戦。しかし残念ながら特別賞の点数には及ばない。
「ん〜‥‥この点数難しかったかな〜‥‥でも今更――」
 銃の手入れをしながら流れを見守っていた希がぼやいたのとほぼ同時か。射撃場が沸き立った。
「ふう。こんなところかな。あと6点で満点だったのに‥‥」
「勝てなかった、か――」
 なんと一挙に2人も登場した達成者。名はジネット・ブランシャール(ja0119)と吾妻江漣(ja1682)、
「って、どっちも部員。おいおい‥‥」
 顔を確認した希は、突っ込みをいれながらも特別賞の景品を渡していた。


 夜店でよく見かける、ごくごく普通の水槽がひとつ。
「さぁさ、みなさんいらっしゃいませ。マイナーで申し訳ないのですが、ひとつ思い出にいかがです?」
 魅惑の笑みを浮かべるのは店主早乙女ミズキ(ja2004)。その笑みに惹かれ、ひとり、またひとりと客足が伸びる『金魚すくい・特別仕様』。主催は【オトナの茶屋−自由奔放−】。
「はわわ、金魚すくいですか!? ユキにもやらせてくださ〜い♪」
「私にもポイを」
 と、羊山ユキ(ja0322)や綾瀬 歩(ja2274)が挑戦。安定したポイさばきを披露し、どちらも非常に好成績。ミズキもにこやかな微笑みを返している。
「おっし! 俺が新記録だしてやる!」
 それに闘志を燃やす大狗 のとう(ja3056)。意気込み十分に突撃、そして掬い上げたるは――なぜか新鮮な牛肉の塊。無論質問はあったが、ミズキは答えず妖艶に微笑むのみ。
「おいおい、騒がしいぞ!? こっちは集中して‥‥っと、こいつなら掬えそうだ!」
 牛肉問答に突っ込みをいれながらも、神宮司 千隼(ja0219)が獲物を見定め――
「って、なんだぁ!? これ、怪獣!? ぅお! 掬う前に気づけ俺ぇええ!」
 どうやって現れたのか謎極まりないが、突如『怪獣』としか表現しがたい生物が掬われる。助けて女将、と叫ぶ千隼、だがしかし。
「あら、ごめんなさい。食物屋の方からよばれてしまいましたの。すぐ戻りますのでそれまで遊んでいてくださいな♪」
 複数の出店をひとりで切り盛りしているミズキは、涼しげに微笑んで姿を消してしまった。 残された千隼はひたすら救いを求め続けるしかなかった。


 地下を部室にしている【さけぶ!】は、部長である井沢 美雁(ja1243)を筆頭に、文化祭専用の『地下迷宮』を作り上げた。
「え、ええ? それはちょっと‥‥」
 羽鳴 鈴音(ja1950)は遭遇した相手を前に言葉を失った。こともあろうか、ミノタウロスからマッサージの申し出を受けたのだ。断るも断りきれず、鈴音は怪力マッサージで気を失うことに。
 また――
「ここは地下何回まであるのだろうか?」
「ダンジョンといえば、ちか666かいをめざしますよね」
 と、あえて脱出ではなく、果てを探そうとする鷺谷 明(ja0776)やニコン(ja3132)のような者も。
 そして――
「ん、迷い人か?」
「ええっと‥‥このダンジョンに住んでる人ですか?」
 運良く巡回していた部員柊 夜鈴(ja1014)に出会うことができたシエラ・フルフレンド(ja0894)。
「こんなとこに住まんよ。まあ、よければ出口まで送ろう」
「わあ、ありがとうございます〜♪」
 その出口付近では――
 レギス(ja2302)が道中意気投合した熊と共に行く手を塞がれていた。
「ちっ、パンダめ‥‥。おい、熊、お前の力を見せてやれ!」
 と、障害物に熊をけしかけるレギス。熊も素直に応じ――勝利。
「よくやった、偉いぞ。また会うことがあれば共に、だ」
 出口へ去るレギス。それを見送る熊。の、更に後ろで。
「あれ? あの熊さん、背中にファスナーのようなものが‥‥」
「きのせいだ、忘れろ」
 シエラの疑問は夜鈴によってすぐさま否定されたのだった。


 右も左もぬいぐるみ。ついでに、なぜか一部の客が着ぐるみ姿。そんな【ぐ娯る楽み部】の『ぬいぐるみ喫茶』。
「きてくれてありがとー。この子たちもよろこんでるよー」
 ぬいぐるみに埋もれて、初等部3年プルネリア・ロマージュ(ja0079)が入り口で客を歓迎。
「こゆところ、はじめてアルが‥‥夢のようアル‥‥!」
 お茶に相席してもらうぬいぐるみを探す小 紅 翼(ja3174)。
「こちら飲み物と軽食になります」
「どれどれ‥‥ん、このモンブランいいねぇ」
 鈴森 羽菜(ja0025)は九神こより(ja0478)の注文品をテーブルへ並べる。
 また同部員トロリンガー(ja0090)は裏で休憩中。緑茶にケーキという不思議な組み合わせだが、いけるとのこと。
「ここにいると聞いてたけど‥‥どこに‥‥」
 店内を見回す鳴海 鳴海(ja2970)は何かを探している様子。それに気付いたプルネリアが声をかけた。
「いらっしゃいませー。まち合わせですー?」
「店員さん? 謎のしゃべるぬいぐるみ君がいると聞いて、ちょっと」
「ん〜、あのこのことかな? そのへんにいるんじゃないかなぁ?」
 と、視線を向けた先はぬいぐるみの山。果たして謎のぬいぐるみは姿をみせてくれ――
『うふぉーい。かわいい子ばっかだなぁ! 萌えるっ!』
 ――たようだ。


