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 『Orz(沖縄リゾートゾーン)』の一角に作られた、『OTL(Operation;Trick Loft)』は、潮風漂う箱庭都市であった。
 すでに9月も半ば。
 今年は随分と早くに夏の熱気が落ち着いた。
 されど陽の光がやけにギラついて感じるのは、コンクリートジャングルのせいだけではあるまい。



 燦々とそそぐ太陽の輝きを、まけじとテカテカ反射している男が一人。名をギメ=ルサー=ダイ(jb2663)。
 三峯で調子に乗ったどこかのハゲに似た別のハゲである。

「ふむ、また興味深い催しよな。これは‥‥
 スプラ(モストマスキュラー)(もりっ)  トゥー(サイドチェスト)(むききっ)」

 (蔵倫)<おう、存在を規制されたいか?

「‥‥なんであったか、見覚えがある気はするのだが(ラットスプレッド)(むふーん)」

 よろしい。人間も天使も素直が一番だ。

「なんにせよ、我が来たからにはもう安心よ‥‥!(オリバーポーズ&白歯キラァ)」



「まぁ前に来た時もかなりギリギリなネタだらけだったし‥‥今更って感じね‥‥」
 と、ギメの言葉に独りごちる中山寧々美。
「でも前に来た時と違う事もある。‥‥そう、今回の取材には仲間が!!いるもの!!!!」
「無論だ、我が好敵手(とも)よ!」
「ペイント弾は剣よりも強し、ってな? 俺達のジャーナリスト魂()を見せてやろうぜ!」
 ばばーん、と寧々美の脇を固める下妻笹緒(ja0544)と小田切ルビィ(ja0841)の最強ブン屋チーム。
 そして(自称)美少女チームもともに名乗りを上げた。
「うむそのとおりだ寧々美氏! ラキスケ取材は任せていただきたへぶっ」
「戒さん本音もれてますよー」
 鼻息荒く意気込む七種 戒(ja1267)の顔面にヒリュウを貼り付けつつ、六道 鈴音(ja4192)はにこやかに笑う。
 スキル禁止? いやまだゲーム始まってないしノーカンノーカン。
「そういえば禁止なんだっけ。どうしよう、私生まれついての【超絶美少女】パッシブスキル持ちなんだけど」
「鈴音‥‥まぁ私も【清純派乙女】パッシブ持ちだけど」
 すいませんそういうのシステムにないんで。
 むしろそういうの一般スキルなんで。

「あ、ところで寧々美さん、着替えないと服汚れちゃいますよ? あっもう始まっちゃう、急いで急いで」
 と、他チームも集合しだしたのを見、寧々美を脱がし始めたのは菊開 すみれ(ja6392)。自身もTシャツにショーパンで、パンチラと汚れ対策はバッチリである。勿論予備も持ってる(女子力)
 だが既に周りが見えてないのか確信犯か。男子の存在なんのその。その前にここ野外。
「えっ、あ、ちょっ、ま」
「緑チームまーだー?」
「ほらほら小日向先生が呼んでるから早くー」
 すみれが手際よくブラウスのボタンを外し――

「あら、意外とおっきい」
「ゃ‥‥っ」
「ほう、黒地に白」

 ブラに包まれた寧々美の胸が露わになるのと、笹緒が声を出したのはほぼ同時のことだった。
「さり気なく下着に流行の最先端たるパンダカラーを取り入れるとは、流石我が終生のライバル中山寧々美‥‥ッ!」
「元気キャラと見せかけてセクシーギャップとは‥‥やるわね」
「私にはヒリュウのもっちりぼでぃしか見えないんだがどういうことだね鈴音ぇぇえ!?」
「(スルー)あれっ、小田切さんが鼻血たらしながら満ち足りた笑顔で合掌してる」
「(菩薩顔)」
「やばい、身内に敵しかいなくてツッコミが追いつかない‥‥!」
「みーどーりー!」

 早くもOrzの寧々美。
 だが絶望にはまだ早い。戦いはこれから始まるのだから。



●北東エリアにて


「「ひゃっはぁぁあああ!! 汚物はしょうどくっすー!」ですにゃん!」

 開始一番、声をあげて吶喊していくニオ・ハスラー(ja9093)と真珠・ホワイトオデット(jb9318)の黄色ペア。高所を目指し、全速力で箱庭市街地を駆けあがる。サングラスの残光を残し、あっという間に姿を消した。
 2人がまだらに塗っていった部分を黄色く埋めていくのは、後続のユーラン・アキラ(jb0955)と猫目夏久。
「張り切って楽しむぞ!」
「まぁあの2人ほどのテンションはでないけどなー。じゃ、俺達は俺達で楽しんでいこうぜ」
 顔を見合わせひとつ頷くと、ユーランは開始地点から右へ、猫目は左へと散っていった。
 地味な立ち回りだが、このゲームにおいて最重要ともいえるだろう。

 しかし。

「――単独行動するならもっと動く場所を考えないと」
 散開して数分、ユーランの背後からひそやかな声が聞こえた。
 それはユーランが振り返るより早く水鉄砲のトリガーを引き、インクをぶちまける。
「青‥‥!? しまった、もう近くに敵がいるのか!」
 闇雲に応戦するも、声の主――神谷春樹(jb7335)は既に路地から路地へ、姿を消していた。
 ユーランにかけた言葉は、そのまま春樹自身にも言える事だ。
 回避を重視しつつ不意打ちを繰り返す、いわばゲリラ戦。
 一つ油断をすれば――
「げっ、挟まれた」
「くっくっくっく‥‥君も丸見えだがね」
 脱出経路の先、ビルの上から冲方 久秀(jb5761)が銃口を向けているのを見、春樹は戦慄した。
 後ろに意識を向ければ、ユーランが迫りくる足音。これが――逃げ場/ZERO!(迫真)
「ゥ赤ァッ!」

