文化祭ノベル マスター:マメ柴ヤマト
久遠ヶ原学園では、今年も恒例の文化祭が開催された。
学生だけでも数万人が在籍している久遠ヶ原学園の文化祭は、日本有数の祭りと比べてみても、勝るとも劣らないほど盛大に行われる。
日々、天魔との戦いに明け暮れる学生たちも、このときばかりは戦いのことを忘れ、全力で祭りを楽しんでいた。
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『イメージせよ!
今の私達は、この地球によく似た惑星『エリュシオン』に現れた零体。
このか弱い存在の俺達に与えられた能力はたった1つ…
この惑星に住むキャラクターを呼び寄せる能力、『コール』だ!』
そんな看板が掲げられている。
ここは、【闇の生徒会】が提供する、カードゲームのバトル会場『デュエルスペース』。
部長の鬼道 麗那(ja0621)が、マイク片手に参加者同士の対戦状況を解説している。
「バイオレンスな香りがする『喧嘩屋ヤヒコ』。拳と拳で語る熱い漢の闘士を感じるぞぉお。しかし! 『タオルを身につける者』が放つ謎のタオルは、そんなヤヒコ得意の喧嘩ファイトさえも封じたようだ! 勝者『タオルを身につけている者』」
「なんか面白そうな事してんなー。俺にもやらせてくれよ!」
勝負の様子を眺めていた神宮司 千隼(ja0219)が、『タオルを身につけている者』の持ち主である市川 聡美(ja0304)へ勝負を持ちかけた。
神宮司が山場からカードを一枚めくる。
「え〜っと‥‥ちょっと待ってー。これは‥‥レベルが2で〜」
ぶつぶつ呟きながら、場に出したカードは『ジャックランタン』。
「ここでハロウィンの使者『ジャックランタン』の登場だあ!」
鬼道の解説が場を盛り上げる。
「おおっとぉ! その大きな口は、あらゆる物を飲み込むブラックホールなのか!? じりじりと『タオルを身につけている者』を吸い付け、ついに飲み込んでしまったぁ!」
そして、声高らかにジャックランタンの勝利を告げた。
バトル会場は、いつまでも参加者の熱狂が渦巻いていた。
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【ライトノベル研究会】では、非常に面白い試みがなされていた。
部長の御子神美月(ja1559)が、ノベル形式でお題を出し、参加者がそれに続く物語を紡ぐというものだ。
戦闘ものなど、お題は全部で三種類用意され、御子神が書いたお題も書き物としてレベルが高く、参加者が続きを書きやすいものだ。
多くの生徒が参加し、物語を紡いでいくなか、獅子堂虎鉄(ja1375)が紡いだ物語の展開は、読んだ者たちを驚かせた。
「出だしの必殺技は笑っちゃいました。豪快さの中にも相手を思いやる気持ちがあって、まさに親分肌という感じですね。戦闘中に正座というのも面白かったです。暗いテーマが少し明るい感じになっていて、こういうのはやっぱりキャラによって違うんだなと思いました。それでも最後の一行は泣けました」
そう感想を述べたのは、お題を提供した御子神だ。
撃退士として実力が冴えない親友が、そのことに悲観的になった挙句、シュトラッサーとなって主人公の前に現れ、戦いの末、その親友の命を奪うという内容だ。
だが、そんな悲しい物語でも、獅子堂の手に掛かればギャグ要素満載の内容へと変貌を遂げた。
「獅子堂さんのは流石と言った感じかしら。題材がシリアスなのに、かなり明るく仕上げられているわね。それにくらべて私のはちょっと鬱になりすぎた気がするの」
蒼波セツナ(ja1159)が、自分の回答と比べながら言う。
「内容がシリアスなので、あまり重たくなりすぎずに熱血要素多めに意識してみたぞ。できれば、美月嬢の文章も完成させてほしいな。是非読んでみたいぞ!」
そう言うと、獅子堂は中世的な外見に似合わないほど、豪快に笑ってみせた。
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【レクリエーション部】では、一風変わった出店を提供していた。
リクエストやオーダーに従い、子羊の格好で各部の出店へお邪魔するというもので、ぴっこ(ja0236)と江宮 あぐり(ja1011)の小学一年生コンビが提供している。
「こんにちわ。何だかよくわからないけど、【科学部?】ではからくり人形を操作してお茶を運ぶゲームをやってるから、よかったら遊びに来てね?」
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、戸惑いながら依頼する。
「科学部にあたーっく!」
そう叫んだあぐりは、元気いっぱいに依頼があった出店へ突撃していった。
「おー。なんか面白そう。良かったら、『的屋そうりんかん」』に遊びにきてねー」
勢いよく出てきたあぐりの様子を見ていた九十九(ja1149)は、『ふわもこあたっく』が提供する内容に興味を惹かれて依頼を出してみる。
「【和弓同好会≪奏凛館≫】さん、あたっくー」
