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●魔法城(昼)

 ここは、Orzに建てられた魔法の城。
 どこかミステリアスな雰囲気漂うこの城で、大事な『三種の秘宝』が奪われてしまったというのだ。
 住人達は、秘宝を奪い返すことを決意。
 しかしその先には、数多の苦難が待ち受けていた――

 ではここで、やる気に満ちる生け贄(訂正線)住民の一部をご覧に入れよう。

「――さあ、悪夢の一夜の開演だ」※昼です

 めくるめく※自主規制※の予感に、アスハ・A・R(ja8432)はひとり笑みを漏らした。
 ミッションは勝ちに行くのが信条。
 たわしに紐を結わえ、片手にはダンボール箱。
 法に触れないぎりぎりラインを攻めたスキルと、辞世の句(←)まで準備万端だ。
「へーなんや楽しそうな鬼ごっ…こ?」
 目前に並ぶ鬼の面々を見て、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)は瞬時に悟った。

 あかんこれは死ぬ。

 まさか初めて来たOrzで、こんな事態になるとは。
 もはや非難の戦闘依頼ですよねわかります。
「なるほどな。命懸けの鬼ごっこというわけか…」
 不敵な笑みを浮かべ、同じく矢野 古代(jb1679)も鬼達を一瞥した。

「髪は(ストレスで)死んだ!」

 いやいくらなんでもあの面子おかしいだろ、どうしてこうなった。
「くっ…だが、生け贄にも一筋の髪…じゃなかった魂はある」
 そう言って古代は突然、自分に腹パンしながら緑火眼発動。
「ぐふっ…俺は負けん! 鬼に一矢報いてみせるまでは!」

※彼らは秘宝ミッションであることを完全に失念しているようです

 一方、エルナ ヴァーレ(ja8327)は友人の加倉 一臣(ja5823)に告げていた。
「オミーさん、あなたの今日の運勢、DIE凶」
「魔女様、縁起でも無いからねそれ!」
 エルナの占い結果に、一臣は一昨年の遠い悪夢を思い出していた。
(計画的に)最後まで残され、社会的死亡の烙印を負った忌まわしき記憶。
「俺、生還したら7年生になるんだ……」

 ラストワン、だめ。ぜったい。

 一臣が宇宙の理(訳:フラグ)を示す隣では、小野友真(ja6901)が気合いを入れまくっていた。
「ヒーロー参上! 最後に勝つんは俺や!」
 こういうのは気持ちが大事やって、俺知ってる。
 だから弱気になったらあかん、ここは強気で――(鬼を見る)

「……命(精神含む)は保証ありです?」

「俺は絶対に生き残るんだ……」
 フラグ乱立に余念の無いマキナ(ja7016)は、同じく住人側の西橋旅人(jz0129)に耳打ちをした。
「旅人さん。俺は植物園を探るから、そっちは図書館を任せたい」
「わかった。図書館だね」(そっと一臣が旅人に迷子札をつける)
 誘うと見せかけた密談のつもりだったのだが、後にこれが大変な事態を引き起こすことを彼らはまだ知らない。
 そんなマキナの後ろに隠れているのは、妹のメリー(jb3287)。
「えっと…鬼役のメリーなのです。よろしくなのです」
 人見知りなメリーは兄の背に隠れながらご挨拶。
 ぺこりと頭を下げる可愛らしい姿に、こんな鬼ならむしろ追いかけられた…

 その手に握られた魔法のステッキ(訳:鉄パイプ)がなければな!

 と言うわけで、ここからは鬼(文字通り)の方々にもご登場願おう。
「あらァ…面白そうなアトラクションじゃないのォ…楽しませてもらうわねェ♪」
 ホール内で爛々と光る金色の瞳。
 学園屈指の移動力(=脅威の47)を持つ黒百合(ja0422)が、にたぁっと微笑んだ。
 悦に満ちるその瞳は完全に殺る気である。※鬼ごっこです
「鬼役って楽しいですよね、恐怖を受け付けられるあたり」
 パイを両手に如月 千織(jb1803)は不敵な笑みを浮かべている。
 この日の為にコーラを振るだけの映像を見て練習してきた。
 手首の調子、OK。スナップも完璧に効かせられるだろう。

「遊園地で鬼ごっこしたらパイが食べられると聞いて来ました!」
 間違ってはいないが、何かが違う櫟 千尋(ja8564)は夫の櫟 諏訪(ja1215)と共に鬼側で参加。
「この面子での勝負は(主に鬼側が)楽しいことになりそうですねー?」
 諏訪はにこにこと人の良さそうな笑顔を浮かべながら、投擲用パイにハバネロを詰め込み中。
「すわくん、それ辛いやつだね。鬼だね……じゃあわたしも見習って、タバスコ詰め込むね!」
 ダメだこの夫婦はやくなんとかしないと。
「んと、鬼ごっこ頑張るの…です」
 華桜りりか(jb6883)はおっとりした調子でそう呟く。
 虫すらも殺しそうもない可憐な姿は、鬼であることを疑ってしまう。
 だが騙されてはいけない。
 天使の微笑みの下で、彼女はえげつない作戦を立てている(まがお)。
「自分以外はすべて生贄、よね?」
 儚げな少女・矢野 胡桃(ja2617)は微笑みながらとんでもない言葉を発している。
 たわしやパイだけじゃ物足りない。束縛、麻痺、ノックバック、瞬間移動まで完全完備。

 共食い上等、かかってこいよ。

 俺は育て方を間違えたかもしれない…という声が、住人側から聞こえたとか聞こえなかったとか。

 その時、背筋が氷るような声がホール内に響いた。
「鬼ごっこリターンズですね…」
 バットを手にした夜来野 遥久(ja6843)が、えがお(ひらがな)でフルスイングをしている。

 ある者はその声におののき。
 ある者はその声にトラウマを蘇らせる。

「さあ、存分に楽しみましょう」


 <○><○>


 命懸けの鬼ごっこが、始まった。※ここは遊園地です。





 植物園に最初に辿り着いたのは、カーディス=キャットフィールド(ja7927)と相棒の緋打石(jb5225)だった。
「鬼さん達が本気すぎてまっはでぴんちですよ!(震え声)」

 生き残る、だいじ。

 忍軍の彼らは持ち前の能力を生かし、開始早々全力逃走で鬼をまいてきた。
「今のうちにお宝を探しましょう〜『七色のピーマン』って何それ面白い!」
「宝? いいからネタアイテム収拾じゃ」
 張り切ってたわしを集める緋打石は、何故か鷲の着ぐるみを着用中。
「この格好だと動きづらいが、ネタのためじゃ」
 その時、人の気配を感じ二人は咄嗟に身を隠す。
 現れたのは、パイ弾幕+縮地+全力移動で逃走してきた月居 愁也(ja6837)。
 注意深く辺りを窺いながら、奥へと進んでいく。
「遥久は絶対ここだ…ピーマンをナスにすり替えるために! あ、あと加倉さんはきっとラストワン賞ね」
 ※ちなみに当の一臣は、開幕と同時に(INI値で負けた)櫟夫妻にハバネロパイをぶつけられ「目がぁ目がああ」と叫びながら捕縛された。
「え…縁起でも無いこといわないでよ」
 どさくさに紛れて逃走してきた、メフィス・ロットハール(ja7041)が引きつった笑みを浮かべる。
「大丈夫、俺の勘は当たるから!」
「全然大丈夫じゃないわね?」
 そんなやり取りをしつつ、二人もひとまず身を隠した。