 \ばっしゃーん/
  \ぶしゃー/
 \どばばばばば/

「嗚呼、赤は素晴らしい色だと思わないかね?」
(‥‥あれ、おかしい水鉄砲なのにチャカ持ってるみたいに見える‥‥!)
 くつくつと愉悦に浸る相棒を物陰から二度見し、百目鬼 揺籠(jb8361)は別の意味で戦慄した。
 むしろ返りインク(赤)が顔とか手とかに飛び散ってもうそりゃあえらいことに。
 安心してください、非殺傷ですよ!(ドヤ顔)
「くっくっくっく‥‥世界を赤く染めあげようじゃないか!!」
「いーや! 黄色こそ至上っす! 世界よ黄色に染まれっす!」
 前線に上がっていたニオ、まさかの迷子の末に戦場に出くわすの巻。
 くわえたシガレットチョコをひと舐めし、相棒の真珠に目配せひとつ。頷き合い。
 そう、あたし達は言葉がなくとも気持ちはひとつ――。

(さぁ真珠いくっすよ、攻撃を集中させてそっこうぶっちKILLっす!)
(――!! におちゃん、このシガレットおいしいですにゃん!mgmg)

 はい前言撤回ィ!(ニオによる斜め45度ツッコミチョップ(強))
「ぷに゛ゃんっ! ‥‥‥‥はぁゥっ!? におちゃん大変ですにゃん! まわりがてきばかりですにゃん!」
「えっ、そこからっすか!?」
「――で、殺るのかね?」
「あの悪ガキ共に遠慮はいらねぇってこたぁよーくわかってまさ」
「ファッ」
 にんまりと悪い笑みで向けられる銃口が2つ。無慈悲だなさすが大人無慈悲。
 速射で場を荒らして一気に制圧するつもりだったが‥‥こうなったらそらもうアレ(戦略的撤退)よ!
「ニオ、真珠、こっちだ!」
 黄チームのユーランが声をあげると同時、まず先に離脱したのは真珠。
 いやいや断じて見捨てたわけじゃないですにゃん、脱出経路の死角をカバーするんですにゃん!(本人談)
 流れに乗じて春樹も身を隠し、再び路地に消えていく。
 殿のニオは街の中心部で拾ったビニールシートを広げ、赤インクを跳ね返しながら後退していく。
「おやおや、猪口才なマネするじゃねぇですかぃ。 罠があってもいけねぇですし、こっちも一度引き上げましょうぜ」
 壁を利用しながらユーランも援護射撃し、その場は互いに退く形で一旦幕を閉じたのだった。



●中央エリアにて


 さて‥‥。
 このゲームの目的は、箱庭都市をインクで染めることである。
 もう一度言おう。
 このゲームの目的は、箱庭都市をインクで染めることである。




 タタタッ タタン、パァンッ

 一方的に、いっそ暴力的と言っていいほどに路地に降り注ぐ赤の雨。
 それを等身大のハケでもって振り払い、あるいは盾とし、草摩 京(jb9670)は前方をきつく睨んだ。
 本当は死角から奇襲する目算だったが、丁度別色の敵から距離を取っている最中に遭遇してしまったのだ。
 一応黄チームの京だが、自らのインクや銃はとうに捨てており、攻撃手段は相手のインクを弾き飛ばすより他はない。
 斉凛(ja6571)が塗り広げたインクの上を滑って距離を詰め、ハケによる地摺りからのインク飛ばしで反撃を試みる。
 りん、と鈴の音。
 それが京の服飾りの鈴の音だと気づくのは、驚異的な速度で振り抜かれた後。
 半ば弾丸と化した赤いインクは、ハケの軌跡をなぞるように縦一線に沫き、凛へと襲いかかった。
 だが、
「読み通り、ですわ!」
 京が銃を捨てた事に気づき、ならば何らかの手段でインクを弾いて攻撃してくる、と。確信めいた予測だった。
(ち‥‥やはり一筋縄ではいきませんね)
 ふわり。凛は身を翻した。ドレスエプロンがたっぷりの風を孕んで舞い踊る姿は、まるで羽毛の如く。
 されどインクが飛び交う戦場にあってなお純白のメイド姿は楚々として美しく。
「頼もしい相棒が今日程恐ろしいと感じた日はなかったわ」
 着地。そして身を沈めた流れで粛然とカーツィ(跪礼)し、微笑む。
 京もまた、得難き相棒と戦える喜びに身を震せた。

 求むるは、互いを自由にする権利。
 勝ちを掴むはどちらの欲か。

「「いざ尋常に‥‥勝負!!!」」





「あの子たち、目的完全に間違えてるわよねー」
「どうやって勝敗きめるんだろうな‥‥赤しかねーし‥‥」

 ‥‥このゲームの目的は、箱庭都市をインクで染めることである(確認)


 * * *


「で、どうする? 撃ち合いに夢中だし簡単に撃てそうだし。やるなら加勢するぜ?」
「んー。放っておきましょう、藪蛇になっても面倒だし。‥‥そんなことより黒夜さん」
 小日向千陰は凛たちから視線を外すと、不意に傍らに控えた黒夜(jb0668)の肩をがしっと掴む。

「勝 つ わ y「小日向、目がマジすぎて怖ぇ」
「ったりまえよ、いやぁ遊園地なんて何年ぶりかしらー!」

 かくいうこの司書、2年前参加できなかった悔しさが有頂天なのかしてテンションが遠足前日の小学生並なのである。
 自重スイッチ? そいつなら昨夜の晩にサルサソースつけて食ってやったよ。
 しかもである。
 青チームは年甲斐()もなくはしゃぐ司書と、単身動いている春樹、そして黒夜の他は――

「おっちゃん達どこかなー?」 ちまっ
「このハケ重い〜〜、皆も一緒に持ってよー」 よたたっ
「おえかきなの! うさぎたんなのー♪ くろにーた、いっしょ、なの?」 みにっ

