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続々と繰り広げられる出場者達のパフォーマンスに宴もたけなわ。
続いて現れたのは、小さな少女であった。
『こんにちわ〜、わたくしの名前はキャロル、ですっ♪ せっかくですし〜さんかさせて、いただきますの〜♪』
鈴の様に可愛らしい声でそう挨拶すると、キャロル=C=ライラニア(
jb2601)は無邪気に笑った。
小さく華奢な体を包み込む様にふわふわと揺蕩う紺桔梗の髪。金糸雀を思わせる澄んだ金の瞳。
ランウェイの先でくるりと回ってみれば、月と雪を模した髪飾りがしゃらりと鳴って。
これが天使か。いや本当に天使だけど。
観客席からは一撃必殺でハートを射抜かれた生徒(主に大きなお友達の皆さん)が、熱烈な声援があがった。
『みなさん、かっぷめんのじゅんびはできましたか〜? なぜか、というと、さんぷんかんアピ〜ルだからです♪』
言って、じゃんっと取り出したるはお湯入りカップ麺。
抜かり無しと言わんばかりのキャロルだったが、「あ」と一言呟いた。
『‥‥こまりましたの〜、かっぷめんのことばっかり考えてて、なにをおはなしするか考えてなかったのですわ〜』
だいじょうぶ、てへぺろ☆ってしとけばゆるされるよ! たぶん!
しかし、てへぺろで許される犯罪的な可愛さ故か、ヒートアップたた観客席ではトラブルが起き始めていた。
まぁ、つまり、大きいお友達の皆さんによる愛の暴走でして。
(こういうイベントにあまり興味はないが‥‥仕事はきっちり果たさないとな)
ふぅと溜息。正直近寄りたくないが、ルーカス・クラネルト(
jb6689)は束ねた黒髪を翻すとある観客へと足を進めた。
両手には煌々と輝くサイリウム。コンサートでもないのにヲタ芸も辞さない度胸は買いだが、空気は読もうか。
「キャーロちゃんっ!! ヒュー! マジ女神っ! ヒュー!」
「ちょっといいか。周りの迷惑だ、少し控えてほしいんだが」
むぎゅう。
ルーカスがヲタ男の頬をつねって説得(物理)していると、近くで警備をしていた雫(
ja1894)も騒ぎを感知し駆けつける。
「ちょwww冤罪自重wwww拙者は穢れ無き純粋な声援を送っていたのでござるよwwwコポォwwww」
「幾らなんでも限度と言う物が有ります。あと日本語喋ってくださいきもちわるいんで」
「デュフッwwロリ幼女の罵声ンギモヂィィwwwww」
あ、これアカンやつっすわ。
ぞわっときた雫が、ついボディにスクリュー決めてしまったのも仕方ないっていうか。世の理っていうか。
まぁ大丈夫だよね、ヲタでも撃退士だしね! 素手だから手加減になってるよね!
「あー‥‥此処じゃ周りに迷惑だ、向こうで話し合おう‥‥聞こえてないと思うがな」
周囲の客がドン引きしている事に気づき、意識のないヲタ男を引きずって休憩所(兼反省所)へと向かうルーカス。
『‥‥あ、さんぷんたちました〜♪ それでは、おいとましますの〜』
そして丁度騒ぎが収まった頃、持ち時間を終えたキャロルはカップ麺を審査員渡辺の前に置いて去っていくのだった。
結局何もしてませんねあなた! 可愛いは正義か!
「この温かいぬくもり‥‥何故わしの胸は高鳴るのだ‥‥!?」
カップ麺啜ってときめくなおっさん!
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一仕事終えた雫がふと舞台に目を向けると、壇上に上がってきたのは――。
「あっ。‥‥頑張ってくださいね」
観客席の警備をしている雫の声が届く事は決してないけれど。
Rehni Nam(
ja5283)の見慣れた姿に少し笑みを零して、雫は再び観客達へと意識を向けた。
友人が表舞台で輝ける為に、自分は裏方で力を尽くそう、と。
柿色、黄丹、黄櫨染。深浅様々の紅葉が彩る優美な着物と鮮やかな緋椛の簪が、舞台の上で明々と照らし出される。
レフニーは観客席を端から端までゆっくりと眺めると、最後に審査員席を見つめてにっこり微笑み、お辞儀をした。
『私は中等部3年のレフニー・ナムです。学食1年分のチケットでデザートいっぱい食べたい! と思って出場しました』
杏仁豆腐にミルフィーユ、プリンもシュークリームもどら焼きも食べ放題‥‥。
目眩くデザート妄想に、つい溢れたよだれがピンライトに照らされ輝く。‥‥って、よだれ!?
