TOP読み物>イメージノベル 第3話

登場人物

神楽坂 茜(かぐらざか あかね)
[人間/女/16歳]

 久遠ヶ原学園の生徒会長を務める濡烏羽色の黒髪の少女。
 性根は優しいが、真面目で責任感が強く『会長として相応しくならなければ』と自他に厳しい面が見られる。
数ヶ国語を操る才女で撃退士としての戦闘能力も高く、光速の刃と称される神速剣を以って学園最強の一人との評を取る。造作も美しく一部では『完璧超人』と女神のようにもてはやされ憧憬を抱かれているが、それは表向きの姿であって、実際の所は周囲が思っているほど心は強くなく、偶には休みたい遊びたいと弱音を吐いたり、割りとすぐに怒ったり泣いたり笑ったりする。

 基本的にストレスに弱く、 胃が弱いのに好物の甘い物を食べ過ぎて消化不良をおこし苦しんでいたりする事が稀に良くある。「茜ちゃんってちょー阿呆やねん」と親友の書記(大鳥 南)からはから説教され、「そこまで言う事ないじゃないですかっ!」ときーきーと怒りだす事もしばしば。
十五歳で生徒会長に初当選し現在は二年目。
岸崎 蔵人(きしざき くらんど)
[人間/男/27歳]

 久遠ヶ原学園の騎士道部に所属している大学生。
アウルの能力に目覚めたのが遅かったため、社会人になってから久遠ヶ原学園に入学する。

 外見と部活そのままに生真面目な性格であり、決して人見知りするわけではないものの、自宅に帰っても読書や学校の勉強、鍛練しかしない上、飲酒・喫煙もしない、冗談もあまり言わない、笑った顔が少し怖いなど、同性にも異性にも『いい人なんだけど‥‥』と言われることが多い。

 しかしながら、毎日の鍛錬に裏付けされたその実力は本物であり、執行部が強力な敵に面した際に組織される親衛隊メンバーの常連である。

 趣味は読書。好きな食べ物はラーメン(激辛)。

(Illustration. 四季童子) (Illustration. 遊上)

 

