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まずは冥魔とやり合う前に――さぁ行こう、ラーファ。
トビト様に抗うモノすべてに鉄槌を。 ――全ては、トビト様の為に。

◇◆【神樹】事後連動シナリオ公開!◆◇

イメージノベル(8月15日更新)

「どう攻めるのがいいかな」
 鳥海山の主たる少年が、鼻唄まじりに思索を巡らせていた。それはまるでゲーム攻略を楽しむ子供の様であり、浮かぶ笑顔に悲愴の色はない。
 ―――例え、事態が彼、力天使トビトの思惑通りに運んでいなくても、だ。
「予定通りに進んでばかりじゃ、盛り上がりに欠けるもんね」
 トビトの声に応えるように、鳥海山の木々がさわさわと風に揺れる。
 本来であれば、今頃はゲートを展開させた白神山地にて、戦力を補強させていた事だろう。来たるべき北への侵攻に向けた前線基地を構築する為に。
「冥魔の総大将と遊べるかと思ったんだけどな」
 そもそも今回の鳥海山の動きは、言ってみれば冥魔への仕返しだった。昨年、北海道を拠点とする冥魔軍が青森へと侵攻を果たした事は、長らく北への侵攻タイミングを見計らっていたトビトにしてみれば、面白くない、の一言に尽きる。
 故に、トビトはゲート展開を伴う白神山地への侵攻という形を示すことで、冥魔を牽制したのだ。

 東北をお前たちの好きにはさせないぞ、と。

 だが、冥魔の鼻っ面へ叩き込むはずだったカウンターパンチは不発に終わった。その目論見を打ち砕いたのは、冥魔ではなく、歯牙にもかけていなかった人類。
 正直なところ、人類への認識は『路傍の石』でしかなかった。冥魔に目を向け続けていた為、足元に転がる存在を忘れかけていた。実際、鳥海山を易々と落とせた事実を考えれば、脅威になり得たはずがないのだ。
 しかし、人類は短期間のうちに、こちらを躓かせる程度には力をつけていたらしい。
「ちょっと痛い目、見せとかないとだね」
 薄く、冷たい笑みが張り付く。
 躓いてしまったならば、排除すればいいだけのこと。丁度、東北中枢の都市、仙台に足掛かりを得ている。ここを落とせば、人類も大人しくせざるを得ないだろう。
「というわけで、サーバントを色々と送り込んでるところなんだよ。身体の調子はどうだい、ヴィルギニア?」
 トビトが後ろを振り返ると、そこには力無く項垂れる菫色の天使の姿。
 ヴィルギニアは白神山地から戻ってからというもの、ほとんど口を開かず神妙な顔をし続けていた。トビトの信に応えられなかったことに、相当堪えているらしかった。
 ――否、恐らくそれだけではない。
 鳥海山の天使たちの中で、冥魔への純粋な敵愾心に於いてヴィルギニアを上回る者はいない、とトビトは考えている。その最たる理由は無論、過去の戦において彼女の翼が奪われたことにある。
 彼女自身、自分に忠誠を誓うにあたり特別に意識はしなくなっているようだが、事此処にきて報復――彼女にとってみれば一種の『復讐』の機会から遠ざかったことは、無意識下でも何かしらの精神的影響を与えているはずだ。
「意外と抵抗してくるもんだからさ。ついついムキになっちゃうよね」
 空気を和ませようと、トビトがおどけて見せるも反応はない。不意にヴィルギニアの顔が上がった。
「人類の抵抗……ですか」
 その眼に、深い悔恨の念を湛えた灯火が揺らめいた。
(私の命はトビト様の為……失敗を悔いるのはこの身が朽ちるその時でいい)
 トビトに抗うモノが、邪魔をするモノがいるというのならば、鉄槌を下さなければなるまい。もはや何の躊躇も遠慮もいらないのだから。
「……失礼致します」
 かつての呼び名『白雷』の頃の眼差しを湛え、ヴィルギニアが寡黙に立ち去ってゆく。その背に声をかけることなく、トビトは静かに見送った。

