インタビュー

第2回「なろうコン大賞」受賞者、佐崎一路先生のインタビューです。

─昨年発表された「第2回なろうコン」大賞受賞作『吸血姫は薔薇色の夢をみる』(以下『吸血姫』)は全4巻で刊行されました(発行:新紀元社)。完結まで無事、書籍化された感想をどうぞ!

無我夢中で書いて、直して、一喜一憂した一年でした。夢を見ている間は夢で、かなったらそれはただの現実になるとか言いますけれど、現実の厳しさよりも夢をかなえた喜びの方が多い時間でした。WEB連載中応援してくださった皆様、書籍化のチャンスを下さった皆様、実際に本を手にとってくださった皆様、本当にありがとうございました。

─『吸血姫』書籍化への反応はいかがでしたか?

幸いにして良くも悪くも読者さんからの評価は変わらない感じです。感想などを見るとWEB版から引き続き書籍版を読んでみた、という方がやはり多いようですが、まりも様のイラストもイメージと合っていて良かったです! というご意見や、また、ブタクサ姫は読んでいるけど吸血姫は見てなかったので、この機会に読んでみました、なるほどこのキャラってこうだったんですねという方や、逆に書籍版から入ってブタクサ姫も読んでみました、という方もいらっしゃって、かなり良い方向に行けた手応えを感じています。

─その『吸血姫』から100年ほど時代が下った世界を舞台とする作品が、この夏、第1巻刊行の『リビティウム皇国のブタクサ姫』(以下『ブタクサ姫』)です。書籍化に至った経緯を教えてください。

実のところ書籍化のオファーはかなり早い段階に、他社出版社様からいただいていたのですが、僅差のタイミングでなろうコン受賞と吸血姫の書籍化が決まり、また当時はブタクサ姫のWEB版の分量が少なかったことから、ブタクサ姫の書籍化は先送りにして、吸血姫の書籍化を優先することにしました。

 で、吸血姫の書籍版の完結が見えたところで、新紀元社様から「引き続きどうでしょう?」というお話があり、話し合いの結果、世界観の継承や既存のイメージを大事にするためイラストも吸血姫と同じまりもさんだということで、じゃあお願いします──と、ほとんど即決でした(笑)。

─『ブタクサ姫』は現在も「小説家になろう」で連載中です。書籍化にあたって、変更したところ、改稿する際に重要視したポイントなど教えてください。 

一章〜二章についてはWEB版からあまり話が乖離しないように心がけました。ただ三章以後は、かなり手直しをする予定です。あと、一巻の主要登場人物で大きく変わったのはジルの使い魔(ファミリア)のフィーアで、WEB版ではどんどん成長して大きくなっていたのですが、まりもさんの仔犬イラストが可愛らしすぎて辛かったので(笑)、WEB版では成獣になってから自在に大きさをかえられるようになった当初の設定を前倒しして、割と最初から大きさを任意で変えられるという方向へ変更しました。

 あとはクリスティ女史の年齢をちょっと下げたくらいですね。本当は30代半ばくらいにしたかったのですが、さすがにそれだと時間の整合性がとれなくなるので。

─今回の改稿は、『吸血姫』書籍化時と比べていかがでしたか?

難産でした(笑)。見直すとジルの喋り方とか、連載が長くなっていていまと全然違うので、かといっていきなり全面的にいまと同じくするのもおかしいので、当初の雰囲気を思い出して必死に誤字脱字やおかしな表現を直しました。

 それと完結作品ならどこをどう削るか必要な部分がもわかっているので問題ないのですが、連載中のものは伏線とかどれを回収して、どれはもう放置すべきか、あるいは今後のために追加するべきかと悩みまくりでした。

─某魔女には衝撃を受ける『吸血姫』読者さんもいそうですが、いつからこのような登場を考えていましたか? 『ブタクサ姫』の物語の着想のきっかけや、物語に影響を与えているものについてなど、教えてください。

『某魔女』については、最初からかなりヒント(白銀色の髪とか、「女王」を示す名前だとか)を出していたのですよねー。

「あれ? もしかしてこの人って……?」と、感想とかで書かれたところで、「ふっふっふっ、よくわかったね」とネタバラしする予定だったのですが、……いつまでたっても誰も気が付いてくれない! と焦れて作中でネタバレする人物をあからさまに入れました。あまりにも変わり過ぎていて、それでも半信半疑の反応が返ってきましたけど(笑)。

 「ブタクサ姫」は「吸血姫」を書いている途中で、あまりにも主人公が強力すぎて逆に物足りないのと、この世界にきっちり足をつけている描写が少なかったので、それを補完できるキャラを考えて生まれたものです。

─『吸血姫』の緋雪、『ブタクサ姫』のジル、どちらが書きやすいキャラですか? またそれぞれのキャラを書くときに気を付けていることなどはありますか?

