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第13話

 神楽坂茜は言った。
 問題の解決方法は一任する事。経費は生徒会で持つ事。期限は特に急ぎはしないが可能なら出来るだけ早い方が良い事。

「野良猫ねぇ。まさにザ・雑用って感じの依頼ね」

 執行室からの依頼を引き受けた帰り道、火村飛鳥はそんな事を言った。

「気に入らないかい?」

 律紀が問いかけた。

「別に。仕事でしょ。トラブルがあるなら、誰かが解決するものよ。その誰かがあたし達になったってだけでしょう」

 少女はそう答えた。
 火村らしい答えだ、と律紀は思った。黒瀧が風紀委員に誘ったのも解るというものだ。
 それに黒瀧が言った。

「まぁ、会長は良くも悪くも公平だ。特別目をかけるという事はしちゃくれんが地道に実績をあげれば必ずそれは評価してくれる。良い結果を残してゆけば信用を築けるだろう。信用が得られれば大きな仕事が回ってくるかもしれない。チャンスは逃さない事だ」
「そうだね。今日は有難う」
「何、お前等には世話になってるからな。お安い御用だ。ま、後は頑張れよ。俺は行く」

 黒瀧は言うと一つ手を振って去って行った。
 律紀は礼を言って頭を下げると男の背を見送った。黒瀧にも黒瀧のやる事がある。

「さて……それじゃこれからどうする? 特には急がないらしいから、放課後から解決に当たっても問題はないと思うけど」

 律紀は火村に問いかけた。日中、学生には学生がやるべき事もある。

「あたしはすぐに依頼の解決に向かいたいわ」

 火村はそう言った。撃退士の学生は基本的に依頼を受けた際には講義を受けなくても引き換えの単位が相応に貰える。その分、後で補習を受けたり独学しないと講義についてゆくのが大変になるものだったが。

「出てもどうせ寝てるし」

 少女はそう言った。

「ん、解った」

 律紀は頷いた。既につっこまない。

「でもあたしは寝てるけど、あんたはちゃんと起きてるわよね。どうする?」
「問題ないよ。今から行こう」
「良いの?」
「うん、解決しておきたいからね」
「それじゃ、行きましょ」
「了解」

 かくて火村と律紀は寮へと向かった。

「でー、問題の寮にやってきた訳だけど……」

 白塗りのペンキが塗られた三階建ての建物を見やって火村は呟いた。長方形に長い造りで、本土の街にも似たような建物がアパートとしてあるかもしれない。拡大する学園に乱造された学生寮の一つである。ちなみに火村も律紀も入っているのはこことは別の寮だ。

「大抵は問題の解決を依頼した人がいて、そこから話を聞く訳だけど、今回みたいな場合はどうすれば良いのかしらね?」

 かくりと小首を傾げて火村。
 それに律紀が言った。

「執行部もあまり良く把握してなかったみたいだしねぇ」

 少年は引き受ける際に会長にどんな実害が出ていてどのように困っているのか尋ねたのだがよく把握してないとの事だった。

「解らないものは解れば良い。こういうのは実際に寮の住民に聞くのが良いかと」
「この時間に学生がいるかしら?」

 律紀に無理して付き合ってもらったが、放課後に来た方がもしかして良かったのだろうかと火村は思った。人に対する仕事をする場合は、自分達の都合だけでなく周囲の動きも頭に入れておかないと無駄に終わる事が多い。

「そこは大丈夫さ。一限取ってない人もいるだろうし、食堂のおばちゃん達なら確実にいると思う。仕込みで忙しいだろうからあんまりお邪魔したくないけどね」

 律紀の言葉に火村はなるほど、と頷く。

「それじゃ、まずは学生に話を聞いてみましょう。片っ端からいってみる?」
「うん、そうだね。まずはそうしてみようか」

 虱潰しに聞きこむ事に決め、火村と律紀は一階の住民から当たる事にした。入り口近くの端の部屋のインターホンを押す。
 数秒の空白の後に「どちら様?」という声がドアの向こうから響いた。
 火村は少し緊張する自分を抑え、澄んだ声を出した。

「執行部から依頼を受けてやってきた者です。こちらで野良猫による被害が出ていると聞いたのでその実情を調査しているのですけど、宜しかったら少しお話をお聞かせ願えませんでしょうか?」
「おお、猫、猫ね! はいはい、構わんとも!」