あぐりに負けず劣らずのテンションで、ぴっこは出店から駆け出ていった。
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「はぅあっ!」
【ローラースポーツ部】がある体育館から、そんな悲鳴が聞こえてきた。
華麗に転んだエレオノーレ(jz0046)が、後頭部を強打したのだ。
「あーうー‥‥痛いのじゃ‥‥っ! 今のはちょっとした、そう、余興なのじゃ!今度こ‥‥にゃあああっ!」
そう言いながら立ち上がろうとするが、またもや一回転半をきめながらすっ転ぶ。
「華麗ですね、違った意味で」
その様子を見ていた月子(ja2648)は、思わず呟いた。
「無理するな。頼むから無理するな」
冷や汗をかきながら、七瀬 晃(ja2627)はエルにローラースケートの滑り方を解説する。
「っていうかさ。あんまり派手に転ぶと、パ ン ツ 見 え る ぞ」
「み、見るでないのじゃ! お子様には早いのじゃっ!」
「ほほーう。どんなパンツ履いてるんだか。これでクマのバックプリントとかだったら、指さして全力で笑ってやるから覚悟しろよな」
「こう見えてっ、エルはっ、キミがみたらっとぉ! くっ、鼻血を噴くようなああっ、大人な下着なの、じゃっ!」
足元をアウルで補強し、それでもなおふらつきながら、エルは力いっぱい強がってみせる。
「ああもう、本当にじれったい!!」
無理やりエルの手をとった七瀬は、そのまま手すりまで連れて行った。
「よし、ガンバれ。チョーガンバれ!」
月子もエルに声援を送る。
「長いこと借りててごめんね。でもすごく楽しかった‥‥よ‥‥」
ローラースケートを返却しにきた青柳 七緒(ja2524)は、ローラーパック内の様子を見て、
「‥‥邪魔しちゃ悪いか。ここに置いとけばわかるよね」
苦笑しながら呟き、受付台の上にスケートと一緒に『ありがとう』のメモとマドレーヌを置いて、出店をあとにした。
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上座に座するは五十センチ程の大きさの黒猫のぬいぐるみ。胸には「総帥」と書かれた名札。
それを御神体よろしく祭っているのは、【悪の秘密結社(自称)】だ。
回転するルーレットの音と、板に何かが突き刺さる軽い音、生徒たちの歓声が聞こえてくる。
一本のダーツが軽快な音を立てて、回転する的にダーツが刺さる。
「おおお、宣言どおりになっちまったぜ」
御伽 炯々(ja1693)は、狙いどおり大きいぬいぐるみ(白)をゲットし、感嘆の声をあげた。
ダーツが刺さった場所に書いてある景品が当たるという、いたってシンプルな出店だが、ここが用意していた景品が、全てネコに関連するグッズということもあり、学園に在籍している猫萌えたちが殺到していた。
可愛いは正義である。
「できればぬいぐるみが欲しいんだよ! もふもふしたいんだね!」
四十宮 縁(ja3294)は、そんな意気込みを胸に、狙い澄ましてダーツを投げたが、『肉球プリントてぬぐい』と書かれた場所に刺さったダーツを見て、「もふもふならずなんだよ‥‥」としょんぼりする。
猫ダーツの盛況っぷりに部長の沙 月子(ja1773)は、景品を豪華にし、ちょっとした罰ゲームも加えた『ワル★にゃん★ダーツSP』という出店も登場させる。
「さあ、さあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 繁盛記念にゴージャス猫ダーツ登場だよ♪ 当たりやすくなった上、景品も豪華だよ!」
さっそく沙が呼び込みを開始すると、猫グッズに釣られた生徒たちが再び殺到した。
「ほわぁあああああ‥‥! か、かわいい‥‥!! これはいくしかない、いくしか!!」
ぶるぶる震えながらダーツを手にしているのは、愛用の武器に猫のマスコットをぶら下げているほどの猫好き、青空・アルベール(ja0732)である。
「超特大総帥をお持ち帰りするのだぁあ!!」
気合を込めて放ったダーツは、的を大きく外れ、天幕の奥へと消えていった。
「は、外れたにゃー! やっぱり難しいにゃー! そ、総帥、そんなに私にお持ちかえられたくないにゃ!? ていうか、猫耳猫尻尾の私とか、マジ需要ゼロにゃあああ!!」
突然、口調がネコ口調になったのは、沙が用意した罰ゲーム所以である。
本人は需要ゼロと言っているが、その中性的な外見と猫耳猫尻尾、語尾「にゃ」は、彼が思っている以上に似合っていると付け加えておこう。
「青空がなんかにゃんにゃん言ってると思ったら、此処かー」
友人の語尾「にゃ」に誘われるようにやってきたのは、百々 清世(ja3082)だった。
「俺も一発投げさせてもらおうかな? ぬいぐるみあたり、女の子好きそうだしー?」
いかにも軟派師らしい軽口をたたきながらダーツを投げる。
「お、なんだよ。当たっちゃったじゃん。やっぱダイスの女神様も、俺の事好きなんじゃない? いやー、モテる男は辛いにゃー♪」