 一方、図書館では点喰 縁(ja7176)が潜んでいた。
(今年はせめて…いっとう最後に捕まるくれぇは、いや生き残りてぇ…)
 前回は遥久にあっさり捕まったため、今回こそはと意気込んだものの。
(こいつは難儀だ…動くに動けねぇ)
 なぜなら、彼が隠れた直後に鬼である橋場 アイリス(ja1078)とイシュタル(jb2619)がやってきたから。
 二人は住人を捜索することなく、そのまま天井や本棚の影に潜んでしまう。どうやら後から来る住人を待ち伏せするつもりなのだろう。
 縁がどうしたものかと思案したとき、図書室の扉が開いた。
「ふむ…ここに秘宝『黒の禁書』が隠されているのだったな」
 住人側の天風 静流(ja0373)が、大して隠れる様子も無く堂々と室内へ入ってくる。
(いけねぇ、このままではあの二人にやられちまう…!)
 自分が出ていくべきか。はたまた、静流に警告すべきか。
 縁が焦ったその時、静流は本棚の影に隠れる存在に気づいた様子だった。
 しかし。
「……私を捕まえなくていいのか?」
 なぜか闘争が勃発する様子は無い。
 静流の問いに、アイリスとイシュタルは揃って微笑した。
「私達の主目的は別にありますから」

 主目的=アスハ・A・Rの討伐 ※鬼ごっこです

「そうか…健闘を祈る」
「お互いに」
 頷き合う彼女達を見て、縁はそっと合掌をした。


 所変わって大ホールでは、只野黒子(ja0049)が大きなカメラを抱えて潜んでいた。
「私は撮影係を担当しますね」
 つまりミッションそのものよりも、記録係が黒子の使命。
 彼女が撮影しているのは、ホール中央に設置された巨大な檻。鬼に捕まった住人が、ここに放り込まれるのだ。

「ふっ…開始早々檻の中か…」

 牢屋には開始1秒で捕まった一臣が、悟りきった表情で入っていた。
「非常に迅速かつ的確な捕獲劇でしたね」
「黒子ちゃんの冷静なコメントが辛い」
 でもこれでラストワンにされることはなくなった。ちょっと早すぎる気もするけれど、余生を穏やかに過ごそう。
 一臣がそう心に決めたところへ、遥久が通りがかった。
「元気そうだな、加倉」
「おい遥久なんで檻の鍵を開けry」
 遥久は問答無用で一臣を檻から放り出すと、当然のように微笑んだ。

「恐怖は二度三度味わうべきだろう?」

 戦慄の鬼ごっこ、後半へつづく。


●魔法街(昼)

 魔法城が戦場と化した頃、城下町ではラファル A ユーティライネン(jb4620)が元気よく宣言した。
「よーっし今日はめいっぱい遊ぼうぜ!」
 いつもなら、長期休暇中は義体のオーバーホールに当てるため、ほとんどが潰れてしまう。
 けれど今回はそんなこともなく、時間を持て余していた所を友人の向坂 玲治(ja6214)と葛城 巴(jc1251)に誘われたのだ。
 所狭しと並ぶ怪しい店と品々に、玲治は半ば呆れた様子で。
「何をどうしたらこんな品揃えになるんだか…」
 いかにも怪しげな調味料を、巴は興味津々で手に取る。
「【お母さんの味粉】…これを使えば、なんでも食べられそう」
 ただし毛虫は除く。
 そこで玲治は【魔法の甘粉】なるものに目が留まった。
「『かけるとすべてが甘くなる』……? よし、言い値で買おう」
 実用と保存用と観賞用と、布教用も買わねばなるまい。
「お前どんだけ甘い物好きなんだよ!」
 ラファルは笑いながらツッコミつつ、自身はクッキーを購入。何やら説明書がついていた気がするが、気せず食べる。
 その隣では、巴がいつの間にか買った鯛焼きを差し出した。
「向坂さん半分どうぞ」
「お、悪ぃな」
 あんこが詰まった頭を嬉しそうに頬張りつつ、玲治はふとラファルの様子がおかしいのに気づく。
「…おい、どうした?」
「どういうことだよ…お前ら一体いつの間にザリガニになったんだよ!」
「お前こそ一体何があった」

 同じ頃、千葉 真一(ja0070)は店の前で言い争う教師コンビと遭遇していた。
「あ、相変わらずじゃれ合ってるな」
 真一は苦笑を漏らしながら、アリス・ペンデルトン(jz0035)と太珀(jz0028)に声をかける。
「先生、何を揉めているんですか」
「おお、千葉君! この小童が秋のプリンはかぼちゃだと言い張るんぢゃ!」
「普通に考えてかぼちゃだろう、これだから小娘は」
「なにおぅ! 今のとれんどはさつまいもぢゃ!」
 小学生以下の争いに、真一は慌てて割って入る。
「わかりました! ここは両方食べるってことでいいんじゃないですか?」
「む…確かにその考えはなかったのぅ」
「ふん…まあ悪くない選択だ」
 うまく収まりそうな気配に真一がほっとしたところで、声が響いた。

「アリス先生発見ですよ〜」

 声の主は森浦 萌々佳(ja0835)@魔女萌え。
「おお、森浦君も楽しんでおるk」
 むぎゅうううううううう。
「お久しぶりですね〜お会いできて嬉しいですよ〜」
 もふもふもふもふもふ
「ぬおおお、息ができん。離すのぢゃ!」
 彼女に思いっきり抱き締められ、アリスは窒息寸前。
「今日は思う存分楽しみましょうね〜」

「魔法使いの町なんて面白そうじゃない!」
 雪室 チルル(ja0220)は怪しげなお店で溢れる街並みで、食べ歩きを楽しんでいた。

 魔女の指クッキー。
 目玉ゼリー。
 ドクロ型ケーキ。

「うん、意外と美味しいわね!」
 見た目とは裏腹に、味はどれも美味。
 うら若き乙女が目玉(の形をしたゼリー)を食べている姿は、絵面的にアウト感満載だけれど。
 途中、適当なお店に入りながらお土産のインテリアを購入。

 マンゴドラ筆立て(叫びの表情ver)
 干し首ストラップ

 絵面的に以下略だが、本人至って満足そうである。

 西洋の街並みを見に訪れた久世姫 静香(jc1672)は、知った顔と出会う。
「どうされたのじゃ、シロ殿?」
 声をかけた黄昏シロ(jb5973)は、明らかに困った様子で静香を見上げた。スケッチブックを取り出すと、何事かを書き綴る。
『主を追って来たのですが…』
 大事な主を護るのが務めと付いてきたはずが、遊園地に入ってすぐ見失ってしまったらしい。
「はて、私は見ておらぬが……」
 しょげ返るシロへ、静香は励ますように告げた。
「まぁ、この遊園地の中ならば危険はないじゃろう。せっかくじゃ、一緒に町を回らぬか?」


●再び、魔法城(昼)

 植物園へ向かう通路歩きながら、友真はため息をついた。
「開始早々一臣さんとはぐれてしもたな……」
 共に開幕ダッシュで逃走する予定が、櫟夫妻のパイ弾幕で阻止された。
 なんとか一臣の犠牲で逃れ、胡桃には「あっちに古代さんが!」と伝えて逃げ切り、メリーには「まっきーはあそこやで頑張ってな!」と励まし難を逃れた。
 しかし、ここは今や戦場。いつまた敵に襲われてもおかしくない。
「大丈夫や、俺にはこのマーキング情報がある…!」
 逃げる直前、最も危険な鬼(=遥久)にはマーキングをしておいた。彼さえ逃れれば後はなんとかなると、友真が自信を抱いた時だった。
 