 くぐもっていたが弾んだような調子でそんな声がかえってきた。こういった聞き込みの場合、多くの場合は不在だったり断られたりすると思っていたのだが、いきなり当たりらしい。しかも協力的な雰囲気を感じる。

(あら、ラッキー)

 火村は胸中で呟いた。朝のニュースでの占いは最悪を告げていたが、占いなど当てにならないものだと思った。
 やがて扉が開かれ、中から一人の男が現れた。
 背の高さは律紀より少し上くらいだろうか。全裸に赤と黒柄のトランクス一丁で頭に黒色の紙袋を被っている。目の部分に穴が二つあけられていた。
 男――まず間違いなく男だろう――は紙袋越しのくぐもった声で言った。

「うわはははは! やぁよく来てくれたね! いやぁ実はこの所、不埒なら野良猫によってこの寮の我々は無量大数的超絶な損失を――」

 火村は開かれた扉を力を込めて押し込み、男が扉を支える抵抗もアウルを解放して押し切って、バタン、と音を立てて閉めた。
 律紀を振り返って言う。

「留守だったみたいね」
「そ、そうだね」

 少年は少し呆気に取られたような顔でそう言った。

「うぉおう、何故閉めるっ?!」

 がちゃりと音が響き、また勢いよく扉が開かれ、男が叫んだ。
 火村は後方に二歩下がりつつ少年の肩を引き、開かれた扉をかわしかわさせると少年に言った。

「次、いきましょう」
「待て待て待て待て! 君は話を聞きにきたのではなかったのかねっ?!」
「あの、火村っ、なんかこちらの方おっしゃってるみたいなんだけど」
「こちらの方?」

 少女は冷めた視線を横に流してみやると言った。

「あたしには、何も、見えないわ」
「おぉ、実に蔑みに満ちた氷のような視線! 僕のハートにサイクルヒット!」

 男が左胸を抑えてよろめく。
 それに対して律紀が言った。

「野球、お好きなんですね」
「うむ、解るかね。僕は高校野球しか見ないがな」
「何普通に会話してんのよあんたわっ!」

 火村は微笑を浮かべて会話する少年の腕を引いた。一刻も早くその場を立ち去ろうとする。
 しかしそこへ声がかけられた。

「まぁ待てというのにお嬢さん。短気は損気というぞ? どうだろう、夏の日差しも強まるばかりな今日この頃、けだるい暑さに唸りながらも削った氷菓子でもそこらでやっつけながら、僕と一緒に今年は何処の高校が勝つか予想してみるなどは。なかなか楽しいぞぅ」
「こっちは仕事で来てんのよこの変態!」

 火村が叫ぶと黒紙袋全裸トランクス男は、驚愕の事実でも突きつけられたかのように叫んだ。

「な、なにぃっ? 変態だとぅ?! 僕はぁ変態じゃないぞ!」
「真正は皆そう言うのよね」

 絶対零度の声音で火村は言う。

「失敬な! とても失敬である! 名誉棄損だ! 執行部からの使いというのはろくでもないな!」
「な……ろくでもないって、変態じゃないならなんで全裸なのよ?!」
「パンツ穿いてるぞ」
「一丁じゃないの、この変態! 信じられない、なんで服着てないのよ?!」
「えー、だって、省エネしろとか会長が煩いからさぁ。クーラー使用禁止でとっても暑かったのだよ」
「あーそー?! 部屋の中で一人でそうしてるなら勝手だけどねっ! 客が尋ねて来たら服着てから出なさいよ!」
「いやぁ、この呪う程暑い中、あんまり外で待たせるのも悪いと思ってだね、着る間も惜しんで急いで出て来たのだよ。うわははは!」
「うわははは! じゃないわよッ! 要らなさ過ぎる気遣いよ! 惜まなくて良いから服着てから出なさいよッ! っていうか、そもそもその頭に被った物は何?!」
「紙袋だが」
「そうじゃなくてなんで被ってんのよって聞いてるの!」

 ぜーはーと火村が肩で息をしながら叫ぶと、黒紙袋全裸トランクス男(以下黒紙袋)はやおら腕を組み、首を傾げて少し思案するようにした。やや経ってから言う。

「えっと……気分なカンジィ?」
「疑問形でのたまうなッ!!」

 だんっと地面を踏みつけると火村は律紀を見やった。少年は笑顔のままで何故か一歩後退した。

「律紀」
「なんでしょう飛鳥さん」
「行くわよ」
「へいっ」

 少年は威勢良く頷いた。偶に割と調子が良い。

「一つ助言するなら、他の生徒の部屋なら尋ねても無駄だと思うぞ」

 立ち去ろうとする火村へと黒紙袋がそんな言葉を投げた。

「この寮の生徒達は優秀だから、ほとんど一限からぎっちり取ってるし皆真面目だ。出てない奴はノイローゼで不登校とかそんなのだから、尋ねていっても応対はしないと思われる」