 そこのけ無敵のSSHちびーず!
 まとまりがあるのかないのか、若干不明なお子様たち揃いなのである。
「ああうん俺は兎は書かねーけど‥‥キョウカ、めっちゃ活き活きしてんな」
「あいっ! しょーたと、しーたと、ひなにーたと、みんなでいっぱい、うさぎたんかく、なのっ!」
 好きなだけ絵をかけるとあってテンションMAXのキョウカ(jb8351)。
 だが『一緒にウサギを書く』と名を連ねた蘇芳 陽向(jb8428)や天駆 翔(jb8432)は、「聞いてないよ」と言いたげな顔で一瞬視線を返した。それをも許されてしまうキョウカちゃんマジ天使。結婚しよ。
 秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)は、それら無言のやり取りも含めて満足気に笑み、
「こっちのこたー気にせんで、せんせぇ達も楽しんでくだせぇ」
 と、手をひらつかせた。

「というわけだから、私はちょっと適当に喧嘩売ってくるわね」
「ちょ、チビたちの監督責任とかそういうのは」
「昨日味噌汁の具にして参に食わせてやったわ! じゃ!」
「小日n‥‥ああもう、ったく‥‥おたくらも全員バッグ背負ってるな?水鉄砲は持ってるな?」
「抜かりないですぜ! っしゃー! 行きやすぜ野郎どもぉ! にーさん達を真っ青にしてやりましょうや!」
 おー!! と盛り上がるSSHちびーず。
 既に千陰の姿は遠ざかりつつある。
 ゲーム終了まで胃痛の絶えそうにない黒夜であった。合掌。



●西エリアにて


 一方、冒頭で謎な連携力を見せた緑組。

「今年こそ! 進級ぅうう!!」
 銃を片手に目をギラつかせる自称乙女ここにあり。
 対するは黄チーム猫目夏久。万年金欠アルバイターだが進級だけはちゃっかりしてる系男子である。
「あ、俺そういうのいらないんで」
「リアルな意見がつらい!?」
 かいしってるか みんなは しんきゅうしてる。
 打ちひしがれて足が止まってしまった戒、猫目に黄インクまみれにされる事案発生。
 更に黄色エリアを広げるべくトリガーを引き絞る猫目の腕を、すみれのロープが鞭のように打ち据える。
「くっ‥‥!?」
「やっぱインフィといえば、いついかなる時でも狙撃よね。そぉれっ!」
 ギリリと締めあげられ、そのまま引きずり出される。
 これは万事休す。猫目先生の次回作をご期待ください!
 と、その時。後方でぼぅっと考え事をしていた鈴音が不意に声をあげた。

「戒さん! すみれさん! そして私! こんな美人が3人揃ってるんだから、もう緑の勝ちでいいと思うんだ!」

 な、何を言っているんだこいつは‥‥?
 美人だって‥‥!? いや、違う‥‥! 問題はそこじゃないっ‥‥!
 圧倒的否定‥‥! こいつは今、ゲームを全否定しやがったんだ‥‥!
 六道鈴音‥‥ッ! それを口にしたら‥‥戦争だろうがっ!

「あー鈴音さんや‥‥? それはつまりどういう‥‥」
「美人は否定しないのn\ぶしゃー/」
 いともたやすく行われる突然のBUKKAKE!!
 戒もすみれも白いトップスだったはずが、鈴音によりべっとり緑に染められて。

「は‥‥?(威圧)」
「え、なに‥‥裏切り?(疑惑)」

「ちょっと待って! ちがうから! 裏切ったわけじゃないですから! 濡れたら透けてセクシーかなーってあだだだだ!」
 あっなにやだ何この子わかってるじゃない(手のひら返し)
 すみれさんにめっちゃヘッドロックされてるけど、エロとセクシーのためなら是非もないね!
「ほう‥‥(ガン見)」
「戒さん、そんな息を荒くして見ないで下さい!」
 ただ残念なのはBUKKAKEたインクが緑だということ。
 多分皆さん期待してるでしょうがつらいわー、白インクじゃないのつらいわー。黒子タイムまだ?
 こっそり逃げ出そうとしたらロープに引っかかって転んで女子3人巻き込んだ上に色んな所に手とか顔とか突っ込んで大正義蔵倫に制裁された猫目ラキスケ大明神の描写とか忘れるくらい白インクタイム待ってるんですが?


 * * *


「全力全開で走り回るのだ♪」
 どだだだだだ、だばばばばば、べしゃしゃしゃしゃしゃ、きーーん♪
 色々混ざった音をあげながら、焔・楓(ja7214)は全色インクまみれでゆるい下り坂を走り回っていた。
 その激走たるや、Drなんとかの幼女ロイドさながらである。格好は白ビキニだけど。
 視界の先には過疎地の塗替えに励んでいた白野 小梅(jb4012)の姿。
「よーし、どうせだから色を塗り替えてる相手も塗っちゃうのだー♪」
 夢中に走る楓は気づかなかった。
 超見え見えのロープ罠が足元にあったことに――。

 \ばっしゃあ(青)/

「ほよ? なんか降ってきたのだ!」
「いまだ、SSHすーぱーがったいこうげきいっくよー!」
 ロープに結わえたバケツが落下するとほぼ同時、翔・陽向・キョウカ・紫苑がビルの上から飛び出した!
 華麗に4人で脳天切り‥‥を夢見たか。せつこ、それどっちかっていうとプレス技や。
 べちゃーん、と青インクの水たまりにハードランディングするちびーず。
「ひなにーた、へーきだったなの?」
「おう、だいじょうぶだ! おれはおにーちゃんだしな!」
 陽向が一番下になったお陰で誰も怪我はなかったようだが――
「ぜったいうまくいくとおもったのになー‥‥」
「むぅ、潜伏場所はよかったんですがねぇ、この作戦は失敗でさぁ‥‥」
 ですよね!
 お目当てのアダルト赤組に仕掛けていたら多分今頃あたり一面真っ赤だったよね!(無慈悲感)
「おおおぅ‥‥なんか楽しそうだねぇ? ボクも混ざろうかなー!」
 各所にトラップを仕掛けてきたはずの赤チーム小梅、超無邪気に裏切り宣言か。
 とおもいきや、青い水たまりの中に勢い良くダイブ・イン。どうやらちびーず団子が楽しそうだった模様。
「わーいふえたー♪ こういうのは勝負より楽しんだもの勝ちだって教わったしー♪」
「みんなでうさぎたん、かく、なのっ!」
 子供同士はやはり平和でございますなぁ。