「あらァ、こんな所に生贄がァ…♪」

 その声が聞こえた刹那、友真の後頭部に衝撃が走る。
「な…いつの間に…?」
 どうしてと考える間もなく、意識が遠のいていく。

 気配を消し。
 超速度で移動し。
 超殺法でたわしを叩き込んだ黒百合が、こちらを見下ろながら微笑んだ。
「やっぱり狩りはいいわねェ…♪」
 その瞬間、友真はこの戦いの本質を悟った。

 危険じゃない鬼なんて、いなかったんや。

 友真が☆になった頃、別の通路ではエルナが彷徨っていた。
「撃退士って、ばかよねぇ…って、ちょっと誰もいないじゃない!」
 開幕直後の惨劇から縮地で逃走してきたら、いつの間にか一人。
 恐怖と心細さが高まる中、彼女は早くも精神防御値がゼロになりかけていた。
(さっさとこの地獄から抜けるために、いっそ自ら捕まろうかしら…)
 きっとその方が苦しむ時間も少ないはず。
 エルナがそう考えた時、通路の奥で話し声が聞こえた。

「はい、千尋ちゃんあーんですよ?」
「ありがとーぱくーー!! すわくんもどうぞあーん!」
 諏訪と千尋が、互いにパイを食べさせ合いっこしながら和んでいる。
 ほのぼのした様子を見て、エルナは思った。
(あの二人になら、優しく捕まえてもらえそうね…)※彼女は開幕時の惨劇を忘れているようだ
 そこで諏訪がエルナの存在に気づいた。
「あれ、誰かそこにいますねー?」
 にこにこと笑みを浮かべて立ち上がると、千尋と頷き合う。
「じゃあ、ハバネロパイ投げましょうかー!」

 あかん、これ死ぬわ。

「ごめん、やっぱりシニタクナイ!!!」
 必死にたわしを投げつけ、エルナは逃走を開始する。
「すわくんはわたしが守るよ!」
 シールドで受け止めた千尋が、爽やかな笑顔でタバスコ水鉄砲を発射。
 素晴らしい命中力で被弾。
 続く諏訪が人懐こい笑顔でハバネロパイを投擲。
 素晴らしい命中力で被弾。

「目が痛いなんてもんじゃないわよおおおお」

 このインフィ夫婦、まさに鬼畜である。
 なんかもう色んな意味で酷いことになったエルナは、その場に倒れ伏す。
「魔女が生贄、ね…」
 辞世の句を残し、捕縛完了。


 時を同じくして、植物園には人影が現れていた。

 こつ、こつ、こつ。

 足音と共に奥へと歩み入る。その手が、何かに伸びたとき――
「かかったな遥久! お前がここに来るのはわかってたぜ!」
 奥からばーんと現れたのは愁也。それを見た遥久は当たり前のように。
「お前がここにいるなど、端からお見通しだ」
「あれ、そうなの!?」
「安心しろ、刻印付与と引き替えにお前は見逃してやる」
「え、おい遥久待てよ!」
 何故かあっさり植物園を出る親友を、愁也は慌てて追いかける。入れ替わりで入ってきたのは黒百合。
「あらァ…いくつか気配があるわねェ♪」
 そう言って跳躍しながら凄まじい勢いでたわしを投擲。

 どごぉっ

「うおう、びびったのですよー!」
「ーーーーーーーー!!!!」
 叩き込んだ場所から、黒猫と鷹の着ぐるみが飛び出してくる。その隣では、たわしを毛虫と勘違いしたメフィスが声にならない悲鳴を上げていた。
「ふ…見つかったのなら仕方ないのう」
 緋打石とカーディスは、ばさぁと鷹の荒ぶるポーズを決める。
「忍軍の名にかけて、逃げ切ってみせましょう!」
「これがNINJA専用逃走術じゃー!」
 影走りで縦横無尽に駆ける着ぐるみを、黒百合が嬉々と追いかけていく。
「誰もいなくなったわ…チャンスね!」
 どさくさに紛れて残ったメフィスは、ここぞとばかりに秘宝を探し始める。
「えーっと、何だったかしら。確か……」
 目前に置かれた七色のモノに、目が留まる。
「あったわ、これね!」
 何だか微妙に違う気もするが、深く考える暇は無い。メフィスは秘宝を手にすると、植物園を後にした。

 その頃、彼女の夫アスハは死角に潜みながら図書館へと移動していた。
 曲がり角をのぞき込み、敵の存在を確認。
 こちらを見ていないタイミングで背後に回り込む。

「……? なんだ、ただの箱か」

 振り向いた敵が見たのはただのダンボール箱。そのまま前を向き――
「うっ…?」
「……悪いが眠ってもらうぞ」
 箱を手にしたアスハが、寝落ちた敵の側をすり抜けていく。
 無事に図書館に到達したその時、どこからか声が響いた。

「――待ってましたよ、アスハさん」

 聞き覚えがある声。天井から降りてきた影は、友人のアイリスだった。
「……まあ予想はしていたが、な」
 続いて、本棚の影からもう一人の友人・イシュタルが現れる。
 可憐なる少女二人は微笑みながら、告げた。
「さあ、私達と楽しみましょ?」

 アスハは戦略的撤退を決めた。

 速攻でスリープミストを使用し、煙に紛れて逃走開始。
「逃がさないわよ?」
 イシュタルは自分とアイリスに韋駄天を付与。その上アイリスは縮地を発動し、なんかもうめっちゃ凄い勢いで追ってくる。

 いや、普通に逃げ切れないだろこれ(まがお)。

 逃走を諦めたアスハは身を翻し、紐付きたわしを投擲。避けられたところで紐を引っ張り、遠心力で腕を絡め取る。
「なかなかやりますね」
 対するアイリスはナイトミストを展開。闇に閉ざされた動きが鈍ったところを、イシュタルのパイ弾幕が炸裂する。
「さぁ…踊ってもらおうかしら」
「くっ…二対一はさすがに厳しいか…っ」
 絶体絶命のピンチ。しかしここで事件が起きた。
「隙あり、はむぁーーっ!」
「!?」
 イシュタルの隙を狙っていたアイリスが、いきなり背後から抱きついてもふもふ。
「きゃあああああ!」
「ちょ、待ry」
 驚いた彼女の裏拳が、蒼髪の男へついうっかり勢いよく振り抜かれる!

