.








【至天の尖兵はかく嗤いて・外救】 担当マスター:真人


『国道140号線は皆野町方面への一方通行となります。ご協力をお願いします。』
『落ち着いて、撃退士の指示に従い避難してください。』
 防災無線を通じ、荒川地区全体に華子=マーヴェリック(jc0898)の声が響く。
 それは荒川地区の住民に対し、撃退士の到着を報せるものだった。
「これを定期的に流すよう設定してください。後は直前で国道が混乱しないよう、武州日野駅付近で交通規制をお願いします」
 さて、と……。
 市の職員へ支持を出した金鞍 馬頭鬼(ja2735)は、壁に貼り出された地図を前にして腕を組んだ。
 国道と鉄路、2つの避難路を守りながら、住民を円滑に避難させる――それは口で言うほど容易い事ではない。
 仲間達はそれぞれの持ち場に辿りついただろうか?
 それを確認する暇もなく、避難民からの救難要請が次々と寄せられていた。
「国道で多重事故が発生しています。場所は……」
 正確な情報が伝わらない中、少しでも早く、少しでも先へ。そんな心が焦りを生み、車の流れを妨げるのだろう。
 寄せられる情報をまとめていた華子は、市街地で活動する撃退士へ情報を流し、もっとも近くにいる者達にトラブルの解決を委ねていった。



 活動範囲の東部で、軽自動車がサーバントの放った粘液にタイヤを取られてスリップ。それを避けようとした数台の車が追突し、国道を完全に塞ぐ形で停まっていた。
 鳴り止まないクラクションの大合唱は後続車達が上げる抗議の声。事情を知らない分、苛ついているのが見て取れる。
「ただいま事故処理中です。もう少しお待ちください」
 川澄文歌(jb7507)は後方へ回り込み、ハンディマイクの音量を最大にして状況を説明していく。
「だったら早く片付けろ! みんな迷惑しているんだぞ!」
 小娘のくせに。威圧感のある男性から怒声を浴びせられても、文歌は邪気のない微笑で応え続ける。
 それはアイドルとして培ってきた人心掌握の術。相手が相手なら視線を合わせただけで友好的になれるのだが、この緊迫した状況下でどれだけ効果があるだろうか。
「皆さんは絶対に守り抜きます。ご協力をお願いします」
 だから、どうか自分達を信じて欲しい。
 そう心の中で叫びつつ、文歌は少しでも避難者の不安を取り除くよう、アナウンスを続けた。
「もう大丈夫ですにょ!」
 支倉 英蓮(jb7524)は歪んだドアを力づくでこじ開け、車内に閉じ込められた人々を助け出した。
 打撲、骨折、出血……誰もが少なからず傷を負っていたが、命に係わるほどのレベルではない。
 ほっと胸を撫で下ろし、英蓮は気持ちを切り替え応急処置を施していく。
「あっちは適任者に任せて……問題は、この車よねぇ」
 メフィス・ロットハール(ja7041)の目の前にあるのは、渋滞の戦闘で絡み合っている数台の車だ。ドアがへこみ、タイヤが弾けて、原形を留めてはいても、動かない事は一目瞭然だ。
「やっぱり優先すべきは人命、よね」
 メフィスは先頭で道を塞ぐ軽自動車を、吹き飛ばす程の勢いで路外へ押しやった。
 水無瀬 快晴(jb0745)もそれに続く。
 2人の作業はかなり乱暴な方法だったが、レッカー車を呼んでいる余裕がない今、一番効率的な方法と言えた。
 ものの数分で障害物は取り除かれ、開かれた道を次々と車が通り過ぎていく。
「ここはもう大丈夫そうね」
 負傷者達の搬送を引き受けた快晴を見送って、一仕事終えたメフィスが泥で汚れた頬を手で拭う。
『……渋滞が発生しています。』
 一息つく暇もなく、指揮班の華子が新たな救難情報を発信する。現場は三峰口・白久両駅のほぼ中間――市道との合流地点だ。
「すぐに駆け付けます!」
 小回りの利くバイクを駆る文歌が真っ先に動き出した。
『駅へ向かう道も混雑し始めていますので、そちらも対応をお願いします』
「了解!」
 声を揃えて応答し、撃退士達はそれぞれの現場へと急いだ。



