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第14話

 青い海に浮かぶ島。大自然の神の手ではなく、人の手によって作られた島。久遠ヶ原の学園には夢と希望があった。
 その島への船に乗ったのは何時だったか。船上で姉がはしゃいでいたのを覚えている。眩しい太陽の日差しと鼻腔をくすぐった潮風の香りを覚えている。
 中山律紀は黒紙袋全裸トランクス男と相対しつつ思った。そして今、ここだ。
 火村飛鳥が投げ出したくなる気持ちは解らんでもないが、これも仕事である。
 微笑を浮かべて言う。

「一番良いと思える方法でやりたいと思います。今はまだ、どの案を採るかは保留ですが」
「そうかね」

 当たり前だが黒の紙袋を被った男の表情は読めなかった。開けられた穴から黒い瞳が覗いていた。
 律紀は他に幾つかを尋ねると黒紙袋に礼を言って別れた。

「良き解決を祈っているよ」

 黒紙袋は別れる際にそんな事を言っていた。
 扉が音を立てて閉まり、赤毛の少女が碧眼を向けて来る。

「で、どうするの?」
「一応、裏取ってみようか」

 律紀は火村への問いかけにそう答えた。黒紙袋が言っていた事がそのまま真実であるとは限らない。
 二人は寮の部屋を尋ねて回ったが、出て来てくれる者はいなかった。不在か居留守である。仕方がないので律紀と火村は食堂へと向かった。調理師達に話を聞くとやはり猫による被害はそれなりにあるらしい。ほぼ黒紙袋男が言っていた事と同じ話を聞く事が出来た。
 事実の把握に誤認が無い事を確認すると二人は解決策を話し合う事にする。

「火村的にはどうやって解決すべきだと思う?」

 律紀が問いかけると少女は腕を組んだ。靴の裏でとんとんとアスファルトの地面を叩く。顔を上にあげる。下にさげる。考えているらしい。

「あれよ」

 ぴん、と人差し指を立てて火村は言った。

「この辺りの野良猫を皆誰かに貰ってもらって解決を計るっていうのは現実的ではないわ」
「なんで?」
「猫の数が多すぎるという事が一点、第二にその場限りの猫をなんとかした所でこの大きな学園の何処かから再び野良猫が集まりだしたら意味がない。第三に誰かに負担を押し付ける事になる。野良猫を進んで飼いたいっていう人が野良猫の数より多くいるのならそれも良いかもしれないけど、そんなに飼いたくない相手に頼みこんで世話して貰うっていうのは、相手の事情を考えていないでしょう。野良猫の方だって皆が皆人間に飼われたいかしらね? あたしが猫だったら、首輪つけられるのはふざけんじゃないわよって思うわね。あたしみたいに思う奴もいるんじゃないの」
「なるほど」
「駆逐するっていうのも、その場限りを取り除いてもまた集まり出したら意味がないわ。良い手段とは思えないわね。そのように良くない手段なら、あたし無益な殺生って嫌いなの、意味のない事の為に殺したくないわ」
「うん、じゃあ猫を近寄らせない為の番犬はどう?」
「犬の世話は誰がするの? 飼うとしても一匹で十分なの? 猫がにゃーにゃーうるさくなくなるのだとしても、犬がワンワン吼えだしてそれがうるさいってなったら意味ないと思うの。訓練された犬なら大丈夫かもしれないけど、そういう犬って高いし、費用でいえば毎日の餌代とか小屋代とかスペースとか、住民は犬嫌いの人がいないのか皆大丈夫なのかとか色々やっぱり問題あると思うの」
「となると、さっきの黒紙袋さんの言ってた手段は全滅だね」
「そうね。どれも採用すべきではないと思うわ」

 沈黙。
 少女はすこしの間考えるようにすると、

「でも具体的にどうすれば良いのかっていうと……どうしたものかしらね? 猫よけペットボトル置いても効果なんてたかが知れてるでしょうし……律紀、何か良い考えある?」

 少女に問いかけられると少年は頷き、答えて言った。

「そうだねぇ。こういうのは、あれだよ、原因から断つべきではないかと」
「原因?」
「そもそもなんで野良猫はこの寮にだけこんなに集中的に集まっているんだい」
「さぁ、マタタビでも撒いてるのかしらね」
「なわばりとか、距離とか、周囲にある自然とか建物の種類と間隔と数とか、色々考えると餌場の問題な気がするよ」
「餌場?」
「この寮、生ごみを袋に入れてそのままで集積してるよね。袋は簡単に爪で裂かれて漁られてるようだし、ゴミ箱もあるみたいだけど良くある奴じゃ簡単にひっくり返されてやっぱり漁られる。野良猫達は餌を、その生ごみを求めてやってきてるんじゃないかな? だったら、この生ごみを抑えれば良い」
「……それで解決するの?」
「予想が当たってればね。無駄に大掛かりな事しなくても餌となる生ごみさえしっかり対処しとけばそのうち来なくなるんじゃないかなぁ。猫好きの住人にもみだりに餌やらないでくださいとかも言っとく必要はあるだろうけど。後は駄目押しでペットボトルと殺虫剤撒いて匂いを消すとか猫が嫌いそうな事をばらまいときゃ良いんじゃないかな。相手そのものを無理やり追い払うんじゃなくて、相手がここに来るメリットの方を潰せば良い。相手にここに来る気を無くさせれば良い。そうすれば相当ひねくれ者じゃなければ寄ってこない。野良猫達には『餌場を潰されたからといっておめおめと引き下がる我々ではない、我々の邪魔をした連中に対し最後の一兵までここに留まり続けて復讐するのだ!』とかそういう気概は発揮されない事を期待する」

 ま、猫だし、そういう心配は大丈夫なんじゃないかなとは思うけど、と律紀は言った。

「なるほどねぇ……でも予想が外れてたら?」
「その時はその時でまた別の手を考える事になるかなぁ。餌以外の理由で集まられてた場合、とりあえず今の所だと、個人的には番犬さんが有力だ。犬が居る家にも猫が偶に来てちょっかりかける事はあるけど、やっぱり追い払われるよ。まぁ犬を飼うのもそれはそれで問題起こりそうだから、ゴミを解決したらいなくなってくれると有難いけど」
「予想が当たってると良いわねぇ」

 少女は言った。

「それじゃ生ごみを抑える場合、抑えるって具体的にはどうするの?」
「ゴミ収集用の蓋がついてる大型のコンテナを幾つか用意して、そこに生ごみの袋を入れるようにすれば良いと思う。そういうのなら猫では開けられないだろう。スペース取るから場所によっちゃ使えないけど、この寮はそういう問題はないし、掃除がちょっと大変だけどまぁそれくらいはやって頂きましょうって事で。猫に悩まされるよりはマシかなと」
「なるほど」
「だから寮の管理人さんと相談して許可を貰って、まぁ執行部からの依頼だから貰えるとは思うけど、学園の建物だし。ああ、でもみだりに物置いちゃいけませんとかあるのかな、そうなると手続きが面倒くさそうだ。住民にこれからは箱に入れるようにと周知もしなきゃならないだろうし。ただまぁ、箱の方は街のホームセンターに行けば売ってるんじゃないかなぁ。売ってなかったら最悪自作かな」
「ふむふむ、なんとかなりそうね。不確定要素もあるけど勝算はありそうだわ。それでいってみましょう」
「了解」

 かくて相談を終えた二人は今後の方針を打ち合わせると、寮の管理人の元を尋ねて事情を説明し、設置の許可を貰うと街へと向かったのだった。



 続く






父親が悪魔とのハーフ、母親が天使とのハー…



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