最初のにっこり優雅な空気が行方不明ですよ、よだれふにーさん!
『――はっ。え、ええと、というわけで‥‥私の奏でる曲を、聴いてください』
大好きな恋人と揃いの龍笛が、そっと唇に触れた。
奏でる曲は童謡『紅葉』。伸びやかに澄んだ高い音色で、観客席の空気を静謐へと塗り替えていく。
それと同時、スモークと赤いライトが東雲の様に舞台を染め。
そして『紅葉』の旋律が終わると共に降り注ぐは和紙の紅吹雪と、しゃん、しゃん、と響く厳かな鈴の音――。
舞台袖から歩み出てきたのは白狐の面で顔を隠した姫路 神楽(
jb0862)。
やがて2人は呼吸を合わせると、レフニーの龍笛の音に合わせて神楽が流麗な舞を見せた。
「へぇ‥‥凝ってんなぁ。息抜き程度に見にきたけど、悪くなかったな」
雅やかなステージングに、紫乃宮 彰織(
ja3350)思わずほぅっと溜息をついた。
特に興味があった訳でもなく何気なく立ち寄っただけだったが、思わぬ幸運だったようだ。――まぁ、
「ほぉ、これは雅趣高い。着物も文句なくキュートじゃが、水着審査はないのか水着審査は。ミスコンといえば水着さね」
隣で何やら水着水着と呟いているファタ・オルガナ(
jb5699)の存在を除けば。
否、彰織も健全な男子である以上水着に異論はないが、ちょっと連呼し過ぎだと思うんです。
‥‥などと脳内でツッコミを入れてる間に舞楽終わっちゃったじゃないですかやだー!
『最後までお聞き頂き、ありがとうございましたよ』
と、レフニーが挨拶すれば、
『皆〜、見てくれてありがと〜♪ 文化祭は楽しんでるかな〜? 私は楽しんでるよ〜!』
狐面を外した神楽がキラッ☆とあざと可愛いポーズを取り。ワアァァともウオォォともブヒィともつかぬ歓声が巻き起こる。
突如叫ぶ野郎どもの声に驚き狐耳をぱたんと伏せると、恐る恐る辺りを見回すSilly Lunacy(
jb7348)。
「うひゃぁっ!? ミスコンて恐いなぁ‥‥皆目ぇギラッギラさせとるわー。‥‥あたいは漫才の方が好きやけどなあ」
舞台上のレフニーや神楽を見れば、なるほど確かに可愛いのだが。シリィにとっては可愛い<面白い。
学園に来る前、関西にいた頃は毎週土曜昼のテレビが楽しみで――おっと余談余談。
恐怖と雑念を除けて気を引き締めるシリィの気も知らぬ神楽は、ここで敢えてもうひと煽り。
『自己紹介が遅れました、巫女の姫路神楽です♪ 夢は久遠ヶ原の皆と友達になる事! あと天魔とも仲良くなれる道を探してます、よろしくね♪』
ランウェイを一往復するだけ――ではあるが、なんせ神楽の着る改造巫女服は超ミニスカである。
男どもが必死に覗こうとするのは確定的に明らか。汚いな巫女さすが巫女汚い。
「押すな飛ぶな割り込むな! あと物質透過禁止やー!」
シリィはホイッスルを吹き鳴らし必死で観客整理に務めるが、男の浪漫()の勢いは留まる事を知らず。
「はいてな‥‥いやこれは鉄壁スカート!!」
「みえ‥‥ない‥‥ッ」
「いいや俺には見えた!(脳内)」
再び上がる(野太い)歓声。いいからおまえら二次元から帰って来いよ。
そんな中、黒スーツを纏ったアイリス・L・橋場(
ja1078)は、鉄壁スカートを攻略すべくランウェイに躙り寄る男達へと無言で干将と莫耶で柄当てしては場外へ黙々と運搬を続けていたのだが。
(‥‥男‥‥なんて‥‥最低‥‥です‥‥)
サングラスの下で密かに紅瞳化をしているなどとは、誰も気づく事はなかった。怖い子!
「むむ‥‥、ボクも女装して出場すればよかったー! きっと負けないのになぁ」
一方、クオン・アリセイ(
ja6398)のように別ベクトルの感想を漏らすものも居たり。
ボク――も?