 ごふう…っ

 アスハは☆になった。


 不幸(笑)な事故が起きた頃、マキナは手鏡で曲がり角を確認しつつ冷や汗をぬぐっていた。
「今のところ敵影なしか…」
 開始直後、全力逃走で妹から逃れてきた。
 彼女の某彼ログ的なGPS追跡対策のために、携帯電源もオフ。今のところ見つかる要素はないはずだが。
(あれ、この音なんだろう…)
 カン…カン…
 地面を小突くような音が聞こえるのに、マキナは気づいた。
 カン…カン…
 音は少しずつだが、大きくなっている。そう、まるでこちらに近づいてきているような――

「お兄ちゃんみーつけた☆」

「なんでええええええ」
 脱兎の如く逃げ出すマキナを、メリーが超笑顔で追いかける。
「あははーお兄ちゃんったらーメリーから逃れられると思ってるのー? メリーとOHANASHIしようよー?」
 魔法のステッキ(訳:鉄パイプ)が引きずられ、乾いた音が鳴り響く。
 何故彼の居場所があっさりバレたのか。その答えを、以下再現VTRでご覧にいれよう。

 ※※

「おかしいな…ここを通るのは三回目な気がするけど、まだ図書館に辿り着かないな…」
「ぐすん、ぐすん」
「あれ、メリーさんどうしたの」
「迷子になって心細いのです…」
「大丈夫? 僕もよく迷うから気持ちわかるよ」
「お兄ちゃんに会いたいのです…ぐすんぐすん」
「な…泣かないで! 確か君のお兄さんは植物園に行くって言ってたよ」
「ありがとうなのです、西橋さん!」

 ※※

「しまった、行き止まりだ!」
 うっかり突き当たりに逃げ込んだマキナは、慌てて辺りを見渡した。
 まずい、逃げ場がない。
 焦りが頂点に達したと同時、背後で空を切る音が響いた。


 マキナが☆になった時、縁は敵の目を盗みながら秘宝を探していた。
「素直に考えりゃ、本、なんでしょうが…」
 怪しげな本棚をすべて確かめていく。いくつめかにさしかかった時、何やら黒いオーラを放つ本に気づいた。
 手に取ってみるとずっしりと重く、漆黒の表紙には『黒の禁書』と書かれている。
「おお、これこそが秘宝に違いねぇ!」
 縁が喜びの声を上げたときだった。

「発見ご苦労様です」

「は…遥あにさん…!」
 振り向いた先で遥久が微笑んでいる。どうやら捜索に夢中で、気づけなかったようだ。
 顔面蒼白になる縁に、遥久はゆっくりと問う。
「貴方の探し物は金のたわしですか、銀のたわしですか。それとも、ハリネズミですか」
「ででできればどれも御免被りたいですねぇ…?」
「そうですか、では正直者の貴方にはたわしをどうぞ」
 遥久、笑顔でフルスイング。
「でぇえええええええ」

 どごおっ。

 思いっきりみぞおちにくらい、その場に倒れ伏す。
「こ…これだけは…っ」
 意識を失う寸前、駆け寄ってきた静流に秘宝をパス。
「点喰君の犠牲を無駄にはしない」
 遥久の追撃を振り切り、静流は通路へ一直線に駆け抜ける。しばらく走ると、突然「おじゃま黒子」の集団が現れた。

 \邪魔してやんよー/

「鬼だか何だか知らんが…向かってくるなら容赦はしないよ?」
 降りかかる火の粉は振り払うまで。
 迫り来る黒子相手に、静流は瞬間的に加速し間合いを詰めた。
 そのまま接近した勢いを利用し、フルスイングでパイを投げつける!
 
 \ぐっしゃあ/

 尚も襲ってくる黒子には、近くの黒子を使用。
「こんな所にちょうど良い盾が。使わせてもらうよ」
 静流はいともたやすくおこわれるえげつない行為で、黒子集団を次々に殲滅していく。
「可哀想? 仕掛けてきておいて何を」
 涼しげな顔で、颯爽とその場を後にする。

 一方、別の通路でも黒子殲滅戦が始まっていた。
 千織は向かってくる黒子に、見事なパイ投げを炸裂させていた。

 狙うは顔面一択。

 大きく振りかぶって全力投球ジャストミート!
「ダイ●ケ的にもオールオッケー!」
 ああ、ここにコーラがあったら完璧なのに…と呟きつつ、千織は何故か半ギレ。
「マッスル、知的、魅力的にというのなら何故大神さ●らちゃんの様にならなかったんですか…!」
 などと意味不明な言動を発し、嬉々として撃退中。
 命懸けの逃走劇を繰り広げていた黒百合、カーディス、緋打石の三人は一時黒子殲滅へとシフト。
「とりあえず邪魔は排除しないとねェ♪」

 排除=瞬殺。

「お邪魔黒子はやっつけますよー!」
「そういやこの前はトラックで追いかけたのう」
 緋打石は乗り物的なものがないかときょろきょろ。
 あっ、あんなところにたまたま偶然わざとらしく置かれた小型自動車が!
「ゴーカートだっ!」
 早速乗り込んだ緋打石とカーディスは、なんかめっちゃ凄いスピードで追跡し始める。
「ヒャッハー!」
「ぶっころーす!」
 次々に黒子を撥ね飛ばしていく、猫と鷲の着ぐるみ。

 誰かこいつら止めてくれ。

 その他メフィスが「あーもう、宝探しの邪魔ったらないわね!」と積極的にたわしをぶつけ、
 愁也が「ヒャッハー生贄だー!」と積極的に狩りまくり、
 戦争屋の方の黒子が「紛らわしいですね」と積極的に塩キャラメル指弾をぶつけるなど、各地でおじゃま黒子の虐待(訂正線)撃退劇が発生した。


●戻って、魔法街(昼)

 その頃、魔法街でも黒子撃退が始まっていた。
「うわっ何だこいつら」

 \邪魔してやんよー/

 突如現れた黒子集団に真一はぽかんとなるも、すぐさまきっと表情を変え。
「よくわからんが、平和を乱す輩は俺が許さん!」

 ヒ ー ロ ー 見 参 !

 襲ってくる黒子を次々と迎撃。華麗なる撃退戦を繰り広げる。
 萌々佳は迫るお邪魔虫を前に、にっこりと微笑んで。

「じ ゃ ま し な い で く だ さ い 〜」

 私とアリス先生の時間を邪魔するなら、覚悟はいいですね?
「先生ちょっと待っててくださいね〜今から『これ』殺りますから」
「むむむむ無理はしなくてよいぞ! 手加減を忘れずにな!」
「え、何か言いました〜?」

 修 羅 見 参

 ※ただいま映像が乱れております。しばらくお待ちください※

 一応結論だけ言うと、この二人の活躍(訳:無双)により黒子はあっさりと撃退された。
「思ったより弱かったな」
「お前達が強すぎるんだ」
 真一の感想に太珀がやれやれとツッコむ。邪魔者がいなくなったことで、萌々佳は再びアリス先生をもふもふ。
「久しぶりのアリス先生萌え、アリス先生成分を補給しますよ〜します。絶対」
「ぬおおお苦しい離すのじゃ〜!」
「あ、先生待ってください〜」
 その後、アリスの姿を見た者は誰もいなかったという。

 時間は少し巻き戻り、チルルは【占いの館】に入っていた。
 目の前に座るのは、目元までベールで覆われた占い師。室内も神秘的な雰囲気に満ちている。
「あたい、恋人が欲しいんだけど…どうすればできるかな?」
 占い師に促されカードを引く。出てきたのは、『戦車』が描かれたものだった。
「このカードはね、『目標へ突き進む姿』や『勝利』を意味するのよ」
 占い師が言うには、とてもエネルギーに満ちあふれたカードなのだと言う。
「きっとあなたは、障害や困難をものともせずに突き進む力を持っているのね」
「うん。あたい、『とても凄い撃退士』になるのが夢だもん!」
 チルルの言葉に、占い師は微笑しながら頷いて。
「あなたのそういう所はとても素敵よ。ただね、その気持ちが強すぎて、恋に目が向けられていないのではないかしら?」
「え? そうかな。うーん。そう、かも」
「恋人が欲しいのなら、あなたからも恋をしないとね」
「……恋って、どうすればできるのかな」
 チルルの問いかけに、占い師はにっこりと告げた。
「思いきって、出会いの場に参加してみるのはどうかしら。あなたは勝利を勝ち取れるパワーがあるんだもの。本気で恋をしたいと行動すれば、きっと素敵な相手が現れるわ」