「何か心配事でも、トビト?」
 ヴィルギニアと入れ違うように現れた声に、トビトがゆっくりと振り向く。すぐ背後には、いつから居たのか、一人の青年が佇んでいた。
 美しい黄金の髪が緩やかに波を描く、美しい黄金の髪。水晶の如き蒼の瞳が、すべてを見透かすかのように輝きを放っている。その姿は、人類の神話に出てくる天使の姿そのもの。
 名をラファエロ。古くよりトビトに仕え、身の回りの世話をしている天使だ。
「今回はたまたま不覚を取った様ですが、彼女は優秀です。そんなにご心配なさらなくてもよろしいかと…」
「そうなんだけどね」
 唯一心許す付き人の言葉に、トビトが苦笑を浮かべる。
 力の一部を失ったとは言え、ヴィルギニアの実力はまだ並の天使よりも遥かに上にある。人類に遅れを取ることはまずないだろう。
 しかし、だ。
 万が一『何か』が起きた際は、二度目の失態だ。生真面目な彼女の性格を考えれば、それこそ死にもの狂いで事を成そうとするだろう。
 だがまだ早い。トビトにとって、彼女は信頼に足る優秀な手駒のひとつ。今失うには惜しい存在だ。
「ねぇ、ラーファ。ちょっと彼女を助けてやってくれないかな?」
「承知致しました」
 ラファエロは特に質問を重ねることもなく、即答と共に恭しく一礼を返す。
「ありがとう」
「お前の為ならば」
 ラファエロの言葉に、トビトの顔に穏やかな笑みが浮かぶ。それはいつもの何かを含んだ態とらしさは無い、心許した者に向ける屈託の無い自然な姿。
「それじゃ、まずは冥魔とやり合う前に、路傍の石をはね除けるとしようか」
 トビトが足元の石を思い切り蹴飛ばす。それは遠く、吸い込まれるように青空へと消えてゆき。
 ―――数時間後。トビトの元には、仙台襲撃に向けた多数のサーバントが召集されるのだった。


(執筆:津山 佑弥)


相関予想図(8月15日更新)


※08月15日 フェッチーノの死亡を記載
         ヴィルギニアの階級が権天使となったという情報を入手
         新たな天使が動いているという噂があるが、詳細は不明



相関予想図資料について


 秋田方面を警戒する目を強める撃退庁東北支部に、ある日、その秋田の撃退署から封書が届いた。
 自分個人への宛名書きもあった為、長月 耀は執務室でその封書を開く。
「……こいつは」
 中に入っていたものを見て、耀は反射的にスマホを手にとっていた。

「おい花燐、あれどうやって作った、っていうか手に入れた?」
『あぁ、届いたんですね』
 どうやら休憩中だったらしく、電話の相手――片倉 花燐はすぐさま電話に出た。
任務に出ていた撃退士が拾ったんですよ。少し前まで当人が留まっていた街でしたし、内容的にも嘘はないかと』
「なんっつーか、まぁ……ありうる話ではあるが……」
 花燐の言葉に、耀は反応に困って結局眉を八の字に曲げた。

 届いたのは、二枚の書類。
 うち一枚は、正確に言えば書類などという立派なものではない。
 シュトラッサー・鏡国川 煌爛々が書いたと思われる、鳥海山の天使たちの関係を図にしたものだった。
 彼女が書いたという根拠は、多くの天使への煌爛々自身の感情を書いている点と――その内容にある。
 そしてもう一枚は、その図と、これまでの経緯を参照に、秋田の撃退署側でそれ以外の関係も含め清書したものだった。

 電話を終えた耀は、改めて2つの図を眺める。
 これらの図には、天使たちの相互関係を整理する以外にも一つ大きな意味がある。
「――ヴィルギニアが頭ってことはないだろう、とは思ってはいたが……トビト、か」
 報告として初めて目にする鳥海山のゲートの主の名に、耀は鋭い視線を下した。
 