タキシードを着た猫のぬいぐるみ(黒)を受け取り、心底愉快そうに言った。
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にぎやかな学園祭の出店が並ぶなか、落ち着いた雰囲気を漂わせている出店がある。
多国籍な部員が集まる【異文化研究会】は、部長であるクライシュ・アラフマン(ja0515)の祖国の祖国であるペルシャをはじめ、部員たちの祖国にまつわる郷土資料がところ狭しと並べられていた。
片隅には、様々な国や地域の民族衣装が用意され、着用することもできる。
資料ブースでは、水無月 蒼依(ja3389)がギリシャにまつわる本を、声を掛けられたことに気付かないほど真剣に読んでいる。
資料ブースの隣にある『ドネルケバフ販売所』では、垂直の串にスライスした肉を上からさせいて積層し、水平に回転させながら焼くという中東の郷土料理、ドネルケバフを提供していて、焼けた肉の香りに食欲を刺激された生徒たちが多く集まっていた。
「ふむふむっ‥‥色々お肉あるのですね〜っ?」
シエラ・フルフレンド(ja0894)は、口元にこぶしを当て、真剣に肉の種類を選んでいる。
「すっごく無難ですけど、まずは牛肉をいただけますっ? 」
「よし、今作るから待っててくれ」
有田 アリストテレス(ja0647)がオーダーを受け、ケバフの作り方を復唱しながら調理に取り掛かった。
「おまたせ、これが牛肉のドネルケバフだ!」
「わ〜いっ、ありがとうございますですっ♪」
差し出されたケバフを受け取ったシエラは、さっそく頬張る。
「これはまた、焼けた肉の匂いが食欲をそそりますね。羊肉でひとつお願いします」
匂いに誘われてやってきた楯清十郎(ja2990)は、数ある肉の中から羊を選んで注文した。
「羊肉だな、了解した」
クライシュが慣れた手つきで手際よく調理する。
「お待ちどう様、火傷しないよう注意すると良い」
そう言いながら、まだ熱々のドルネサンドを手渡した。
「うん、美味い。クセが強いって話は良く聞くが、気になるほどではないですね」
渡されたドルネサンドを一口食べ、楯は予想以上の美味しさに舌鼓を打った。
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数ある出店の中には、目見麗しい執事執事達が出迎えてくれるという喫茶店がある。
【より良い学食ライフを考える会】が提供している『執事喫茶「KUJO」』がそれだ。
「お待たせしました、紅茶はダージリンとシフォンケーキをご用意させて頂きました」
執事服で身を固めた酒々井 時人(ja0501)は、それらをテーブルに並べると、「ごゆるりとお寛ぎ下さい」と言って、深々と頭を下げた。
「お、来た来た! ありがとーな♪」
真宮寺 神楽(ja0036)は、目の前に並べられたデザートに瞳を輝かせる。
出店運営の合間に、息抜きと休憩をかねてここへやってきた真宮寺は、ここの落ち着いた雰囲気とシフォンケーキの程よい甘さに、疲れた身体が癒されていくのを感じた。
一方、大ビンゴ大会の会場は、猪狩 みなと(ja0595)の宣伝効果もあって、来客で溢れかえっている。
「これで十個開きましたが、まだ三つ揃いも出ないみたいですねー。次の数字は‥‥十八番!」
「さっきから、凄い勢いで一つ違いの数字ばかりなんだ。なんだろう、この逆エスパーっぷり‥‥」
猪狩が読み上げる数字と、自分のビンゴカードの数字を見比べながら、崔 北斗(ja0263)は、苦笑いを浮かべながら呟いた。
ゲームはどんどん進行していく。
「もう少し‥‥もう少しなんだ。でも、今回も最後のひとつが開かない悪夢を繰り返しそうな気がする‥‥」
久遠 栄(ja2400)の頭に、過去の記憶がよぎった。
「まあ、最初はこんなもんでしょう。勝負はこれからです」
ビンゴカードを眺め、余裕の笑みを浮かべているのは、無明 行人(ja2364)だ。
「‥‥まだまだこれから。‥‥さいごにかつのは、このわたし」
ユウ(ja0591)は、無表情なまま、棒読みな口調で呟く。
表面に出ていないだけで、心の中にともった闘志は、本物のようだ。
「九八番!」
猪狩が二十個目の数字を読み上げると、会場からリーチの声があがる。
「これは‥‥二十個目にして、リーチの方がいらっしゃるようです! 決着は目前かっ!?」
司会進行を勤める猪狩も、思わず手に汗を握る。
ビンゴ大会の熱狂っぷりは、まだまだ続きそうだ。
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いつ果てるとも分からぬ戦いに明け暮れるなかで、せめて祭りのあいだだけでも、戦いのことを忘れて普通の学生として過ごしたい。
そんな想いを飲み込んで、久遠ヶ原学園文化祭は、最高潮の盛り上がりをみせている。
ある者は友との絆を深め、ある者は恋人との愛を深める。
学生たちは、それぞれが思い思いのかたちで祭りを楽しみ、日々の戦いで疲れた心と身体を癒すのであった。