 三峰口駅に駆け付けたのは、下妻笹緒(ja0544)と天宮 佳槻(jb1989)、ファーフナー(jb7826)の3人だ。
 刻々と増えていく避難者を前に、笹緒は鉄路周辺の情報に耳をそばだてる。
 電車は秩父駅を発車した所だという。
 さすがにこの状況下で三峰方面まで乗り入れる物好きはいない。ほぼ回送状態での到着となる。
 それらの情報は、逐一周辺の撃退士や避難者達へと発信されていく。
 人々の間に安心感が広まった所を見計らい、ファーフナーはある重大な命令を口にした。
「荷物は一度こちらで預からせてもらう。後の便で必ず届けると約束しよう」
 車より鉄路を選ぶという事は、子供世代が離れて暮らしているためか。そんな状態でも苦労して運んできた荷物は、手放す事のできなかった大切な品々なのだろう。
 それを承知した上でファーフナーは慇懃に頭を下げる。
 ひとりでも多く『人』を運ぶため、身ひとつで電車に乗るように、と。
 もちろん中には渋る者もいたが、ファーフナーの真摯な説得に応じ、最後には手放す事を了承してくれた。
 駅員と手分けをし、荷物に名札を付けていく。数が数なだけに、それは大変な作業だ。
「僕も手伝いますよ」
「あぁ、助かる」
 周辺の見回りから戻った佳槻も率先して加わり、作業は急ピッチで進められた。

 避難者達は、隣の白久駅にも詰めかけていた。
 荷持を預けようとする人々のざわめきに耳を澄ませば、聞こえてくるのは三峰方面に関する噂――憶測がほとんどだ。
 正確な情報が伝わらない時、人はどうしても悪い方へと考えてしまうらしい。
「ママー、どこぉ?」
「愛ちゃん?!」
 そのざわめきを断つように、どこかで甲高い声が上がった。
 混雑の中で繋いでいた手が離れてしまったのか、小さな女の子が親を探そうと必死に足掻いていた。
 しかし少女の身体は人混みに揉まれ、次第に流されていく。
 周囲の人々も迷子の存在に気付いてはいるが、対処できずにいるらしい。
 僅(jb8838)はすぐに人ごみを掻き分け、少女がホームの外へ押し出されるより先に、その小さな体を抱き留める。
「……直に、身内と合流でき、る。安心し、ろ」
 宥める声は泣き声に消され、僅はホトホト困り果て……
「……泣きや、め」
 今にも消えそうな小さな声で、そう呟いた。

「大勢の人を巻き込んで傷付けて、こんなのは絶対に許さないよ」
 これまで経験してきた苦い思いが脳裏に蘇り、紫ノ宮莉音(ja6473)が怒りを露わにする。
 諦めない。何度でも何度でも、守り続けてみせる。そう告げる相方に、若杉英斗(ja4230)も力強く同意した。
「大変、虫が集まってくるよ!」
 外を偵察させていたヒリュウが異変を報せている。
 ヒリュウと共有した竜見彩華(jb4626)の視覚には、数体のサーバントが映し出された。同時に地上を走る自動車も。
「近づく前に、撃つぞ……」
 双眼鏡を魔具へも持ち替え、英斗は胸元に忍ばせた阻霊符の存在を確認した。
 駅は開け放たれているため万全とは言えないが、少なくとも不意打ちを避ける事はできると信じて。
「もしもの時は、頼む」
 避難者達の守りを彩華に託し、莉音と共に救助のため走り出す。
「……来るよっ」
 莉音の叫びと同時に、ヴォンと羽音を響かせ、サーバントが急降下してきた。
 車への体当たりをその身で庇った英斗。すかさず莉音が星の輝きを行使してサーバントの動きを鈍らせる。
「今の内に、早く!」
 積み荷を回収している暇はない。もたつく避難者を叱咤し、莉音は彼女達を護るように駅へと急ぐ。