 Q:ちなみにちびーず団子でラキスケは起きてないんですか?
 A:流石の私も天使たちにそれはちょっと(アカン)





 所変わって南側。
 ルビィは鎖鎌を器用に使いビルを伝い飛びながら、地上で月摘紫蝶と戦う寧々美の援護をしていた。
 服装は都市迷彩。移動時は寧々美の前方の敵を牽制し、会敵中も隙を見て建物の屋上を緑色に塗る事も忘れない。
 まさに八面六臂。リーダーユニットの生死が勝敗をわけるゲームならMVPまったなしの活躍であった。

 しかして。

「ちィ‥‥ッ! 直接俺を狙って来やがったかあのUMA」
 サポート役を選んだのはルビィだけではない。
 相対する赤チームの謎の物体もどうやらそのようである。
 UMA――そう、文字通りそれは未確認生物。いわゆる『グレイ』の姿をしていた。
「ねぇ小田切先輩! あれが本物なら無無のトップ記事間違いなしよねぇ!」
「はっ、ンじゃあ我らがエクストリーム新聞部との共同調査てことで手を打とうぜ!」
 ブン屋チームのぶれなさ、素敵やん‥‥!
 その調子で君らのとこの部長の生態も調査してどうぞ!
(UMA、ね‥‥)
 2人の会話を聞き、ルビィ同様ビルの屋上で周囲を警戒するグレイに目をやる紫蝶。
 それの中身はシエル・ウェスト(jb6351)。
 ――のはずなんだが。本人にそう言うと「シエルじゃありません。グレイです」と言ったきり喋らなくなってしまった。
 まぁなんとなく連携取れてる感じだからいいかなって。
 取材は‥‥まぁうん頑張れ。今の久遠ヶ原にグレイの1匹や2匹居たところでスクープかどうかは保証しないゾ☆


 と、そんな折。

 ヴィィィィッ ヴィィィィッ ヴィィィィッ

 突如街全体に轟く警告音。
 ヤツが、来る――。

 高所から戦場を俯瞰していた、黄チーム詠代 涼介(jb5343)が警報をうけていち早く参上。
「なぁ。あいつら放っておいたら、俺たち皆負けなんだろう?」
 紫蝶は大きく頷く。
 『ヤツ』は共通の敵。全てを飲み込む白き黒。
「じゃあ、共闘するしかないよな」
 言って、涼介は場の人間(一部例外)を順に見やった。
 ばっしゃぁあ! どこからともなく飛来する白いペイント砲があたり一面の色を奪い去る。
「ああ。中山と小田切も構わないね?」
「いいぜ。ガチバトル‥‥いや、ガチ取材を邪魔するやつは――」

「全身全霊 ぶ っ 塗 ろ す」

 寧々美さん顔がハラスメント状態です! 通報されるやつですそれ!
 首狩りジェスチャーまでしちゃってもうアレだね! うん‥‥そうアレ、アレだ。とりあえず共闘ね! 平和的にね!
「だが協力するのは今回だけ、次に会った時は敵だ」
「構わないさ。という事だ、お前もいいねシエ\ガッコーン/る゛っ」
 初球一投。球種はブリキ(材質的な意味で) 全力デッドボール。
 中身バレ厳禁のシエル(仮)が投げたバケツは紫蝶の後頭部を強襲し、地面でけたたましい音を立てた。
 ああ‥‥連携取れてるからまあいいか、そう思ってた時期が、わたしにも‥‥ありm(白インクばっしゃー)
 アレおかしいな‥‥白液まみれなのにエロくない‥‥。
 紫蝶、戦線離脱。


 * * *


 さて、各地に現れた白チーム黒子(紛らわしい)がどうなったのか。



「――あ、黒子が出たみたい」
 と、鈴音は遠くの空を見ながら太眉をひくつかせた。
「あら。じゃあ一時休戦かしらー、よかったわね?」
 にこやかに二刷毛流(にとうりゅう)を収めると、千陰はんふふと笑顔を見せた。
 鈴音・戒・すみれのJD3人娘の体には、それぞれ『単位』やら『色気』やらの青い文字。
 勿論千陰も相応にインクを食らっているが、精神攻撃とは‥‥。
 ちなみに鈴音は眉を強化されました。『太眉LV10』くらいに。
「小日向先生、若い子相手にえげつな「だーれーがー年増ですってー!?」言ってません!(遠回しにしか)」
『あの』
「単位‥‥単位‥‥」
「戒さんが禁断症状を起こしてる!? えーとえーと戒さんの目をさますには‥‥そうだすみれさんを脱がそう(錯乱)」
「なんだってよし録画はまかせろ(即答)」
「てつだうわよー」
「そういうのいいですから!」
『あのー』
「「「 う  る  さ  い 」」」

 西エリア黒子、相手にされないどころか白インク装備を奪われ白染めに。
「なんつーか‥‥大変だな、おたくも」
『どうも‥‥Orz』

 後に彼は語った。
 ロープで縛られたはずなのに、唯一相手してくれた黒夜が天使に見えた、と――。



 その頃ギメは、楓に絡まれていた。

「わほー♪ あたしも投げるのだー♪」
「ふゥむ‥‥(胸筋肉ピクピク) 貴公は別部隊なのだが‥‥」
 どうやら、先ほど同じ赤チームの揺籠と久秀をビル上へ移動させる際に投げ飛ばしたのを、見ていたらしい。
 楓にはそれが楽しい遊びに見えて。
「仕方あるまい、一度だけであるぞ。然らば」
 ひょい、と楓を持ち上げ――
「ふンッ(広背筋もりっ) ん゛ん゛っ‥‥(上腕三頭筋ばきーん) ッそぉぉい!」

 全力で投げたーーー!

 ‥‥と思ったら空中で白インク砲喰らって跳ね返されたー!!?