第3話

 祁答院暁美が死んだ。
「――それで、君は何処へ行こうっていうんだい?」
 俺は火村へと視線をやって問いかけた。
「鬼島副長が緊急で撃退士を募ってる」
「執行部が出るのか」
 俺は驚いた。鬼島武といえば生徒会執行部の副会長だ。大戦の際には会長の神楽坂茜はその役職上滅多な事では本陣から動かない事が多いから、前線では実質的な戦隊総指揮官となる事が多い。大物だ。
「あたし、行ってくる」
 火村はそう言って踵を返し、俺はその腕へと手を伸ばして強く掴んだ。
「‥‥律紀?」
「待って、火村、もし執行部隊に参加するつもりなら、それは駄目だ」
 俺は火村の瞳を見据えて言った。
「――なんでよっ?!」
「いつもの状態の火村なら止めはしないよ。でも今の君は平静を欠いている。そんな状態で戦うのは、危険だ」
 特に火村は激情に任せて突っ走る所がある。祁答院さんが自称していた通り、本当に親友なのかどうかは知らないが、少なくとも親しい友人であった事は確かな筈だ。それを殺した相手を前にして火村は冷静に戦えるだろうか?
 無理だ、と思った。
「冷静よ、あたしは」
「嘘だ」
 俺は言った。
「離して」
「駄目だ」
 すると火村は鞘の留め金を外して逆手一本で刀を引き抜き、その切っ先を俺に向けた。
――抜くかよ。
 火村の青い瞳が烈火の如くに燃えていた。
「離しなさい。ぐだぐだ言ってる暇はないの」
「駄目だ」
 睨み返して言う。
「刺すわよ?」
「君はそれが出来る人じゃない」
「‥‥何その陳腐な台詞! ふざけんじゃないわよッ!! あんたがあたしの何を知ってるっていうのよ?!」
「全部は知らないけど幾つかは。君は非武装の敵意の無い人間を刺す事ができる人じゃない。それが俺の勘違いの思い込みだっていうなら、それは俺の判断ミスだ。俺は君に刺されてここで死ぬ。でもそれだけだ。いつか何処かで必ず死ぬなら、今ここで終わるのも悪くない」
「律紀‥‥っ!」
「どうしても行きたいなら、俺を斬り殺してから行け」
「‥‥あんたこそ、落ちつきなさいよ。正気?」
「正気だ」
「嘘ね、正気なんかじゃないわ。らしくないって言ってやる。なんであんたが、何をそんなに怖がっているの」
「怖がってなんていない」
「嘘」
 火村は完全に俺の怖れを見破っているようだった。火村は、何故か、俺の感情を読むのに鋭い。
「そうかい。なら言うけど、君が死ぬのが、俺は嫌だ。だから力づくでも止める」
「‥‥嘘」
「本当だ」
 その為なら、なんだってやってやる。手段など選ぶものか。
 本気を感じとったのか、火村は表情を変えると、
「ヒドイ‥‥あんた、ヒドイ、勝手だッ!」
 そう、怒声をあげた。
「そうだな、勝手だな。でも今の君を行かせる訳にはいかないんだよ!」
 吐き捨てるように叫び、火村の双眸を睨みつけた。すると不意に、火村の青い瞳から透き通った液体が膨れあがった。やがて堪え切れなくなったそれが、瞳の端から溢れて一筋流れ落ちる。
「友達だったの」
 火村が泣きながら俺を睨みつけて言った。
「友達だったの。友達が殺されたの。友達を殺した奴が今も皆の魂を引き抜こうと暴れ回ってるの! あたしは、彼女の悔しさを晴らしたいの‥‥! あたしは、彼女の死を無駄にしたくないの。彼女が守ろうとしたものを守ってあげたいの。お願いだよ、律紀、行かせてよ‥‥ッ!!」
 俺は、思うんだ。
 刃というのは、大義に則ってのみ振るわれるべきだって。
 私憤でも義憤でも感情で振るったら、それは感情の刃だ。
 気分の刃だ。それであるなら、それはその者の気分を晴らす為に振るわれるものでしかない。
「――泣くなよ」
「泣いてなんかないわ」
 嘘つけ。
「‥‥‥‥心が壊れる程に殺したいのか」
「そうよ」
 火村ははっきりと頷いた。
「ここで友人の意志を見捨てたら、あたしは戦う意味を失う」
 俺は目を閉じた。
 俺には俺が思う正義があるように、彼女には彼女の正義がある。きっと天使には天使の正義があって、悪魔には悪魔の正義がある。
 俺は、目を開いて言った。
「それが君が成すべき事だって信じるのか」
「そうよ」
「‥‥‥‥解った。なら、止めない。でも、俺もついてくよ」
「律紀」
「君に協力したい。でも、君がヘマやったら場合によっては邪魔をする。俺には仇討ちよりも祁答院さんが守ろうとしたものよりも、君の命や他に討伐行に同行する人達の命の方が大切だ。だから君が君の目的を達成したいなら、下手は打つなよ」
「‥‥解った。よろしく」
 火村って素直な良い奴だなぁって思うんだ。
「うん、よろしく」
 俺は彼女に死んで欲しくなかった。