各NPC毎のまとめ

■ダルドフ
 久遠ヶ原との初めての接触も対話だった大天使ダルドフは、現在に至るまで撃退士に対して明確に敵対的な姿勢を見せたことはない。
 対等な一騎打ちを望む等義を重んじる故に、自らの支配領域にいる人々や、関わった撃退士にもある種の信頼を得ている彼ではあるが、やはり天使という立場故か現地の撃退署の撃退士には目の敵にされている
 また、上官の命令に対しても忠実であるのか吸精の対象となる支配領域の住民を増やしたりもしているが、その一方でゲート内に侵入してきた撃退士と親睦を深めたりと、現状、久遠ヶ原の撃退士にとっては憎みきれない存在となっている。
 それでも彼がなびくことがないのは、人柄以外にも理由があるようだが、今のところそれは明らかにされていない。


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■涼子
 ダルドフの使徒である真宮寺 涼子は撃退署の署員に扮して撃退士に接触し、仙北市を陥とすべく情報を収集していた。
 正体を現した後も、正々堂々かつ姑息に勝負を挑んだり、また天使の力を借りつつ撃退署に仕込みを作っておく等、ゲート展開などの為というよりは戦力を漸減させる為の密かな立ち回りが多い。
 撃退士として人類側へついた堕天使へ『何故そうしたか』という問いを投げかける等、撃退士のあり方に疑問を抱いている傾向がある。
 仙北陥落の為の『仕込み』もまだ残っている。その為仙北の撃退署はなおも警戒をしているが、一方で当の涼子はここにきて別の動きも見せ始めている――。

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■フェッチーノ
 天使フェッチーノは、非常に鬱屈とした性質の持主である。
 人類を『虫けら』とみなし、自らの目的の為ならどれだけ被害を及ぼそうとも歯牙にかけることもない。
 そんな彼は動き出してから暫くの間、使徒の煌爛々も用いて執拗に秋田市を狙うようになった。その最終的な目的ゲートの展開にあったようだが、これは撃退士によって目論見を砕かれ、ゲート展開により消耗した分力も損なっている。これらの行動は『上の指示』というよりも独断での動きであるように見受けられる。
 仙台への進攻において、死亡。

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■煌爛々
 秋田の天使たちの中で、ダルドフと並ぶ異色の存在――それがフェッチーノの使徒、鏡国川 煌爛々である。
 まず(これはダルドフにも言えることだが)人類への敵愾心があまりない。というよりも、使徒になる以前の性質を強く残している。
 最初に撃退士に遭遇した時を始めとして、イケメンだと判断すると点数をつけるクセが見受けられる、可愛い物が好きなど、所謂JKである。色々な意味で。
 故にフェッチーノとの関係は決して良好とは言えず、『キモッチーノ』『ノンデリカッチーノ』等と陰で結構言いたい放題している。
 一方で心の闇といえる部分も全くないわけではないらしく、優しくされたり『トモダチ』と言われることに強い戸惑いを見せてもいる。

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■トビト、ヴィルギニア
 鳥海山の主・トビトは未だその姿を直接人類の前に見せたことはない。
 一方でその副官・ヴィルギニアは、秋田県内で撃退署撃退士の指揮を執る片倉花燐を狙う等、数度に渡り直接/間接的に撃退士へ干渉してきている。

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関連NPC一覧


天界陣営

トビト ヴィルギニア
鳥海山周辺を支配下に治める力天使。
天界のとある名家のお坊っちゃまで、サスペンダーがトレードマーク。
見た目は8、9歳くらいの可愛らしい男の子。少々ドジっ子。
だが、実は相当な切れ者であり、実年齢も見た目通りではない。
冥魔の動向に目を光らせていたが、リザベルが青森での立て直しに失敗したことを機と捉え、行動を開始した。