どちらも思い入れがありますけど、単純に動かしやすいキャラということでは緋雪のほうで、基本的に前進のみで壁があったらぶち破る性格は一貫しているので、舞台や人物に応じてプロットがなくても割りとすらすら書けます。

 ジルのほうはどちらかといえば受身というか、考えてから行動するお淑やかなキャラを心がけているので、行動や言動についても緋雪と違ってもうひとひねり加えないと書き手としても納得できない部分があり、最初にプロットを組み立てないと迂闊に動かせないので、その点は難しいですね。

 個人的なイメージとしては、緋雪が戦国時代の『姫君』であるのに対して、ジルはおとぎの国の『お姫様』という違いでしょうか。

─『ブタクサ姫』1巻に収録されるストーリーで、作者として印象に残っているシーンやキャラクタ−を教えてください。

やはりベストはジルとレジーナの掛け合いでしょうね(笑)。

 レジーナが悪態をついて、ジルがひぃひぃ言いながらもきっちりそれに応えるところが、実はなにげに凄いんですけど、たぶんジル本人は一生気が付かないでしょうね(笑)。

 好きなシーンは、ぶっきら棒にレジーナがジルの誕生日プレゼントのリボンを渡す(実際は直接渡していませんけど)シーンです。ふたりの関係とか心の距離感が如実に表れた場面だと思っています。

─連載当初と比べて、作者としても意外な変化を見せたキャラクターがいたら教えてください。

う〜〜ん、予想外に変化したというキャラは特にいません。ジルはもともと奥ゆかしくて天然系のお姫様キャラで、よく感想などで「前世男子高生の片鱗もない!」とお叱りを受けますけど、ジル本来の性格がとことんダウナーだったところへ、現代知識と常識が上書きされて、さらに変な具合にシャッフルされてできたのが、いまの性格なわけで。基本は内気な女の子なんですよね。

 あ、変わったというか変えたいのはルークで、こちらはもっと存在感と厚みを持たせたいと思っています。

─『ブタクサ姫』は、どのような資料をご覧になっているのでしょうか。

基本的に中世〜近世のヨーロッパ(主にイギリス)の生活や宿屋、食に関した資料を参考にしながら、赤ずきんやグリム童話、アーサー王伝説などを参考にしています。

─最近の執筆ペースを教えてください。兼業作家を続けていらっしゃいますが、そのことで苦労している点、逆によかった点などありますか?

平日の夜に2時間ほどちょこちょことブタクサ姫の続きを書いて、土日に仕上げる感じです。調子がよいときには平日だけで1本書いて、土日にもう1本ってところですが、書籍化作業もあって最近はなかなか難しいです。

 あと兼業の場合は時期によって平日にまったく執筆できない場合もありますが(いえ、しばしばありますが)、日中はいったん頭がリセットされ、また何気ない日常会話の中にネタが転がっていることもあるので、マンネリを防ぐには兼業もありだと思います。

─まりもさんのイラストについて、ご感想を! キャラクターにはどのくらい、作者としての希望などを出しているのでしょうか?

イラストに関しては毎回、大満足です。希望というか、最初にキャラクターの特徴を列挙して、それにあわせてまりもさんがラフを仕上げてくださるのですが、細かなところ(ジルの髪もっとボリューム欲しいとか、クリスティのほうれい線なしの方向で……とか)訂正の注文つけることもありますけど、基本的にはお任せしています。

─『ブタクサ姫』2巻目以降はどのような展開になるか、少しだけご披露ください。

基本的な流れは同じです。ただ細かなエピソードが追加されたり、WEB版にいなかった主要キャラが登場したり、若干、登場人物をしぼったり(吸血姫関係の登場人物は基本、ジルには関わらない方法にしました)、あと学園編はほとんど別物にかわる予定です。直接対峙することがなかったジルと偽ブタクサ姫との絡みもでてきます。セラヴィにはあっさりジル=シルティアーナの秘密もバレますし、それに関連してルークとセラヴィの対決もあり、ラブコメの波動がWEB版に比べて増量です(笑)。

─作家としての目標や野望を教えてください。

まずは『ブタクサ姫』を完結させることですね(笑)。書籍化したのでエタったとか、WEB読者をないがしろにしているとご批判を受けないように頑張りたいと思います。

─応援してくれている読者さんにメッセージをお願いします。

最後までインタビューをお読みいただいてまことにありがとうございます。いまだ手探りの状態で作品を書いている状況ですが、それでも昨日よりも今日、今日よりも明日はもっとよいものを、皆さんの心に残るような作品を書けるように、今後とも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

─ありがとうございました。