 館を出たチルルは、占い師の言葉に一人気合いを入れていた。
「あたい…恋をする!」
 彼女の決意は、いつか実を結ぶときが来るだろうか。

 一方、玲治達は引き続き街の散策を行っていた。
「魔法の街恐ろしい…まさか、人がザリガニに見えるとはな」
 ようやくクッキーの効果が切れたラファルに、巴がくすくすと笑いながら。
「ラルったら説明書読まないから」
「そういや、あのたい焼きは…」
 玲治の言葉、巴はにっこりと微笑んで。
「『食べると本音しか言えなくなる』たい焼きです」
「ぇ」
 玲治が慌てたように瞬きする前で、巴は二人を交互に見やる。
「向坂さんとラルって一緒の依頼うけてること多いから、羨ましいときもあるんですよ」
 でも、とまずは玲治を見つめ。
「貴方は、私の、いとしいひとです」
 次にラファルを振り向き。
「ラルも私の大切な人。だってラルは、いつも私に前に進むことを教えてくれるから」
 二人がいてくれて、自分は幸せ。
 これはいつも口にしている、掛け値のない本音。
 聞いたラファルは照れた様子で返す。
「そんなの俺だって同じに決まってんじゃんー。お前は俺の大事な友だちだぜ!」
 対する玲治はもごもごと口ごもった後。
「俺だって…葛城のことは…」
 その先何を言ったかは、真っ赤になった巴の表情が物語っていて。

 静香とシロは二人で街のあちこちを見て回っていた。
「まさに異世界のようじゃの…これが西洋か」
 この国とは重ねてきた歴史も文化も、まるで違うのが一目でわかる。
『不思議な世界、です』
 シロにとってこの街はすべてが不思議で新鮮だった。
 見たこともない食べ物、見たことのない風景。見ているだけで、胸がどきどきしてくる。
 物珍しそうな彼女の様子を見て、静香は感じていた。
(シロ殿は喋りはせぬが、感情がないわけではない)
 特に最近は、以前よりずっと表情が豊かになったように思う。
(感情が育ち始めた…そんな所じゃろうか)
 そうだと、いい。
 感情が複雑になると、色々な悩みも増えるかもしれない。
 けれど、歓びも、幸せも、ずっと多く感じられるはずだから。

 その時、シロが瞳を輝かせながらある場所を指した。
 ”魔女のお菓子屋”
「そうかシロ殿、お腹がすいたのじゃな」
 主譲りの腹ぺこ具合に、静香はつい笑いながら一緒に店へ入る。二人でテラス席に腰掛けると、休憩がてらスィーツを楽しむ。
「日本茶は…ないのじゃな、むぅ。ならば、たまには紅茶など飲んでみるか」
 シロはホットミルクを注文。
(私、猫舌だった…)
 熱々のミルクを必死に冷ましつつ、シロは自分で選んだパンプキンプリンを一口食べてみる。
 優しい甘さと、滑らかな舌触り。
「おお、これは美味しいのぅ」
 静香の言葉にこくこく。こんなに美味しいものがあるのだと知り、驚いてしまう。
「今日はまるで見知らぬ土地に紛れ込んだ気分じゃったが…」
 静香はそう呟いてから、シロへ微笑みかけた。
「シロ殿のおかげかの。楽しむことができた」
 その言葉に、シロは何だか胸がいっぱいになってしまう。
(私は知らないことが、まだたくさんある)
 主から聞く色々な体験談は、いつも本当に楽しそうで。

 自分も皆と同じように、なれるだろうか。
 変わっていけるだろうか。

 シロは店を出る前に、思いきってプリンをもう一つ購入した。
『主へのお土産、です』
 ほんの少し踏み出す、第一歩。


●そして、魔法城(昼)

 その頃、ゼロと古代は大ホールに近い通路を駆け抜けていた。
「ふ…俺はこの日のために移動力を上げてきたのかもしれない」
 ゼロは持てる能力全てを生かし、敵の追跡を振り切ってきた。対する古代は口から血を流しサムズアップ。
「俺はこの日の為に大逃走を覚えたのかもしれない」
 初手で何と自分から鬼へと接近。次々にパイをぶつけまくってから逃走してきた。
 その時、ゼロの生命探知に反応がある。
「ん、敵か…?」
「加倉さん!」
 通路の影に、遥久によって檻から蹴り出された一臣が潜伏していた。
「ゼロくん、古代さんいいところに…! 今ホールの牢屋には多くの仲間が捕まっていてね」
 二人はなるほどと頷き。
「よっしゃ、じゃあ秘宝を手に入れるついでに捕虜も解放しよか!」
「仲間のために死地へと向かおうじゃないか…住人側の権利は行使させてもらうッ!」
 例えその権利の先がギロチンであろうとも!

「あら、何の権利を行使するのかしら、ね?」

 その声に古代の表情が石膏像のように固まった。
 振り向いた先で、胡桃と千織がパイを両手に微笑んでいる。
「やっぱり瞬間移動って便利ですよね」
 主に相手を追い詰める的な意味で。
「くっ…今捕まるわけには。ここは戦略的撤退だ!」
「あら。どうして逃げるのかしら、ね!」
 いい笑顔で追ってくる胡桃と千織に、突然一臣が立ちはだかる。
「ゼロ君、古代さん!ここは俺に任せて逃げろ!」
 決して、遥久のいない間にさっさと捕まっておこうと思ったわけではない。断じて。
「加倉さん!……くっ……任せたぞ!」
「じゃあ、遠慮なくやらせてもらいますね」
 千織は束縛+パイ弾幕で一臣を瞬殺。
「もうちょっと手加減してくれてもいいのよ!」
 その隙に胡桃は瞬間移動で、古代の進路先へ回り込む。絶体絶命のピンチに、父は手にしたパイを大きく振りかぶった。
「娘よ許せ、これも皆のためええッ」

 べちゃり。

 投げた渾身のパイが、胡桃の頭に見事命中。
 クリームでべったべたになった髪の毛の下で――鬼が覚醒した。

 あ、これ死んだわ。

 即座に逃走する古代を、胡桃が北風で吹き飛ばす。
「ぬおおおおおおお」
 ゼロの横を壮絶に吹っ飛んでいった古代は、そのまま麻痺状態。
「へーか容赦ないな(」
「大丈夫よ、父さん。すぐ楽にしてあげる、わ」
 笑顔で歩み寄る胡桃を前に、古代は死期を悟った。

「俺の出番のご愛読ありがとうございました!」

 古代が盛大に散る中、何とか逃げ切ったゼロは、大ホールへと辿り着いていた。
 物陰から窺うと、ホール中央にある牢屋ではメリーが生贄に差入れを行っていた。
「メリー、皆さんのために手料理を持ってきたのです」
 彼女が真心込めて作った物体X。アイリスとイシュタルが笑顔で振る舞う。
「もちろん、完食するまで帰れません」

