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【至天の尖兵はかく嗤いて・エピローグ】 担当マスター:クロカミマヤ



 ――秩父三峯神社を中心とし、突如ゲートが生成された。
 その支配領域は凡そ半径十キロメートル。
 九州は阿蘇山のメタトロンゲート、或いは北海道は洞爺湖に位置するルシフェルゲートの規模からすると小さなゲートにも思えるそれに、特筆すべき点があるとすれば二つ。

 ひとつ、持ち帰った情報から導き出されるゲートの主が、かの天使ギメル・ツァダイであること。
 ひとつ、ゲート展開にかかるゲートの詠唱を行なった気配が、まるで感じられなかったこと。

 記憶に新しいところでは、先の四国での戦いにおいて用いられた高知市街の連結陣。
 複数の天界騎士達によって成されたそれに匹敵する規模のゲートを、ギメル・ツァダイは単身かつ、限りなくゼロに近い詠唱期間において成したのである。

 ひとまず情況証拠を鑑みた上で、今回のゲートがギメルのものであることはほぼ間違いないと判断する一方で。
 並行世界に降り立つことのないような上位天使ならばいざ知らず、一介の天使の実力においては本来成し得ぬことであると、学園に戻ったレミエルは語る。

「身の丈にそぐわないゲート規模であること自体は、地脈の影響と思えばありえない話ではないんだがな」
 呟く太珀に、レミエルも頷きを返す。
「まして天冥の双方が、名のある天魔を動かしてでも欲するほどの地の利であるのなら尚更」
「……気になるのは、詠唱時間の短さだな。まさか天界には、あれほどの速度でゲートを展開できる技術が?」
 太珀の半ばノーを見据えた問いに、レミエルもやはり心当たりがないと首を振る。
「だろうな、であれば、とうの昔に冥魔は天に屈していてもおかしくない」

 ひときわ大きな溜息をもらし、太珀は再び机に向かい本を開く。
 ページをめくる指に滲むのは隠し切れない焦燥。
 レミエルもまた、嘆息してスマートフォンを取り出した。

「太珀。確証がないのにこのような事を口にするのは俺の美学に反するが、
 ……これらの情報から予測できる最悪の事態を鑑みるに、そうも言っていられない可能性が高くなってきた」
「チッ、不本意だが同意だ。全生徒へ通達するには不確定事項が多すぎる。
 いずれにせよ、まずは神楽坂に情報を渡そう。奴にも采配権がある」
「……無論、指をくわえて見ているわけにはいかないからな。
 一手誤るだけで『この世界の大きな前提が覆ってしまう』危険な局面を」

 通話ボタンを押下し、レミエルはいずこかへと語りかける。

「俺だ。突然すまない。……全生徒へ――大召集令を」

 不気味な静寂の下、何者かの笑い声が聞こえた気がしたのは、果たして幻聴だったのだろうか。


 【AT序章】グランドシナリオ「至天の尖兵はかく嗤いて」
 了








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