 ぶち当たって弾けた白砲が雨のごとく降り注ぐ中、ぐるぐると体を回転させ、ギメの元に落下してくるではないか。
 親方ー! 女の子が空から降ってきたー!
 たたかう どうぐ [>ほかく にげる

\熱いハグで応えようではないか!/

「‥‥む?」
 インクまみれの幼女をキャッチしたギメがみたものは――。
「貴公、水着はどうした」
「おりょ?」
 見事にすってんてんの楓である。
 全身白い上、色んな所が(オブ)つるんとしてる(ラート)せいでぱっと見変化ないけどね!
 人によっては手が後ろにまわっちゃうレベルの状況。しかし。

「ふむ。‥‥そんなに脱ぎたいのなら我のように体を鍛えるといい」
「鍛えるのだ?」

 色気なんてない2人なのであった。


 どうしよう、頑張ったけどラキスケにならない(挫折感)
 なお楓の水着は収録後スタッフがおいしく頂きました。



 楓を砲撃した黒子はどこにいたのか――。
 それはギメが『投げた』という、久秀と揺籠、そしてSSHちびーずに追いかけられていた。

「くっくっくっく‥‥まず黒子を倒すことが優先ではないかね?」
「みんなでおじゃま虫をやっつけろー!」(大ハケぶんぶん)
「うぅ‥‥じょうずにかけてたのに‥‥うさぎたんのかたきなの!!」(水鉄砲連射)

『遊園地のきぐるみには夢と幸せがいっぱい☆なんて求人広告のバカぁぁああ』
 Orzは悪夢とトラウマがいっぱいだから仕方ない。 オラこんな職場(とこ)いやだ!
 いよいよ自棄になった黒子、一発逆転を狙って勝負に出る。
『こうなったら‥‥弾けて混ざれェ!』
 自分の足元めがけて白インク砲を連射し、あたり一面を白に染め替えた。
 思惑通りSSH勢の足止めに成功し、内心で『一般人を舐めるなよ!』とか毒づいたその瞬間。
 突如、足首を超握力で握られる。


  つ か ま え ま し た ぜ ‥‥!


 ずるり。
 地面から這い出る、無数の目玉―――。

『イ゛ヤ゛ア゛ア゛ァァアァァ!!!!』
「「ぎゃああああああっ」」

「おや、失神しちまいましたねェ」
 インクまみれになった髪をかきあげ、揺籠は薄く笑った。
「おれいまちょっとにーさんを見なおしたでさ‥‥(どきどき)」
「地面に転がってただけなんですがねぇ。やったこっちがビビるくれぇの効果でさ」
 しかしこうかはばつぐんだ!(味方含む)

「くっくっくっく‥‥さて、邪魔者は失せたようだね?」
「おめめのにーたもひさおじたんも、おかくごするの!」
「しょうぶ、さいかいだよーー!!」
「ぶっとばすぞーいぇーい!」

 ‥‥俺達の戦いはこれからだ!!(投げっぱなし感)



「鬼さんこっちらー♪」
 と、楽しそうに黒子数名を引き連れて走り来るのは小梅。
 走りながら各所に仕掛けたロープや小型ハケの罠を浴びせて回る。
 視界の先には真珠とニオ、夏久。あそこまで誘い込めば、多分きっと。
「にゃー! におちゃん敵はっけーんですにゃん! こうめちゃんがつれてきてますにゃん!」
「真珠、猫目さん、1・2の3で飛び出して集中放火で即KILLいくっすよ!」
「オッケー、合わせるぜ! 小梅ちゃん、伏せろよっ」
 少女はラジャー!と言わんばかりに手を降った。
「いち、にぃ‥‥の、っ」

 ドドドドドドッ

 それはマシンガンと言って差し支えない密度。
 つらいわー、これはグレイズ稼ぎする余裕もない弾幕だわー。

 小梅を追いかける事を諦めた黒子が向かった先は――恐らくこのOTLの中で、一番激しい修羅の世界。
 おもむろに白インク砲の銃口を向けた瞬間、凛の水撃で眉間を打たれ、京のハケに薙ぎ払われ。ああ無情。
 飛び交う弾丸、閃く剣閃。ほぼ1時間の間交わされる攻防。
 しかし本人達の目的は。

「照れるお京さんが見たいだけですのっ! そろそろ諦めてくださいませ!」
「私も、あなたを一日妹にして可愛がりたいだけですから!」

 もうこれわかんねぇな‥‥。





 ――――‥‥
 ―――‥
 ‥‥

「あ、気が付きましたか?」
 紫蝶が目を開けると、龍崎海(ja0565)の顔。
 すでにゲームが終わってからだいぶ時間が経っていたのか、ゲームロビーは静まり返っていた。
「‥‥悪いね、残って手当してくれたのか」
「私物の救急箱持ってたし、これでも元医学生ですしね。――ああ、結果でてますよ」
 そういって、海は電子ボードを指差す。

―― Result ―――――――――――――
             Areas  Death  Kill
 Team Red  ―  23%    4    4
 Team Yellow ―  27%    3    1
 Team Green ―  22%    4    2
 Team Blue  ―  22%    3    4
 Team White ―   6%   4    3
――――――――――――――――――

 そのボードの下に座り込み、ものすごい勢いで記事を書き上げているパンダが一人。
 ゲーム終了後に各参加者に取材して周り、おおよその動きを掴み、分析と評価をしたためている。
「ふむ。黄色は塗り専門が多かったのが勝因のようだ。勝ち星の少なさが黄チームの堅実さを物語っているな。前回のOrz旅行ではほぼ完封された黒子軍団は一矢報いたというところだろうか。意外と白インク砲にやられた参加者がおおかったようだ」
 ガリガリと結果を取材手帳に書き写す笹緒。
 ジャイアントパンダのおててでどうやってペンを支えているのだろうか。
 ‥‥というような些細な疑問はきっと挟んではいけない。
「俺も1時間ずっと、上書きを徹底していたよ。相手の陣地を削ってこちらの陣地を増やせる一挙両得な作戦だから」
「なるほど、攻撃的な作戦を取った者はどうしても移動範囲が広く、密度を意識した塗りには限界がでてしまうからな」