「牢屋に入れられてなお続く拷問…!(戦慄)」
「あっすん、それ冗談にならへんから(号泣)」
「あたいの命もここまでかしらね…」
「魔女さん縁起でもねぇこと言わないでくだせぇ!」
「(白目を剥くマキナ)」

「あかん、このままじゃ再起不能者が増える一方や(」
 ゼロはメリーが檻を離れた隙に牢屋へとダッシュ。
「あっゼロさんええところにー!」
 救世主の登場に捕虜たちは色めきだつが、何故か牢屋の鍵が開かない。
「ん? あかんこれ、鍵穴にガム詰まってるわ」
「ちょおおおおお」
 その時、背後から聞き覚えのある声が届いた。

「ゼロさん見つけたの、です」

 振り向いたゼロは予想通りの相手に、にやりと笑む。
「ふっ…やっぱりお前やったか。大魔王りんりん!」
 ヒリュウで牢屋を監視していたりりかが、おっとりした調子で告げた。
「ゼロさん相手なら、手加減はしないの」
「望むところや、殺られるくらいなら滅ぼしてやんよ!」
 攻撃こそ最大の防御。ゼロは獰猛さをあらわに迎撃態勢をとる。
「んむ…じゃあ黒百合さん、メリーさん、如月さん、胡桃さん、諏訪さん、千尋さん、頑張りましょう、です」
「ぇ」
 ゼロの接近に気づいたりりかは、近くにいた鬼を招集し「ゼロ包囲網」を築いていた。
「全てあたしの思いのままに、ですよ?」
 ひどい、ひどいな大魔王!
「あかん、やっぱこれ死ぬわ」
 ゼロはパイを投げつけながら逃走開始。途中彷徨っていたおじゃま黒子も、躊躇無く投擲する。
「あの鬼たちを見てみろ! 大人しく盾にならんかい!」
 途中、どこからか処す方の黒子が現れ、ゼロに何かを手渡した。
「先ほど、ホールで見つけましたので」
「おっこれは『金のたわし』やな! よっしゃ、あとはこれを城主に渡すだけや!」
 追尾から逃れつつ、城主の待つ最上階へと向かう。

 その頃、別ルートで静流とメフィスも最上階へと辿り着こうとしていた。
 ちなみにカーディスと緋打石も銅像のフリをしてやり過ごしながら最上階を目指していたが、りりかによる<城主は此方>という偽看板に騙され、別の場所へと到達。
 待ち受けていた黒百合が死角からたわしを高速で叩き込み、一撃死を遂げた。
 敗因は「鬼さんが怖すぎた」とはカーディスの談である。

「はぁ…はぁ…ついに最上階に辿り着いたわ!」
 最初に到着したメフィスは、目前に座る城主へと『秘宝』を差し出す。
「これでミッションクリアよ!」
 そこでエラー音が鳴り響く。

「なっ…どういうこと?」
『残念ですが、それは秘宝”七色のピーマン”ではありません。七色の”ナス”です!』
「しまった、騙されたわ!」

 直後天井から大量のたわしが落ちてきて、メフィス撃沈。
 続いて静流とゼロがほぼ同時に辿り着く。
「やれやれ、長い道のりだったよ」
「けどこれでしまいやで!」
 しかし何故か城主は何も答えない。
 何やら様子がおかしいと近づこうとしたところで、二人は気づいた。

「これは…城主じゃない!」

 何とそこには、縄でぐるぐる巻きにされた旅人が目を回していた。
「本物の城主は別の場所にいますよ」
 微笑みながら現れた遥久に、愕然。その時、物陰から愁也が飛び出して来た。
「そうかわかったぞ! あの時旅人さんを誘拐したんだな!」
「お前いつからそこにいたんだ」

 時には、仲間を売る死の商人になりながら。
 時には、巻き添えパイまみれになりながら。

 最初から最後まで、愁也の目的はただひとつ。
「遥久を追う、これが俺の使命!」
 ストーカー? いいえ親友愛です。
 既に手遅れの愁也だが、途中黒子を狩っている間に一瞬だけ遥久を見失っていた。何をしていたのかわからず、怪しいと思っていたのだが。
「迷子の旅人さん誘拐するとか、遥久マジ遥久」
 でも男前だから仕方ない。※愁也目線
 次々に他の鬼が到着する中、遥久は全員を見渡し。
 これでもかってくらい、いい笑顔で告げた。

「誰が鬼なのか、教えてさしあげましょう」

 ※その後の展開はお察しください※


●魔法城(夜)

 日が暮れた城内を、浮遊するシャンデリアが彩り始める。
 昼間の惨劇からは打って変わって、大広間では優雅な晩餐会が始まっていた。
 タキシード姿の咲魔 聡一(jb9491)は、スマートな足取りで恋人をエスコートする。
「とても素敵だ、蒔絵さん」
 聡一の隣には、瞳を輝かせる天願寺 蒔絵(jc1646)の姿。今夜の彼女は、艶やかな黒髪を背に流し、白地に金の刺繍が施された豪奢なドレスを身につけている。
「聡一さん。連れてきてくれてありがとう、来てみたかったんだー」
「喜んでくれて何よりだよ」
 そう言って彼女に微笑みかける素振りは、いっそ優雅でさえあって。以前、ある依頼で教わった紳士の立ち居振る舞いを、存分に発揮しているのだ。
 とは言え。
(それにしても蒔絵さん可愛すぎるだろう!)
 実のところ美しく着飾った蒔絵を前に、胸が高鳴りっぱなし。彼女と手袋越しに手を繋ぐだけで、緊張で倒れそうな程である。
(…が、そんな失態は犯さんぞ)
 演劇部部長の意地にかけて、余裕があるように振る舞ってみせる。絶対に彼女を幻滅させないと、心に決めているから。

 一方、蒔絵の方も緊張と嬉しさで胸いっぱいになっていた。
(うふふ、こんなおとぎ話みたいなパーティ、初めて)
 しかも隣には大好きな恋人が、流れるような所作と輝かんばかりの爽やかな笑顔でエスコートしてくれている。
(ああ、こんなに幸せなら夢でもいい…!)
 そう思えるほどに、夢のようなひととき。

 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)は深緑の貴族風衣装に身を包み、颯爽と大理石の床を歩く。
 彼がエスコートしているのは、樒 和紗(jb6970)。スミレ色のドレスを纏った和紗は、手を引かれながらもじもじしていて。
「こ、こういうレース等が多い服は…恥ずかしいです」
 普段は和服か制服であるため、どことなく落ち着かない。ジェンティアンはそんな可愛いはとこに瞳を細め。
「よく似合ってるじゃない。あ、これ加えると更に良いよ…はい、できた」
 和紗の髪に飾ったのは、街で見つけたスミレの髪飾り。彼女の艶やかな黒髪によく映えている。
「……ありがとうございます。竜胆兄は、流石に様になっていますね」
 その言葉に、ジェンティアンは腰布をなびかせドヤ顔。
「まあ僕だし?」
 あ、なんだか冷たい視線が飛んできた。

 テーブルを彩るのは、正統派フレンチの数々。
 どの料理も芸術のように繊細で、和紗は感嘆のため息を漏らした。
「凄いですね…どれを食べるか迷います」
 全部食べたいけれど、小食なのでそうもいかない。
「食べたいのを好きなだけ取りなさい。残ったら僕が食べるから」
 悩む和紗に、ジェンティアンがさりげなくフォロー。折角の機会だし色々食べて欲しい、と告げる相手に和紗は礼を言いつつ。
「…でも俺の事を気にしてばかりなのは、申し訳ないのですよ」
「え? 小声は聞こえなーい」
 申し訳そうな和紗の言葉は、聞こえないフリ。