 執行部棟の前に行くと人だかりが出来ていた。皆、武装している。
 中心に丈の長いボロボロになった詰め襟に、格闘家のような逆三角の長躯を包んだ男が居た。鬼の副長、鬼島武だ。
 火村が声をかけると男は振り向いた。本当に同じ十代かと疑問に思う程の鋭い眼光の巌のような巨漢だった。悪魔の討伐に参加したい旨を告げると、理由を問われた。火村が言って俺も話すと鬼島副長は頷き、
「‥‥解った。なら、三番隊に入れ。十三時に動く」
 低く太い声で、そうとだけ言った。あまり余計な事は言わない人らしい。代わりに鬼島隊と呼ばれる執行部の親衛隊の一人が出てきてあれこれと状況を説明してくれた。
 現在、撃退士が集まるのを待っている状態である事、一時に悪魔の討伐に出発する事、三番隊の隊長は自分であること、名前は岸崎蔵人という事。大学部二年の生徒だという事。
「アケミは――街への襲撃に居合わせた一行の撃退士は、フラウロスって悪魔に殺されたって聞きました」
 火村が問うと岸崎さんは頷き、
「‥‥ああ、地獄の大公爵フラウロス。伝説のソロモンの72柱神のうちの一柱だ。伝承通りの存在ならな。もっとも伝承のそれと一致しないってのが通説だから違うんだろうが――ただ、火を使う豹人ではあるらしい。気をつけろ、正真正銘のデビルだ。サーバントやディアボロなんかとは訳が違う」
 そう言った。
「悪魔が支配領域を越えて暴れる事は珍しい‥‥ともいえない世の中になっちまったが。奴等の目的は魂を抜き取る事だからな。今回の敵の襲撃は威力偵察じゃないかって話だ」
「威力偵察?」
「実際に攻撃をして、どれだけの反撃が返って来るかで相手の力を測るやり方だ。火急の際に学園の対応力が何処まで回復しているのか、大規模な侵攻の前に把握しておきたいんだろう。こちらとしても敵に情報は渡したくないが、しかし、そうだとしても無視する訳にはいかない。一刻も早く撃退しないと人が死に続ける。ここでまた街が一つ悪魔に潰されたら、そこに生きていた人達の多くが死に絶え、例えその場は生き延びても生活の場が失われる。負ける訳にはいかない」
 学園から多くの撃退士が――生徒達が集まって来た。小等部から大学部まで、名の知れたメンバーが集まっている。鬼島副長もそうだけど、あの学園生の九割が死亡、または力を失ったという『大惨事』をも生き延びたという人達の顔もちらほらと見えた。皆、才能・経験あふれる撃退士達だった。
 鬼島さんは大量動員よりも少数でも精鋭で当たる事を選択したようだ。
 犠牲をあまり払いたくないのだな、と思った。

 足手纏いになるような者は連れて行かない。何人か断られていた。
 俺達も断られた人達と実力的にはそうは変わらない筈だけど、何故だろう。副長はああ見えて情に厚いという。理由を汲んでくれたのだろうか。
 そんな事を考えているとやがて午後一時になった。
 副長が重く太い声で号令を発した。
 俺達、緊急編成された執行部戦隊はその号令に従い鬼島副長の後についてディメンション・サークルへと向かった。
 宙に開く、蒼く輝く次元の輪。
 アウルが輝き、そして、俺達は空間を跳躍した。


 次元の輪を潜り俺達は襲撃を受けている街へと跳んだ。
 一般の人々には見えなくても、俺達には視える。天へと向かって伸びる、あの禍々しく紅に輝く光の柱。冥界の支配領域。あの光を跨ぎ中に入ると、アウルを用いて破らない限り二度と脱出できない。地獄の悪魔達が俺達人間を家畜のように囲う為に発生させた檻だ。
 大都会を分断するように出現した支配領域の境目付近、街並みが燃えていた。
 サイレンがけたたましく鳴っている。周辺の住民は既に退避したのか、街には人の気配はまったくなかった。居るのは、あれだ。悪魔達。ビルの谷間、幅の広い国道の彼方、遠目に、ワラワラとゾンビの如くにふらついて動き回っている者達の姿が見えた。魂を抜かれた者達の末路、悪魔の尖兵、ディアボロだ。
 鬼島副長が号令を発した。それに応えるように百を超える撃退士達が轟音を轟かせて次々にオーラを纏って駆け出してゆく。
「準備は良いか?!」
 岸崎隊長も言って全身に光を纏い剣を振り上げて吼えた。隊員達が口々にそれに応える声を発し光を纏った。
 俺もまた意識を集中させてVWを起動し光輝を発現させる。槍に黄金色の光の粒子が集まり、次の瞬間、獅子の咆哮にも似た爆音と共に光が広がって俺の身を黄金色のオーラが包み込んだ。VWを活性化させて光のオーラを武器と己に纏った状態の事を『光纏』と言う。熟練者は光や音を消す事も出来るが、しかし活性化をさせて初めて天魔の物質透過能力を無効化出来るのだ。故にこそ、人類において俺達アウル行使者だけが天魔に対する牙となれたのだった。
「行くわよ律紀!」
 火村が真紅の光を纏った太刀を手に駆け出す。
「応!」
 俺は気合いの声をあげて応え、彼女に続いた。
 百を超える撃退士達が街を駆け、ディアボロ達がそれに反応してビルの陰から湧き出て道の彼方から津波の如くに迫り、やがて激突した。