 誘導班に属する撃退士達は、三峰口駅より西側――瘴気に最も近い地域から活動を開始していた。
 この地域は国道沿いにのみ住宅が並んでいる地域である。
 自力移動のできる殆どの住民はすでに避難しているらしく、が周囲に呼び掛けると、無人の家が多い。残っていたのは自力では動けない者とその家族ぐらいだった。
「私達は撃退士です。皆さんをお迎えにきました」
 借り受けたマイクロバスを国道上に停めた草摩 京(jb9670)自宅で待機していた人々が待ち兼ねていたように飛び出してきた。
 老いた親がいる。ケガをした娘がいる。ひとりでは連れ出せないと援助を求めて。
 家族と共に寝たきりの高齢者を救出した斉凛(ja6571)と京は、地図に避難済みのマークを施し、次の民家へと向かう。
 盲目の老婦人が住んでいるという裏手の家に、人の気配はなかった。
 小さな卓には飲みかけの茶腕が2つ置かれたまま。まるで人間だけが一瞬で消えてしまったように、生活の痕跡がそのまま残されていた。
「介護ネットワークのリストでは、市内に遠縁がいらっしゃるようですが……」
 この住所はここより更に西側――境界を確認するために西へ向かった時、ゲートに入った時のような不快感を覚えた辺りではなかったか?
 生きる者のいない、静寂に包まれた町を思い出し眉を顰めた凛。その隣で京は奥の仏間に視線を向ける。
 険しかった表情に安堵の色が広がる。
 白檀の薫りに包まれた仏壇。しかし、本来そこにあるべき位牌の姿が、どこを探しても見当たらないのだ。
「心配はいりません。ご婦人は無事に避難されているはずです」
 そう確信めいた口調で呟いた。

 足をひきずる男性は、佐藤 としお(ja2489)の背の上で感謝するように念仏を唱え続けた。
「あと少しの辛抱ですからね!」
 としおは男性を元気づけるように声をかける。
 背に伝わる温もりは生命の証明、決して決してはならない灯火。できる限り多く……否、全てを救い出すのだと、改めて心に誓った。

 人は互いに助け合うものよ――心に残る母の言葉を胸に、ゲルダ グリューニング(jb7318)は奮闘する。
 ゲルダは民家だけではなく、その周辺にも目を向けていた。
 ガレージや畑のビニールハウスまで、少しでも可能性があるなら、ヒリュウと共にどこでも駆け付けた。
「……あっ」
 そうして発見したのは、廃コンテナに身を寄せる男性の姿だった。
 捜索の目を住宅周辺にまで広げていなければ、取り零していたかもしれない。
 幸い目立った外傷はない。聞けば異変に気づき、慌てて物置代わりのコンテナに身を隠したのだという。
「ご無事で何よりです。では、安全な場所へご案内します。どうぞこちらへ……」
 ゲルダは男性を守りつつ、仲間の待つ国道へと戻った。

 この地域は比較的戸数が少ない事もあり、全て捜索するまで余り時間は掛からなかった。
 捜索漏れがないよう複数人と地図をチェックし、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)はそう確信を得る。
「西地区、避難完了です」
 そう指揮班へ伝達を入れ、誘導班は新たな地区へ向け移動した。