 染井 桜花(ja4386)は、警備がてら晩餐会に参加していた。
 彼女の衣装は質の良いサテンで作られた、黒のカクテルドレス。上品かつ華やかなデザインで、太股には鉄扇用ホルダーをこっそり装着している。
「……美味しい」
 ディナーを楽しんでいた彼女は、目の前でふらふらとする人影に気づく。
「……あれは…」
 学園教師のミラ・バレーヌ(jz0206)だった。顔を真っ赤にしたミラは、足下がおぼつかない様子で今にも転び――
「うわああああ」
 何も無いところで思いっきり躓いたのを、桜花はとっさに掴む。
「……危ない…」
「おお、染井君ありがとう!」
 目を回すミラに桜花は告げる。
「……先生…歩くと…怪我する」
 どうやら慣れないお酒をうっかり飲んでしまって、酔っ払っているようだ。
(……放っておく…危険…)
 桜花は仕方なく、ミラが転ばないよう付いて歩く。
 どっちが教師かわからないが、ツッコんではいけない。

 獅堂 武(jb0906)は友人のフレデリカ・V・ベルゲンハルト(jb2877)と参加していた。
 タキシード姿の武は、普段着慣れないせいか若干緊張気味。対するフレデリカは、瞳の色によく似た青のカクテルドレス。髪を飾る硝子細工の青薔薇は、物作りを愛する彼女の手作りだ。
 晩餐会で食事を終えた二人は、ダンスホールへと移動していた。武はそこで、恭しく手を差し出す。
「一緒に踊っていただけますか? お姫様…って似合わねぇかな?」
 若干照れ気味な相手に、フレデリカはくすりと微笑む。
「今まで武さんには色々お世話になってきたことですし。お誘いには乗りますよ」
 差し出された手を取りつつ、やや戸惑い気味に。
「あ…でも、私今まで社交の世界には、あまり興味がなかったものですから。上手く出来るか、少し不安で」
「大丈夫! 俺がエスコートすっから」
「……そうですか? では、お言葉に甘えますね」
 武に導かれながら、二人は音楽に合わせゆっくりとステップを踏んでいく。

(フレデリカさんにはああ言ったけど)

 本当は女の子とダンスするのは今回が初めてで、内心ドキドキ。でもフレデリカに楽しんでもらいたくて、こっそり練習してきた。
(それにしても、フレデリカさん綺麗だな…見惚れ過ぎてヘマをしねぇように注意だな)
「武さんどうしました? 何だか上の空に見えますけど」
「えっ!? いやフレデリカさんのドレス姿が綺麗でつい…あ、色目とかお世辞じゃないよ!?」
 慌てた様子の武に、フレデリカは真顔でツッコミ。
「お世辞には感謝しますが、恋人がいるのに私に色目を使ったらだめですよ」
「だからお世辞じゃないって!」
 そんなたわいのない会話も、気を許せる友人同士だからこそ。

●魔法街(夜)

 一方、夜の街では水屋 優多(ja7279)と礼野智美(ja3600)がのんびりと散策していた。
 にぎやかな雰囲気を肌で感じながら、ふと智美は隣の恋人に問いかけてみる。
「俺の希望でここになったけど、本当に良かったのか?」
「お城の方は智美のお姉さんや幼馴染夫婦が行ってるじゃないですか。それに正装だと、私また女装になりそうですし」
 線が細く、中性的な容姿を持つ優多は、たびたび女性と間違われることがある。智美は苦笑しつつ。
「それはそうかもしれないが…優多はいつも俺の希望を優先させることが多いし」
「此方の方が気楽ですし、智美、こういう賑やかな雰囲気好きでしょう?」
「あ、ああ…それは…」
 素直に頷く智美に、優多はいつもの穏やかな笑みを見せる。
「夏祭りでもいつもワクワクした顔で、率先して行動してましたしね」
 城での晩餐会も心惹かれるけれど、気楽に食事が楽しめるこの場所が優多は嫌いではなかった。
 人混みはあまり得意でなくても、デートの場所として考えれば特に問題もない。

 何より恋人が楽しそうにしているのを見るのが、好きだから。

「それにお昼は動き回る皆に散々付き合わされましたしね。ここで二人でのんびりするのもいいものですよ」
 聞いた智美も思わず笑みをこぼしながら、頷いてみせる。
「確かに昼間はちび共優先だったからな。二人で時間一杯満喫するか」

「夜の街か……」
 ランタンの淡い灯で彩られた街を見て、御剣 正宗(jc1380)は紅玉のような瞳を細めた。
 軽快なケルト音楽と酒場の熱気に、不思議と気分も高揚してくる。
 正宗の隣では、幼馴染みの白桃 椎奈(jc1382)が、浮き浮きとした様子でツインテールを弾ませる。
「せっかくの機会です。いっぱい楽しみますよ!」
 今日は大好きな幼馴染みとのデート。めいっぱいお洒落もしてきた。
「ブレードさんあそこのお店面白そうですよ、行ってみましょう!」
 椎奈に腕を引かれるままに、正宗は付いていく。積極的な彼女に若干振り回されつつ、何だかんだ言って楽しんでいるのも事実で。
 二人が見つけたのは、甘い香り漂うお菓子の屋台。その中で、不思議な形をしたクッキーに目が留まる。
「”フォーチュンクッキー”…?」
「あ、中におみくじが入ってるって書いてますよ!」
 椎奈の言う通り、四つ折り形状の中にはお告げが入っているのだという。
「へぇ…魔法街っぽいな」
 それぞれ好きなクッキーを選び、二人して割ってみる。中から出てきたのは小さな紙片だった。
「なんて書いてあるんでしょう…どきどきします」
 先に開いたのは椎奈。中に書かれていたのは――

 ――あなたの想いは、届いているでしょう――

 どきりとする内容に、彼女はどぎまぎしながら正宗に尋ねる。
「ブ…ブレードさんは、どう、でした…?」
「ボクのは……」

 ――あなたを誰よりも大切に想う人が、近くにいます――

 正宗の紅い瞳が、椎奈の真っ赤になった顔を映す。
 その時、花火が上がる音が響き渡った。

「お、花火が上がったな」
 玲治が見上げる先、重低音と共に夜空を火花が彩っていく。
 昼間買い物を楽しんだ三人は、夜になるとパブで食事を楽しみつつ話に花を咲かせていた。
 玲治は立ち上がると、巴へ向かって恭しく手を差しのべる。
「御嬢さん、一曲踊っていただけませんか?」
 にやりと笑まれた巴は、どきまぎしつつ。
「わ、私、踊れないんですけど…」
「大丈夫だって、こういうのはノリが大事なんだからな!」
 ラファルに背中を押され、二人は中央広場へと繰り出す。
 ぎこちないながらもリズムに合わせ踊れば、不思議と気持ちも高まってきて。
「戦う貴女は、綺麗です。本当に……」
「葛城…?」
 此方を見つめる力強い瞳に、吸い込まれるように。
「もっと貴方を、私に焼き付けて――」
 思わず口から漏れるのは、愛しい人への本音。

