TOP読み物>イメージノベル 第4話

登場人物

フラウロス
[デビル/男/?歳]

 漆黒の毛並みを持つ豹頭の魔神。ソロモン72柱神の一柱、地獄の大公爵。伝説に謳われるそれと同一の存在であるかどうかは不明。火焔を操り斧槍を旋風の如くに振るう強力な悪魔。魂は悪魔にとって力の源であるが、数を多く喰らうよりも上等な一つを食するのを流儀とする。
 酒は寝かせてから飲む、の言葉の通りに見込みのある敵はわざと見逃したり、成長を手助けしたりする事もある。彼なりの美学に則って行動し誇り高い。得られる魂の味や美学の為、勇敢な戦士を好む傾向にある。
 その為か生真面目(?)な悪魔からは『戦いを舐めている』と評される事もある。本人曰く『生き飽いた』らしい。その為か、戦いにしろ他の何事にせよ、風流と粋を好み務めて愉しもうとする節がある。緻密に計算する事はあっても、あまり必死にはならない。手段を選ぶ。しかし、そのやり方でいながらも、ほとんどの敵を叩き伏せて来た強者でもある。
(Illustration. ワニ)

 

第4話

 緋色の光が逆巻いて宙に舞い、熱を伝えて大気の温度を上昇させてゆく。
 悪魔の焔だ。魂魄を焼く。
 ビルの群れに囲まれたメインストリートの交差点、黒豹の悪魔が焔の螺旋を纏って槍斧を構え、それに真っ向から対峙するように火村が太刀を構えている。周囲の撃退士達は皆、その様子に気圧されているようだった。
 かくいう俺も常の心ではいられなかった。

――火村で、俺で、俺達で、やれるのか?

 そんな言葉が脳裏をかすめる。全身の毛穴から嫌な汗が吹き出して来る。
 敵は本物の魔神だ。ソロモンの72柱神、悪魔の大公爵フラウロス。伝説のそれと同一かどうかは知らないけれど、その名を持つ者。
 鬼島副会長達は先頭の方でディアボロの群れと戦っている。こちらにデビルがしたと誰か連絡は飛ばした筈だ。副長達に余裕があれば、応援には来てくれるだろうけど、間に合うだろうか、そもそもあちらにも余裕があるのかどうかも解らない。
 岸崎隊長を見やる。視線が合った。

――仕掛けるぞ。

 岸崎隊長の瞳はそう言っているようだった。
 火村の脚部に光が集まり、次の瞬間、爆発的に加速した。恐怖よりも怒りが勝っている動きだ。俺もまたそれに合わせ、ほぼ同時にアウルを爆発させると同時に加速して突っ込んだ。
 フラウロスが動いて戦斧を薙ぎ払い、火村が太刀を高速で一閃させた。戦斧と太刀が激突して甲高い金属音が響く、と同時にフラウロスが身を屈め、一瞬前まであった箇所を刃の閃光が貫いてゆく。豹人の奥に太刀を振り抜いた黒髪の男の姿があった。岸崎隊長だ。冷静だ。そして迷いも怯懦も無い。速い。だが、その凄まじく鋭く見えた一撃を豹人はあっさりとかわした。尋常じゃない。でも、その一刹那の攻防の間に俺は間合いに踏み込んでいた。

――ここだっ!