「そういえば、キング黒子はどうなったんだい?」
 紫蝶の記憶は、連中が出てきたところまでである。
「キングは‥‥と。月摘女史が倒れたのち、凡そ10分後に小田切がトドメを刺したようだな。まぁ彼らは一般人であるから、トドメといってもどちらかといえば精神的に折ったという表現が正しいだろう」


 下妻と紫蝶もめいめい姿を消したあと、海はふと考えた。
「ゲーム中、下妻君は一度も見かけなかったけど、どこにいたんだろう」
 ――きっと、誰も気づくことはないだろう。
 箱庭都市の南際、ほとんど誰も訪れる事がなかった建屋郡の、その中に。
 そのメッセージは確実に、ひそやかに、そして美しいレタリングでもって描かれていた。

 『パンダちゃん&ねねみ参上!』――と。








 スパリゾート 《Onsen relax zappa-n》。
 このタイトルを見た時、君は、きっと言葉では表せない脱力感みたいなものを感じてくれたと思う。
 塗ろし合いで殺伐としたこのエリアで、そういうきもちを忘れないでほしい――。
 そんな予想以上に平和なPaintersエリアの夜である。


「2人とも、よく似あってるね」
 黄昏ひりょ(jb3452)は、心の底から、そう思った。
 彼の右側で無邪気に手を引くのは白地に青いリボンのビキニがかわいいティアーマリン(jb4559)。
 さらにその先に黒地に赤リボンで大人っぽいワンピのティアーアクア(jb4558)が微笑んでいた。
「えへへ、ありがと! はー、三人で遊べるなんて夢みたい♪」
「うん、のんびりするにはもってこいだな。アクアさん、誘って迷惑じゃなかった?」
「そんなことないわ。えっと、‥‥思いっきり楽しみましょ?」
「あ、う、うん。そうだね」
 どうしてだろう。
 いつもと違う雰囲気に、ほんのちょっぴり、お互い緊張してしまうけども。
「じゃあ、まずはスライダーにごーだよ! みんなで一緒にすべるの!」

* * *

「えっ。‥‥えっ!?」
「ティア、ほんとにこれで滑るの‥‥?(赤面)」
「もっちろん!! ひりょサンド号、いっくよーー」

 ティアを先頭に、ひりょ、アクアが連なってスライダーを急降下していく。
 つまり足の内側にティアの体が、背中にはアクアの胸があたるわけで。
「いやっほー!」
 むにっ
「きゃああ、はやい‥‥っ」
 ふにゃんっ
 むしろ色々事故らないひりょさんは聖人かな?
 もしかしたら内心では無心で素数を数えていたかもしれないが。

 と、滑っている最中に――。
 \べちょっ/と何かがティアの顔に張り付いた。
「べちょ?」
 その正体を知るのは、数秒後のことであった。

* * *

 ひりょサンド号がロングスライダーを満喫している丁度その頃、出口にて。

「ひゃ‥‥っほーーーーーーう!」

 ざぶーーーんと音を立て、スパプールに滑りこむ猫野・宮子(ja0024)。
「やー、やっぱ色んなお風呂があると聞いたら来ないわけにはいかないよね♪」
 全ての風呂を制覇すべく昼からずっとスパを回っている宮子だが、特に気に入ったのがこのスライダー。
 まぁ何度か遊んでいるあいだに猫柄水着の紐がはずれ――
「あやや!? また脱げてる‥‥?? また後ろの人が回収してくれるの待ちかぁ」
 なんていう事故が起こったりするわけだが。つまりさっきの『べちょ』は――(お察しください)
 本人曰く、「結んでも結んでも、なんでか解けるんだよね」。
 それでもスライダーに通う結果、ラキスケテロを繰り返すわけで。
 そういうおふろに わたしはいきたい(小並感)

 宮子は水着降臨待ちという不可思議な時間を過ごす間、『スパリゾートの一番高いところ』を眺めて待つ。
 それは飛び込み専用のプールだった。
(あ、またやってる)
 あちこちのプールの水音がさざめく中、とぱぁん、と特徴的な音が心地よく響いた。
 深い水底から顔を出したのは、春樹だ。
「‥‥ぷぁっ。んー、腕の伸ばし方が悪いのかな?」
 五輪選手並の身体能力をもつ撃退士であるが、その本家選手ですら難しいというノースプラッシュに挑んでいた。
 ちなみに春樹もまた全スパ制覇を目論んでおり、今はお気に入りを探すジプシー中。
「綺麗なフォームを目指したい所だけど、そろそろ次にいくかなぁ」
 元はといえば、造波プールの人混みを避けてやってきた飛び込みプール。
 人気のプールだから人がはける事があるかどうかは謎であるが‥‥。
(まぁ、岩盤浴以外は全部いきたいし。まだ混んでたら諦めて入っちゃおう)
 勢い良く飛び込みプールからあがる頃、入れ替わりに宮子が飛び込み台に上がっていった。
 どうやら無事、ティアたちから水着を返してもらえたようだ。
「ちょっと迷ったけど‥‥やっぱやるしか無いね♪」
 あっこれ結局水着脱げる(確信)

* * *

「次はね、波のプールいきたいの! 楽しそうでしょ?」

 言って、アクアはふたりの手を引く。
 みた感じ、スライダーほどには密着しなさそうでちょっと安堵するマリン。
 しかし、ほどなくしてそれが誤算だったことを思い知るのであった。

* * *

(おお、結構波高いな)
 かなり激しく上下する波の中、春樹はその流れに身を任せ、ケセランのごとく揺蕩っていた。
 案の定人混みは減ってなかったが、まぁ水の波と人の波、両方に呑まれるのが醍醐味かもしれない、と割り切った。
(幸い今日の利用客はほとんど久遠ヶ原の生徒みたいだし、ぶつかったりとかは気を使うこともないかな)
 まさに気を使ってない生徒の代表というべきか。
 いやいや無邪気な子供と見るべきか。
 造波プールで必死にバタ足の練習をする小梅などもいるわけで。
 ‥‥明らかに泳ぎの練習なのに高波に逆らって泳ぐとか、一体何と戦っているのだろうか、とは思うのだけど。