 周囲に広がるは食欲そそる香ばしいかおり。ここは【お好み焼きたべ隊】の出店。
「お好みを焼くからお好み焼き! 何でも焼き上げてみせるからどんどん注文してね〜!」
 部長の七瀬有香(ja2013)がおっとりと、そして元気よく声を張り上げると、
「‥‥広島風を下さい」
「僕はもち明太をお願いしていいですか?」
 鏡極 芽衣(ja1524)、鈴代 征治(ja1305)等が注文。徐々に増える客足。そして注文はお好み焼きに留まらない。
「タイヤキ‥‥中身はチーズとカレー‥‥」
 雫(ja1894)の注文はこれまた難しいものだったが、ヘラひとつで果敢に挑む部員達。
「自分、ジャパニーズパンケーキ、テイクアウェイお一つ!」
 留学生ロビン・アンティ(ja1126)はカタコトの日本語を駆使して注文するのだが――
「ん、パンケーキぃ‥‥? む〜‥‥こっちの生地で焼けばいいのかな? 任せてっ」
 有香は単語へ素直な反応を示した。結果、菓子パン用の生地を広げ、手際よく焼き上げ。そしてソースに青海苔、マヨネースでデコレート。
「はい、熱いから気をつけてね〜」
「アリガト、ございまス!」
 見た目はお好み焼き、生地はパンケーキの素という不思議食品。ロビンはそれを日本文化の味として文化祭の思い出に刻んだことだろう。ここでいうジャパニーズパンケーキとはそのままお好み焼きのこととのこと。
「ただいま戻りました。追加の材料買ってきたのでここにおいておきますよ」
 田中 裕介(ja0917)が注文種類に応じるべく、様々な食材を調達して戻ってくると、なんでも焼けるお好み焼き店は更なる賑わいを見せるのだった。


 人の出入りが激しいだけなら、「非常に賑わっている」という表現で済むだろう。だが、この出店においては「異常に賑わっている」と表現するのが正しいと思われた。
「コスプレコスプレ、お邪魔しますよー」
 不穏なセリフを携えて扉の奥へ進むのは斐川幽夜(ja1965)。目の前に置かれているのは神社などでよく見かけるおみくじ箱。躊躇なく手をいれ、取り上げた紙切れ1つ。
「おお、チャイナ服と‥‥眼鏡か」
 紙切れ――その籤にはそうかかれていた。
「はい、それではこちらが衣装と小物になります〜。楽しんでいただければ幸いです」
 メイド服に身を包んだ部長、七尾 みつね(ja0616)は衣類を幽夜に手渡した。幽夜はそれを受け取り更衣室へ。
「おーようふく返しにきましたぁぁぁああ!」
 ずさっ、と元気よく登場したのはセーラー服姿に猫耳と尻尾を備えた天(ja1839)。
「はい、ありがとうございました〜」
 何の異常もない、きわめて通常の応対をするみつね。
 ここは【コスプレ同好会】の『御神籤コス衣装貸出』出店。籤により衣装を運に従い選出、否応なく素敵にドレスアップしていただこうという趣旨のもの。それゆえに入るも出るもハロウィンどころではない古今東西のコスプレ軍勢。
「希望衣装が選べると出たが――そうだな、海賊の衣装を頼もうか」
「メ、メイド服‥‥にアフロってどんな‥‥いや、その前に女装とは‥‥」
 天上院 理人(ja3053)や桐生 直哉(ja3043)も籤に挑戦。男女問わずの結果は一部の者に苦悩を生んでいるようだった。
「むふふ、コスプレでイメチェン‥‥それもありだな。どれどれ」
 次に籤へ挑んだのは、遊び人の気配を漂わす銀 彪伍(ja0238)。引き当てたのは白衣と――
「なんやと!? 狐耳とは‥‥イカス! 俺、この衣装でステージ歌いいってくるわ! 借りてええんな!?」
「どうぞどうぞ〜」
 すっかり気に入った様子の彪伍はみつねの許可が出るや否や、早々に着替えて部室を出て行くのだった。
 あちこちで見かけられたコスプレ姿の生徒、教職員。彼等はここから出発した者達なのかもしれない。


 ここで魅せた店はわずか一握りにすぎない。
 学園の各所で若者達の熱意が、学園生活の思い出を繋ぎ始めたことだろう。







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