『皆の事大好きだよ〜♪ それじゃ、この後もじゃん☆じゃん☆盛り上がっていこうね〜♪ ばいばーい!』
ぺこりとお辞儀をして去っていくレフニー達を横目に、
「んふ、じゃがやはり先程の幼子の方がわしの好みさな。点数はそうじゃな‥‥」
ファタは手帳に7と、そして神楽には×印を書き留めるのだった。
彰織がそっと手帳を覗きこむと、好みだというキャロルには点数ではなく、花丸が。既に点数じゃない。ょぅι゛ょっょぃ。
(でも、なんで巫女の子は×なんだろう‥‥?)
彰織の目には可愛い女の子にしか見えなかったのだが――?
「お疲れ様ですよ、カグラさん。すごい声援でしたね」
舞台袖に引いた2人は、納得のステージに満面の笑みでハイタッチを交わした。
「れふにゃんさんもお疲れ様♪ ていうか私こんな格好だけど‥‥彼女持ちなんだよね」
「‥‥世の中知らない方がいい事もあるのですよ」
不意に耳に飛び込んだ神楽のセリフに、運営スタッフ達が二度見したのは言うまでもなく。
アイドル系OTOKONOKO、ぱねぇ‥‥。
「ぐふぐふ、神楽ちゅわん‥‥♪ お持ち帰りしてねっとりこってり可愛がりたい゙だぁ゙っ!?」
ええ、勿論ここにも完全に騙された禿親父がおりまして――。
「このハゲ‥‥過度な発言は‥ダメだと‥‥警告してたのに‥‥ゆでダコみたいな‥頭に‥なりたいんですね‥‥?」
「いだだだだだ! ひぎぃぃすいませんんん」
ハゲの背後に待機していた支倉 英蓮(
jb7524)の輪ゴム鉄砲を、フルオート掃射で喰らったのであった。
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続いて現れたのは、特に着飾りもしない一人の青年。
「あ、男の人も参加してるんだ。頑張れー!」
と、御門 彰(
jb7305)は数少ない男子出場者へと、観客席から声をかける。
ミスコンという名の通り、出場者の大半は女子であり観客も大半は多分女子目当てと言っていい。
故にかなりのアウェーではあるが、楯清十郎(
ja2990)は、ある決意を持ってステージの床を踏みしめていた。
“舞台上で告白すると、成就する――。”
噂が本当かどうかは判らないけども。それでも、彼の背を押すには十分な力で。
眩く降り注ぐスポットライト。司会からマイクを渡された清十郎は意を決して、静かに口を開いた。
『今日はミスコンじゃなく、別の目的でこの場に来ました。僕はこの場を借りてある人に伝えたい想いがあります』
どよめく場内。
もう既に告白を宣言しているも同然の清十郎に、口笛や野次がちらほらと上がりはじめた。
『その人は僕のクラスメートでした。けど、それがきっかけで友達になって言葉を交わして‥‥気が付いたら彼女の笑顔を見ていると、嬉しくて幸せな気分になっている僕がいた‥‥』
顔が熱い。これ以上はない程に心臓は跳ね上がるのに、『彼女』の顔を思い浮かべれば不思議と心は安らかで。
胸を満たすは、美味しい紅茶と何気ない会話で過ごす優しく幸せな時間たち。
僅か、口の端に浮かべた微笑み。
(――まるで、あの方みたいだ)
清十郎を包む暖かな空気に夏野 雪(
ja6883)は思わず恋人を思い出し、そして、隣に居ない事が少し寂しくて。
雪、と自分を呼ぶ声が聞けないのが、切なくて。
(時間がかみ合わなかったのだから仕方ない。駄々をこねる程子供にも、我儘にもなれないから)
温もりを知るから寂しさも強く感じるけれど、それでも人を好きになる事は尊い。
だから、今は壇上で輝く彼を応援しよう。
『いつの間にか僕は彼女に恋をしていた。だから――』
「「「その先は言わせぇぇぇんんん!!!!」」」
シリアスは品切れ致しましたのお知らせ――。
観客席の一角、どす黒い負のオーラというかしっとファイヤーがめらりと立ち上った。
「いかん! いかんぞぉぉぉ!! その先を口にした瞬間! 我らは! 貴様を! 討たねばならないッ!!」
暑苦しいまでにしっと魂を煮えたぎらせたマスク男の集団が、清十郎を説得しようとするのだが。