 時が経つに連れ、サーバントが吐き出した粘液に冒された場所も増えてくる。
 避難民や戦闘に専念する撃退士から寄せられるそれらの情報は、指揮班を通じて現場の撃退士にも伝えられる。
 国道を護る撃退士達はその度に現場へ駆け付け、シートや段ボールで覆い対策を取った。
「これだからムシって苦手なのよっ!」
 払っても払っても湧いてくるサーバントを前に、メフィスは半ば逆切れ的に鋼糸を放った。
 胴を断ち切られたサーバントが、またひとつ路上に転がる。
「……本当に切りがないな」
 通行の邪魔にならないようサーバントを路外へ蹴り出しながら、快晴は空を仰いだ。
 蚊柱のような襲撃はひとまず収まったが、遠くに目を移せば、未だ多くの影が飛び回っている。
「この粘液、いっそ洗い流してみたらどうかな?」
「……いや。やめて置いた方がいい」
 弥生丸 輪磨(jb0341)の提案に頷きかけ、快晴は考えを改める。
 撃退士にすら影響を及ぼす天魔の体液である。効果を打ち消すために、一体どれほど水が必要になるか。
 仮に可能だとしても、水がスムーズに路外へ流れてくれるという保証はない。万が一にも道路上に溜まるような事があれば、状況を悪化させるだけだ。
「うーん……じゃあ結局ビニールシートで対処するしかないんだね」
 そう諭され、輪磨は一度試してみたいという気持ちをそっと飲み込んだ。



 時は一定のリズムで刻まれていく。どれだけ気を急いても、早める事も止める事もできない。
 それなのに、なぜこんなにも『1秒』が長く感じられるのだろう?
 電車が到着するまで後どれ位か、そもそも電車は無事に到着するのか。
 三峰方面と一切連絡が取れないのに?
 鳴りを潜めていた不安がじわりと波紋のように広がって――生み出されるのは、恐怖。
「……落ち付、け」
「大丈夫です。僕たちが守りますから」
 僅や莉音がそれぞれにマインドケアを施す。
 それでも不安は何度も芽吹いてくる。
「鉄路は撃退士が力を尽くして守っています。だから皆さん、安心してください」
 佳槻は根気よく呼び掛けを繰り返し、人々の心がパニックに陥らないよう、繋ぎ止めた。
 そしてついにその時は訪れる。
 人々の歓声と共に、緑色のラインを持つ三両編成の電車がホームに滑り込んできた。

『3号車には乗車できません。』
『順番に、前方の車両から詰めてください。』
 我先にと乗降口へ詰めかけた人々を制するように、プラカードを手にした笹緒が立ちはだかる。
 白久で電車を待つ人々のためにも、せめて1両だけは空けておきたいのだ。
 ファーフナーが提案した荷物の預かり証から、両駅で待つおよその人数は把握できている。
「急がなくても、必ず全員が乗れます。身体の不自由な方を優先してあげてください」
 佳槻も繰り返し呼び掛け、人の流れを捌き続けた。
 電車を待つ間、何度も何度も不安を和らげてくれた撃退士の言葉である。信じられないはずがない。
 人々は誘導さえるままに黙々と並び始める。
 初めの頃、度々諍いを起こして佳槻の手を煩わせていた大男も、今は率先して列を整え、後方で戸惑っている高齢者を見つけては知らせてくれた。
 撃退士の尽力で避難民の乗車は滞りなく進み、電車は定刻通りに三峰口を発車。白久駅に身を寄せていた避難民の全てを無事に乗せ、町中を一気に走り抜ける。
 サーバントの襲撃に備え、客室には彩華が、車両上部に笹緒と佳槻が陣を取り、警戒に当たった。
 予想以上に強い風圧を、車両上の2人は身を低くして耐える。
 窓越しに見える住宅街。彩華に見守られながら、人々はいつ帰れるとも知れぬ風景を、瞼の奥に焼き付けていた。



「……それは本当ですか?!」
 外部機関と連絡を取っていた馬頭鬼が勢いよく立ち上がった。
 何があったのか? 支所内で状況把握に勤めていた職員達はぎょっとして視線を向けた。
 二、三言葉を交した後、馬頭鬼は瞳を閉じて息を深く吐き、心を落ち着かせる。
「電車が、武州日野駅に到着したそうです」
 それは、多くの人々が安全圏へ到達したという朗報だった。