 赤毛のツインテール娘は足を止めると、ぎぎぎ、とでも音でも立てそうな軋み具合で首を回し、肩越しに振り向いて言った。

「あんたの何処が優秀なの?」
「主に下半身が」
「気持ちは解るけどヒヒイロカネで武器を出現させるのは流石に不味いと思うんだ火村っ!!」
「逃げ足が速いのだよ。だから主に諜報活動などで絶賛活躍中なのだよ」

 太刀を振り上げていた火村は律紀から羽交い締めにされて止められつつ、うわははははは! と笑う黒紙袋男からそんな言葉を聞いた。

「駄目よ、駄目だわ! あたしこーゆー手合いとはトコトン相性が悪いのよッ! 血管が破裂して太陽の輝く真夏の青空にブラッディレインよ! 律紀、パスッ!!!!」
「ものすごくツッコミ入れて対応してたように見えたけど」
「斬られたい?」
「改めて初めましてボクは中山律紀と言います。野良猫被害について調査しているんですけど、何か御存知なんですか?」

 爽やかな微笑を浮かべて少年が前に進み出た。
 黒紙袋男は「うむ」と頷くと。

「色々知っている。少年よ、何を聞きたいかね?」
「ではまず被害状況を」
「被害状況か……そうだな、主な所は……ゴミがね、漁られてしまうのだよ」
「ゴミ、ですか」
「うむ」
「色々あるのだが、うち一つを例に取って言えば、ポリバケツはひっくり返す、ゴミ袋は引き裂いて中身を撒き散らす、真夏な事もあって生ごみの匂いたるもの燦々たるものだ。湧き出る虫達雲霞の如く。猫避け対策などもほどこしているがあまり効果がない。
 また夜中にはにゃーにゃーにゃーにゃー非常に煩くて眠れない。にゃー程度なら可愛いものだが、野良猫同士で争いでも起こっているのか、ふぎゃーだのみぎゃーだのの威嚇の声も真夜中の大気に響き渡る始末。爪で裂かれたでもした側の悲鳴やら、取っ組み合う為に力強く爪で地面を蹴る音など、まさに生き延びる為の戦を彷彿とさせるもので、日々の戦いに疲れた撃退士達の心を抉る事甚だしいとか。
 普段、斬り合いさえやってるのにどんだけ神経細いんだ撃退士、と思わないでもないが、駄目な者は駄目であるのもまた事実であり、特に猫好きには猫達の争いに心を痛めている者も多いと聞く。僕などは猫には猫の戦があるのだから、それに外野の人間が憐れみだけでその場限りの干渉をするというのは、あまり好きではないだがね。
 だが、自分の住居の近くに同じ猫同士の餌争奪やら野良犬やら人間の殺意やらに敗れた猫の死体が転がっていると良い気分がしない、という感情が存在しているのは解らないでもない。自分の周りに血を置きたくないという人間は多いものだ」

 黒紙袋男はそんな事を言った。

「なるほど」
「猫被害に関して、より詳細な被害状況を入手したいなら食堂の御婦人方か、寮の管理人が詳しいだろう。おそらく、君等が請け負ったのは、要は猫による寮住民の生活環境の悪化を解決して貰いたい、という事なのだろう? 何か具体的な方法は執行部から貰っているかい?」
「いえ、解決方法については自由との事で」
「なるほど。では、君はこの周辺の全ての野良猫を飼い猫にして人間の管理下において問題を解決しても良いし、三千世界とはいわぬが寮の周りの野良猫を全てを屠って黙らせても良い、番犬を置いて追い散らすのも手だろう。いずれの方法にせよ、また何か別の問題は出そうだが――」

 男は言った。

「君達は、どれを選ぶかね? 寮の一住民である僕から言わせもらえば、この厄介事を極力問題を起こさずに解決してもらえるなら、それで良い。手段の為に目的を違えてくれなければね」



 続く






・人形の様に整った顔立ちに過剰に発育のよ…



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