 などと、考えていた矢先。
 最大級の波が、造波プールを楽しむ人々を飲み込むように襲ってきた。まさにZappa-n!(迫真)
「うわっ流され――と、ごめん」
 誰かに思い切り体が当たって、振り返る。
 どうやら彼らも波に飲まれていたようだが。
「ぶはっ‥‥ああ、俺達は大丈夫です。それよりマリンさん怖かったの? すっごいしがみついてた」
「ご、ごめんなさい! その、予想以上に‥‥ええと、びっくりして‥‥」
「うわーん、お姉ちゃんごめんねー! うん、あとはお風呂系でゆっくりしましょ!」

 両手に華。‥‥ああ。なんだ、リア充か。
 そんな気持ちになりつつ、プールを上がっていく3人を見送る春樹であった。







 大浴場のまわりを、初々しく並んで歩く二人がいる。
「あっ、濡れてるから、足元気を付けてくださいね」
 東城 夜刀彦(ja6047)が手を差しだし、 小見山紗風(ja7215)はその決して大きくはない手に、優しく手をおいた。
 しかし、触れたのはその一瞬だけ。湯船にはいれば、手を繋ぐことはない。
 というのも――
(うおおぅ水着姿眩しいマジ女神! 生きててよかった神様ありがとう‥‥!!(ガッツポーズ) はっ、ていうか今の手握るとこだったかな!?(頭抱え) いやいやならん、ならんよ俺! まだ早い‥‥!!)
 ‥‥という葛藤が繰り広げられているからであった。

「‥‥こういうのものんびりしてていいですよね」
「そうですね。学園は騒がしいですから」
 返された穏やかな笑みに心臓がはねる。

(紗風さんは大人の女性だ)
 彼女と一緒にいると、その事実を否応なしに思い知るのだ。
 自分はどれだけ、ふさわしい人間でいられるだろうか。
 黒基調のシックな水着も、差し伸べる手も、ちょっとだけ背伸びした自分。
 彼女の目に、自分はどう映っているのだろうか――。

 少し骨っぽい手。細身だけど筋肉があって締まった体。少し浮いた喉仏。
(夜刀彦君もやっぱり男の子、ですね)
 私のこと、大人だと思ってますか?
 でも、本当は必死。年上の意地でしょうか? 貴方にがっかり、されたくないんです。
 ちょっと大胆チョイスのホルターネックビキニ。慎重な貴方はなにも言わないけれど、どきどき、してますか?
 水面下で、手を重ね。悪戯っぽく笑ってみたりして。
(もっと、きてほしい‥‥)

 上気して艶めいた唇は、見るだけでぞくりと体に電気が走るよう。
「すっ、少しのぼせそうですね。あっちの打たせ湯にも行ってみましょうか」
「あ、はい。わかりまし、た‥‥っ!?」
 立ち上がった弾みで二人の肩が触れ。顔が赤いのは、チカチカと眩暈がするのは、温泉のせい?
 足に力がはいらない。ああ、倒れ――。


(なお、この番組は蔵倫の提供でお送りしております<●><●>)(アッハイ)


「‥‥大丈夫ですか、夜刀彦君。ほら、打たせ湯にいくんでしょう?」(何事もなかった風)
「は、はぃ‥‥////」(乙女男子風)

 滑ってどんな姿勢になったかは、ご想像にお任せしますよ!

* * *

 ジャグジー湯といえば、寝落ち率No1の名を欲しいままにする温泉であろう(当社調べ)
 そんなジャグジーに横たわるグラマラスな肢体――。
 昼は血みどろ(※インク)の戦いに興じていた、草摩 京。
 そしてその豊かな胸の上に頭を預け、凛はくすくすと笑った。
「まぁだ拗ねてるんですの?」
「拗ねてなんていません。悔しいだけですよ」
 軽量化のために自分のインクを捨て去った京。普通に考えればより相手に色をつけたほうが勝ちであるわけで――。
 勝利条件を決めてからやればよかった、と後悔は尽きない。
「照れるお京さん、可愛かったですの‥‥(うっとり)」
 ゲーム自体では京の属する黄が勝ったので物言いはつけて見たのだが、「1vs1の戦いと約束してましたわ」と一蹴され、凛チョイスのメイド服をお仕着せられ、今に至る。
「次こそは絶対に勝って、心ゆくまでかわいがってあげますからね」
「うふふ、ではこれから洗いっこで勝負なさいます?」
 願ってもない。
 再び釜をもたげた欲を抑える事なく、京は凛を抱き上げ洗い場に消えていった。


「ふぅ、ここが一番落ち着くなぁ」
 最終的にジャグジーで長風呂することに決めた春樹。
(皆元気だな‥‥僕も誰かと一緒に来ればよかったかなぁ)
 京と凛といい、SSHの人たちといい――。
 ちょっとうらやましいような、でも、一人も身軽で楽なような。
(ま、考えても仕方ない、か)
 次があれば、その時考えたらいい。
 ごろん。
 優しく体をなでていく泡の感触に身を任せ、誘われるままに春樹は眠りに落ちた。
 
* * *

 こちら美肌の湯。
「いやー、男とか女とか種族とか関係なくみんなの水着姿が眩しいですねー、あと青春ですねー!」
「先輩はいつもどおりですぅ‥‥(ぷかぷか)」
 のんびりと風呂に浮かぶ月乃宮 恋音(jb1221)。
 あ、今回は乳が浮いてるんで擬音も震えません!
 そして袋井 雅人(jb1469)はそんなおっぱいを枕に浮かんでいた。
「うーん、恋音、なんだか去年よりもパワーアップしている気がしませんか?」
「うぅん‥‥そうですねぇ‥‥間違いなくしてるかとぉ‥‥(ぷかぷか)」
 若干恥じらいながらも、恋音は自分の胸に手を当てた。
 なおこの会話において何がパワーアップしたのかは触れられていない。
 しかし100人に聞けば100人が同じように返事をするであろうというのが、久遠ヶ原の乳神と呼ばれる所以である。