『電車は無事に安全圏へ脱出しました』
 通信機から流れる華子の声に、鉄路での避難に従事していた者達は歓喜の声を上げた。
「これで一安心だな」
 三峰口に残り、駅員と共に預かった荷を護っていたファーフナーが口元に笑みを浮かべた。
 白久駅では英斗と莉音が互いの拳を合わせ、健闘を称え合った。
「私達も負けていられないね!」
 メフィスの声には、高揚した心がハッキリと映し出されていた。
「ひとりも残さず助けてみせますにょっ!」
「もちろんです!」
 通信機を介し、乙女達の言葉が重なる。
 自信を持って顔をあげて。毅然としたその表情が、避難者達の心を落ち着かせていった。




 三峰口駅より東側は、荒川を挟んで南北に住宅が広がる地域である。当然、捜索すべき民家は格段に多い。
 おまけにこの辺りは細い裏道や川が複雑に入り組み、撃退士の行動を阻んでいた。
「どなたか手を貸してください」
 荒川の北側で、ひとりでは搬送できない高齢者を扱う事になったゲルダ。
「すぐに行きます。待ってください」
 要請に応えたのは、保護した避難者を駅へ送り終えたばかりのエイルズレトラだ。
「いやはや。翼の力が残っていれば良かったんですが……」
 直線で百mほどの距離を、数分かけて駆け付ける。
 ゲルダが待っていたのは小高い土手の上に建つ住宅だった。
 道路へと続く直近の階段は急なうえ狭く、とても並んでは通れない。撃退士なら飛び降りても問題のない高さだが、抱えている高齢者の容態を考えれば、無理は禁物だ。
「腰を悪くしてからは、あちらの橋を渡って降りていたそうです」
「随分と遠回りになりますね……。ですが、仕方ありません。急ぎましょう」
 漏れたため息には、微かに焦りの色が混じっていた。
 避難作業が思うように捗らない。
 ひとりの撃退士が一度に介助できるのは一名が限度。時には今回のように、複数人の手を要する事もある。
 仲間に応援を要請してもすぐに駆け付けられるとは限らず、誰かが緊急搬送のハンドルを握れば、それだけ救助に当たる人数が減る。
 そう、端的に言って人手が足りないのだ。
 さらに……住民の中には、避難を拒む者も少なからずいた。
 財も身寄りもない者、死に場所をここと決め菩提の寺に身を寄せた老人、病のため容易に動かす事のできない娘を案じ、最期の時まで付き添う事を覚悟した母――
 いくら本人が望んでいるからといって、見捨てるわけにいかない。としおと京は彼らの想いを受け止めつつも、生きる事を諦めないよう、根気よく説得を続けた。

『下妻さん、竜見さん、天宮さん……至急現場に戻ってください』
 状況を察し、馬頭鬼は避難活動を終えた鉄道班に応援を要請。車の数が疎らになった事で、国道班の一部も自主的に誘導班のサポートへ回った。
 サーバントが飛び交う中、英斗と莉音は攻防一体で避難者を守る。
「さぁ、ムシの姿が見えない今のうちだよ」
 輪磨は進路上の安全を慎重に確認し、避難の妨げとなる粘液の対処に専念した。
「上の地区は任せてください」
「搬送は俺が担当する。そこの寺にバスを回すから、避難者を集めておいてくれ」
「ありがとうございます!」
 頼もしい援軍の言葉に、誘導班の士気は再び燃え上がった。



 人員を集中させた結果、要介護者の保護は一気に加速。避難完了を示す地図も、見る間に塗り潰されていく。
 市街地の8割が確認済みになり、情報を統括していた指揮班はある決断を下した。
「駅員、警察、消防団の皆さん、お疲れ様でした。後の作業は撃退士に任せ、撤収してください」
 そう。今まで撃退士と共に住民の避難を支援してきた彼らもまた、撃退士が護るべき一般人のひとりなのだ。
「後を頼みます」
 最後まで手伝えない事を詫びた若い消防団員は、今度はひとりの市民として、守るべき自分の家族の元へと急ぐ。
 エイルズレトラは敬礼をしてその後姿を見送った。
「さぁ、ラストスパートです」
 そして大声を上げ、体力を奮い立たせる。
 暗雲が近づく中、救助を待ち続ける人々を救い出すために。







推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