イラスト:しばしの
トビトが天界から直々に招聘した女性副官。 肩まで伸びたふんわりパーマの白銀の髪に、柔らかな微笑みが浮かぶシスター。 外見とは裏腹に、戦闘能力、頭脳共に優秀。 トビトの勢力拡大と力向上の為、積極的に人間界を支配することを考えている。 昔、格上の悪魔を激戦の末に討ち取り、その功績が認められて大天使から今の階級に格上げされた経歴を持つ。 その代わり、その戦いにおいて両翼を失ってしまい、現在は飛行能力を持たない。
イラスト: ゾイヨン

ダルドフ 涼子
立派な顎髭を持った、外見年齢が五十代前半くらいの大天使。 武人肌の天使で、鳥海山を支配下に置く際に活躍した者の一人。 緻密な指揮と冷静な判断力で部下の実力を十二分に発揮させる一方、自身は真正面から戦場に身を置き、挑みかかってくる相手を豪快に力でねじ伏せる事を好む。 彼の支配領域となった地域は治世がとても良く、天魔に脅かされる危険のあるこの世界では、かえって感謝されることすらあると言う。
イラスト:ちーせん
20代前半の女性シュトラッサー。主はダルドフ。 鳥海山支配時に最も活躍した者の一人であり、その名はトビトにも覚えられている。 与えられた職務を忠実にこなしてきた軍人肌で、武器は銃と短剣。少々堅物なところがある。 『天使』という存在を崇拝しており、ダルドフに留まらず天使全般(天界)に忠誠を誓っている。 その為、天界の階級性を重んじており、より上の階級から命令があればそちらを優先することがある。
イラスト:たがみ千

フェッチーノ キララ
長身だが体はとても痩せ細っており、それを隠すようにローブを纏う魔術師風の天使。
眼の下に常に隈があり、相手の顔色を覗き見るようにやや上目使いで接する。
小さな翼は蝙蝠の様であり、その陰鬱な雰囲気と不健康そうな容姿から、見る者に『枯れ木』をイメージさせる。
しかしその魔法技術は一介の天使としては非常に優れており、様々な魔法を行使する。
人間に対して無関心であり、彼の目下の関心事は己の『成果』だけである。
仙台への進攻において、死亡。
イラスト:作
ちょっと頭が足りない系のチャラい女子高生シュトラッサー。
フェッチーノに殺されかけた時、ヨイショして持ちあげまくっていたら何故か気に入られてしまい、そのまま使徒にさせられた不幸な娘。
考えるよりも身体が動くを地で行くタイプで、作戦の意図を理解せずに吶喊することも多々ある。
イケメンや渋いオジサマのタイプを瞬時に見極め、 独自の好みで点数付けする癖を持つ。その反面、いざ目の前にすると少々挙動不審になってしまう。
イラスト:ヤマ

人類側

長月 耀 片倉 花燐
撃退庁東北支部の総司令。自身のジョブは鬼道忍軍。 のらりくらりとしており、一見昼行灯。副司令官に小言を言われることもしばしば。ただ実際は勿論いろいろ考えて行動しており、何だかんだ言って信頼されてはいる。 撃退士としても強力であるが故に、自身が戦場に立つことは多くない。 現在は仙台に駐屯中。 九魔襲撃の中でも、動きのなかった鳥海山の天界軍の動きに目を光らせ続けていた。
イラスト:―
撃退庁東北支部の副司令官。自身のジョブはルインズブレイド。 ツンデレの『デレ』が無いぶっきらぼうな感じの口調。長月が常々「せっかくの美人がもったいない」と思うくらいの型物っぷり。 管轄署では最大級の規模である青森の撃退署に赴き、九魔襲撃の際には現場の指揮を執っていた。 その後、青森県内に散ったディアボロへの対応等の各種後始末に従事。長月の指示を受け、次なる戦いの地・秋田へと赴く。
イラスト:―








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