「なんというかすごい光景ね‥‥」
 自分の体と恋音の体を交互に見やりつつ、陽波 飛鳥(ja3599)はため息一つ。
 胸にコンプレックスを持つ自分でなくとも比べてはならない相手である。
 それほどに、激乳ぷるぷる神の存在感は圧倒的であった。
「おぉ‥‥私は小さくしたいのですよぉ‥‥。バランスは大事ですぅ‥‥(ぷかぷか)」
「そ、そうね。私は量より質なんだから! 美肌の湯に来たのだって――」
 脳裏によぎる弟の顔。
(‥‥っ、いやいやなんであいつの顔がでるのよ!)
 一瞬思い出したそのイメージをかき消すように、とろみのある湯を桶で体にざぶざぶとかける。
 湯が一通り肌を滑りすぎれば、謳い文句どおり『トゥルン』と瑞々しく透き通るようで。
(このトゥルン肌、あいつが見たらなんて言‥‥)
「何か訳ありですか? この海より広い恋音のおっぱいに相談するといいですよ! はっは!」
「わぁーーー!!!?」
「お、おぉ‥‥? どうされましたかぁ‥‥(ぷかぷか)」
「――た、ただの興味本位よ!? 他意はないんだから!」
 ざばーっと勢い良く湯を上がっていったとおもいきや、立ち止まってがっつんがっつん柱に頭を打ち付ける飛鳥。
 KOWAI! どうみても挙動不審ですしおすし!
 ‥‥ごつ。
 突如止まって一言、「馬鹿」と呟くと、そのまま湯殿を出て行った。

「悩める乙女ですかねー、いやー青春ですねー!」
「‥‥ところで袋井先輩、まだ海ほどは大きくないですぅ‥‥(ぷかぷか)」
「突っ込むところはそこなんですか」
 おや、と雅人達が背後をみると、誰もいない。いや、正確には人や天魔のようなものはいない。
 しかしそこには浮き輪を被り、ビーチボールまで所持したグレイの姿が‥‥!
 こいつ間違いなく全力でプール遊んできたわ! はっきりわかんだね!
「お、おぉ‥‥?(ぷかぷか)」

「これは――おぉっと滑ったああ!!」

 ズバァッ! 水しぶきを上げてグレイ姿の物体にル○ンダイブかます雅人。
 今パンツ履いてねーっすけど蔵倫は‥‥(チラッ)あ、平気ですかそうですか。
「ひぎゃあああーーっ!?」
「やっぱり僕のセンサーには狂いはないですね! 予想通り女の子でしたよ恋音!」
「おぉ‥‥袋井先輩、よかったですねぇ‥‥」
 グレイ姿でラキスケなんてないと思ったか?
 その男、種族なんでもいいんだぜ?(博愛感)

* * *

 天井から流れ落ちる湯は、砂時計のよう。
 しかし、水は遡らず、時も戻らない。

 陽波 透次(ja0280)は打たせ湯で一人思いふけっていた。
(あの時も打たせ湯で僕は過ごしたんだったか‥‥。僕は、あの時から何か変われただろうか)
 非常識にも、温泉で泳いでいた。
 それを注意しようとしたら、幻のように姿を消して。
 小さな姿で、くるくると表情を変えて。
 ふと視線を上げれば。柱の影をみれば、温泉の中をみれば――ひょっこり出てくるんじゃないかとすら思える。
「ヴィオレット‥‥まだ、信じられないよ」
 あまりにもデジャヴする。ここによく似た思い出のかけら。
(だめだな、もうあがろう)
 ――塞ぎこんだ気持ちは打たせ湯にさらしても、流れてはいかない。


「おっそいわよ!」
 透次がロビーへと出るなり、聞き慣れた声が耳を貫いた。
 すでに風呂を上がっていた姉の飛鳥だ。
「‥‥どしたの? 僕より早く上がったみたいなのに、顔真っ赤だけど。あとおでこに傷あるけど、転んだ?」
「うるさい! 全部あんたが悪い! あんたの所為よ!!」
「えぇ‥‥理不尽だなあ。――まいいや、ほら、冷たいお茶でも飲んで涼みなよ」
 そう言って、自販機から取り出したお茶缶を無造作に投げ渡す。
 普段なら何事もなく受け取れたであろうそれは、まるで導くように飛鳥の手の中をお手玉して。
 自販機に弟を押し付けるようなところで、ようやく手の中に収まった。
「あ、‥‥っぶ、ない。本当にそそっかしいなぁ、姉さんは。でも――」
 がっしりと支える、たくましい腕。
 小さい頃とは違う少し低くなった大人の声。
「なんか姉さんの顔みたら、ほっとした。ありがと」
「―――っ!!」
 飛鳥の火照りが収まるのは、もうすこし、先のこと。





「あーーーいっぱいあそんだっ!」
 ティアーマリンは思い切り伸びをし、その後ろを歩くひりょとティアーアクアも澄んだ秋の夜空を見上げる。
 プールのあとは皆で温泉を巡り、姉妹はひりょの背中を流し、姉アクアは妹マリンの髪を丁寧に洗いあげた。
 そしてひりょは2人に、お土産としてキーホルダーを渡した。
「今回は誘ってくれてありがとうね 。とても良い思い出になったわ」
 いつもは凛としているアクアが、キーホルダーを握りながら、隣を歩くひりょにはにかんでみせる。


(しあわせは、連鎖する、と思う)


 誰かにぬくもりをもらい、そのぬくもりを他の誰かにもおすそ分けしたくなる。
 そうしてぬくもりが巡って、繋がって、思い出として積み重なって――。
 それはとても、温かくて。
「きっと、幸せなことだ」
「え?」
 突然つぶやいた言葉に、アクアが視線を向ける。
「これが楽しいって事なのかな?  ――うん、そうだ。‥‥とっても、楽しかった」
 一つ一つ、噛みしめるように。染みこませるように。
 ひりょは忘れたくないと、そう思った。



 明日にはまた学園に戻る。
 またいずれ、剣を取る時が来るだろう。
 それでも。

「楽しい一日をありがとう」

 そう言える、そんな幸せな日々を決して見失わないように。
 満天の光に願いを込めて。

【色戦】Water fight! 担当マスター:由貴 珪花








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