『キミの事が誰よりも好きだ。僕は頼り無いかもしれないけど、キミの笑顔を護りたい。そして嬉しい時は一緒に笑って、悲しい時は笑顔になるまでずっと傍にいさせてほしい』
ガン無視からの見事な告白である。そーくーる。
「おー、かっこいいなぁ! きっと彼女の専属ヒーローになれるぜ、これは」
と、千葉 真一(
ja0070)は壇上の清十郎へと喝采を送り、会場の大半はこれに続いて拍手が沸き起こった。
嗚呼、駄菓子菓子。
この瞬間、しっとファイヤーは天を衝くが如く爆発した――。
「くっくっく‥‥ならば血祭に上げるしかあるまい‥‥。野郎共ォ! 12月のアベック狩りに向けた前哨戦じゃーーーい!」
「「「オオオオォォオォォッッ!!」」」
リーダーらしき男の号令で、観客席の彼方此方から立ち上るしっとファイヤー。喝采をかき消さんばかりの怒声だ。
どうも例の告白に関する噂を耳にし、張り込みをしてたようだが――おいおいこんなにいたのかよ。
「ヒャッハー! アベックは爆発しろぉぉぉごふっ!!」
「その言葉は誰に向けたのかな。‥‥勇気を出して告白した彼に失礼だろう。不本意だが裏でじっくり話しあうかい?」
舞台上の青春劇を眩しそうに見つめる柔和な雰囲気から一転、久慈は、しっと団の男の口を手でおもむろに塞ぐ――掴むといった方が正しいか――と、冷たく微笑んだ。だが。
(ハッ! そんなホイホイと鎮圧されるほどヤワなしっと魂じゃねえんだよ!)
口を掴まれたまま、筋骨隆々の腕が久慈の顔へとクリーンヒットする。
ぐらりと久慈の体が揺れ、しっと男が追撃の構えを見せた。瞬間。
「ちょっとぉ! イケメンの顔面殴るとかサイッテー!!」
「ありえませんわ、美しいお顔は全人類の財産ですのよ!」
「しっととかキモイ上に暴力とかマジ百億万年前から出直して来なさいよね!」
周囲の女子から飛ぶ罵声、怒声、ブーイング。むしろ殴る蹴るのリンチ状態。女子力()ってなんだったっけ。
ほぼ久慈が手を出す事もなく、しっと男はリンチの末に女子達によって打ち捨てられた模様。
イケメン、罪やで‥‥。
一方、早々に武力行使を始めたのは雪室 チルル(
ja0220)。
「あたいに喧嘩を売るとはいい度胸ね! 全員! あたいのさいきょーパンチを喰らえー!」
勿論何の前触れもなく暴れた訳ではない。気迫を込めて警告していたのだが、その体格の小ささゆえに人混みならぬしっと混みに呑まれ、汗臭い男どもの中でもみくちゃにされてしまった訳で。そりゃ涙目にもなる訳です。
そんなチルルの鉄拳制裁を抜けた先では、綾川 沙都梨(
ja7877)が繰り返ししっと団に声をかけていた。
「皆様、どうか係員の誘導にご協力頂きたいのであります」
沙都梨が居るのは舞台と観客席の間に張ったロープの前。
審査員席に待機していた英蓮もフォローしにきたが、舞台警備として、これ以上退く道はない。
が、如何に黒スーツ&サングラスでSPの様な姿とはいえ、沙都梨の丁寧で穏便な注意では怯む事のないしっとの波。
(――仕方ないでありますねぇ‥‥)
慌てず動じず、ナチュラルに取り出したPDW FS80を構える沙都梨と、ワイヤーを顕現する英蓮。
更にはアイリスも駆けつけ、サングラスの淵から紅の瞳で男達を睨めつける。
そしてもう一度、沙都梨同じ言葉を繰り返した。
「皆様、どうか係員の誘導にご協力頂きたいのでありますよ‥‥?」
にっこり――。
少女達から放たれる圧倒的戦慄。蜘蛛の子を散らす様に逃げ出したしっと衆だったが、既に遅し。
「今日はヒーローとしていい演出の参考があればと思って見に来ただけだったが――悪は見過ごせないな!」
言って、赤いマフラーを翻しながらしっと男を取り押さえる真一。ヒーローに休日なんてなかった。
「私は舞台に上がれる様な華はないけど、こういう戦場では負ける訳にはいかないのです」
ロープをすり抜けようとした男を押しのけ、舞台を護る雪。この程度の戦場、大盾がなくとも負けはしない。
「いやぁ楽しいねぇ、やっぱり僕はこれくらい賑やかな方が性にあってるなぁ」
彰もあははと笑いながら、しっ闘士を足払い。でもカオスと賑やかは別だと思います!よ!