 この街で暴れ回っていたディアボロは数は多かったが個々の力はあまり強くなかった。
 俺は槍を振るってゾンビの如きディアボロを打ち払い、火村もまた大太刀で剣閃を巻き起こして次々に斬り伏せてゆく。周囲の撃退士達も流石に手練で、鬼島副長の指揮の元、道路を埋め尽くす程のディアボロにも一歩も退かなかった。
 ディアボロはみるみるうちに数を減らしてゆき、全滅するのは時間の問題かと思われた。
 その時だ。
 不意に、俺の付近で乾いた音が一定のリズムで鳴り始めた。何の音だ? 一瞬、解らなかった。ディアボロが発している音ではない、撃退士が発している音でも無い。それは上から聞こえた。
 俺は槍を振るって周囲のディアボロを薙ぎ払うと頭上を見やった。
 すると、そこにそれは居た。
 交差点の信号機の上。真冬の夜の空の如くに艶やかな漆黒の毛皮。縦に瞳孔の走った金色の瞳。それは、豹だった。ただし二本の足で立ち、人の如き両手の平を持っていて、それを互いに打ち合わせて音を立てていた。
 拍手。
「――なるほど、なるほど、頑張る、頑張る。脆弱なる者達が足掻きあう姿は美しい。彼の学園はそれなりに力を取り戻しているようだね」
 豹は俺達を見下ろしながら目を細め、ハスキーボイスで詠うように言った。
 悪魔だ。
「あんたがフラウロス?!」
 火村が叫んだ。
「おや、見知りおき頂いているとは光栄だ、いかにも!」
 誰かが撃ち放った光の矢を跳躍してかわし、地に降り立って豹人の悪魔は言った。手を空に翳すと同時に光の粒子を集め、次の瞬間に逆巻く熱波を壮絶な爆音と共に巻き起こした。新米の俺でも解る。恐ろしいまでに大量のアウルの集中。
 熱波が去った後には、豹人は長大な斧槍を手に出現させていた。
「――いかにも、我は豹魔フラウロス。地獄の公爵の一柱、赤く輝く灯を追い求める者だよ」
 周囲のディアボロは既に減り、多くの撃退士達が悪魔と向き合っていたが、誰も踏み込めなかった。向かい合っているだけで肌から汗が吹き出し、ともすれば手足が震えがちになる。
 しかし、
「‥‥あんたがアケミを殺したの?」
 ただ一人、火村が一歩前に進み出て、太刀を構えた。
 やる気だ。
「アケミ‥‥?」
 豹人は火村の問いに首を傾げたが、
「ああ、君は‥‥先の、あの黒い髪の少女の知り合いかね?」
 やがて合点がいったのかそう言った。
「そうよ‥‥彼女はあたしの友達だった!」
 火村が轟音と共に一際強く全身からオーラを噴出させて叫んだ。
「アケミ、印象に残っている。彼女はユニークで、そして勇敢だった」
 豹人は目を細めて頷くと言った。
「だが賢くはなかったな。だから死んだ」
 焔の悪魔が斧槍を一つ旋回させ上段に構えた。
「君達はどうかな?」

 続く


(Illustration. ワニ)






●黒く長い髪に、小柄で可愛らしい顔立ちの…



【楽園】第一回行動入力開始

推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