 そんな二人を離れたところで見守りながら、ラファルはどこか心ここにあらずと言った状態だった。
 もちろん、今日一日楽しかった。
 でも何をしても、どこか物足りないのも事実で。
「……ヒナちゃんと来たかったな−」
 ぽつりと漏れる、本音。
 愛しい人がここにいれば――そう思うと、ちょっぴり二人が羨ましくも思うのだった。

「綺麗ですね……」
 次々に上がる花火を見つめ、椎奈は幸せそうに呟いた。隣で正宗も「うん、綺麗だ」と頷く。
 大切な人と見る花火は、それだけで特別に思える魔法のひととき。
「椎奈、一緒に踊る?」
 差し出された手は、とても優しく、温かそうで。椎奈は嬉しそうに正宗の手を取ると、満面の笑顔で応える。
「踊りましょう!」
 音楽に合わせ、二人の影が軽やかに揺れる。

 同じ頃、智美と優多は、気の向くままにパブや屋台をはしごしていた。
「智美、これ美味しいですよ」
 差し出されたのは、秋らしいパンプキンパイ。口にすると、優しい甘さと香ばしさが口いっぱいに広がる。
 二人でひとつの料理をつつきながら夜のにぎわいを楽しんでいると、優多がふと呟いた。
「生きている人の感じは好きです」
「優多……?」
「この前の大作戦…私の周囲の人は重傷者こそいませんでしたが終了時全員生命力半分以下でしたもの」
 それ故に、こういう場所に来るとどこか安堵するのだ。
 多くの人が、笑い、話に花を咲かせ、食事をとる風景。
 ここに人が生きているのだと、実感できるから。
「……そうだな。だから俺もこういう場所が好きなのかもしれない」
 智美はそう返しながら、人知れず思う。
 この何でもないひとときを、ずっと護っていけたらと。
 

●再び、魔法城(夜)

 食事を終えたジェンティアンは和紗をダンスに誘っていた。
「雰囲気良い音楽だし、和紗も折角綺麗なんだからさ」
「でも…俺、踊れませんよ?」
「大丈夫、ちゃんとエスコートするから」
 ジェンティアンに手を引かれ、和紗は恐る恐るホールへと踏み出す。最初はぎこちないけれど、だんだんと慣れてくると動きも滑らかになってくる。
「そうそう。上手になってきたじゃない」
「竜胆兄のエスコートが上手いんですよ」
 そう言いながらも、和紗はとても楽しそうで。

 一通りダンスを楽しんだら、庭園奥で花火見物。
 夜空を彩る天花を眺めながら、和紗はふと。
「竜胆兄、ここで踊ってみませんか」
「いいけど、音楽が聞こえづらくない?」
「音楽がなければ、竜胆兄が歌えばよいのですよ」
 けろっとそう言われ、ジェンティアンは苦笑しながら。
「歌えとか無茶ぶりだなー。でもいいよ、可愛いはとこのためだもんね?」
 そう言って歌い上げるのは、月の歌。優しく深みのある歌声が、夜空に響き渡ってゆく。
 途中、和紗は踊りながら靴を脱いでしまう。
「ヒールの高い靴はやはり苦手です。…これで良し」
「和紗らしいな」
 裸足で踏みしめる芝生は、ひやりと心地よく。
 どこかから香る桂花にほんのりと酔いしれる、穏やかで幸せなひととき。

 聡一達は、月明かりの下で庭園を歩いていた。
 広間の方からは、弦楽器による美しいワルツが聞こえてくる。
「蒔絵さん、一緒に踊ろう」
「ふぇ、ダンス? あ、あたし、ダンスなんて踊れないよ?」
「大丈夫、僕がリードするよ」
 聡一に手を引かれ、蒔絵はゆっくりとワルツのステップを踏む。
 月光の下で踊る二人は、どこか幻想的でさえあって。
(…聡一さんはすごいな。こんな豪華なパーティなのに、全然緊張していないように見えるよ)
 きっと慣れてるのだろう。自分なんて、ドキドキが止まらないというのに。
 でも、本当は聡一もこう言う場に慣れているわけではなかった。
 流れるようなダンスも、優雅な振る舞いも、夢に出るほど練習して身につけたもの。
 すべては、彼女に夢のひとときを過ごしてもらうために。

(……でも、僕の方こそ夢心地だ)
 彼女の美しい笑顔。ゆるやかに細められる、その綺麗なまなざし。
 近くで見つめられるだけで、虜になる。
 ああ。
 本当に――貴女と来られて良かった。

 この想いが、伝わるといい。

 ダンスを終えた武とフレデリカは、バルコニーから花火を観ていた。
「綺麗ですね……」
 遠くで上がる花火を観ながら、のんびりと会話に花を咲かせる。
「あ、そうだフレデリカさん。一つお願いがあるんだけど」
「なんですか?」
「その…普段邪魔されるし、羽根をモフモフしてもいいかな?」
 意外な武のお願いに、フレデリカは瞳を瞬かせつつ。
「……まあ、武さんなら特別にいいですよ」
「やった、ありがとう!」
 武は彼女の翼を、ゆっくりと優しくもふもふする。
「すげーな。思った通りふかふかだ」
 正直なところ、フレデリカにとって羽を愛でられる事には、余りいい思い出はない。けれど心許せる友人が望むのなら、受け入れてあげたいと思ったから。
(私のために、今日は頑張ってくれたみたいですしね)
 そんな互いの思いやりが心地よい、優しい時間。

 その頃、ミラを休憩室で休ませた桜花は、庭園を散歩していた。
「花火…綺麗…」
 どこか遠くで、歓声があがる。
 耳を澄ますと、街のにぎわいが城の方にまで聞こえてきた。
(たまには…こういうのも…いいかもしれない)
 幸い大きな事件も起こらず、城の夜はゆるやかに深まっていく。
 こうやって、静かな時間をひとり過ごすのも悪くない。

 ふと見上げた夜空には、流れ星がひとつ。
 そっと口にした願いごとは、自分だけの秘密。

 ――魔法がかかった、ひとときを。




○番外編:魔法城(昼)後日談

「では、あの後魔法城で何があったか、お伝えしておきますね」
 数日後、只野黒子が配った映像には、あの日起きたすべてが記録されていた。
 最上階で鬼に囲まれた住人は徹底抗戦したものの、人数差には勝てず。
 これでひとまずは鬼側の勝利で終了かと思いきや、牢屋から出た友真がうっかりアスハにパイをぶつけてしまう。
 この事件がきっかけで第二次パイ投げ戦争が勃発。
 メリーが「あははーお兄ちゃんロケットMK2だよー!」と投げた武器:マキナが愁也に当たり、その勢いで縁と旅人が巻き込まれ爆発四散。
 彼らを避けたアイリスがうっかりイシュタルを押し倒し、ドミノ倒しでカーディスと緋打石が転倒、着ぐるみをかわした黒百合と千織の着地点で避けようとしたエルナがクリームで足を滑らせる。
 魔女のスライディングにメフィスが巻き込まれ、避けた胡桃がうっかり古代に肘鉄をくらわせ、倒れたところに駆け寄ったりりかが躓いたパイが勢いよくゼロへと当たる。
 やったな、りんりん!と投げ返されたパイがなぜか諏訪と千尋の方へと飛んでいき、二人がかわした拍子にタバスコ水鉄砲が発射され、それを遥久と静流が颯爽と避けたところに、一臣が立っていた。

「目がぁ目があああ!」

 映像の最後は、悲痛な悲鳴で締められていたという。

【魔法城】ゴシック・マジック・キャッスル 担当マスター:久生夕貴








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