しっ闘士の一団を囲むは多数の鎮圧部隊と観客有志。これは、詰んだ。
\アベックもげろーー/(断末魔)
警備班と一部観客による仁義なき制裁により、しっと団をほぼ壊滅させる事に成功していた。
しかし深い恨み嫉みに突き動かされる男――リーダー格らしき仮面の男は、未だ抵抗を試みる。
「この世にアベックがいる限り、しっとの焔は決して耐えぬのだぁぁあ!!!」
と、血涙を振り絞って舞台上へ登ろうとした、その時である。
「破ァーーーッッ!!」
謎の男が両手から青白い光弾を打ち出し、しっとリーダーを吹き飛ばした。
しかも謎の光弾によってしっと魂が浄化されたらしく、しっとリーダーは正気に戻ったではないか。
なんということでしょう。これが匠の仕事というやつか。
「こんな事もあろうかと、霊感が強い事で有名な寺生まれの人を呼んでおいて正解だったな」
謎の男の隣で淡々と頷く何 静花(
jb4794)は、満足気にその様子を伺っていた。
「しっとに取り憑かれた人間のことに、あまり構うんじゃないぜ。そういうのは俺の担当だ」
寺生まれの男はそう呟くと颯爽と立ち去っていった。
やっぱり寺生まれってスゲェ。誰かこんなキャラやりませんか。是非。
斯く斯く然々。
無事しっと団を撃退した警備班達であったが、会場は依然騒動の名残を残しざわついていて。
再びトラブルが起きる程ではない。だが、静まるのにも時間を要する――と、誰もが思っていたのだが。
そんな中、一人の男子が意を決して声をあげた。
「静かにしてくださーい! でなければ貴方達は闇の炎に抱かれて消えてしまいまーす!」
とある駆逐系漫画の衣装を身にまとった真野 智邦(
jb4146)、その人である。
「ちゃんと静かにしてくれないと無慈悲な行動しちゃいますよー! スペシャルなお仕置きですよー!」
意味わかった生徒はどっと笑い、ざわついた空気が少しずつ薄らぎ、智邦に注目が集まっていく。
ネタがわからず首をかしげるファタや彰の様な観客も勿論居るが――そこはほら、空気読める子ということで。
「さぁ――全員、心臓をミスコンに捧げよッッッ!!!」
その声は会場中に響き、次いで、一斉の大拍手が場内を包み込んだ。
●
こうして、調査h‥‥いや警備班の活躍により、中断されたミスコンが再開されつつあった。
『えー‥‥、さぁ! 変な集団が暴れたりもしましたが! 楯君の想いは無事お相手に届く事でしょう!!』
何もかもが予定外の展開にしどろもどろになりながら、なんとか流れを取り戻そうとする司会。
そこに飛び込んだカンペは、朗報以外の何物でもなかった。
曰く、去年の優勝者が観客にいる――と。
『さて、出場者のほぼ半数のアピールが終わった所で、突撃スペシャルインタビューを行いたいと思います!』
カッ、と眩いスポットライトが観客席へと降り注いだ。
「――え? えぇっ!?」
照らしだされたのは瀟洒なメイド、氷雨 静(
ja4221)だ。
壇上から降りてきた司会者が静の元へと駆け寄り、マイクを向ける。
『去年は見事優勝を射止めた訳ですが、今年は参加されないのですか?』
「ええ、昨年は光栄でございました。応援して下さった皆様には改めて御礼申し上げます。今年も素敵な皆様が沢山参加なさっておられますので、私は皆様の応援をさせて頂こうと」
今年は観客でのんびり見守ろうと思っていたのに――。
内心では盛大に動転し溜息を付きながらも、営業スマイル‥‥もとい、メイドスマイルでインタビューに応じる静。
トラブルのしわ寄せ、後片付けもメイドのお仕事――な訳ないですね! ただのとばっちりですね!
『そうなんですか、残念ですね〜! それでは、最後に出場者達へ一言お願いします』
「皆様、頑張って下さいませ」
『以上、昨年の覇者、氷雨 静さんでした!』
言って、すっとスカートをつまんで優雅に一礼すると、静は舞台へと走り去る司会へと笑顔で手を振った。
その直後、クオンに「キミ、かわいいね〜!」と絡まれたりもするのだが。
なんだかんだでしっと団が乱した空気は漸く、それまでの穏やかな、そして賑やかな祭のそれへと戻ったのである。
――ああ、長かった。
『さて‥‥それでは、いよいよミスコンも後半戦! 皆さんお目当ての娘をしっかりバッチリ探してくださいね!!』
今年の栄冠を求める戦いは、まだまだ続く――。