 敵は態勢を崩している、槍を中段に引き踏み込みながら体重を乗せ、切っ先を錐揉むように捻りながら全霊の力を乗せて突き出す。このタイミングなら、中る。
 槍が奔ってその切っ先が黒い毛並みへと向かい、そして突き刺さ――る所で黒色が掻き消えた。穂先が空を貫いてゆく。
 次の瞬間、腹部への重い衝撃と共に視界が揺れて天地が回転した。
 何をされたのか解らないままに背中が硬い何かに激突する。誰かが叫ぶ声が聞こえた。目の前に真紅の色に埋め尽くされた。爆裂の火球、追撃だ。一気に殺りに来た。激痛に目眩がしたが無我夢中で横っ跳びに転がる。
 唸りをあげて火球が脇を抜け背後にあった何かに――多分ビルか何かに――大爆発を巻き起こしながら激突してた。熱波を帯びた爆風に押されるように転がりつつ槍を構え直し、走る。走れた。俺は、まだ動ける。腹部がその痛みを増大させ始めたが痛覚を操作して無視する。
 俺は駆けつつ一瞬の間に視線を場に走らせる。火村が地に倒れている。岸崎隊長が吹き飛ばされてビルの硝子に激突し叩き割って姿を消してゆくのが見えた。周囲の十数人の撃退士達が次々に黒豹の魔神へと突っ込んでゆき、フラウロスは一瞬の間に斧槍を縦横無尽に振りまわして閃光を奔らせて飛びかかった撃退士達を次々に吹き飛ばし、口から燃え盛る火球を吐きだして薙ぎ払った。
 皆、次々に倒れて動かなくなる。圧倒的過ぎる。悪魔の中でも相手は本物の魔神なのだから、これくらい平然とやってきて当たり前なのかもしれないけど、実際にその強さを目の当たりにすると嘘だろうと言いたくなる。  それでも吹き飛ばされたうちの生き残りの数人が再び豹魔へと攻撃を仕掛ける。
 黒豹人は光の矢を槍斧で斬り払ってかわすと、再度の突撃をかけている俺の方を向いた。こっち向くんじゃないよ、という俺の願いも虚しく思いっきり俺に正対して口を開いた。
 狙いは俺かい。俺かよ。ああ、そう来るかよ。良いぜ来な!
 覚悟を固めて槍を構える。かわせるか、二度は耐えられるか、今日は厄日だね、畜生。
 次の瞬間、巨大な火球が発射され、俺は地を這うように低く身体を傾斜させると、光を爆発させて加速して突っ込んだ。熱波が唸りをあげて迫り、頭上を焼き焦がしながら抜けてゆく。かわした。
 槍を握り、見上げると魔神が最上段に斧槍を振り上げて目の前に居た。一か八かで乾坤一擲で突っ込んだ筈なのだけど、合わせて来た。鬼か。いや、真に悪魔か。
 視線が合った。黄金の瞳は愉快そうに見えた。
 悪魔が斧を振り降ろす――よりも、前に視界の隅に見知った姿が見えた。
 火村、頭から血を流してながらも詰めて来ている。流石だ。振り上げる太刀には紫の色の焔が強烈な光を放っていた。
 俺を斬れば火村に斬られるタイミング、悪魔はしかし迷わず俺の頭部めがけて斧槍を振り降ろして来た。俺もまた頭部を横に傾けつつも構わずに火村と挟むように槍で薙ぎ払う。
 刃の光が交錯し、斧槍が俺の肩に炸裂して鎖骨を叩き割って身に喰い込み、火村の太刀が魔神の左胸を貫く。俺の槍が魔神の脇腹に喰い込んでいた。他の撃退士も踏み込み次々に攻撃を叩き込んでゆく。
 岸崎隊長が一気に加速して突っ込んで来て極限までアウルを集中させた極大の光の刃を一閃させた。破壊が荒れ狂い魔神の身が赤く染まってゆく。
 次の瞬間、目の前が真っ青に染まって、壮絶な爆風が荒れ狂った。
 青い焔。
 気がついたら、仰向けに空を見ていた。身体が動かない。
「一つ、疑問なのだが」
 不意に視界を遮ってフラウロスが現れた。あれだけの集中攻撃を受けても生きていた。黒豹の黄金の瞳が俺を見下ろしている。
「防御しよう、とは思わなかったのかね?」
「‥‥それ、やった、ら、あんた、避ける、だ、ろう?」
 開幕で岸崎隊長の一撃を避けたのはそのパターンだった。
「なるほど」
 豹の口元が裂けた。笑ったようだった。
 誰かが俺の名を叫び、誰かが切羽詰まった様子で鬼島副長と叫んでいた。豹魔が視界から消え、俺の視界が歪み、次の瞬間、真っ黒になった。


 再び目を開いた時、見えたのは病院の天井だった。
「無理するんじゃないわよ」
 包帯を巻いた火村がベッドの傍らに居て、怒ったようにそう言った。
「あれからどうなった?」
 俺が尋ねると、
「あんたまで死んじゃうのかと思った」
 と火村はそう言った。
「俺は生きてるよ」
「なんで、あんなやり方」
「他に勝てそうな方法が思い当たらなかった」
「‥‥そう」
 火村は目を伏せると、
「無理させてしまったわね‥‥御免なさい、有難う」
 そう静かに呟いた。
 それからあれこれ話して経過を聞くと、あの後、鬼島副長が率いる本隊が到着し、手傷を負っていたフラウロスは撤退したらしい。
 最後に豹頭の魔神は言ったそうだ。悪魔は人の魂を抜き取り喰らうが、魂にも味や得られる力の量に差があるのだという。
「私は、力の源とはいえ不味い魂を数喰らうというのは流儀ではなくてね。どうせなら美味いものを食べたい。君達は育てば良い魂になりそうだ。また会える日を楽しみにしているよ」
 そう言って去っていったという。
 負け惜しみよね、と火村が言って、俺はちょっと笑ったのだった。

――フラウロスか。

 胸中で呟く。
 黒い毛並みと黄金の瞳を持つ豹頭の悪魔。
 彼とはまたいつか、戦う事になるかもしれないと、そんな予感がした。
 季節は夏の前。
 春が終わりを告げようとしている頃だった。

 続く






●大人しそうな顔立ちに、肩口できちんと切…



完結記念ピンナップ 集合イラスト化と配置について

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